まず, 仕事$W$を次のように定義する.
$$W=\vec{f} \cdot \Delta \vec{x}$$
このとき, エネルギーは,
「$\vec{f}$が仕事をしたときに変化する量」
として定義しよう. ここでの変化とは, 増加と減少の両方を指す.
物体に対し,
「$\vec{f}$が仕事をしたときの増加量」を運動エネルギーといい,
「$\vec{F}$が仕事をしたときの減少量」を位置エネルギーという.
ただし, $\vec{F}$は保存力である.
また, 物理学において,
増加量とは$(後)-(前)$であり, 減少量とは$(前)-(後)$の量である.
基本的に, 変化量と言われれば増加量を言う.
熱力学第一法則
$$Q=\Delta U + W $$
について, $\Delta U=0$(等温変化)のとき,
$$Q=W$$
となる. 実際, $J=4.2[J/cal]$として, $J\Delta Q = \Delta W$が成立する.
すなわち, 熱は仕事と同じ資格でエネルギーに変化をもたらす量なのである.
改めて, 熱力学第一法則を見ると, 次のように書けて,
$$ \Delta U = Q - W$$
(右辺)は広義の仕事であり, これによって変化する量として, 内部エネルギーUが定義される.
古典力学から現代物理学に至るまで, 物理学の理論の拡大に際する指導原理というのはエネルギー保存則である. エネルギー保存則とは, 「世界全体に対してエネルギー(仕事を生み出す能力)が保存する」ではなく, 正確には「保存する量としてエネルギーの各種の形態を定義した, その結果」である. つまり, エネルギー保存則の要請に従って, エネルギーの各形態が定義される.
実際に, 運動エネルギーは「増加量」, 位置エネルギーは「減少量」で定義したのも,
$$\Delta K = W \qquad \text{(Wは保存力Fによる仕事)}$$
$$ \iff K_1 - K_0 =U_0 - U_1$$
$$\iff K_1 + U_1 =K_0 + U_0$$
このように, 力学的エネルギーが保存するようにしたからである.
さて, エネルギーと仕事を再定義しよう. 力学だけでなく, 熱力学, 電磁気学, 量子論などを含めた物理学では, エネルギー保存則を満たすように, 各種のエネルギーを定義しているのであった. これらのエネルギーを導入するために, 初期段階には
$$ W=\vec{f} \cdot \Delta \vec{x}$$
を仕事の定義に採用する. しかし, ある程度エネルギーの各形態が定義された後は, それらエネルギーの移動量として仕事を定義する. そして, その移動量を知る手段として,
$$W=\vec{f} \cdot \Delta \vec{x}$$
の式があるのである.
指導側は, 仕事がエネルギーの移動量であることを知っているがゆえに, 暗にそのことを踏まえた指導をするだろう. しかし, 高校生にとっては, $(仕事)=(力)\times (距離)$なのである. この認識のズレが大きな問題を引き起こすとは考えにくいが, 決して小さくないズレである. これを解消するために, 教科書や指導要領を変えることは難しいが, 指導側が配慮することはできる.