$a,\ b,\ c$を正の定数とし,$x$についての方程式
$$
x^3 + a x^2 + b x + c = 0
$$
を考える.
この問題の(1)の元ネタは昔の大阪大の問題です.また(2)は制御理論を勉強したときに学んだ,とある定理が背景です.
(1) $f(x) = x^3 + a x^2 + b x + c$とおく.$f'(x) = 3 x^2 + 2 a x + b$ゆえ,$x \geq 0$では$f'(x) > 0$となる.よって$x \geq 0$の範囲では$f(x)$は単調増加であり,$f(0) = c > 0$である.よって$f(x) = 0$となる実数$x$は非負の範囲には存在しない.よって与方程式の実数解は全て負である.
(2) 与方程式の解の組み合わせは,(i)重解を含めて実数解3つ,(ii) 実数解1つと互いに共役な虚数解2つ,の場合がある.それぞれの場合について題意を証明する.
(i)のとき,与方程式の3実数解を$\alpha$,$\beta$,$\gamma$(ただし$\alpha < \beta < \gamma$)とおく.このとき
\begin{align}
\begin{cases}
\alpha + \beta + \gamma = - a, \\
\alpha \beta + \beta \gamma + \gamma \alpha = b, \\
\alpha \beta \gamma = - c
\end{cases}
\end{align}
が成り立つ.よって
\begin{align}
a b - c &= - (\alpha + \beta + \gamma) (\alpha \beta + \beta \gamma + \gamma \alpha) + \alpha \beta \gamma \\
&= - (\alpha^2 \beta + \alpha \beta^2 + \beta^2 \gamma + \beta \gamma^2 + \gamma \alpha^2 + \gamma^2 \alpha + 2 \alpha \beta \gamma)
\end{align}
である.ここで$\alpha$,$\beta$,$\gamma$の実部が全て負であると仮定すると,このとき$\alpha$,$\beta$,$\gamma$は全て負だから括弧内の各項は負となる.したがって$a b - c > 0$つまり$a b > c$を得る.
逆に$a b > c$のとき,(1)より解は全て負.
(ii)のとき,与方程式の3解は$\alpha$,$\beta$,$\bar{\beta}$(ただし$\alpha$は実数で$\beta$は虚数)とおける.すると
\begin{align}
\begin{cases}
\alpha + \beta + \bar{\beta} = - a, \\
\alpha \beta + \beta \bar{\beta} + \bar{\beta} \alpha = b, \\
\alpha \beta \bar{\beta} = - c
\end{cases}
\end{align}
が成り立つ.よって
\begin{align}
a b - c = - 2 (\alpha^2 + |\beta|^2) \mathrm{Re}(\beta) - 4 \alpha \{\mathrm{Re}(\beta)\}^2
\end{align}
となる.ここで$\alpha$,$\beta$,$\bar{\beta}$の実部が負であると仮定すると,このとき$\alpha < 0$,$\mathrm{Re}(\beta) < 0$であるから$a b - c > 0$が成立.
逆に$a b > c$のとき,(1)より$\alpha < 0$が得られる.そして$f(x) = 0$の実数解が$x = \alpha$のみで,$f(\alpha) = 0$および$f(0) = c > 0$であることから$\alpha < x$の範囲では$f(x) > 0$であり,$x < \alpha$では$f(x) < 0$である.このことと$f(-a) < 0$から$-a < \alpha$がわかる.これを用いると,$\alpha + \beta + \bar{\beta} = - a$から
\begin{align}
\mathrm{Re}(\beta) = - \frac{a + \alpha}{2} < 0
\end{align}
を得る.よって$\alpha$,$\beta$,$\bar{\beta}$の実部が負.
以上より,示すべき命題は示された.