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Mercator級数の求値と調和級数の発散を高校範囲で同時証明できたという話

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$$\newcommand{bm}[0]{\boldsymbol} \newcommand{o}[2]{\ordi{#1}{#2}{}} \newcommand{ok}[2]{\ordi{}{#1}{#2}} \newcommand{ordi}[3]{\frac{d #1^{#3}}{d #2^{#3}}} \newcommand{p}[2]{\part{#1}{#2}{}} \newcommand{part}[3]{\frac{\partial #1^{#3}}{\partial #2^{#3}}} \newcommand{pk}[2]{\part{}{#1}{#2}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{Res}[0]{\operatorname{Res}} $$

はじめに

どうもこんにちは🐟️🍊みかん🍊🐟️です。今回は以前Twitterで投稿した「調和級数の発散証明とMetcator級数の求値を高校数学で同時に示す」ことについて語ってみます。結論から言えば次のような計算をします。

\begin{aligned} \sum_{k=n}^{2n} \frac1k &=\sum_{k=1}^{2n}\frac1k-\sum_{k=1}^{n-1}\frac1k\\ &=\sum_{k=1}^{2n}\frac1k-2\sum_{k=1}^{n-1}\frac1{2k}\\ &=\sum_{k=1}^{2n}\frac{(-1)^{k+1}}k+\frac1n\\ &\to\sum_{k=1}^{\infty}\frac{(-1)^{k+1}}k\quad(n\to \infty),\\ \sum_{k=n}^{2n}\frac1k&\to\int_1^2\frac1xdx\quad(n\to\infty)\\ &=\ln2\\\end{aligned}
\begin{aligned} \therefore \quad\sum_{k=1}^\infty\frac{(-1)^{k+1}}k&=\ln2,\\ \sum_{k=1}^\infty\frac1k&=\infty \end{aligned}

一番最後にCauchyの収束判定を用いてはいますが、特殊な場合のみ要求していることから高校数学の範疇で発散自体は示せるので、高校範囲とします。

Mercator級数

この手法を思い付いた背景として、1997年の東京工業大学の大学入試問題にあります。その問題をここで引用します。

$(1)$ 極限値 $\displaystyle {\lim_{n\to\infty}\sum_{k=n}^{2n}}\frac1k$ を求めよ。
$(2)$ 任意の正数 $a$ に対し、 $\displaystyle {\lim_{n\to\infty}\sum_{k=n}^{2n}}\frac1{a+k}$$(1)$ と同じ極限値をもつことを証明せよ。

本題は $(1)$ にあります。初見時「Mercator seriesだっ!」と思い区分求積のことなど考えもしなかったので、普通に級数変形して

\begin{aligned} \sum_{k=n}^{2n} \frac1k &=\sum_{k=1}^{2n}\frac1k-\sum_{k=1}^{n-1}\frac1k\\ &=\sum_{k=1}^{2n}\frac1k-2\sum_{k=1}^{n-1}\frac1{2k}\\ &=\sum_{k=1}^{2n}\frac{(-1)^{k+1}}k+\frac1n\\ &\to\sum_{k=1}^{\infty}\frac{(-1)^{k+1}}k\quad(n\to \infty)\\ &=\ln2 \end{aligned}

と結論を出したのですが、正直Mercator級数の求値は高校数学だと少々重いので、あまり(入試数学としては)良い方法ではないかもしれません。恐らく正攻法としては

\begin{aligned} \sum_{k=n}^{2n}\frac1k &=\frac1n\sum_{k=0}^{n}\frac1{1+\frac kn}\\ &\to\int_0^1\frac1{1+x}dx&(n\to\infty)\\ &=\ln2 \end{aligned}

となります。しかし、明らかに極限の存在は一意的(厳密にいえば高校範囲外の知識)なので、はじめの方法と最後の方法では同一の極限に収束するはずなので、逆にMercator級数の求値をすることができることになります。面白い方法ですね。

調和級数の発散性

先の結果から、次の等式が成立します。

$$ \lim_{n\to\infty}\sum_{k=n}^{2n}\frac1k=\ln2 $$

ここから調和級数

$$ \sum_{k=1}^\infty\frac1k $$

の発散を示していきます。まず調和級数の部分和は明らかに単調増加数列なので、任意の $u$ に対して $u>2n$ となるように $n$ をとれば

$$ \sum_{k=1}^{u}\frac1k> \sum_{k=1}^{2^n}\frac1k $$

となるので、 $u\to\infty$ の議論を $n\to\infty$ の極限にすり替えることができます。(Oremの証明に似ていますね)ここで次のように計算します。

\begin{aligned} \sum_{k=1}^{2^n}\frac1k &=\sum_{k=1}^n\sum_{l=k}^{2k-1}\frac1l+\frac1{2^n} \end{aligned}

ここで右辺第一項の級数は各項の極限が $\ln2$ に収束するので、発散します。以上の議論により調和級数が発散することが分かります。

どうせなので

どうせなので$(2)$ も解いてみようと思います。見やすさも考え再度引用します。

$(1)$ 極限値 $\displaystyle {\lim_{n\to\infty}\sum_{k=n}^{2n}}\frac1k$ を求めよ。
$(2)$ 任意の正数 $a$ に対し、 $\displaystyle {\lim_{n\to\infty}\sum_{k=n}^{2n}}\frac1{a+k}$$(1)$ と同じ極限値をもつことを証明せよ。

というわけでサクッと解いてしまいましょう。まず任意に $u< a< v$ なる $u,v\in\mathbb{Z}$ をとれば

$$ \sum_{k=n}^{2n}\frac1{v+k}< \sum_{k=n}^{2n}\frac1{a+k}< \sum_{k=n}^{2n}\frac1{u+k} $$

という不等式の成立が確かめられます。さて任意に $m\in\mathbb{Z}$をとれば

$$ \sum_{k=n}^{2n}\frac1{k+m}=\sum_{k=n}^{2n}\frac1k-\sum_{k=0}^{m-1}\frac1{k+n}+\sum_{k=1}^m\frac1{k+2n} $$

となり、右辺第一項は $(1)$ で求めたものです。またその他の項に関しても三角不等式より

\begin{aligned} \left\lvert-\sum_{k=0}^{m-1}\frac1{k+n}+\sum_{k=1}^m\frac1{k+2n}\right\rvert &\le\left\lvert\sum_{k=0}^{m-1}\frac1{k+n}\right\rvert+\left\lvert\sum_{k=1}^m\frac1{k+2n}\right\rvert\\ &<\sum_{k=0}^{m-1}\frac1n+\sum_{k=1}^m\frac1n\\ &=\frac{2m}n \end{aligned}

と評価できるので、 $n\to\infty$ で消えます。従って

$$ \sum_{k=n}^{2n}\frac1{k+m} \to\ln2\qquad(n\to\infty) $$

より、最初の不等式を合わせれば挟み撃ちの原理により

$$ \sum_{k=n}^{2n}\frac1{a+k} \to\ln2\qquad(n\to\infty) $$

となって題意が示されました。

おわりに

今回はTwitterで投稿した式変形について背景も含め語ってみました。ついでに東工大過去問を級数変形で処理してみました。初等的な変形だけで処理できるところが級数変形の魅力だと思います。

それではまたね!

投稿日:2023626

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級数

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