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sin版チェビシェフ多項式 ほか

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{Aut}[0]{\operatorname{Aut}} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{F}[4]{{}_2F_1\left(\begin{matrix}#1,#2\\#3\end{matrix};#4\right)} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\operatorname{Gal}} \newcommand{H}[0]{\mathbb{H}} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{L}[0]{\Lambda} \newcommand{la}[0]{\lambda} \newcommand{La}[0]{\Lambda} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{li}[0]{\operatorname{li}} \newcommand{M}[4]{\begin{pmatrix}#1& #2\\#3& #4\end{pmatrix}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{o}[0]{\omega} \newcommand{O}[0]{\Omega} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{P}[0]{\mathfrak{P}} \newcommand{p}[0]{\mathfrak{p}} \newcommand{q}[0]{\mathfrak{q}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{t}[0]{\theta} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{vp}[0]{\varphi} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事では何か数式をいじってたときに出てきた関数
$$f_n(x)=\sum^n_{k=0}(-1)^k\binom{n+k}{2k}(2x)^{2k}$$
について考察していきます。
 最終的には以下の主張が得られることとなります。

$$f_n(\sin\t)=\frac{\cos(2n+1)\t}{\cos\t}$$
が成り立つ。

このことから$f_n$はチェビシェフ多項式
$$T_n(\cos\t)=\cos n\t,\quad U_n(\cos\t)=\frac{\sin(n+1)\t}{\sin\t}$$
$\sin$版のようなものであることがわかります。

母関数

 $f_n(x)$のような関数の性質を考える上では母関数を考えると何かと便利なので
$$\sum^\infty_{n=0}f_n(x)y^n$$
がどのように表せるか考えてみます。

$$\sum^\infty_{k=m}\binom nmy^{n-m}=\frac1{(1-y)^{m+1}}$$
が成り立つ。

$$\sum^\infty_{n=0}y^n=\frac1{1-y}$$
の両辺を$m$回微分して$m!$で割ることでわかる。

$$\sum^\infty_{n=0}f_n(x)y^n=\frac{1-y}{1-2(1-2x^2)y+y^2}$$
が成り立つ。

 上の補題に注意すると
\begin{align*} \sum^\infty_{n=0}f_n(x)y^n &=\sum^\infty_{k=0}(-1)^k(2x)^{2k}\sum^\infty_{n=k}\binom{n+k}{2k}y^n\\ &=\sum^\infty_{k=0}(-1)^k(2x)^{2k}\frac{y^k}{(1-y)^{2k+1}}\\ &=\frac1{1-y}\frac1{1+\frac{4x^2y}{(1-y)^2}}\\ &=\frac{1-y}{(1-y)^2+4x^2y}\\ &=\frac{1-y}{1-2(1-2x^2)y+y^2} \end{align*}
とわかる。

$\sin$版チェビシェフ多項式

$$f_n(\sin\t)=\frac{\cos(2n+1)\t}{\cos\t}$$
が成り立つ。

 $x=\sin\t$において
\begin{align*} 1-2(1-2x^2)y-y^2 &=1-2(\cos2\t)y+y^2\\ &=(e^{2i\t}-y)(e^{-2i\t}-y) \end{align*}
と因数分解できることに注意すると
\begin{align*} \sum^\infty_{n=0}f_n(\sin\t)y^n &=\frac{1-y}{(e^{2i\t}-y)(e^{-2i\t}-y)}\\ &=\frac1{e^{i\t}+e^{-i\t}}\l(\frac{e^{i\t}}{e^{2i\t}-y}+\frac{e^{-i\t}}{e^{-2i\t}-y}\r)\\ &=\frac1{e^{i\t}+e^{-i\t}}\sum^\infty_{n=0}(e^{(2n+1)i\t}+e^{-(2n+1)i\t})y^n\\ &=\sum^\infty_{n=0}\frac{\cos(2n+1)\t}{\cos\t}y^n \end{align*}
と変形できることかわかる。

 また$f_n(x)$を積分してみると
\begin{align*} \int f_n(x)dx &=\int f_n(\sin\t)\cos\t\,d\t\\ &=\int\cos(2n+1)\t\,d\t\\ &=\frac{\sin(2n+1)\t}{2n+1}+C \end{align*}
が成り立つので以下が成り立つこともわかります。

$$F_n(x)=\frac{2n+1}2\sum^n_{k=0}(-1)^k\frac{(n+k)!}{(n-k)!(2k+1)!}(2x)^{2k+1}$$
とおくと
$$F_n(\sin\t)=\sin(2n+1)\t$$
が成り立つ。

 ちなみにチェビシェフ多項式の Wikipedia を見てみると
\begin{align*} T_n(x)&=n\sum^n_{k=0}(-2)^k\frac{(n+k-1)!}{(n-k)!(2k)!}(1-x)^k\\ U_n(x)&=\sum^n_{k=0}(-2)^k\frac{(n+k+1)!}{(n-k)!(2k+1)!}(1-x)^k \end{align*}
という表示が見受けられます。したがって
$$T_n(\cos2\t)=\cos2n\t,\quad U_{n-1}(\cos2\t)=\frac{\sin2n\t}{\sin2\t}$$
が成り立つことに注意すると以下のような主張も得られます。

\begin{align*} T'_n(x)&=n\sum^n_{k=0}(-1)^k\frac{(n+k-1)!}{(n-k)!(2k)!}(2x)^{2k}\\ U'_n(x)&=\sum^n_{k=0}(-1)^k\binom{n+k+1}{2k+1}(2x)^{2k+1} \end{align*}
とおいたとき
$$T'_n(\sin\t)=\cos2n\t,\quad U'_{n-1}(\sin\t)=\frac{\sin2n\t}{\cos\t}$$
が成り立つ。

更なる考察

 実のところ元々は
\begin{align*} \mathcal{F}_n(x)&=\sum^n_{k=0}(-1)^k\frac{(n+k-2)!}{(n-k)!(2k)!}(2x)^{2k}\\ \mathcal{G}_n(x)&=\sum^n_{k=0}(-1)^k\frac{(n+k-1)!}{(n-k)!(2k+1)!}(2x)^{2k+1} \end{align*}
という関数の性質について考えていました。これの考察については半ば諦めていたのですが、この記事を書いている内に光明を見出したのでもう少し考察してみます。

\begin{align*} \mathcal{F}_n(\sin\t)&=\frac1{2n-1}\l(\frac{\cos2n\t}n+\frac{\cos(2n-2)\t}{n-1}\r)\\ \mathcal{G}_n(\sin\t)&=\frac1n\l(\frac{\sin(2n+1)\t}{2n+1}+\frac{\sin(2n-1)\t}{2n-1}\r) \end{align*}
が成り立つ。

 一行目については定理5より
\begin{align*} \int F_{n-1}(x)dx &=\int\sin(2n-1)\t\cos\t\,d\t\\ &=\frac12\int(\sin2n\t+\sin(2n-2)\t)d\t\\ &=-\frac12\l(\frac{\cos2n\t}n+\frac{\cos(2n-2)\t}{n-1}\r)+C\\ &=-\frac{2n-1}4\mathcal{F}_n+C \end{align*}
が成り立つことから
$$\mathcal{F}_n(0)=\frac{(n-2)!}{n!}=\frac1{n(n-1)}$$
に注意するとわかる。
 二行目についても同様に定理6より
\begin{align*} \int T'_n(x)dx &=\int\cos2n\t\cos\t\,\d\t\\ &=\frac12\int(\cos(2n+1)\t+\cos(2n-1)\t)d\t\\ &=\frac12\l(\frac{\sin(2n+1)\t}{2n+1}+\frac{\sin(2n-1)\t}{2n-1}\r)+C\\ &=\frac n2\mathcal{G}_n+C \end{align*}
が成り立つことからわかる。

おわりに

 いままで二項係数の関わる多項式はいくつも考察したことがありますが、どうにも$\binom nk$$n,k$が同時に動くタイプのものには苦手意識がありました。しかし今回いろいろ考えてみると$f_n(x)$の挙動などは三角関数によって特徴づけられることがわかり、いい学びになりました。
 ちなみに最後に紹介した$\mathcal{F}_n(x)$$\mathcal{G}_n(x)$はとある問題のために考えているものであり、進展があればその問題についての記事も書こうと思っています。
 とりあえず今回の記事はこんなところで。では。

投稿日:20231011

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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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