簡単のため、数列は$ a_0 $から始まるものとします。
$ p, q $を実数とします。実数からなる数列$ \{a_n\} $が
$ a_{n+2} = p a_{n+1} + q {a_n} $
をみたしているとします。この数列を一意に定めるには$ a_0, a_1 $の値が必要ですが、ここでは定めず、その代わりこの漸化式の解に任意定数が2つあるものと考えます。
このとき、次のような結果が知られています:
・・・これ、気持ち悪くありませんか?
なんで$ \alpha = \beta $のときだけ式の形が違うんですか?
この記事ではその謎を解明します。
方程式$ x^2 = px + q $が解$ \alpha, \beta = \alpha + \epsilon $を持つと仮定し、$ \epsilon \rightarrow 0 $の極限で何が起こるかを観察します。
$ \alpha \neq \beta $なので、
$ a_{n+2} - \alpha a_{n+1} = \beta (a_{n+1} - \alpha a_n) $
$ a_{n+2} - \beta a_{n+1} = \alpha (a_{n+1} - \beta a_n) $
が成り立ち、それぞれ任意定数を用いて
$ a_{n+1} - \alpha a_{n} = B' \beta^n $
$ a_{n+1} - \beta a_{n} = A' \alpha^n $
と書けます。あえて$ a_0, a_1 $を定めなかったので、$ A' $と$ B' $を具体的に求める必要がなく、本質的な議論に集中できます。
もちろん、$ \epsilon \rightarrow 0 $の極限で$ A' - B' \rightarrow 0 $になります。
上の式から下の式を引くと、
$ (\beta - \alpha) a_n = B' \beta^n - A' \alpha^n $
よって、
$ A = \frac{-A'}{\beta - \alpha}, B = \frac{B'}{\beta - \alpha} $
とおけば、
$ a_n = A \alpha^n + B \beta^n $
が得られます。
さて、ここから具体的に$ A, B $の値を評価していきましょう。
$ a_{n+1} - \beta a_{n} = A' \alpha^n $に$ n = 0 $を代入して$ A' = a_1 - \beta a_0 $
$ a_{n+1} - \alpha a_{n} = B' \beta^n $に$ n = 0 $を代入して$ B' = a_1 - \alpha a_0 $
なので、$ \beta - \alpha = \epsilon $であることから
$ A = \frac{-(a_1 - \beta a_0)}{\epsilon}, B = \frac{a_1 - \alpha a_0}{\epsilon} $
と求めることができます。
さて、$ \beta = \alpha + \epsilon $を代入することで
$ A = \frac{-(a_1 - \beta a_0)}{\epsilon} = - \frac{(a_1-\beta a_0 - \epsilon a_0)}{\epsilon} = -B + a_0 $
が成り立ちます。$ A $と$ B $の分子は$ \epsilon \rightarrow 0 $で徐々に近づいていきますが、分母がそれを丁度打ち消した形になっています。
これを一般項に代入すると
$ a_n = (-B + a_0) \alpha^n + B (\alpha + \epsilon)^n $
となります。これを二項定理で展開すると、
$ \displaystyle a_n = a_0 \alpha^n + nB\epsilon \alpha^{n-1} + \sum_{k=0}^{n-2} B {}_n C_k \alpha^k \epsilon^{n-k} $
となります。
$ B = \frac{a_1 - \alpha a_0}{\epsilon} $なので、$ \displaystyle \lim_{\epsilon \rightarrow 0} B \epsilon $は$ 0 $でない有限の値を取り、$ n > 1 $であれば$ \displaystyle \lim_{\epsilon \rightarrow 0} B \epsilon^n = 0 $になります。
$ \sum $の中に注目すると、$ n - k \geq 2 $なので$ B (\epsilon)^{n-k} \rightarrow 0 $となり、$ \sum $全体の極限も$ 0 $になります。
$ \displaystyle \lim_{\epsilon \rightarrow 0} nB\epsilon \alpha^{n-1} = n(a_1 - \alpha a_0) \alpha^{n-1} = n \left( \frac{a_1}{\alpha} - a_0 \right) \alpha^n $
なので、$ a_0 = P, \frac{a_1}{\alpha} - a_0 = Q$とおくことで
$ a_n = (P + Qn) \alpha^n $
の形にできました。
$ \varepsilon \rightarrow 0 $で、$ a_n = A \alpha^n + B \beta^n $の$ A $と$ B $は「逆方向に」大きくなるものの、その差は一定に収束するのでこれが$ \alpha^n $の項になり、「1つ下」の次数の項が$ n\alpha^n $の項に対応し、その下はすべて消えるようです。