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現代数学解説
文献あり

有限冪零群は超可解群

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読んでた本の行間を埋めるのが大変だったので書いときます.

可解群

$G$において,任意の$G_i/G_{i-1}$がアーベル群になるような正規列
$\{1\}=G_0\triangleleft G_1\triangleleft\cdots\triangleleft G_n=G$が存在するとき$G$を可解群と呼ぶ.

冪零群

$G$において,任意の$G_i/G_{i-1}$$G/G_{i-1}$の中心に含まれるような正規列$\{1\}=G_0\triangleleft G_1\triangleleft\cdots\triangleleft G_n=G$が存在するとき$G$を冪零群と呼ぶ.

証明は略しますが冪零群は以下の同値な定義があることも知られています.

冪零群

$G$において,$C_0(G)=G$かつ$C_{i+1}(G)=[C_{i}(G),G]$となるような列(降中心列)が有限の長さで自明な群に到達するとき,つまり$G=C_0(G)\triangleright C_1(G)\triangleright\cdots\triangleright C_n(G)=\{1\}$とできるとき$G$を冪零群と呼ぶ.

超可解群

$G$において,任意の$G_i/G_{i-1}$が巡回群になり,さらに任意の$G_i$$G$の正規部分群となるような正規列$\{1\}=G_0\triangleleft G_1\triangleleft\cdots\triangleleft G_n=G$が存在するとき$G$を超可解群と呼ぶ.

群の拡大

$G,H$に対し,$H$を部分群に持ち$\tilde{G}/H\simeq G$となるような$\tilde{G}$が存在したとき,$\tilde{G}$$H$による$G$の拡大と呼ぶ.

中心拡大

$\tilde{G}$$H$による$G$の拡大であり,さらに$H$$\tilde{G}$の中心に含まれているとき,特に中心拡大と呼ぶ.

$G$とその正規部分群$H$および,$G$の拡大$\tilde{G}$を考える.$\tilde{G}$から$G$への自然な写像$\pi$について,$\pi ^{-1}(H)$$\tilde{G}$の正規部分群となる.

$\tilde{H}=\pi ^{-1}(H)$とおく.
$\pi(1_{\tilde{G}})=1_G\in H$より$1_{\tilde{G}}\in\pi^{-1}(H)$なので$\tilde{H}$は単位元を含む.
また任意の$g\in\tilde{H}$について,$g^{-1}\in\pi^{-1}(\pi(g)^{-1})\subset\pi^{-1}(H)$より逆元も含む.
さらに,任意の$h_1,h_2\in\tilde{H}$について,$\pi(h_1h_2)=\pi(h_1)\pi(h_2)\in H$より$h_1h_2\in \tilde{H}$なので,$\tilde{H}$は群.
任意の$g\in \tilde{G}$をとると,
$\pi(g\tilde{H}g^{-1})$
$=\pi(g)\pi(\tilde{H})\pi(g^{-1})$
$=\pi(g)H\pi(g)^{-1}$
$=H$
よって,
$\tilde{H}=\pi ^{-1}(H)=\pi^{-1}(\pi(g\tilde{H}g^{-1})) \supset g\tilde{H}g^{-1}$
したがって,$\tilde{H}$$\tilde{G}$の正規部分群.

$G$が冪零群であることと,$G$$\{1\}$から有限回の中心拡大によって得られることは同値である.

$G$が長さ$1$の降中心列を持つことと$1$回の中心拡大によって得られることはともにアーベル群であることと同値であるのは明らか.

($G$は冪零群)$\Longrightarrow$($G$は有限回の中心拡大により得られる)
$G$が冪零群だとし降中心列の長さによる帰納法で示す.$G$が長さ$n$の降中心列を持つとする.$C_{n-1}(G/C_{n-1}(G))=C_{n-1}(G)/C_{n-1}(G)=\{1\}$より,$G/C_{n-1}(G)$は長さ$n-1$の降中心列を持つので,帰納法の仮定より有限回の中心拡大によって得られる.さらに,$[C_{n-1}(G),G]=\{1\}$なので$C_{n-1}(G)$$G$の中心に含まれ,$G/C_{n-1}(G)$$C_{n-1}(G)$による中心拡大$G$は有限回の中心拡大によって得られることが分かる.

($G$は有限回の中心拡大により得られる)$\Longrightarrow$($G$は冪零群)
拡大回数による帰納法で示す.$G$$n$回の中心拡大により得られるとする.
$G$$A$による$G/A$の中心拡大によって得られ,また$G/A$$n-1$回の中心拡大により得られるものとする.このとき,帰納法の仮定より$G/A$はある$m$により$C_m(G/A)=\{1\}$と表せる.よって$C_m(G)\subset A$であり,$C_{m+1}(G)\subset C_1(A)=\{1\}$となるため$G$は冪零群である.

超可解群の有限群による中心拡大は超可解群である.

$\tilde{G}$が超可解群$G$$A$による中心拡大だとする.
ここで任意の$G_i/G_{i-1}$が巡回群になり,さらに任意の$G_i$$G$の正規部分群となるような正規列$\{1\}=G_0\triangleleft G_1\triangleleft\cdots\triangleleft G_n=G$をとると,$\tilde{G}_i =\pi ^{-1}(G_i)$とおいて,命題1より,$A=\tilde{G}_0\triangleleft \tilde{G}_1 \triangleleft\cdots\triangleleft \tilde{G}_n=\tilde{G}$が得られ,任意の$\tilde{G}_i$$\tilde{G}$の正規部分群である.ここで$A$$\tilde{G}$の中心なのでアーベル群であり,有限アーベル群の構造定理より,$A\simeq \mathbb{Z}/a_1\mathbb{Z}\times\cdots\times\mathbb{Z}/a_m\mathbb{Z}$とできる.よって,$A\supset A_i\simeq \mathbb{Z}/a_1\mathbb{Z}\times\cdots\times\mathbb{Z}/a_i\mathbb{Z}$をとれば,正規列$\{1\}=A_0\triangleleft\cdots\triangleleft A_m=\tilde{G}_0\triangleleft \tilde{G}_1 \triangleleft\cdots\triangleleft \tilde{G}_n=\tilde{G}$が得られ,$A$$\tilde{G}$の中心に含まれるから各$A_i$$\tilde{G}$の正規部分群である.さらに,$A_i/A_{i-1}\simeq \mathbb{Z}/a_i\mathbb{Z}$なので$A_i/A_{i-1}$は巡回群であり,第三同型定理より$\tilde{G}_i/\tilde{G}_{i-1}\simeq G_i/G_{i-1}$だから,$\tilde{G}_i/\tilde{G}_{i-1}$も巡回群である.
したがって,$\tilde{G}$は超可解群である.

有限冪零群は超可解群である.

$G$が有限冪零群だとする.すると命題2より,$G$は有限回の有限群による中心拡大によって得られ,したがって命題3を繰り返し用いると$G$は超可解群であることが分かる.

参考文献

[1]
J.-P. Serre, Linear Representations of Finite Groups
[2]
Nicolas Bourbaki, Algebra I
[3]
雪江明彦, 代数学1 群論入門
投稿日:725
更新日:726
OptHub AI Competition

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