群論でよく知られた命題の一つに,次の命題がある.
Ore's theorem
有限群に対して,を割り切る最小の素因子をとする.このとき,指数がの部分群は正規部分群である.
この定理にはいくつかの証明があるので,それを紹介していこうと思う.この記事ではのように略記する.またこの記事においては,Lagrangeの定理の使用をいちいち断らない.
剰余群をうまく使う
一つ目の証明のためには次の補題を使う.
が真の部分群の積に等しいなら,はの中で共役ではない.
だからの任意の元はのように書ける.よって
となる.ここでが共役であると仮定すると,あるがってだが,上の変形によってとしてよい.そうすれば,
となって,が真部分群であることに反する.
これを用いることで,元の命題は次のように示すことができる.
の指数の部分群があってとが共役であるとする.このときであることと,に注意すれば
でなくてはならないから,がを割り切る最小の素数であることによりでなければならない.よって積の法則からであることとによって.これは補題2と仮定に反するから,でなければならずは正規.
この証明とかなり似た証明を別に書くことができるが,ここでは述べないことにする.
群作用
群作用を用いることでより簡潔に示すことができる.集合上の置換群をとしておく.
のによる左剰余類への作用によって誘導される準同型を考える.このとき核は正規部分群だから,を示せばよい.なら,よりで,となる.また,
である.ここではの約数になるので,とすると以下の素因子をが持つことになり,の最小性に反する.
表現論
群作用で示す場合とほとんど大差ないが,表現論を用いて示すこともできる.まず,次の補題を示す必要がある.
有限群とその部分群に対してぐん
は両側剰余類の個数と等しくなる.
あまり名前が定まっていないが,
この論文
の初めの方で見ることができる.
Frobeniusの相互律から,
だから,作用に対してBurnsideの補題を用いることによって,
がわかるので,補題が従う.(直接商写像を考えてもよい)
これを用いて求めていた定理を示すことができる.
が正規でないと仮定する.まず,のによる左剰余類への作用によって置換表現
という置換表現が得られて,この表現の次数はである.このとき,
は不変で,Maschkeの定理から
も不変でならなければならない.よって,の指標をとすると指標があって
となるはずである.ここで,補題3と,が正規でないという仮定からが素数なので
となって,
だからは既約.またその次数はであることがわかる.ここでなら,既約次数がを割ることに注意するとの最小性に反することになるから,は正規部分群.
の場合も,の置換符号には一致するので,の符号表現との合成と書けることになる.この表現の核がに一致するから,結果としては正規.
表現論にはあまり慣れていないので,間違っている点やより簡略化できる点があれば教えてほしいと思う.