閉路と切断と全域木の関係を見てみよう。
$n \geq 2$に対し
$P_n:=(\{v_0,v_1,...,v_{n-1}\},\{\{v_0,v_1\},\{v_1,v_2\},...,\{v_{n-2},v_{n-1}\}\})$
$n \geq 3$に対し
$C_n:=(\{v_0,v_1,...,v_{n-1}\},\{\{v_0,v_1\},\{v_1,v_2\},...,\{v_{n-2},v_{n-1}\},\{v_{n-1},v_0\}\})$
これらはグラフ。
$P_n$の頂点$v_0,v_{n-1}$を$P_n$の端点と呼ぶ。
$P_n$に同型なグラフを道と呼ぶ。
$C_n$に同型なグラフを閉路と呼ぶ。
グラフ$G$の部分グラフであって道であるものを$G$の道と呼ぶ。
グラフ$G$の部分グラフであって閉路であるものを$G$の閉路と呼ぶ。
$P_n$は同じ頂点を通らない一筆書き。
$C_n$は輪っか。
連結グラフとは任意の異なる2頂点に対し、それらを端点とする道を持つグラフのこと。
連結成分とは部分グラフの関係からなる順序$\leq$で極大な連結部分グラフのこと。
$CC(G)$:グラフ$G$の連結成分全体とする。
$\{v,v'\} = e \in E(C_n)$に対し、$C_n \setminus \{e\}$は$v,v'$を端点とする道。
$P$:道
$v_\infty \not \in V(P)$をとる。
$v_0,v_{n-1}$:$P$の端点をとる。
$e=\{v_0,v_\infty\}$
$P + \{e\}$は$v_\infty,v_{n-1}$を端点とする道である。
詳しくはシリーズの「べき集合上にF_2代数の構造を入れたものとハイパーグラフについて」に移動した。
$G$:グラフ
$B_G^1:\mathcal{E}(G)→\mathcal{V}(G);E↦\sum_{e \in E}e$
$^tB_G^1:\mathcal{V}(G)→\mathcal{E}(G);V↦\sum_{v \in V}E_G(v)$
これはハイパーグラフとしての$G$の境界写像・余境界写像。
$B_G^1$を1次元境界写像、$^tB_G^1$を1次元余境界写像と呼ぶ。
頂点の2点集合$V \in \mathcal{V}(G)$に対し、
${B_G^1}^{-1}(\{V\})$が空でないとき、包含関係で極小な辺集合$E \in {B_G^1}^{-1}(\{V\})$に対し$G|_E$は$V$の2点を端点とする道である。
$G$:グラフ
$\mathcal{C}(G):=\ker(B_G^1)$
$\mathcal{C}(G)$を$G$の閉路空間と呼ぶ。
$\mathcal{C}(G) \leq \mathcal{E}(G)$
($\leq$は部分ベクトル空間の意味)
$\mathcal{C}(G)$の元を1次元閉路集合と呼ぶ。
$G$:グラフ
$C \leq G$:閉路
このとき
$E(C) \in \mathcal{C}(G)$
$v \in B_G^1(E(C)) ⇔ v \in \sum_{e \in E(C)}e ⇔ v \in e となるeがE(C)に奇数個ある$
$v \in V(C)$の場合は$v \in e$となる$e \in E(C)$は丁度2つある。
$v \not\in V(C)$の場合は0。
よって、$B_G^1(E(C))=0$
ゆえに、$E(C) \in \ker(B_G^1) = \mathcal{C}(G)$
$\mathcal{C}(G) = \gen{\{E(H) \in \mathcal{E}(G)\ |\ HはGの閉路\}}_{\mathbb{F}_2}$
後で証明する。
$G$:グラフ
$\mathcal{B}(G) := \im(^tB_G^1)$
$\mathcal{B}(G)$を$G$の切断空間と呼ぶ。
$\mathcal{B}(G) \leq \mathcal{E}(G)$
$\mathcal{B}(G)$の元を切断集合と呼ぶ。
$G$:グラフ
$V \in \mathcal{V}(G)$
$G$の$V$に関する二分割を次で定める。
$D:\mathcal{V}(G)→\mathcal{E}(G)$
$$D(V) := (\bigcup_{v \in V}{E_G(v)})\cap(\bigcup_{v \in V(G)\setminus V}{E_G(v)})$$
即ち$G$を$V$と$V(G) \setminus V$に分けたとき間にある辺全体を表す辺集合のこと。
$V$が空集合か全体のとき$D(V)$は空集合になる。
いわゆるカットセットのことだがいろんな文献で切断とかカットセットとかカットとかの用語がいくつかの意味で使われていて非常にややこしいので一旦二分割と呼ぶ。
$D =\ ^tB_G^1$
よって切断集合と二分割は同じものである。
$V \in \mathcal{V}(G)$をとる。
\begin{align} e \in \ ^tB_G^1(V) &⇔ e \in \sum_{v \in V}E_G(v) \\ &⇔ V内にeに接続している頂点が奇数個ある\\ &⇔ V内にeに接続している頂点がちょうど1個ある\\ &⇔ VとV(G)\setminus Vの両方にeに接続している頂点がある \\ &⇔ e \in (\bigcup_{v \in V}{E_G(v)})\cap(\bigcup_{v \in V(G)\setminus V}{E_G(v)}) \\ &⇔ e \in D(V) \end{align}
グラフ$G$が連結$⇔$「$V \subset V(G),\ ^tB_G^1(V)=0 ⇒ V=0 \lor V=V(G)$」
これは位相の連結性に似てると思う。
$|V(G)|=0 \lor |V(G)|=1$の場合、異なる2点が取れないので、$G$は連結。
また、全ての$V \subset V(G)$に対し$\ ^tB_G^1(V)=0$であり、$V=0 \lor V=V(G)$である。
よって成り立つ。
$|V(G)| \geq 2$の場合
[$⇐$]
$v_0,v_{n-1} \in V(G)\ (v_0 \not= v_{n-1})$をとる。
$V_0=\{v_0\}$とおく。$V_0 \not =0 \land V_0 \not= V(G)$である。
仮定の対偶より$\ ^tB_G^1(V_0) \not=0$
よって、$v_0$に隣接している$V(G) \setminus V_0$の元が存在する。
そのような元を1つ取り、$v_1$とおく。
$v_1=v_{n-1}$ならば、$P=(\{v_0,v_1\},\{\{v_0,v_1\}\})$が$v_0,v_1$を結ぶ道。
そうでないならば、$V_1=\{v_0,v_1\}$と置く。$V_1 \not =0 \land V_1 \not= V(G)$である。
仮定の対偶より$\ ^tB_G^1(V_1) \not=0$
$\mathcal{C}(G)$と$\mathcal{B}(G)$は互いに直交補空間。
ハイパーグラフに対して成り立つので。
森とは閉路を持たない、空でないグラフのこと。
木とは連結な森のこと。
$E_G(v)=\{e\}$だけとなる$v \in e$がある$e \in E(G)$を森$G$の葉と呼ぶ。
連結グラフ$G$の全ての頂点を持つ木を$G$の全域木という。
また、非連結グラフ$H$の各連結成分の全域木の和を$H$の全域森と呼ぶ。
$ST(G)$:グラフ$G$の全域森全体とする。
$T$:木
$v,v' \in V(T)\ (v \not= v')$
このとき
$v,v'$を結ぶ道が唯一つ存在する。
[存在性]
$T$は木だから連結。よって$v,v'$を結ぶ道が存在する。
[唯一性]
$v,v'$を結ぶ異なる2つの道があるとする。それを$P_0,P_1$とおく。
$P_0=(\{u_{0},u_{1},...,u_{n-1}\},\{\{u_{0},u_{1}\},\{u_{1},u_{2}\},...,\{u_{n-2},u_{n-1}\}\})$
$P_1=(\{v_{0},v_{1},...,v_{m-1}\},\{\{v_{0},v_{1}\},\{v_{1},v_{2}\},...,\{v_{m-2},v_{m-1}\}\})$
と表す。(ただし$u_{0}=v_{0}=v, u_{n-1}=v_{m-1}=v'$)
$P_1$のラベル付けを固定して考える。
$P_0$と$P_1$は異なるから、$V(P_0) + V(P_1) \not = \varnothing$
$V(P_0) + V(P_1)$の元であってラベルが最小なものの直前の頂点を$v_i$とする。
$v' \in V(P_0) \cap V(P_1)$だから、$\{v_k \in V(P_0) \cap V(P_1) \ |\ k \geq i\} \not = \varnothing$
$\{v_k \in V(P_0) \cap V(P_1) \ |\ k \geq i\}$の元であってラベルが最小なものを$v_j$とする。
$v_i$の次の頂点は2つあり、その頂点から$v_j$にたどり着く道が2つある。
その道を
$P_2=(\{v_i,v_{i+1},...,v_j\},\{\{v_i,v_{i+1}\},...,\{v_{j-1},v_j\}\}) \leq P_0$
$P_3=(\{v_i,v_{i+1}',...,v_j\},\{\{v_i,v_{i+1}'\},...,\{v_{j-1}',v_j\}\}) \leq P_1$
とおく。
$V(P_2) \cap V(P_3) = \{v_i,v_j\}$
(これらの道は$v_i,v_j$以外で交わらない。)
$P_0$と$P_1$を$v_i,v_j$でつなげたグラフ
$C=(\{v_i,v_{i+1},...,v_j,v_{j-1}',...,v_{i+1}'\},\{\{v_i,v_{i+1}\},...,\{v_{j-1},v_j\},\{v_i,v_{i+1}'\},...,\{v_{j-1}',v_j\}\})$
これは$T$上の閉路。
これは木に閉路がないことに矛盾。よって$v,v'$を結ぶ道は唯一つである。
逆に任意の異なる2頂点に対しそれを結ぶ道が唯一つあるグラフ$G$は木である。
[連結性]
任意の2頂点を結ぶ道が存在するから、$G$は連結。
[閉路がない]
閉路があると仮定し、$G$の閉路$C$をとる。
$e = \{v_0,v_1\} \in E(C)$をとる。
$(e,\{e\})$は$v_0,v_1$を結ぶ道である。
$C \setminus \{e\}$も$v_0,v_1$を結ぶ道である。
これらの道は異なる。
これは異なる2頂点を結ぶ道が唯一つであることに矛盾。
よって$G$に閉路は無い。
$G$:グラフ
全域森$S \in ST(G)$
$e \in E(G) \setminus E(S)$に対し、$S + \{e\}$は唯一つの閉路を持つ。
$e = \{v_0,v_{n-1}\}$とおく。
[存在性]
$S$は$G$の全ての頂点を持つから、$v_0,v_{n-1}$も持つ。
$v_0,v_{n-1}$は同じ連結成分上にある。
よって、$S$上に$v_0,v_{n-1}$を結ぶ道が唯一つ存在する。その道を
$P=(\{v_0,v_1,...,v_{n-2},v_{n-1}\},\{\{v_0,v_1\},\{v_1,v_2\},...,\{v_{n-2},v_{n-1}\}\})$
とおく。
$e \not\in E(P)$である。
$P+\{e\}$は閉路である。
[唯一性]
$S$に閉路はないから、$S+\{e\}$の閉路は必ず$e$を持つ。
$S+\{e\}$から閉路を2つ取り$C_0,C_1$とおく。
$C_0 \setminus \{e\},C_1 \setminus \{e\}$は$v_0,v_{n-1}$を端点とする$S$上の道である。
よって、$C_0 \setminus \{e\}=C_1 \setminus \{e\}$
従って、$C_0=C_1$
$T$:木
$T$に1つ頂点を追加して適当な$T$の頂点と結ぶと、これもまた木になる。
$v_\infty \not\in V(T)$をとる。
$v \in V(T)$をとる。
$e = \{v,v_\infty\}$とおく。
$T'=T + \{e\}$とおく。
[$T'$は連結]
$v' \in V(T') (v' \not= v_\infty)$をとる。
$v' \in V(T)$である。
$v'=v$の場合
$(e,\{e\})$は$v'$と$v_\infty$を結ぶ道である。
$v' \not= v$の場合
$T$は連結だから$v'$と$v$を結ぶ道$P$を取れる。
$P+\{e\}$は$v'$と$v_\infty$を結ぶ道である。
[$T'$に閉路は無い]
$T'$に閉路があるとすると、$T$に閉路は無いから、その閉路は$v_\infty$を含む。
$v_\infty$は$e$以外には接続していない。よって$v_\infty$を含む閉路は存在しない。
よって、$T'$に閉路は無い。
$T$:木
$|E(T)|=|V(T)|-1$
$|E(T)|$に関する帰納法で示す。
$|E(T)|=0$のとき
$T=(\{v\},\{\})$
成り立つ。
$|E(T)|=1$のとき
$T=(\{v_0,v_1\},\{\{v_0,v_1\}\})$
成り立つ。
$|E(T)| \leq k$で成り立つとする。
$|E(T)|=k$となる木$T$をとる。
$T$に辺を1つ追加して新たな木を作りたい。
$T$の頂点を結ぶ辺を追加すると閉路ができる。
$T$に2点以上追加すると連結でなくなる。
よって、辺を追加するためには頂点を1点だけ追加する必要がある。
$T$に1点追加して適当な頂点と結ぶと、これも木になる。この木を$T'$とおく。
帰納法の仮定より、$|E(T')|=|E(T)|+1=|V(T)|=|V(T')|-1$
$G$:連結グラフ
$S \in ST(G)$
$e \in E(G) \setminus E(S)$に対し、
$C_{S;e}$を$S+\{e\}$の唯一の閉路の辺集合と定める。
$C_{S;e}$を($S,e$に関する)基本閉路集合と呼ぶ。
$C_S:=\{C_{S;e}\ |\ e \in E(G) \setminus E(S)\}$は$\mathcal{C}(G)$の基底を成す。
[1次独立性]
$e \in E(G) \setminus E(S)$に対して、$e$を含む基本閉路集合は$C_{S;e}$だけである。
よって基本閉路は1次独立。
[生成性]
$C \in \mathcal{C}(G)$をとる。
$C+\sum_{e \in C \setminus E(S)}C_{S;e} \subset E(S)$
これは$S$上の閉路の辺集合か空集合。(ここ非自明)
$S$に閉路は無いから、$C+\sum_{e \in C \setminus E(S)}C_{S;e} = 0$
よって、$C = \sum_{e \in C \setminus E(S)}C_{S;e}$
$G$:グラフ
$\dim(\mathcal{C}(G)) = |E(G)| - |V(G)| + |CC(G)|$
これはオイラーの定理に似ていてちょっと面白い。
$G$が連結グラフのとき、$C_S$は$\mathcal{C}(G)$の基底を成す。
$|E(S)|=|V(G)|-1$だから、$|E(G) \setminus E(S)|=|E(G)|-|V(G)|+1$
$\dim(\mathcal{C}(G))=|E(G)|-|V(G)|+1$
$|CC(G)|=1$だから成立。
$|CC(G)| \geq 2$のとき、
各連結成分$C \in CC(G)$について$\dim(\mathcal{C}(C))=|E(C)|-|V(C)|+1$が成立。
$G=\bigsqcup_{C \in CC(G)}C$だから、$\mathcal{C}(G)=\bigoplus_{C \in CC(G)}\mathcal{C}(C)$(ここ非自明)
よって、$\dim(\mathcal{C}(G))=\sum_{C \in CC(G)}\dim(\mathcal{C}(C))=|E(G)| - |V(G)| + |CC(G)|$
$G$:連結グラフ
$S \in ST(G)$
$e \in E(S)$をとる。
$e$が葉のとき、$S \setminus \{e\}$は1つの連結成分$H_0$を持つ。
そうでないとき、$S \setminus \{e\}$は2つの連結成分$H_0,H_1$を持つ。
$B_{S;e}:=\ ^tB_G^1(E(H_0))$を($S,e$に関する)基本切断集合と呼ぶ。
$B_S:=\{B_{S;e}\ |\ e \in E(G) \setminus E(S)\}$は$\mathcal{B}(G)$の基底を成す。
$G$:グラフ
$\dim(\mathcal{B}(G)) = |V(G)| - |CC(G)|$
$G$が連結グラフのとき、$B_S$は$\mathcal{B}(G)$の基底を成す。
$|E(S)|=|V(G)|-1$だから、$\dim(\mathcal{B}(G))=|E(S)|=|V(S)|-1=|V(G)|-1$
$|CC(G)|=1$だから成立。
$|CC(G)| \geq 2$のとき、
各連結成分$C \in CC(G)$について$\dim(\mathcal{B}(C))=|V(C)|-1$が成立。
$G=\bigsqcup_{C \in CC(G)}C$だから、$\mathcal{B}(G)=\bigoplus_{C \in CC(G)}\mathcal{B}(C)$(ここ非自明)
よって、$\dim(\mathcal{B}(G))=\sum_{C \in CC(G)}\dim(\mathcal{B}(C))=|V(G)| - |CC(G)|$
$\dim(\mathcal{C}(G))+\dim(\mathcal{B}(G))=\dim(\mathcal{E}(G))$である。
これは$\mathcal{C}(G)$と$\mathcal{B}(G)$が直交補空間であることからも導ける。