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現代数学解説
文献あり

Hirsch 微分トポロジーの問題1.1.9 長い直線

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 今回は、1.1.9の長い(半)直線についてです。長い直線とは向き合った事がなかったので、考えたり解いたり調べている間は面白かったですが、休日は吹き飛びました。

問題1.1.9 長い半直線

 $C$を加算順序数の集合とする。
 $M=C×[0,\infty)\backslash (0,0)$とし、$M$に辞書式順序を入れ、この順序についての順序位相を入れる。
 このとき$M$はパラコンパクトではない1次元Hausdorff多様体となり、長い半直線(long ray)と呼ばれる。
 この$M$には微分構造や実解析構造が入るものの、リーマン計量は持たない。

 Hausdorff性と局所$1$次元ユークリッド性は、簡単な位相の問題のため省略する。(下図参照)

Hausdorff性 Hausdorff性
(赤い部分が同じ順序数の時の分離開集合の取り方で、青い部分が別の順序数の時の分離集合の取り方)

局所1次元ユークリッド性 局所1次元ユークリッド性
(赤い部分が$(0,\infty)$に点をとった時の開近傍で、青い部分が$0$に点を取った時の開近傍)

 よって、まずはパラコンパクトでない事を示す。

 各$\alpha \in C\backslash \{0\}$に対して$J(\alpha)$
$J(\alpha)=\{x\in M|x<(\alpha,0)\}$と定め、$\{J(\alpha)\}$により$M$を被覆する。
 この時、各$J(\alpha)$は明らかに$\mathbb R$と同相のため連結であり、点(0,1)を共有するため、その合併である$\cup J(\alpha)=M$もまた連結である。

 いま、$M$がLindelöfであるとする。
 このとき、可算部分被覆が取れるので、それを$\{J(\alpha_n)\}$とする。
 各$\alpha_n$$\omega_1$より小さいから、その点列の極限もまた$\omega_1$より小さい。よって、それよりも大きい可算順序数$\beta$を取ると、$\cup J(\alpha_n)\subset J(\beta)$を得る。しかし$J(\beta)$$M$を被覆しないので、$\{J(\alpha_n)\}$$M$を被覆できることに矛盾する。
 故に$M$はLindelöfではなく、従って、第二可算ではない。

 いま、多様体論の一般論として、連結で距離化可能な多様体(ここでの多様体は、Hausdorff局所ユークリッド的ということ)は第二可算である、というものがある。しかし今、$M$は連結な第二可算ではない多様体のため、これより距離化不能である事が従う。
 パラコンパクトな多様体は距離化可能であるという性質があるため、これにより$M$はパラコンパクトでない事がわかる。

 続いてリーマン計量が入らない事を見る。
 多様体の一般論として、もしリーマン計量が存在するなら多様体は距離化可能である、というものがある。(2点間の距離を、リーマン計量による2点を結ぶ曲線長のinfで定めれば良い。)
 しかし今、$M$は距離化可能でないことを見たので、よってリーマン計量が入らないことがわかる。

 最後に、この$M$$C^\omega$構造が入る事を示す。
 (証明が難しすぎたのでKneser[1]を参考にした。)(絶対に難易度**でも良かったと思うのだが???)(流石はHirsch先生。)

 まず、$M$の部分空間として$A_z$$A_z=\{x\in M|x< z\}$で定め、以下の補題1をまず示す。

補題1

 区間$A_z$が単純な実解析構造$S$を持つなら、$S$を、$A_z$を含むある区間$A_w (z < w)$の単純な実解析構造$S’$に拡張できる

 実解析構造というのは微分構造の$C^\omega$級バージョンのことで、単純というのは、そのアトラスの中の最大のチャート$(U,\phi)$が、ちょうど$U=M$を満たすということ(つまり、多様体の構造として自明なものがあるということ)である。

 $S$は単純なので、チャート$(A_z,\phi)$を持つ。このチャートの座標関数は単調連続関数であるが、特に単調増加有界連続であり、$\lim_{x\to z}\phi(x)=0$を満たすとして良い。これは、以下で正当化される:
1.$\phi$が単調減少なら$-\phi$に置き換える。
2.$\phi$が上に発散するなら$-e^{-\phi}$に置き換える。
3.$c=\lim_{x\to z}\phi(x)\neq 0$なら、$\phi-c$で置き換える。
 これにより、常に考えたい座標関数の性質をもつチャートを得る。今、$z=(\alpha,t)$なら、$w\in M$$A_w$上の関数$\phi'$を以下で定める:
1.$\phi'(x)=\phi(x),(x< z)$;
2.$\phi'(\alpha,s)=s-t,(t\leq s )$;
3.$w=(\alpha+1,0)$
 これは$A_w$上の単調増加連続関数であり、$(A_w,\phi')$はチャートとなっていて、よってこれにより$A_w$の単純な実解析構造$S'$が定まる。また構成方法から、$A_z$上で$S$と一致する。よってこの$S'$が求める$S$の延長である。

 一つだけ注意すると、$S'$$S$を含むため、それぞれのチャート$(U,\phi),(U',\phi')$による座標変換$\phi\circ \phi'^{-1}$は(逆の合成であってもそうだが)実解析的である。
 このような実解析構造の関係性を、互いに互換性がある、という。
 問題は、次の補題である。

補題2

 $(z_1, z_2, …)$$M$の単調増加列(つまり$\cdots< z_n < z_{n+1}<\cdots$)で、区間$A_{z_n}$が互いに互換性のある単純実解析構造$S^{(n)}$を持ち(したがって$S^{(n)}$$S^{(n+1)}$に含まれる)、さらに$z = \lim_{n→∞} z_n$なら、区間$A_z$$S^{(n)}$と互換性のある(したがってこれを含む)実解析構造$S^*$を持ち、これは単純である。

 先程の補題は、有限回の延長操作では単純性を保ったまま“上手く”延長出来ますよと言っているわけだが、この補題は(可算)無限回の延長操作でも単純性を保ったまま“上手く”延長できますか?と問うている。
 実解析構造自体は、単に各$S^{(n)}$の“または”で構成可能であるが、単純性はそうはいかないため注意が必要。

 各$S^{(n)}$のチャートは互いに互換性があり$A_z$を被覆するので、それによる極大アトラスを取る事で実解析構造$S^*$を定める。

 以下、この$S^*$が単純である事を示す。

 各$S^{(n)}$が単純なので、$A_{z_n}$から実軸のある区間$T_n: a_n < t_n < c_n$
への位相同相写像$\phi_n$が定まっている。ここで、$\phi_n$は単調増加であるとして良い。
 いま、$f_n = \phi_{n+1} \phi_n^{-1}$は、$S^{(n)},S^{(n+1)}$が互いに互換性を持つので単調増加実解析関数で、$T_n$から$T_{n+1}$の部分
$U_{n+1}: a_{n+1} < t_{n+1} < b_{n+1} (a_{n+1} < b_{n+1} < c_{n+1})$
へ写す。
 $f_n$が増加で逆$f_n^{-1} = \phi_n \phi_{n+1}^{-1}$$U_{n+1}$で実解析的なので、$f_n’(t_n) > 0 (t_n ∈ T_n)$。(逆が実解析的であることを注意しているのは、$f_n’(t_n) \geq 0$ではなく$f_n’(t_n) > 0$である事を強調するため。)

 よって、実軸対称な領域$G_n$を複素平面(これを$t_n$平面といってラベル付けをする)に与え、$T_n$を含み、$f_n$の解析的延長で$H_{n+1} = f_n(G_n)$に1対1に対応するようにできる。(いわゆる解析接続。)

 ここで$G_n$は上半平面の$a_n$$c_n$を結ぶ滑らかな弧とその下半平面の鏡像を境界とする開集合で、各弧上で$f_n$が正則で$f_n’ \neq 0$となるように取る。($T_n$上で$f_n$の微分は常に正なので、$T_n$に十分近い所でこのように取れる。)
 $G_n$の各弧の像は$a_{n+1}$$c_{n+1}$を結ぶ滑らかな弧で$H_{n+1}$の境界を形成する。$n > 1$$H_n$が定まっているなら、$G_n$を各弧が$H_n$の対応する弧をそれぞれ1点で交差するように選び、$n > 2$ならその点が$f_{n-1}(G_{n-1} ∩ H_{n-1})$に属さないようにする。
 これを$G_n$$T_n$の十分狭い近傍に選ぶことで構成する(近傍を“拡張”するのは注意が必要だが、“縮小”する分には問題ない)。

 今、$G_n$の点は$f_n$による$G_n$から$G_{n+1}$への同一視と$t_n$平面の複素構造で、単連結リーマン面$R$を形成し、各$t_n$平面で実軸鏡像の対称性を持つ。
 一様化定理(単連結リーマン面は、球面・複素平面・開円板のいずれかに等角(複素構造を保つ)同型となる)により複素構造を保ち、特に$R$$\lim_{n\to \infty}c_n$近傍においてコンパクトでなく、またそれを構成する$G_n$の虚軸の幅が0に向かうため、球面や平面と同型ではないことから、その中点を実軸に置いた複素平面の円板に等角に写り、対称線が実直径$L$に写る。

 この写像の$G_n$上の変換を$\Phi_n$と呼ぶと、$\Phi_n \phi_n:A_{z_n}\to T_n(\subset G_n)\to L(\subset\mathbb D)$$S^{(n)}$と互換性のある$A_{z_n}$から直線への写像、つまり$S^{(n)}$のチャートとなり、これを全て集めたものは$S^*$のチャートとなる。

 特にこのチャートについて、$m < n$なら、$\Phi_m \phi_m$$\Phi_n \phi_n$$A_{z_m}$で一致。
 よってこれらすべてをまとめた写像$\Phi$を考えれば$A_z$から$L$への$S^*$と互換性のある1対1写像、つまり$A_z$全体の$S^*$のチャートを与え、$L$は開区間であるから、このチャートにより$S^*$は単純となる。

 最後に元の問題に戻り、$M$に実解析構造が入る事を示す。(補題2はあくまで長い直線の区間列$\{A_n\}$の極限$A_z$に単純な実解析構造が入る事を見ただけで、$\omega_1$までそれが伸びるとは言えない。これを言うには、超限帰納法(💪)が必要。)

 超限帰納法で$M$のすべての区間$J(\alpha)=A_{(\alpha,0)}$に実解析構造$S^{(\alpha)}$を与え、これらはすべて互いに互換性があり、したがって$M$の実解析構造を定めることを見る。
 $\alpha = 1$の場合、$S^{(1)}$$J(1)$から$0 < t$への$\phi((0, t)) = t$で定義できる。
 $\alpha = \kappa + 1$の場合、$S^{(\kappa)}$が定義されると、補題1より$z = (\kappa, 0), w = (\kappa + 1, 0), S = S^{(\kappa)}$として$S^{(\alpha)} = S’$を得る。
 最後に$\alpha < ω_1$が極限数の場合、増加列$0 < \alpha_1 < \alpha_2 < …$の極限として表され(※)、すべての$\lambda < \alpha$$S^{(\lambda)}$が定義され互換性があるなら、補題2より$z_n = (\alpha_n, 0)$として$S^{(\alpha)} = S^*$を得る。
 これで超限帰納が完了し、問題が証明される。

※もはやここにきて細かすぎてどうでも良い事ですが、今回出てくる極限数は全て$\omega_1$未満なので、点列で収束する事を仮定して問題ないです。

 最後に余談として、長い半直線をもう一個持ってきて点(0,0)で繋げた長い直線(long line)に$C^\omega$構造が入ることを、スケッチだけして終わろうと思います。(流石に疲れすぎたので⋯。)

 長い半直線には$C^\omega$構造がはいるので、“マイナス側”の長い半直線の方にも自然な$C^\omega$構造がはいる。よって原点$(0,0)$周りでチャートを構成すれば十分であり、それは以下のように実現できる:
 $\phi(-(0, t)) = -t, \phi(0) = 0, \phi((0, t)) = t$

 これにより、任意の連結な1次元多様体には実解析構造が入る事が分かる。(連結な1次元多様体は、円、直線、長い半直線、長い直線の4つしか存在しないため)

参考文献

[1]
M.W.Hirsch(松本堯生(訳)), 微分トポロジー, p16
[2]
H. Kneser, Analytische Struktur und Abzählbarkeit, Ann. Acad. Sci. Fennicae A/I. 251/5 (1958)
投稿日:18日前
更新日:5分前
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