平面曲線の交叉重複度について考察します.
はじめに, ベズーの定理を例にあげて交叉重複度を考えるモチベーションを説明し, その後, 交叉重複度が幾何学的にどのような意味をもつのか詳しくみていきます.
$k$を体, $p \in \mathbb{A}^{2}_{k}$とする. $C, D$は$\mathbb{A}^{2}_{k}$上の曲線で, 共通成分をもたないものとする. $p$は多項式環$k[x, y]$の極大イデアル$m$で定義されるとし, $C, D$は$p$の近傍でそれぞれ多項式$f, g \in k[x, y]$の零点集合になっているとする. このとき, $C, D$の点$p$における交叉重複度$i_p(C, D)$を
$$ i_p(C, D) := \mathrm{dim}_k k[x, y]_m/(f, g) $$
で定義する. ここで$k[x, y]_m$は, 多項式環$k[x, y]$の極大イデアル$m$による局所化を表す.
交叉重複度は, $C$と$D$が$p$において"何重に交わっているか"を表しています. 以下で簡単な例を計算してみます.
たとえば, $C$を$f = y - x^2$で定義される放物線, $D_1$を$g_1 = y - 1$で定義される直線とすると, $C$と$D_1$の点$p_1 = (1, 1)$における交叉重複度は以下のように計算できます. まず,
\begin{eqnarray} k[x, y]/(f, g_1) &\simeq& k[x]/(x^2 - 1) \\ &\simeq& k[x]/((x - 1)(x + 1)) \\ &\simeq& k[x]/(x - 1) \oplus k[x]/(x + 1). \end{eqnarray}
最後の同型は, 中国剰余定理からです. $R = k[x]/(x - 1) \oplus k[x]/(x + 1)$とおきます. 剰余環をとる操作と局所化は可換なので, $p_1$に対応する極大イデアル$m_1 = (x - 1, y - 1)$の, $R$における像$\overline{m_1}$に関して局所化を取ればいいです. $\overline{m_1} = (\overline{x} - 1)$です. $R - \overline{m_1}$は$k[x]/(x + 1)$における$0$を含むので, 直和の第二成分は消えて, $R_{\overline{m_1}} \simeq k[x]/(x - 1) \simeq k$. したがって, $i_p(C, D_1) = 1$です.
交叉重複度が$\gt 1$となる場合も見てみましょう. $D_2$を$g_2 = y$で定義される直線とします. $C$と$D_2$の点$p_2 = (0, 0)$における交叉重複度を計算します.
\begin{eqnarray} k[x, y]/(f, g_2) &\simeq& k[x]/(x^2). \end{eqnarray}
$S = k[x]/(x^2)$とおきます. $p_2$に対応する極大イデアルは$m_2 = (x, y)$で, その$S$における像は$\overline{m_2} = (\overline{x})$です. よって, $S_{\overline{m_2}} = k \oplus k$. したがって, $i_{p_2}(C, D_2) = 2$です. これは, $C$と$D_2$が$p_2$で接していることを反映しています.
交叉重複度はたとえば, 以下のベズーの定理を正確に記述するために必要になります.
$C, D$を平面内の曲線で, $C$は$d$次多項式, $D$は$e$次多項式で定義されているとする. このとき, $C$と$D$は$de$個の点で交わる.
この主張は, たとえば2次曲線と直線は2点で, 2次曲線と2次曲線は4点で, 3次曲線と2次曲線は6点で, ...交わるだろう, ということを意味しています. しかし, この主張は誤りです. 反例をみていきましょう.
まず, 2つの曲線は交点を持たない場合があります. たとえば, $C$を$x^2 + y^2 - 1 = 0$で定義される円周, $L$を$y = 2$で定義される直線とすると, $x, y$を実数$\mathbb{R}$の範囲で考えた場合, $C$と$L$は交点を持ちません. これは$\mathbb{R}$が代数的閉体ではないからです.
ほかにも交点を持たない場合があります. たとえば$L_1$を$x = 0$, $L_2$を$x = 1$で定義される直線とします. この2つの直線は平行なので, アフィン平面$\mathbb{A}^2$内に交点を持ちません. このような場合は, アフィン平面ではなく射影空間内で交点を考える必要があります.
そして3つ目が今回の話に関わることです. 上で示したように, 2つの曲線の交点は, 点集合としては1点でも, 多重に交わっている場合があります. このような場合は, 重複度を考慮して交点を数えなければいけません. これは「$n$次多項式の零点は$n$個である」という時に, $n$重根を$n$個として数えるようなものです. この重複度を考える時に必要になるのが交叉重複度です.
以上を考慮し, ベズーの定理は, 以下のように修正できます.
$k$を代数的閉体とする. $C, D$は射影平面$\mathbb{P}^2_k$内の曲線で, それぞれ$\mathrm{deg}(f) = d$および$\mathrm{deg}(g) = e$となる斉次多項式$f, g$で定義され, 共通成分を持たないものとする. このとき,
$$ \sum_{p \in C \cap D} i_p(C, D) = de. $$
が成り立つ.
ここでは, この定理は証明しません. 証明はたとえば, HarのI Theorem 7.7およびV Example 1.4.2, またはLiuのCorollary 9.1.20をご参照下さい.
以下, この交叉重複度の幾何学的意味を考えます. 以降は曲線は非特異なもののみを考えます. つまり, 曲線$C$を定義する多項式を$f(x, y)$とすると,
$$
\frac{\partial f}{\partial x}(x, y) = \frac{\partial f}{\partial y}(x, y) = 0
$$
となるような点$(x, y) \in C$は存在しないとします. また, $k$は代数的閉体とします.
ここで, 非特異点の可換代数による特徴づけを述べます.
$A$を$r$次元ネーター局所環, $m \subset A$をその極大イデアルとする. $m$が$r$個の元で生成されるとき, $A$は正則局所環という.
$A/m = k$とおきます. $m/m^2$は$k$ベクトル空間になり, $m$を生成するために必要な元の最小個数は$\mathrm{dim}_k m/m^2$です (中山の補題より). 一般的には,
$$ \mathrm{dim} A \le \mathrm{dim}_k m/m^2 $$
が成り立ちますが, 等号が成り立つときが正則局所環です. 詳しくは, LiuのCorollary 2.5.14をご覧下さい.
$C$を平面曲線とする. $C$の非特異点$p$における局所環は正則局所環である.
つまり, $C$が多項式$f(x, y)$によって定義されるとすると, $p \in C$が非特異点ならば, $k[x, y]_p/(f)$は正則局所環になります. これは, $J = (\partial f/\partial x(x, y), \partial f/\partial y(x, y))$とおくと,
$$
\mathrm{dim}_k m/m^2 = \mathrm{dim} k[x, y] - \mathrm{rank}(J)
$$
となるからです. 詳しくは, LiuのTheorem 4.2.19や, HarのI Theorem 5.1をご覧下さい.
とくに1次元の場合を考えます.
離散付値環とは, ネーター局所環$A$で, $\mathrm{dim} A \gt 0$であり, 極大イデアルが単項であるものである.
明らかに, 1次元の正則局所環は離散付値環です. したがって, 非特異な曲線$C$の点$p \in C$における局所環は離散付値環です.
離散付値環には, その名の通り離散付値が入ります. $A$を離散付値環, $m = (\pi) \subset A$をその極大イデアルとします. もし, $\pi$がべき零ならば$\mathrm{dim} A = 0$なので, $\pi$はべき零ではありません. クルルの共通部分定理 (Mat定理8.10を参照)より, $\displaystyle \bigcap_{n=1}^{\infty} m^n = (0)$なので, $y \in A$が$0$でなければ, $y \in m^e$だが$y \notin m^{e+1}$となる自然数$e$が定まります. よって$y$は, $A$の単元$u$を用いて$y = u \pi^e$と表せます.
$A$を離散付値環, $m \subset A$をその極大イデアルとする. $m$の生成元を$A$の一意化パラメータ(uniformizing parameter)という. $\pi$を$A$の一意化パラメータとすると, $0$でない任意の$y \in A$に対して, $y = u \pi^e$ $(u \notin m)$となる整数$e \ge 0$が定まる. この$e$を$y$の付値といい, $\mathrm{ord}_A(y)$と書く.
一意化パラメータのことは, 素元や一意化元などということもありますが, 以下の説明のためにはこの用語が一番しっくりくると思います.
離散付値のイメージをつかむため, 複素数体上の一変数べき級数環$A = \mathbb{C}[[x]]$を考えます. $m = (x) \subset A$をその極大イデアルとします. 任意の$0 \neq f \in A$は, $A$の単元$u$を用いて, $f = ux^{\mathrm{ord}_A(f)}$と表せます. $u$は$x$で割り切れないので, これは$f$が複素平面の原点$x = 0$に位数$\mathrm{ord}_A(f)$の零点をもつことを意味します.
さて, 交叉重複度の幾何学的意味を考えます. $k$を代数的閉体, $C, D$を平面$\mathbb{A}^2_k$内の非特異な曲線とします. $C, D$はそれぞれ多項式$f, g$で定義され, 共通因子をもたないものとします. $p \in C \cap D$を取ります.
剰余環をとる操作と局所化は可換なので, まず$A = k[x, y]_p/(f)$を考えます. これは, 曲線$C$の非特異点における局所環なので正則局所環, したがって離散付値環です. したがって, 一意化パラメータ$\pi \in A$が存在して, 任意の$h \in k[x, y]$は$A$内で$\overline{h} = u \pi^{e}$ $(u \notin (\pi))$の形に書けます. とくに, $m = (\pi)$, $e = \mathrm{ord}_A(\overline{g})$とおくと, $g$が
$$ \overline{g} = u \pi^{e} \ \ (u \notin m) $$
の形に表せます. よって, $\overline{g} \in m^{e}$, $g \notin m^{e+1}$です. $m$は$A$の極大イデアルで$k$は代数的閉体なので, $A/m \simeq k$. よって, $A/(g) \simeq A/m^e \simeq k^e$となり,
$$ i_p(C, D) = e $$
となります. 簡単のため$p = (0, 0)$とすれば, $\pi$は$C$の座標関数です. $\pi$で$e$回割り切れるということは, $g$が原点に位数$e$の零点をもつということです. つまり, 交叉重複度とは一方の曲線の局所環における, もう片方の曲線の定義多項式の零点の位数です.
より幾何学的に, $k = \mathbb{C}$で, $C, D$をリーマン面として考えます. Gによると, 座標変換により
$$
p = (0, 0),
$$
$$
f(x, y) = y^k + a_1(x)y^{k-1} + \cdots + a_k(x),
$$
$$
a_i(x) \in \mathbb{C}[x], \ \mathrm{deg}(a_i(x)) \le i \ \text{または} \ a_i(x) \equiv 0
$$
とすることができ, $C$が$p$の近傍で既約であれば, $\mathbb{C}$の原点の近傍$U$における正則なパラメータ付け$\varphi: U \rightarrow C$が
$$ t \mapsto (t^k, y(t^k)) $$
となるように取れるようです. このとき, 交叉重複度は
$$ i_p(C, D) = ( \ g(t^k, y(t^k)) \ \text{の} \ t=0 \ \text{における零点の位数} \ ) $$
で与えられます. 一意化パラメータ$\pi$は, この$t$の類似になっています.