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積分の体系化(Ⅲ)

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第3章 微分形接触と部分積分の使い分けと組み合わせ

微分形接触は、既知の微分構造から原始関数を予測・構成する考え方であり、部分積分は、積の微分法則に基づいて積分を変形する方法である。
両者は異なる側面を持つため、状況に応じて使い分けることも、組み合わせることもできる。
また、部分積分の計算を短縮する方法として瞬間部分積分がある。これは独立した積分法ではなく、原始関数の候補を予測し、微分によって生じる余計な項を修正することで、部分積分に相当する計算を効率化するものである。
重要なのは、手法の名前から解法を決めないことである。被積分関数の構造を調べ、原始関数をどのような形で構成すれば計算が簡単になるかを考える。

3.1 二つの手法の関係

まず、合成関数と積の微分法則を比較する。
$$ \frac{d}{dx}F(g(x))=F'(g(x))g'(x) $$
$$ \frac{d}{dx}\{f(x)g(x)\}=f'(x)g(x)+f(x)g'(x) $$
前者では、内部の関数の微分因子が被積分関数に含まれていれば、原始関数を直接予測できる。
一方、後者を逆向きに利用すれば、部分積分の公式が得られる。
$$ \int f(x)g'(x)\,dx =f(x)g(x)-\int f'(x)g(x)\,dx $$
部分積分では、一方の関数を微分し、もう一方を積分することで、元の積分を別の積分へ変形する。
これに対して、原始関数を直接予測する場合には、積を微分したときに目的の項と余計な項がどのように現れるかを考え、その差を修正する。
例えば、
$$ I=\int x\sin(x^2)\,dx $$
なら、
$$ \frac{d}{dx}\cos(x^2)=-2x\sin(x^2) $$
なので、
$$ I=-\frac{1}{2}\cos(x^2)+C $$
となる。
この積分では、合成関数の微分因子が既にそろっているため、原始関数を直接予測できる。
一方、
$$ J=\int x\sin x\,dx $$
ではどうだろうか。
正弦関数の原始関数を考え、まず、
$$ F_0(x)=-x\cos x $$
を候補とする。
微分すると、
$$ F_0'(x)=x\sin x-\cos x $$
となる。
目的の項は現れたが、余計な項も生じている。
そこで、
$$ \frac{d}{dx}(-x\cos x+\sin x)=x\sin x $$
より、
$$ J=-x\cos x+\sin x+C $$
を得る。
これを部分積分として書けば、
$$ J=-x\cos x+\int\cos x\,dx $$
となり、同じ結果が得られる。
したがって、原始関数の候補を直接修正する方法は、部分積分とは異なる新しい積分法則を使っているわけではない。
部分積分で生じる計算を、原始関数の予測と微分による修正によって短縮しているのである。
これが瞬間部分積分の基本的な位置づけである。

3.2 微分構造に応じた使い分け

合成関数の微分を利用する場合

次の積分を考える。
$$ I=\int 3x^2e^{x^3}\,dx $$
指数関数の内部を微分すると、
$$ (x^3)'=3x^2 $$
となり、指数関数の前にある因子と一致する。
したがって、
$$ I=e^{x^3}+C $$
となる。
この場合、多項式と指数関数の積だからといって、部分積分を考える必要はない。
一方、
$$ J=\int(1+3x^3)e^{x^3}\,dx $$
では、指数関数の内部の微分因子だけでは被積分関数全体を説明できない。
しかし、指数関数に変数を掛けた関数を考えると、
$$ \frac{d}{dx}\{xe^{x^3}\} =e^{x^3}+3x^3e^{x^3} $$
となる。
したがって、
$$ J=xe^{x^3}+C $$
を得る。
この二つを比較すると、同じ指数関数が現れていても、内部の微分因子だけで処理できる場合と、積の微分構造を利用する場合があることが分かる。
重要なのは、多項式と指数関数のどちらを先に積分するかではない。
原始関数を合成関数として予測するのか、積として予測するのか。その構造を考えることである。

積の微分を優先する場合

次の積分を考える。
$$ I=\int e^{\sin x} \left(\cos x\ln x+\frac{1}{x}\right)dx $$
ただし、変数は正とする。
括弧の中には対数関数とその微分が現れている。
$$ \frac{d}{dx}\ln x=\frac{1}{x} $$
また、指数関数の内部を微分すると余弦関数が現れる。
$$ \frac{d}{dx}\sin x=\cos x $$
そこで、指数関数と対数関数の積を考える。
一般に、
$$ \frac{d}{dx}\{e^{g(x)}f(x)\} =e^{g(x)}\{g'(x)f(x)+f'(x)\} $$
である。
今回の場合、
$$ g(x)=\sin x,\qquad f(x)=\ln x $$
とすれば、括弧の中の二つの項が同時に現れる。
したがって、
$$ I=e^{\sin x}\ln x+C $$
を得る。
この例では、指数関数の内部の微分と、対数関数の微分が異なる項に現れている。
それらを個別に積分するのではなく、一つの積を微分した結果としてまとめているのである。
合成関数の微分形を認識することと、積の微分法則を逆向きに利用することは、二者択一ではない。
合成関数の微分と積の微分を同時に利用し、一つの原始関数を構成することもできる。

3.3 部分積分による原始関数の構成

部分積分を実行すると、元の積分とは別の積分が現れる。
この新しい積分が簡単になるように関数を選ぶことが、部分積分の基本的な判断基準となる。
一方、瞬間部分積分では、その変形を逐一書き下さず、原始関数の候補を微分したときに現れる余計な項を打ち消していく。
これは部分積分の計算を短縮したものであり、利用している原理は積の微分法則である。

主要な項から候補を作る

次の積分を考える。
$$ I=\int x^2\sin x\,dx $$
多項式と三角関数の積である。
正弦関数を積分すると負の余弦関数になることから、まず、
$$ F_0(x)=-x^2\cos x $$
を候補とする。
微分すると、
$$ F_0'(x)=x^2\sin x-2x\cos x $$
となる。
求めたい項は現れたが、余計な項も生じた。
そこで、
$$ F_1(x)=-x^2\cos x+2x\sin x $$
と修正する。
これを微分すると、
$$ F_1'(x)=x^2\sin x+2\sin x $$
となる。
今度は余計な項に変数が含まれていないので、簡単に打ち消せる。
$$ F_2(x)=-x^2\cos x+2x\sin x+2\cos x $$
実際、
$$ F_2'(x)=x^2\sin x $$
であるから、
$$ I=-x^2\cos x+2x\sin x+2\cos x+C $$
を得る。
ここでは、最初に目的の項を作る候補を選び、余計な項を順に打ち消している。
修正の過程で注目したいのは、三角関数が正弦と余弦の間で変化する一方、それらに掛けられた多項式の次数が下がっていることである。
そのため、修正を繰り返すことで、最終的には余計な項をすべて消すことができる。

有限回の修正

多項式を、
$$ P(x) $$
とし、次の積分を考える。
$$ I=\int P(x)e^x\,dx $$
原始関数も指数関数と多項式の積になっていると予測する。
$$ F(x)=Q(x)e^x $$
これを微分すると、
$$ F'(x)=\{Q'(x)+Q(x)\}e^x $$
となる。
したがって、求めたい被積分関数と一致させるには、
$$ Q'(x)+Q(x)=P(x) $$
となればよい。
ここで、まず、
$$ Q_0(x)=P(x) $$
と考える。
すると、
$$ Q_0'(x)+Q_0(x)=P'(x)+P(x) $$
となり、余計な項として多項式の微分が現れる。
そこで、
$$ Q_1(x)=P(x)-P'(x) $$
と修正する。
微分すると、
$$ Q_1'(x)+Q_1(x)=P(x)-P''(x) $$
となる。
同じ操作を繰り返せば、最終的に、
$$ Q(x)=P(x)-P'(x)+P''(x)-\cdots $$
という形が得られる。
多項式は有限回の微分で0になるため、この修正は必ず終了する。
これが、多項式と指数関数の積に対して瞬間部分積分が有効な理由である。
同様に、多項式と正弦・余弦の積についても、多項式の次数が下がることを利用できる。
ただし、三角関数そのものは微分しても消えず、正弦と余弦の間で循環する。
したがって、多項式の次数が下がることによる有限回の修正と、関数の組合せが巡回することによる処理は区別して考えたい。
多項式と三角関数の積では、三角関数が循環しても多項式の次数が下がるため、有限回の部分積分で処理できる。
一方、微分しても次数が下がる部分がなく、同じ種類の関数が繰り返し現れる場合には、その巡回構造自体を利用する方がよい。

3.4 原始関数の形の最適化

原始関数の候補を作り、その微分で生じた余計な項を修正するだけでなく、最初の候補を作る段階で余計な項をできるだけ簡単にすることもできる。
単に正しい原始関数を見つけるだけでなく、その原始関数へ到達するまでの計算が短くなるように、候補そのものを設計するのである。

修正項を見越した候補の選択

次の積分を考える。
$$ I=\int x\arctan x\,dx $$
逆正接関数と一次式の積である。
原始関数も、逆正接関数と多項式の積になっている可能性を考える。
そこで、
$$ F(x)=P(x)\arctan x $$
と置く。
微分すると、
$$ F'(x)=P'(x)\arctan x+\frac{P(x)}{1+x^2} $$
となる。
求めたい項は、
$$ x\arctan x $$
なので、逆正接関数が掛けられた部分を一致させるためには、
$$ P'(x)=x $$
とすればよい。
したがって、
$$ P(x)=\frac{x^2}{2}+a $$
と考えられる。ただし、定数は未定としておく。
このとき、
$$ F'(x)=x\arctan x+\frac{\frac{x^2}{2}+a}{1+x^2} $$
となる。
ここで、余計に現れた分数をどう処理するかが問題になる。
もちろん、この分数を積分することもできる。しかし、定数を自由に選べるのであれば、分数自体を簡単にできないだろうか。
分母は、
$$ 1+x^2 $$
なので、分子もその定数倍になれば、分数全体が定数になる。
そこで、
$$ a=\frac12 $$
と選ぶ。
すると、
$$ P(x)=\frac{1+x^2}{2} $$
となり、
$$ \frac{d}{dx}\left\{\frac{1+x^2}{2}\arctan x\right\} =x\arctan x+\frac12 $$
を得る。
余計に現れる項は定数なので、
$$ I=\frac{1+x^2}{2}\arctan x-\frac x2+C $$
となる。
ここで重要なのは、原始関数の候補を決める際に定数を残しておいたことである。
最初から、
$$ P(x)=\frac{x^2}{2} $$
と決めてしまっても、積分は解ける。
しかし、定数の自由度を利用すれば、後から積分する必要のある項を最初から簡単な形へ変えられる。
つまり、原始関数の候補を予測する際には、目的の項を作れることだけでなく、余計な項をどのような形にできるかまで考えられるのである。

候補の自由度と調整

この考え方は、逆正接関数に限らない。
原始関数を積として予測するときには、一方を微分した項によって目的の部分を作り、もう一方を微分した項が余分に現れる。
そのため、目的の部分を一致させる条件を保ったまま、候補の中にある未定係数や定数を調整できる場合がある。
ここで注意したいのは、自由に調整できる部分が必ず存在するわけではないことである。
しかし、自由度が存在するなら、それを最初から固定してしまう必要はない。
余計な項を定数、既知の微分形、あるいはより低次の式へ変えられないかを考える。
このように、原始関数の候補を作ること自体を計算の最適化に利用するのが、この方法の特徴である。

3.5 微分形接触と部分積分の組み合わせ

実際の積分では、合成関数の微分と積の微分が何重にも組み合わされている場合がある。
そのようなとき、まず繰り返し現れる式を一つのまとまりとして捉え、その内部で部分積分を適用できる。
また、必ずしも置換や部分積分の計算をすべて書き下す必要はない。原始関数の形を予測できれば、元の変数のまま直接構成することもできる。

合成関数の内部での修正

次の積分を考える。
$$ I=\int(2x+1)(x^2+x)^2e^{x^2+x}\,dx $$
まず、
$$ x^2+x $$
という式が繰り返し現れていることに着目する。
さらに、
$$ (x^2+x)'=2x+1 $$
であり、必要な微分因子も含まれている。
そこで、内部の式を一つの変数として捉える。
$$ t=x^2+x $$
と考えれば、積分は、
$$ I=\int t^2e^t\,dt $$
と同じ構造になる。
ここで、多項式と指数関数の積に対して部分積分を利用できる。
その計算を短縮するために、原始関数の候補を直接修正してみよう。
まず、
$$ F_0(t)=t^2e^t $$
と考える。
微分すると、
$$ F_0'(t)=(t^2+2t)e^t $$
となり、余計な一次の項が現れる。
そこで、
$$ F_1(t)=(t^2-2t)e^t $$
と修正する。
すると、
$$ F_1'(t)=(t^2-2)e^t $$
となる。
最後に定数項を調整すれば、
$$ F(t)=(t^2-2t+2)e^t $$
を得る。
したがって、
$$ I=e^{x^2+x}\{(x^2+x)^2-2(x^2+x)+2\}+C $$
となる。
この例では、まず合成関数の内部にある複雑さを一つの変数としてまとめ、そのうえで部分積分に相当する計算を行った。
しかし、重要なのは置換そのものではない。
最初から原始関数を、
$$ F(x)=e^{x^2+x}P(x^2+x) $$
と予測しても、同じ方法で係数を調整できる。
つまり、合成関数の内部を一つのまとまりとして扱い、そのまとまりを変数とする原始関数を設計しているのである。

対数関数を含む場合

次の積分を考える。
$$ I=\int\frac{x\ln(1+x^2)}{(1+x^2)^2}\,dx $$
分母の二次式と、その微分因子に着目する。
$$ t=1+x^2 $$
と置けば、
$$ dt=2x\,dx $$
なので、
$$ I=\frac12\int\frac{\ln t}{t^2}\,dt $$
となる。
ここで、分母が二乗であることと、分子に対数関数が現れていることに注目する。
原始関数の候補として、
$$ F_0(t)=-\frac{\ln t}{t} $$
を考える。
微分すると、
$$ F_0'(t)=\frac{\ln t-1}{t^2} $$
となる。
求めたい項は現れているが、余計な項もある。
そこで、
$$ F(t)=-\frac{\ln t+1}{t} $$
と修正する。
すると、
$$ F'(t)=\frac{\ln t}{t^2} $$
となる。
したがって、
$$ I=-\frac{\ln(1+x^2)+1}{2(1+x^2)}+C $$
を得る。
この例では、合成関数の微分因子を利用するだけでなく、部分積分によって処理できる対数関数と有理関数の積を、原始関数の予測と修正によって計算している。
瞬間部分積分は、多項式と指数関数の積だけに限定されない。
部分積分によって生じる別の積分が簡単になるなら、ほかの関数の組合せについても、その計算を原始関数の修正という形で短縮できる。

原始関数の構造を先に設計する

次の積分を考える。
$$ I=\int x^3\arctan(x^2)\,dx $$
まず、逆正接関数の内部にある二次式に注目する。
$$ t=x^2 $$
と考えれば、
$$ x^3\,dx=\frac t2\,dt $$
なので、
$$ I=\frac12\int t\arctan t\,dt $$
と同じ構造になる。
この積分には部分積分を適用できるが、原始関数の候補を直接設計して計算を短縮することもできる。
そこで、
$$ F(t)=P(t)\arctan t $$
と予測する。
微分すると、
$$ F'(t)=P'(t)\arctan t+\frac{P(t)}{1+t^2} $$
となる。
求めたい項に合わせるためには、
$$ P'(t)=\frac t2 $$
とすればよい。
したがって、
$$ P(t)=\frac{t^2}{4}+a $$
と置く。
ここで余計に現れる項は、
$$ \frac{P(t)}{1+t^2} $$
である。
この分数が定数になるように、
$$ a=\frac14 $$
と選ぶ。
すると、
$$ \frac{d}{dt}\left\{\frac{1+t^2}{4}\arctan t\right\} =\frac t2\arctan t+\frac14 $$
となる。
したがって、
$$ I=\frac{1+t^2}{4}\arctan t-\frac t4+C $$
を得る。
元の変数に戻せば、
$$ I=\frac{1+x^4}{4}\arctan(x^2)-\frac{x^2}{4}+C $$
となる。
この例では、合成関数の内部を取り出すこと、部分積分に対応する原始関数の形を予測すること、余計な項が簡単になるよう候補を調整することを組み合わせている。
それぞれの操作を独立した手順として繰り返すよりも、原始関数を構成するための一連の判断として考える方が自然である。

3.6 積の微分による項の相殺

積分では、被積分関数を分解することで簡単になる場合もあれば、反対に、複数の項を一つの微分構造としてまとめる方がよい場合もある。
特に重要なのは、個々の項は積分しにくくても、それらを組み合わせると簡単な原始関数が現れる場合があるということだ。

個々の項ではなく全体を見る

次の積分を考える。
$$ I=\int\{\sin(x^2)+2x^2\cos(x^2)\}\,dx $$
被積分関数は二つの項からなる。
最初の項だけを見れば、
$$ \sin(x^2) $$
という関数が現れている。
この関数は、原始関数を初等関数で表すことができない。
しかし、それは元の積分まで初等関数で求められないことを意味しない。
そこで、二つ目の項との関係を考える。
$$ 2x^2\cos(x^2) $$
ここには、正弦関数の内部を微分した因子が含まれている。
$$ \frac{d}{dx}\sin(x^2)=2x\cos(x^2) $$
さらに、二つ目の項には余分に変数が一つ掛けられている。
このことから、正弦関数に変数を掛けた関数を微分したのではないかと予測できる。
$$ F(x)=x\sin(x^2) $$
実際、
$$ F'(x)=\sin(x^2)+2x^2\cos(x^2) $$
となる。
したがって、
$$ I=x\sin(x^2)+C $$
を得る。
この例では、最初の項を単独で積分しようとすると問題が難しくなる。
しかし、二つの項をまとめて観察すると、それらが一つの積の微分によって同時に現れることに気づける。

分解と統合

被積分関数を複数の項へ分解するべきか、それとも一つの微分構造としてまとめるべきか。
この判断は、表面的な項の数だけでは決まらない。
各項が独立した既知の微分形に対応している場合には、分解する方法が有効である。
一方、ある項が別の項に含まれる関数の微分と関係しているなら、積の微分として統合することを考えられる。
例えば、先ほどの積分では、
$$ \sin(x^2) $$
と、
$$ 2x^2\cos(x^2) $$
が独立した項ではなく、同じ積の微分から現れていた。
この関係に気づければ、一方の項の原始関数が初等関数で表せないことは障害にならない。
重要なのは、被積分関数をどのように分割できるかだけではない。
どのように組み合わせれば、一つの簡単な微分構造として説明できるかを考えることである。

3.7 有限回の修正と巡回型の処理

原始関数の候補を修正するときには、微分によって関数の形がどのように変化するかを考える必要がある。
特に、次の二つを区別したい。
一つは、多項式の次数が下がることによって、余計な項を有限回で消せる場合である。
もう一つは、微分を繰り返しても同じ種類の関数が現れるため、最初からそれらを組み合わせた原始関数を予測する場合である。

巡回する微分構造

次の積分を考える。
$$ I=\int e^{2x}\cos x\,dx $$
指数関数は微分しても定数倍になるだけである。
一方、三角関数は微分によって正弦と余弦の間で変化する。
したがって、原始関数も指数関数と正弦・余弦の組合せになっていると予測できる。
そこで、
$$ F(x)=e^{2x}(a\cos x+b\sin x) $$
と置く。
微分すると、
$$ F'(x)=e^{2x}\{(2a+b)\cos x+(2b-a)\sin x\} $$
となる。
求めたい被積分関数には余弦関数だけが現れている。
したがって、
$$ \begin{cases} 2a+b=1\\ 2b-a=0 \end{cases} $$
を満たせばよい。
これを解くと、
$$ a=\frac25,\qquad b=\frac15 $$
となる。
よって、
$$ I=\frac{e^{2x}}5(2\cos x+\sin x)+C $$
を得る。
この積分は、部分積分を繰り返して元の積分に戻る方法でも処理できる。
しかし、原始関数の形を最初から予測できれば、未知の係数を決めるだけでよい。
ここでは、微分によって元の積分に戻ることを待っているのではない。
微分しても同じ種類の関数の組合せから外れないことを利用し、原始関数の形を先に決めているのである。

多項式を含む場合

多項式が掛けられている場合には、次数が下がることと、関数が巡回することの両方を利用できる。
例えば、多項式を、
$$ R(x) $$
とし、次の積分を考える。
$$ I=\int R(x)e^x\sin x\,dx $$
多項式は微分によって次数が下がる。一方、指数関数は形を保ち、三角関数は正弦と余弦の間で変化する。
このことから、原始関数を、
$$ F(x)=e^x\{P(x)\sin x+Q(x)\cos x\} $$
と予測できる。
ここで、多項式の次数を、
$$ \deg R=n $$
とすれば、候補として、
$$ \deg P\leq n,\qquad \deg Q\leq n $$
を考えられる。
実際に微分すると、
$$ F'(x)=e^x\{(P'+P-Q)\sin x+(P+Q'+Q)\cos x\} $$
となる。
したがって、
$$ P'+P-Q=R $$
$$ P+Q'+Q=0 $$
を満たす多項式を求めればよい。
ここでは、正弦・余弦・指数関数・多項式という範囲の中で原始関数を構成できることを利用している。
つまり、微分しても同じ種類の関数の組合せから外れないという性質から、原始関数の候補を絞り込めるのである。

修正方法の選択

多項式と指数関数の積では、多項式の次数を下げて余計な項を消していく方法が使える。
多項式と三角関数の積でも、三角関数は循環するが、多項式の次数が下がるため、有限回の部分積分で処理できる。
一方、指数関数と三角関数だけの積では、同じ種類の関数が繰り返し現れる。この場合には、正弦と余弦を最初から候補に含め、係数を決定する方法が有効である。
さらに、多項式・指数関数・三角関数が同時に現れる場合でも、原始関数を同じ種類の関数の組合せとして予測できる。
重要なのは、微分によって関数がどのように変化するかを見通すことである。
多項式の次数が下がるなら、その性質を利用して有限回の修正を行う。
関数の種類が巡回するなら、その組合せを最初から候補に含める。
修正方法は、微分したときに関数がどのように変化するかによって選ぶのである。

3.8 例題

原始関数の予測、修正項の調整、複数の微分構造の組合せを利用する積分を考える。
単に原始関数を求めるだけでなく、その候補をどのように作れるのか、微分した結果をどう利用するのかにも注目してほしい。

例題1

$$ I=\int\frac{2x+3x^3}{\sqrt{1+x^2}}\,dx $$
分母には平方根がある。
その内部を微分すると、
$$ (1+x^2)'=2x $$
となる。
しかし、分子には一次式だけでなく三次式も含まれているため、平方根の微分形だけでは直接一致しない。
そこで、平方根に多項式を掛けた関数を考える。
$$ F(x)=x^2\sqrt{1+x^2} $$
微分すると、
$$ F'(x)=2x\sqrt{1+x^2}+\frac{x^3}{\sqrt{1+x^2}} $$
となる。
通分すれば、
$$ F'(x)=\frac{2x+3x^3}{\sqrt{1+x^2}} $$
なので、
$$ I=x^2\sqrt{1+x^2}+C $$
を得る。
ここでは、平方根の微分によって分母を作り、多項式の微分によって分子の残りの項を作っている。

例題2

$$ I=\int\frac{(\ln x)^2}{x^2}\,dx $$
ただし、変数は正とする。
分母が二乗になっているので、原始関数にも変数を分母に持つ関数が現れるのではないかと考える。
また、分子に対数関数の二乗があることから、
$$ F_0(x)=-\frac{(\ln x)^2}{x} $$
を候補とする。
微分すると、
$$ F_0'(x)=\frac{(\ln x)^2-2\ln x}{x^2} $$
となる。
求めたい項は現れたが、対数関数の一次の項が余計に現れている。
そこで、
$$ F_1(x)=-\frac{(\ln x)^2+2\ln x}{x} $$
と修正する。
すると、
$$ F_1'(x)=\frac{(\ln x)^2-2}{x^2} $$
となる。
最後に定数項を調整して、
$$ F(x)=-\frac{(\ln x)^2+2\ln x+2}{x} $$
とすれば、
$$ F'(x)=\frac{(\ln x)^2}{x^2} $$
となる。
したがって、
$$ I=-\frac{(\ln x)^2+2\ln x+2}{x}+C $$
を得る。
この例では、分母に変数を残したまま、対数関数の多項式を順に修正している。
多項式の次数が下がるという性質は、変数そのものの多項式だけでなく、対数関数を変数のように扱った場合にも利用できる。

例題3

$$ I=\int \frac{e^{\sin x}\{1-x^2+x(1+x^2)\cos x\}}{(1+x^2)^2}\,dx $$
分母が二乗になっているので、商の微分を考えられる。
また、分子には指数関数と余弦関数が現れている。
ここで、
$$ \frac{d}{dx}e^{\sin x}=e^{\sin x}\cos x $$
である。
したがって、指数関数を一方の因子とする積を微分したのではないかと考えられる。
さらに、有理関数の部分について、
$$ \frac{d}{dx}\frac{x}{1+x^2} =\frac{1-x^2}{(1+x^2)^2} $$
という関係がある。
求めたい被積分関数の分子にも、
$$ 1-x^2 $$
という部分が存在する。
そこで、これら二つの関数の積を候補とする。
$$ F(x)=\frac{xe^{\sin x}}{1+x^2} $$
微分すると、
$$ F'(x)=e^{\sin x} \left\{ \frac{1-x^2}{(1+x^2)^2} +\frac{x\cos x}{1+x^2} \right\} $$
となる。
通分すれば被積分関数と一致するので、
$$ I=\frac{xe^{\sin x}}{1+x^2}+C $$
を得る。
この例では、合成関数、積、商の三つの微分構造を同時に利用している。
分母の二乗から商の微分を、指数関数と余弦関数から合成関数の微分を考え、それらを一つの積の微分へまとめている。

例題4

$$ I=\int 2xe^{x^2}\{1+\ln(1+e^{x^2})\}\,dx $$
まず、対数関数の内部にある式を一つのまとまりとして捉える。
$$ g(x)=1+e^{x^2} $$
このとき、
$$ g'(x)=2xe^{x^2} $$
であり、被積分関数に必要な微分因子が現れている。
残る部分は、
$$ 1+\ln g(x) $$
である。
ここで、対数関数を単独で考えるのではなく、次の積を微分してみる。
$$ F(x)=g(x)\ln g(x) $$
すると、
$$ F'(x)=g'(x)\{1+\ln g(x)\} $$
となる。
求めたい被積分関数と一致するので、
$$ I=(1+e^{x^2})\ln(1+e^{x^2})+C $$
を得る。
この例では、合成関数の内部の微分因子を認識し、その内部で対数関数を含む積の微分構造を利用している。

例題5

$$ I=\int x^2e^x\sin x\,dx $$
指数関数、三角関数、多項式が同時に現れている。
多項式は微分によって次数が下がる。一方、三角関数は正弦と余弦の間で変化し、指数関数は形を保つ。
したがって、原始関数もこれらの関数の組合せになっていると予測できる。
そこで、
$$ F(x)=e^x\{P(x)\sin x+Q(x)\cos x\} $$
と置く。
多項式の次数から、
$$ P(x)=ax^2+bx+c $$
$$ Q(x)=dx^2+ex+f $$
と考える。
微分すると、
$$ F'(x)=e^x\{(P'+P-Q)\sin x+(P+Q'+Q)\cos x\} $$
となる。
求めたい被積分関数と一致させるためには、
$$ P'+P-Q=x^2 $$
$$ P+Q'+Q=0 $$
を満たせばよい。
多項式の係数を比較すると、
$$ \begin{cases} a-d=1\\ 2a+b-e=0\\ b+c-f=0\\ a+d=0\\ b+2d+e=0\\ c+e+f=0 \end{cases} $$
を得る。
これを解けば、
$$ a=\frac12,\qquad b=0,\qquad c=-\frac12 $$
$$ d=-\frac12,\qquad e=1,\qquad f=-\frac12 $$
となる。
したがって、
$$ P(x)=\frac{x^2-1}{2} $$
$$ Q(x)=\frac{-x^2+2x-1}{2} $$
である。
よって、
$$ I=\frac{e^x}{2} \{(x^2-1)\sin x+(-x^2+2x-1)\cos x\}+C $$
を得る。
この例では、部分積分によって多項式の次数を下げる考え方と、正弦・余弦が巡回することを利用する考え方を組み合わせている。
原始関数の係数を最初から思いつく必要はない。
重要なのは、微分しても同じ種類の関数の組合せから外れないことを見抜き、原始関数に必要な関数の形を決定することである。

投稿日:15時間前
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