この記事では2年ほど前に出た 「フリーズの数学 スケッチ帖 数と幾何のきらめき 西山 享 著」の§2.2の演習問題の解答をする。
凸$n$角形の奇蹄列を$(q_0,q_1,...,q_{n-1})$とするとき、$\sum_{j=0}^{n-1}q_j=3(n-2)$であることを示せ。
数学的帰納法で示す。まず$n=3$のときは明らか。次に$n\geq 3$とし、凸(n+1)角形とその三角形分割を一つ固定し、これをPとする。Pの奇蹄列を$(q_0,q_1,...,q_n)$とするとフリーズの補題2.5の(3)より$q_i=1$となる$i$が存在する。このとき$q_i$に対応する頂点を取り除いた図形を$Q$とすると$Q$は凸$n$角形であり、帰納法の仮定から
$q_0+q_1+...+q_{i-2}+(q_{i-1}-1)+(q_{i+1}-1)+q_{i+2}+...+q_n=3(n-2)$
が成り立つ。これと$q_i=1$から、両辺に3を足して
$\sum_{j=0}^{n}q_j=3(n-1) $
が成り立ち、題意が示された。$\Box$
凸$n$角形の奇蹄列で、厳密に考えた周期が$n$未満であるようなものは無数に存在する。
凸多角形とその奇蹄列の組$X$に対し$X$の奇蹄列が厳密に考えた周期が$3$となることを$P(X)$で表す。また、実数の組$Q$に対し、$Q$を$l$個並べて作った列を$Q^l$、$Q$の各要素の間と右端に自然数$m$を挟んで作った列を$Q^{m \downarrow }$、実数$a$に対し$(a)_k≔(a,a,...,a)$(長さk)と表す。加えて列の和は各要素の和として定義し演算記号は$+$を用いる。例えば $(3,1,2)^3=(3,1,2,3,1,2,3,1,2)$、$(2,3,4)^{1\downarrow}=(2,1,3,1,4,1)$、$(2,2,4)+(1,2,3)=(3,4,7)$である。
$k$を非負整数として、ある 凸$(3・2^k) $角形とその奇蹄列が存在して、厳密に考えた周期が$3$となることを、具体的に凸$(3・2^k) $角形を構成して数学的帰納法により示そう。
適当に円$C$を考え、その上に各頂点を持つ正三角形をとって$X_0$とすると、奇蹄列は$(1,1,1)$であり、これを$Q_0$とすると明らかに$P(X_0,Q_0)$。次に$X_0$の各辺の垂直二等分線と$C$の交点と$X_0$の各頂点を結んで正$6$角形を作り、これを$X_1$とすると、奇蹄列は $(3,1,3,1,3,1)$と取れ、これを$Q_1$とする(以降奇蹄列は$Q_1$の最初の要素に対応する頂点から時計回りに取る)。
以下同様に$X_k$の各辺の垂直二等分線と$C$の交点と$X_k$の各頂点を結んで正$(3・2^{k+1})$角形を作り、これを$X_{k+1}$とし、奇蹄列を$Q_{k+1}$とする(このような奇蹄列の取り方は先に決めた取り方より帰納的に一意であることに注意)。
このとき$P(Q_k)$と仮定すると、$Q_k$には厳密な周期$3$を持つ列があるからそれを$R$とする。すると
$Q_k=R^3$
となり、また
$Q_{k+1}=((R+(2)_3)^{1\downarrow})^3$
となることが帰納的にわかる。もし$Q_{k+1}$の厳密な周期が$3$未満となるとすると$Q_{k+1}$の構成より$Q_{k+1}$が3未満の周期を持つことになり矛盾するため、$Q_{k+1}$は厳密な周期$3$を持ち $P(Q_{k+1})$。よって題意は示された。$\Box$
形式的にはこのような証明だが、実際に図を描いてみると直感的にほとんど明らかだと思えるであろう。また、証明中に$Q^{l\downarrow}$を定義したが、同様に$Q$の各要素の間と左端に自然数$m$を挟んで作った列を$Q^{\downarrow m }$、$Q$の各要素の間と両端に自然数$m$を挟んで作った列を$Q^{\downarrow m \downarrow }$と定義するとわかりやすいかもしれない。そうなると両端何も挟まず各要素の間のみに$m$を配置したものも定義したくなり$Q^{ \overrightarrow{m} }$や$Q^{m \dagger }$を考えてみたがいまいちぴんと来ない。正直この手の定義はすでにあると思うので今後勉強していきたい。
今回は正三角形から始めて構成したが任意の凸多角形から構成することができ、周期は保たれる。また、構成の際二等辺三角形を各辺にくっつける手法をとったが、これは正三角形を二等辺三角形になるように整形してからくっつけたと考えられる。一般に凸多角形をくっつけられるように整形しくっつける操作は可能であるため、一般の凸多角形を構成に使うことができる。よって、厳密な周期$t$の正$tk$角形から構成を始めて、構成の際凸$s$角形を用いると$n$回の操作で厳密な周期$t$の凸$tk(s-1)^{n-1} $角形が構成される。
また、元のフリーズの本のp95の定理5.14から、厳密な周期は2か3しかないことが分かる。よって、上の構成で正三角形と正方形から始めることで厳密な周期が2,3である三角形分割はそれぞれ無数に存在することが分かる。
奇蹄列$(q_0,q_1,...,q_{n-1})$のうちの$n-2$個が決まっていれば三角形分割が決まり、したがって奇蹄列の残りの$2$つの成分も決まる。
フリーズの本定理2.7と同様の論法で示す。
三角形の場合は明らか。
凸$n$角形を考える。まず決まっている$n-2$個に1が含まれない場合は残りの2個が1であるため$n-2$個に少なくとも一つ1を含む場合に示せば十分である。$n-2$個に含まれる1のうちどれか1つを選び、それに対応する1つの頂点を取り除いてできた図形は凸$(n-1)$角形であり、帰納法の仮定からこれに対応する三角形分割が決まり、元の凸$n$角形はこれに取り除いた三角形を加えてできるからやはりこちらも決まる。よって題意は示された。$\Box$