お久しぶりです. APMO2023の問題が公開されたようで, 問4がFEだったそうです(よくやったぞAPMO). そのため今回はAPMO2023-4の解説をしたいと思います.
$c$を正の実数とする. 正の実数に対して定義され正の実数値をとる関数$f$であって, 任意の正の実数$x, y$に対して
$f((c+1)x+f(y))=f(x+2y)+2cx$
が成り立つようなものをすべて求めよ.
今回は$f\colon \mathbb R_{>0}\to\mathbb R_{>0}$のタイプで意味わかんない$c$がありますね. こういうやつは不等式評価するとよさそうです. $2cx>0$なので$f((c+1)x+f(y))\neq f(x+2y)$です. $f$の中身が等しくなってはいけないので$(c+1)x+f(y)\neq x+2y$より$f(y)\neq 2y-cx$がわかります. さて, 正の実数$x$を任意に動かすと右辺は$2y$未満の値を全てとることができます. しかし左辺はそれと等しくなってはいけないので$2y$以上である必要があります. ということで以下のことがわかりました.
任意の正の実数$y$に対して$f(y)\geq 2y$である.
こんな感じで$f(A)\neq f(B)$ならば$A\neq B$という手法がしばし有用であることがあるため知らなかった人は意識しましょう.
解は$f(x)=2x$と予想できるため, なんとかして$f(y)\leq 2y$が得られれば勝ちです. 補題1を与式の左辺に適用してみましょう.
$f(x+2y)+2cx=f((c+1)x+f(y))\geq 2((c+1)x+f(y))$
となるため$f(x+2y)\geq 2x+2f(y)$ですね. これは補題1のみでは得られません.
任意の正の実数$x, y$に対して$f(x+2y)\geq 2x+2f(y)$である.
不等式評価はこれ以上進展が見られなさそうなので別の戦略を考えます. 単射性か全射性が示せればうれしいです. とりあえず単射を示していきたいと思います.$f(a)=f(b)$となる正の実数$a, b$をとります. 単射を示すためには$a=b$を示す必要があります. 与式に$y=a, y=b$を代入して比較してあげると$f(x+2a)=f(x+2b)$です. もしも$a>b$だとすると$f$は周期をもつことになりますが, 補題1に矛盾しそうです.$a>b$と仮定して$2a-2b=k>0$とすると$x+2b$を改めて$x(>2b)$と置き換えることで$f(x+k)=f(x)$です. よって周期性を持つので$x$を$x+k, x+2k, \dots$と置き換えていけば$f(x)=f(x+k)=f(x+2k)=\cdots$となりますね. すなわち任意の正の整数$n$に対して$f(x+nk)=f(x)$です. 左辺で補題1を適用すると$f(x)=f(x+nk)\geq 2(x+nk)$となるので$\frac{f(x)-2x}{2k}\geq n$が任意の正の整数$n$で成り立つようです. しかし$x$に$2b+1$など代入してあげると左辺が定数となって任意に動ける$n$を上から押さえてしまいます. これは明らかに矛盾ですね. よって$a>b$ではないです. $a< b$の場合はただ$a, b$を入れ替えただけなのでこれもあり得ません. したがって$a=b$であることがわかります.
$f$は単射である.
せっかく単射がわかったのでこれを利用したいですね. 与式からうまく$f(\sim)=f(\sim)$という形を作ることを目標にします. 与式は$2cx$が邪魔ですね. とりあえず$x$を$2x$に置き換えて$f(2(c+1)x+f(y))=f(2x+2y)+4cx$とします. こうすれば$2cx$が2つあるので与式を2回適用して$f$の項だけを残せそうです. 与式の$y$に$\frac{x+2y}{2}$を代入すると$f\left((c+1)x+f\left(\frac{x+2y}{2}\right)\right)=f(2x+2y)+2cx$となります. これを上の式に代入して
$f(2(c+1)x+f(y))=f\left((c+1)x+f\left(\frac{x+2y}{2}\right)\right)+2cx$
となるので$2cx$を一つ消化できました. もう一度同じことをやります. 与式の$y$に$\frac{1}{2}\left(cx+f\left(\frac{x+2y}{2}\right)\right)$を代入すると
$f\left((c+1)x+f\left(\frac{1}{2}\left(cx+f\left(\frac{x+2y}{2}\right)\right)\right)\right)=f\left((c+1)x+f\left(\frac{x+2y}{2}\right)\right)+2cx$
となります. これを上の式に代入して
$f(2(c+1)x+f(y))=f\left((c+1)x+f\left(\frac{1}{2}\left(cx+f\left(\frac{x+2y}{2}\right)\right)\right)\right)$
となるので, $f$の単射性より両辺の$f$が外れて
$2(c+1)x+f(y)=(c+1)x+f\left(\frac{1}{2}\left(cx+f\left(\frac{x+2y}{2}\right)\right)\right)$
より$(c+1)x+f(y)=f\left(\frac{1}{2}\left(cx+f\left(\frac{x+2y}{2}\right)\right)\right)$が得られました. なんか大変なことになりましたね. 右辺で補題1を適用すると$(c+1)x+f(y)=f\left(\frac{1}{2}\left(cx+f\left(\frac{x+2y}{2}\right)\right)\right)\geq cx+f\left(\frac{x+2y}{2}\right)$
だから$x+f(y)\geq f\left(\frac{x+2y}{2}\right)$が得られました. 分数を解消するため$x, y$をそれぞれ$2x, 2y$として$2x+f(2y)\geq f(x+2y)$にしました.
任意の正の実数$x, y$に対して$2x+f(2y)\geq f(x+2y)$である.
(補題1) 任意の正の実数$y$に対して$f(y)\geq 2y$である.
(補題2) 任意の正の実数$x, y$に対して$f(x+2y)\geq 2x+2f(y)$である.
(補題3) $f$は単射である.
(補題4) 任意の正の実数$x, y$に対して$2x+f(2y)\geq f(x+2y)$である.
得られた情報を上に並べました. 補題2と補題4を組み合わせると$2x+f(2y)\geq f(x+2y)\geq 2x+2f(y)$だから$f(2y)\geq 2f(y)$です. 補題4で$y$を$\frac{y}{2}$として$x$に$y$を代入すれば$2y+f(y)\geq f(2y)\geq 2f(y)$となって, なんと$2y\geq f(y)$が導かれました!補題1と合わせれば任意の正の実数yに対して$f(y)=2y$が得られます.
逆に任意の正の実数$x$に対し$f(x)=2x$なら与式の左辺は$f((c+1)x+f(y))=2x+4y+2cx$で, 右辺は$f(x+2y)+2cx=2x+4y+2cx$となるため十分性も大丈夫です. 最終的に答えは$f(x)=2x$となります.
いかがだったでしょうか?関数方程式を解くときはこのような思考で解いています. この記事が皆さんのFE攻略のヒントになればうれしいです. 最後まで読んでいただきありがとうございました.