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現代数学解説
文献あり

ラマヌジャンのある円周率公式の初等的な証明と一般化

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はじめに

 この記事ではラマヌジャンの発見した円周率公式
1π=n=0(12)n(1s)n(11s)n(1)n3An+BCn(s=2,3,4,6)
の初等的な導出とその一般化について紹介していきます。
 以下(x)nをポッホハマー記号、つまり
(x)n=x(x+1)(x+n1)=Γ(x+n)Γ(x)
とします。

WZ-methodとCarlsonの定理

hypergeometric term

 A(n+1)/A(n)nについての有理関数となるような数列A(n)のことをhypergeometric termと言う。

 例えば上のの中身
A(n)=(12)n(1s)n(11s)n(1)n3(an+b)zn

A(n+1)A(n)=(12+n)(1s+n)(11s+n)(n+1)3a(n+1)+ban+bz
を満たすのでhypergeometric termとなります。
 そしてこのような数列の和A(n)を変形するのにWZ-methodという興味深い手法があります。

WZ-pair

 二重数列F(n,k)がhypergeometric termであるとは
F(n+1,k)F(n,k),F(n,k+1)F(n,k)
がそれぞれn,kについての有理関数となることを言う。
 また2つのhypergeometric termF(n,k),G(n,k)WZ-pairであるとは
F(n+1,k)F(n,k)=G(n,k+1)G(n,k)
を満たすことを言う。このときR(n,k)=G(n,k)/F(n,k)n,kについての有理関数となる(これをcertificateと言う)。

 もしhypergeometric termG(n,k)に対しWZ-pairとなるF(n,k)が存在すれば
n=ab(G(n,k+1)G(n,k))=F(b+1,k)F(a,k)
が成り立ちます。特に
F(0,k)=0,limnF(n,k)=0
であれば
f(k)=n=0G(n,k)
kに依らず一定となります。
 いまkは整数としていましたがF,Gkについての複素関数に拡張できるとき、ff(k+1)=f(k)なる周期関数ということになります。そして実は適当な条件下でfは複素関数としても一定となることが示せます。

Carlsonの定理

 Re(z)0上の正則関数f
・ある定数c<πに対して|f(z)|=O(ec|z|)
z=0,1,2,に対してf(z)=0
を満たすとき、fは恒等的に0となる。

 これを用いると適当な複素数k0に対して特殊値f(k0)を求めることでkに依らない等式
f(k0)=n=0G(n,k)
が得られることとなります。
 まだ漠然としているのでまずは一つ具体例を見ていくこととしましょう。

Ekhad, Zeilberger (1994)

 わずか1ページのこの論文では円周率公式
2π=n=0(1)n(4n+1)(12)n3(1)n3
の次のような一般化を証明しています。

Γ(32+k)Γ(32)Γ(k+1)=n=0(1)n(4n+1)(12)n2(k)n(1)n2(32+k)n

G(n,k)=(1)n(4n+1)(12)n2(k)n(1)n2(32+k)nΓ(32)Γ(k+1)Γ(32+k)F(n,k)=(2n+1)2(2n+2k+3)(4n+1)G(n,k)
とおくとこれらは
F(n,k)F(n1,k)=G(n,k+1)G(n,k)
を満たす。
 特にG(0,0)=1,G(n,0)=0 (n>0)に注意すると
n=0G(n,k)=n=0G(n,0)=1
を得る。

 実際kk12とすると
(1)k(12)k2π=n=0(1)n(4n+1)(12)n2(12k)n(1)n2(1+k)n
と表せるので、k=0において
2π=n=0(1)n(4n+1)(12)n3(1)n3
が得られることがわかります。

Zeilbergerの定理

 上ではWZ-methodを使うことで
n=0G(n,k)=1
という等式が得られましたが、さらにここからある二重数列Gj(n,k)を構成することで
1=n=0G(n,k)=n=0G1(n,k)=n=0G2(n,k)=n=0G3(n,k)=
という恒等式を増産することができます。

 WZ-pairF(n,k),G(n,k)に対し
F1(n,k)=F(n,n+k), G1(n,k)=F(n+1,n+k)+G(n,n+k)
とおくとこれは再びWZ-pairとなる。

Zeilbergerの定理

 WZ-pairF(n,k),G(n,k)F(n,k)0(n)を満たすとき
n=0G(n,k)=n=0G1(n,k)
が成り立つ。

 詳細は読めていないので雰囲気で説明する。詳しくは Zeilberger (1993) を参照されたい。

 微分形式に類似して差分形式
ω=F(n,k)δk+G(n,k)δn
というものを考え、グリッド上の経路
Cn:(n,k)(n+a,k+a)Ck:(n,k)(n+a,k+a)
における和分を
Cnω=j=0a1G(n+j,k),Ckω=j=0a1F(n,k+j)
によって定める。このとき閉経路Cに対して
0=Cω
が成り立つ(これが重要)。
 いま階段状の閉経路C=C1+C2C3
C1:(0,k)(1,k)(2,k)C2:(,k)(,k+1)(,k+2)C3:(0,k)(1,k)(1,k+1)(2,k+1)(2,k+2)
における和分を考えることで(C2ω=0に注意すると)
0=n=0G(n,k)n=0(F(n+1,n+k)+G(n,n+k))
を得る。

Guilleraの公式

 そんなこんなでアレコレした結果Guillera (2006,2010)では次のような結果が紹介されています(certificateについては元論文を参照してください)。
 なおの中身はk=0のとき
(12)n(1s)n(11s)n(1)n3
になる部分と(12)n/(12)n=1になる部分に分けて書いています。

Guillera (2006)

(1)k(12)k4π=n=0(12)n(12k)n(12+k)n(1)n2(1+k)n6n+2k+122n2k(1)k(12)k22π=n=0(1)n(12k)n(12+k)n2(1)n2(1+k)n6n+2k+123n(1)k(12)k16π=n=0(12)n(12k)n(12+k)n(1)n2(1+k2)n(12+k)n(12+k2)n(2n+1)(42n+5)+k(56n+4k+12)26n(2n+k+1)(1)k(12)k8π=n=0(1)n(12)n(14k2)n(34k2)n(1)n2(1+k)n20n+2k+322n(43)k(1)k(12)k22π=n=0(1)n(12+k)n(14k2)n(34k2)n(1)n2(1+k)n8n+2k+132n(43)k(1)k(12)k1633π=n=0(1)n(12k)n(14+k2)n(34+k2)n(1)n2(1+k2)n(12+k)n(12+k2)n(2n+1)(28n+3)+k(36n+4k+8)24n3n(2n+k+1)(1)n2(12)n28π2=n=0(1)n(12)n3(12k)n(12+k)n(1)n3(1+k)n220n2+12kn+8n+2k+122n(1)n2(12)n232π2=n=0(1)n(12)n3(14k2)n(34k2)n(1)n3(1+k)n2120n2+84kn+34n+10k+324n
 
2π=n=0(1)n(12)n3(1)n3(4n+1)=12n=0(12)n3(1)n36n+122n4π=n=0(12)n3(1)n36n+122n=12n=0(1)n(12)n(14)n(34)n(1)n320n+324n22π=n=0(1)n(12)n3(1)n36n+123n=14n=0(12)n(14)n(34)n(1)n348n2+32n+32n+1126n8π=n=0(1)n(12)n(14)n(34)n(1)n320n+324n=12n=0(12)n3(1)n342n+526n23π=n=0(12)n(14)n(34)n(1)n38n+162n=38n=0(1)n(12)n(14)n(34)n(1)n328n+326n3n

Guillera (2010)

(14)k(1)k2(14)k(34)k2π=n=0(1)n(12)n(12k)n2(1)n(1+k)n2(4n+1)(1627)k(1)k2(16)k(56)k4π=n=0(1)n(12k)n(12+k)n(12+3k)n(1)n(1+k)n(1+2k)n6n+6k+122n(3227)k(1)k2(16)k(56)k22π=n=0(1)n(12k)n(12+k)n(12+3k)n(1)n(1+k)n(1+2k)n6n+6k+123n(1)k2(14)k(34)k16π=n=0(12)n(12k)n(12+2k)n(1)n(1+k)n(1+k2)n(12+k)n(12+k2)n(2n+1)(42n+5)+k(84n+24k+26)26n(2n+k+1)(1627)k(1)k2(16)k(56)k8π=n=0(1)n(12+k)n(14+3k2)n(34+3k2)n(1)n(1+k)n220n+18k+322n(1)k2(16)k(56)k23π=n=0(1)n(12)n(14+3k2)n(34+3k2)n(1)n(1+k)n28n+6k+132n(1)k2(16)k(56)k163π=n=0(1)n(12k)n(14)n(34)n(1)n(1+k)n2(12+3k)n(12)n(2n+1)(28n+3)+k(40n+18)24n3n(2n+1)(1)k2(13)k(23)k33π=n=0(1)n(12+k)n(13)n(23)n(1)n(1+k)n(1+2k)n6n+6k+12n(1)k2(14)k(34)k123π=n=0(1)n(12)n(13+k)n(23+k)n(1)n(1+k)n(1+k2)n(12+2k)n(12+k2)n(2n+1)(51n+7)+k(114n+36k+37)24n(2n+k+1)4k(1)k2(16)k(56)k433π=n=0(1)n(12k)n(13+k)n(23+k)n(1)n(1+k)n(1+3k)n(12+3k)n(12)n(2n+1)(5n+1)+k(16n+6k+7)(4/3)2n(2n+1)(3227)k(1)k2(16)k(56)k322π=n=0(1)n(12k)n(16+k)n(56+k)n(1)n(1+k)n(1+k2)n(12+k)n(12+k2)n(2n+1)(154n+15)+k(352n+108k+108)(8/3)3n(2n+k+1)

 やべ~
 ちなみにJ. Guilleraはこの他にもq-類似による一般化など様々な公式を量産しているようなので興味があれば調べてみてはいかがでしょうか。

参考文献

[1]
S. B. Ekhad, D. Zeilberger, A WZ proof of Ramanujan’s formula for π, arXiv, 1993
[3]
J. Guillera, Generators of some Ramanujan formulas, Ramanujan Journal, 2006, 41-48
[4]
J. Guillera, On WZ-pairs which prove Ramanujan series, Ramanujan Journal, 2010, 249-259
投稿日:20231228
更新日:20231230
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  1. はじめに
  2. WZ-methodとCarlsonの定理
  3. Ekhad, Zeilberger (1994)
  4. Zeilbergerの定理
  5. Guilleraの公式
  6. 参考文献