0
高校数学解説
文献あり

古典数学探訪 二項係数と累乗の関係

37
0
$$$$

初めまして.普段ははてなブログで数学の記事を書いているのですが,mathlogにも書いてみようと思いました.mathlogでは古典的な数学記事を書いていきたいと思っています.

今回のネタは1831年のクレレ誌から引っ張ってきたものです.
今回紹介する定理は次のものになります.

定理名(Clausenの等式)

$n$を自然数とするとき
$$ n !(-1)^n = 1^n - { n \choose 1 } 2^n + { n \choose 2}3^n + \cdots \pm (n+1)^n $$
が成り立つ.

早速証明していきましょう.

$y$の関数$Z_n(y)$を次のように帰納的に定義します.
$$ Z_0(y) = 1 - \dfrac{1}{y},Z_{n+1}(y) = (y-1)\dfrac{dZ_n(y)}{dy} $$
この関数$Z_n(y)$は整数係数の$y$の有理式になります.すなわち$a$を整数として
$$ Z_n(y) = \pm \dfrac{1}{y} \mp a^{(n,2)}\dfrac{1}{y^2} \pm a^{(n,3)}\dfrac{1}{y^3} \cdots $$
と書くことができます.この係数$a^{(n,n+1)}$を二つの方法で評価することにより所望の等式を得ることができます.

$a^{(n,n+1)}$は最低次の項の係数なので明らかに$n!$となります.

一方で$Z_n(y)$の帰納的定義$Z_{n+1}(y) = (y-1)\dfrac{dZ_n(y)}{dy}$から漸化式
$$ a^{(n+1,2)} = 2 a^{(n,2)} + 1 , a^{(n+1,i+1)} = (i+1)a^{(n,i+1)} + i a^{(n,i)} $$
が成り立ちます.第一式から$a^{(n,2)}$の値を求めることができます.両辺を$2^{n+1}$で割ると
$$ \dfrac{a^{(n+1,2)}}{2^{n+1}} = \dfrac{a^{(n,2)}}{2^n} + \dfrac{1}{2^{n+1}} $$
となり,等比級数の公式と$a^{(0,2)} = 0$を考慮することで$a^{(n,2)} = 2^n - 1$が得られます.
次に$a^{(n,3)}$の値を求めます.等式$a^{(n+1,3)} = 3 a^{(n,3)} + 2 a^{(n,2)}$において$a^{(n,2)}$の式を代入し,両辺を$3^{n+1}$で割ることで
$$ \dfrac{a^{(n+1,3)}}{3^{n+1}} = \dfrac{a^{(n,3)}}{3^{n}} + \left(\dfrac{2}{3}\right)^{n+1} - 2 \left(\dfrac{1}{3}\right)^{n+1} $$
となります.これも$a^{(0,3)} = 0$と等比級数の公式より$a^{(n,3)} = 3^n -2 \cdot 2^n +1$となります.

ここから第二引数に関する帰納法を用います.$a^{(n,k)} = \sum_{j = 0}^{k-1} (-1)^j{k-1 \choose j}(k-j)^n$と仮定し$a^{(n,k+1)}$を求めます.漸化式$a^{(n+1,k+1)} = (k+1)a^{(n,k+1)} + k a^{(n,k)}$にこの式を代入します.両辺を$(k+1)^{n+1}$で割り,$k{k-1 \choose i} = (k-i){k \choose i}$に注意すると$n$に関する漸化式
$$ \dfrac{a^{(n+1,k+1)}}{(k+1)^{n+1}} = \dfrac{a^{(n,k+1)}}{(k+1)^n} + \sum_{j=0}^{k-1} (-1)^j{k \choose j} \left( \dfrac{k-j}{k+1}\right)^{n+1} $$
が得られます.$n$に関する漸化式と思ってこれを解くと
$$ \dfrac{a^{(n,k+1)}}{(k+1)^n} = \sum_{m=1}^n \sum_{j = 0}^{k-1} (-1)^j {k \choose j}\left( \dfrac{k-j}{k+1} \right)^m $$
となります.$m$に関する等比級数を計算することで
$$ \dfrac{a^{(n,k+1)}}{(k+1)^n} = \sum_{j = 0}^{k-1} (-1)^j {k \choose j+1} \left(1 - \left(\dfrac{k-j}{k+1}\right)^n \right) $$
となります.ここで$(1-1)^k = 1 - {k \choose 1} + {k \choose 2} + \cdots = 0$を用いると
$$ \dfrac{a^{(n,k+1)}}{(k+1)^n} = 1 - \sum_{j=0}^{k-1} (-1)^j {k \choose j+1}\left(\dfrac{k-j}{k+1}\right)^n $$
両辺に$(k+1)^n$を掛けて
$$ a^{(n,k+1)} = (k+1)^n - \sum_{j = 0}^{k-1}(-1)^j {k \choose j+1}(k-j)^n = \sum_{j = 0}^{k}(-1)^j {k \choose j}(k+1 -j)^n $$
となります.$k$に関する帰納法から一般の$a^{(n,k)}$を求めることができました.

特に$a^{(n,n+1)} = (n+1)^n - {n \choose 1}n^n + {n \choose 2}(n-1)^n\cdots$であり$a^{(n,n+1)} = n!$であることから
$$ (-1)^n n! = 1^n - {n \choose 1}2^n + {n \choose 2}3^n + \cdots \pm(n+1)^n $$
が分かります.これで定理が証明されました.

参考文献

[1]
Th.Clausen, uber den Werth der Reihen ..., Journal fur reine und angewandte Mathematik
投稿日:220
更新日:816
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中