トポロジーを使って, 代数学の基本定理の証明をしてみたいと思います。
$f(x)\in\mathbb{C}[x]$は, 定数多項式でないとする。このとき, $f(\alpha)=0$となる$\alpha\in{\mathbb{C}}$が存在する。
この定理を代数学の基本定理というのであった。すなわち, 定数多項式でない複素係数の$n$次方程式は, すべての解が複素数となる。だから「実数係数の$n$次方程式が実数解を必ずもつわけではないから, 複素数を考えよう」と同じようなことは考えなくてもよいということである。
以降$S^{1}$は$\mathbb{C}$内の円周, つまり
\begin{align*}
S^{1}:=\{z\in\mathbb{C}\mid |z|=1\}
\end{align*}
とします。
$p:\mathbb{R}\to\mathbb{C}$を$p(t)=e^{2\pi{it}}\,(t\in\mathbb{R})$で定める。$1\in{S^{1}}$を始点とする道$\alpha:[0, 1]\to{S^{1}}$に対して, $p\circ\tilde{\alpha}=\alpha$かつ, $\tilde{\alpha}(0)=0$を満たす$\tilde{\alpha}:[0, 1]\to\mathbb{R}$が一意的に存在する。この$\tilde{\alpha}$を$0$を始点とする$\alpha$の持ち上げという。
$S^{1}$内の$1\in{S^{1}}$を基点とする閉道$\alpha$に対して
\begin{align*}
\deg{\alpha}=\tilde{\alpha}(1)
\end{align*}
とすると, $\deg{\alpha}\in\mathbb{Z}$で, $\deg{\alpha}$を$\alpha$の写像度という。そして, $S^{1}$内の$1\in{S^{1}}$を基点とする閉道$\alpha, \beta$に対し, $\alpha$と$\beta$がホモトープであることと$\deg{\alpha}=\deg{\beta}$は同値である。
この2つの定理の証明は今回はしないが, 例をひとつ挙げよう。
$n$を正の整数とする。$\alpha:[0, 1]\to{S^{1}}$を
\begin{align*}
\alpha(s)=e^{2n\pi{is}}\quad (s\in[0, 1])
\end{align*}
で定めると, $\tilde{\alpha}$は
\begin{align*}
\tilde{\alpha}(s)=ns\quad (s\in[0, 1])
\end{align*}
で, そして
\begin{align*}
\deg{\alpha}=n
\end{align*}
である。
$f(x)$がモニックなときに, 上の主張が成り立つことを示せば十分である。背理法で示そう。ある$f(x)\in\mathbb{C}[x]$が存在して
が成り立つとする。
\begin{align*}
n次多項式f(x):=x^{n}+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_{0}\in\mathbb{C}[x]
\end{align*}
が, この(i), (ii), (iii)をすべて満たすとする。そうすると, $r$を非負の実数として, $S^{1}$内の$1$を基点とするループ$\alpha_{r}:[0, 1]\to{S^{1}}$を
\begin{align*}
\alpha_{r}(s)=\dfrac{f(re^{2\pi{i}s})}{|f(re^{2\pi{i}s})|}\cdot\dfrac{|f(r)|}{f(r)}\quad (s\in[0, 1])
\end{align*}
で定めることができ, $\alpha_{r}$と$\alpha_{0}$はホモトープである。なぜなら, 写像$H:[0, 1]\times[0, 1]\to{S^{1}}$を
\begin{align*}
H(s, t):=\dfrac{f((1-t)re^{2\pi{i}s})}{|f((1-t)re^{2\pi{i}s})|}\cdot\dfrac{|f((1-t)r)|}{f((1-t)r)}\quad ((s, t)\in[0, 1]\times[0, 1])
\end{align*}
と定めれば, $H$は連続で,
\begin{equation*}
\begin{aligned}
\left\{\,
\begin{aligned}
&H(s, 0)=\alpha_{r}(s)\quad (s\in[0, 1])\\
&H(s, 1)=\alpha_{0}(s)\quad (s\in[0, 1])\\
&H(0, t)=H(1, t)=1\quad (t\in[0, 1])
\end{aligned}
\right.
\end{aligned}
\end{equation*}
であるからである。次に, $S^{1}$内の$1$を基点とするループ$\beta:[0, 1]\to{S}^{1}$を
\begin{align*}
\beta(s)=e^{2\pi{i}sn}\quad (s\in[0, 1])
\end{align*}
で定めると, 実は, $r$が十分大きければ, $\alpha_{r}$と$\beta$はホモトープである(後で示す)。以上から, $\alpha_{0}$と$\beta$はホモトープであるので
\begin{align*}
\deg{\alpha_{0}}=\deg{\beta}
\end{align*}
が成り立つ。ところが, $\alpha_{0}$は定値道なので, $\deg{\alpha_{0}}=0$で, 一方, $\beta$は定義から, $\deg{\beta}=n$であるから
\begin{align*}
\deg{\alpha_{0}}\neq{\deg{\beta}}
\end{align*}
である。これは矛盾である。したがって, 背理法から, 代数学の基本定理が示された。
$r>0$が十分大きければ, $\alpha_{r}$と$\beta$はホモトープである。
\begin{align*}
\dfrac{|a_{0}|}{r^{n}}+\dfrac{|a_{1}|}{r^{n-1}}+\cdots+\dfrac{|a_{n-1}|}{r}\to{0}\quad(r\to{0})
\end{align*}
なので,$r>0$が十分大きいとき
\begin{align*}
\dfrac{1}{2}>\dfrac{|a_{0}|}{r^{n}}+\dfrac{|a_{1}|}{r^{n-1}}+\cdots+\dfrac{|a_{n-1}|}{r},
\end{align*}
つまり
\begin{align*}
\dfrac{1}{2}r^{n}>|a_{0}|+|a_{1}|r+\cdots+|a_{n-1}|r^{n-1}\quad\cdots{(\ast)}
\end{align*}
である。$(\ast)$を満たす$r$を任意に固定する。また
\begin{align*}
|f(re^{2\pi{i}s})|&\geqq{|(re^{2\pi{i}s})^{n}|-|a_{0}+\cdots+a_{n-1}re^{2\pi{i}s}|} \quad (\because\, 三角不等式)\\
&\geqq{|(re^{2\pi{i}s})^{n}|-(|a_{0}|+\cdots+|a_{n-1}||re^{2\pi{i}s}|)}\quad (\because\, 三角不等式)\\
&=r^{n}-(|a_{0}|+\cdots+|a_{n-1}|r^{n-1})\quad\cdots{(\ast\ast)}
\end{align*}
である。$(\ast), (\ast\ast)$を用いると
\begin{align*}
|f(re^{2\pi{i}s})|>\dfrac{1}{2}r^{n}\quad\cdots(\ast\ast\ast)
\end{align*}
が成り立つ。よって, 任意の$(s, t)\in[0, 1]\times[0, 1]$に対し
\begin{align*}
|(1-t)f(re^{2\pi{i}s})+tre^{2\pi{i}sn}|&=|f(re^{2\pi{i}s})+t(-f(re^{2\pi{i}s})+re^{2\pi{i}sn})|\\
&\geqq{|f(re^{2\pi{i}s})|-t\left|\sum_{j=0}^{n-1}a_{j}(re^{2\pi{i}ns})^{j}\right|}\\
&>\dfrac{1}{2}r^{n}-\left|\sum_{j=0}^{n-1}a_{j}(re^{2\pi{i}ns})^{j}\right|\\
&=|f(re^{2\pi{i}s})|-\dfrac{1}{2}r^{n}\\
&>0\quad (\because\, (\ast\ast\ast))
\end{align*}
この$r$を用いて, 写像$G:[0, 1]\times[0, 1]\to{\mathbb{R}}$を
\begin{align*}
G(s, t):=(1-t)f(re^{2\pi{i}s})+tre^{2\pi{i}sn}\quad ((s, t)\in[0, 1]\times[0, 1] )
\end{align*}
で定めることができ, 写像$H^{\prime}[0, 1]\times[0, 1]\to{S}^{1}$を
\begin{align*}
H^{\prime}(s, t):=\dfrac{G(s, t)}{|G(s, t)|}\cdot\dfrac{|G(0, t)|}{G(0, t)}\quad ((s, t)\in[0, 1]\times[0, 1])
\end{align*}
で定めると, $H^{\prime}$は連続で
\begin{equation*}
\begin{aligned}
\left\{\,
\begin{aligned}
&H^{\prime}(s, 0)=\alpha_{r}(s)\quad (s\in[0, 1])\\
&H^{\prime}(s, 1)=\beta(s)\quad (s\in[0, 1])\\
&H^{\prime}(0, t)=H^{\prime}(1, t)=1\quad (t\in[0, 1])
\end{aligned}
\right.
\end{aligned}
\end{equation*}
なので, $\alpha_{r}$と$\beta$はホモトープである。
ある程度トポロジーが分かっている人向けの内容になってしまった。本当は, ホモトープとかもっと前のとこから話さないといけなんだけどな...