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陰関数定理をBanachの不動点定理を用いて証明しよう(2)

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陰関数定理をBanachの不動点定理を用いて証明しよう(2)

ここでのお約束

行列・作用素ノルム

ノルム空間Xからノルム空間Yへの行列・作用素Aについて
A:=supxX{0}AxYxX

行列・作用素ノルムの必要性

多変数関数の連続微分可能性を議論するときには,多変数の微分が連続的に変化するかを議論しなければならない.
ただし,それは行列(作用素)であるので,行列同士の距離が定義できなくてはならない.
supノルムを使うことで微分が定義しやすくなるので採用(殊,有限次元ノルム空間においてはすべてのノルムが同値であるので,定数倍は変わるが今回の議論に当たってはフロベニウスノルムでもよい).

閉球

B[x0,ϵ]:={xX|xx0ϵ}

ただし0<ϵ<+とする.

求めたい結果

陰関数定理

URn,VRmをそれぞれ非空な開集合とし,(x0,y0)U×Vとする.

  • f:U×VRmは連続微分可能な写像
  • (x0,y0)で,f(x0,y0)=0が成立,
  • fの点(x0,y0)での第二引数y偏微分fy(x0,y0)は可逆.

このとき,非空なx0,y0の開近傍UU,VVと,次の性質を満たす連続関数φ^:UVが一意に存在する.

  1. φ^(x0)=y0,
  2. f(x0,φ^(x0))=0,
  3. φ^は(連続)微分可能であり,任意のx1Uに対してその微分は, φ^(x1)=fy(x1,φ^(x1))1fx(x1,φ^(x1))と表せる.

今回示すこと

陰関数定理(前半)
  • 適当な定義域・値域をもつ連続関数 φ^ の構成
  • 満たすべき条件
  1. φ^(x0)=y0,
  2. f(x0,φ^(x0))=0,

次回示すこと

陰関数定理(後半)
  • 連続関数 φ^ が微分可能であること.
  • 微分は φ^()=fy(,φ^())1fx(,φ^()) と表されること.

記号の定義

写像 g:U×VRm

連続微分可能な写像g:U×VRm
g(x,y):=yfy(x0,y0)1f(x,y)で定める.

η1,η2,,η7,τ1,τ2>0

正定数 η1,,η7 を以下を満たすようにとってくる.

  • η3,η4: 任意の(x,y)B[xo,η3]×B[y0,η4]に対して,fy(x,y)fy(x0,y0)fy(x0,y0)2

  • η5: 任意のxB[x0,η5]に対して,g(x,y0)g(x0,y0)η22

  • η6,η7: 任意の(x,y)B[xo,η6]×B[y0,η7]に対して,fy(x,y)fy(x0,y0)(2fy(x0,y0))1

最後に,正定数 τ1,τ2>0

  • τ1,τ2: τ1:=min{η1,η3,η5,η6},τ2:=min{η2,η4,η7}

と定義する.

陰関数定理の連続関数の構成(前半)

用いる概念

縮小写像

(X,d)を距離空間とする.この時写像f:XXが縮小写像であるとは,次が成り立つことである.

k(0,1),x,yX,d(f(x),f(y))kd(x,y).

定義から容易にわかるように,縮小写像は距離位相に関して連続である.

完備距離空間

距離空間が完備であるとは,空間上の任意のコーシー列が収束することである(距離位相により).

カギとなる定理

Banachの不動点定理

(X,d)を完備距離空間とする.この時,縮小写像は不動点を持つ.

ここで,不動点とは以下のように定義される.

不動点

Xは集合とする.

写像 f:XX が不動点を持つとは,ある x0X が存在して,
f(x0)=x0
が成り立つこと.

もとめる陰関数を関数空間上の汎関数の不動点として得たい.そのために関数空間と汎関数を構築する.

関数空間と汎関数を構築

関数空間 C

連続関数の空間をC:={φC0(B[x0,τ1],B[y0,τ2])|φ(x0)=y0}と定める.

汎関数 T:CC

C上の汎関数T:CC
T(φ)(x):=g(x,φ(x))と定める.

T はwell-definedである.すなわちφC,T(φ)Cが成り立つ.

任意の(x,y1),(x,y2)B[x0,τ1]×B[y0,τ2]に対して,
g(x,y1)g(x,y2)=01gy(x,y2+t(y1y2))(y1y2)dt01gy(x,y2+t(y1y2))(y1y2)dtsupt[0,1]gy(x,y2+t(y1y2))y1y2
gy(x,y)=1Rmfy(x0,y0)1fy(x,y)=fy(x0,y0)1[fy(x0,y0)fy(x,y)]であり,
したがって,gy(x,y2+t(y1y2))fy(x0,y0)1fy(x0,y0)fy(x,y2+t(y1y2))

ところが,t[0,1],y2+t(y1y2)=ty1+(1t)y2B[y0,τ2]なので

t[0,1],fy(x,y2+t(y1y2))fy(x0,y0)fy(x0,y0)2が成り立つ.

両辺supt[0,1]でとって,
supt[0,1]gy(x,y2+t(y1y2))y1y2fy(x0,y0)1supt[0,1]fy(x0,y0)fy(x,y2+t(y1y2))y1y212y1y2
g(x,φ(x))y0g(x,φ(x))g(x,y0)+g(x,y0)g(x0,y0)12φ(x)y0+τ22τ2
したがって,各xB[x0,τ1]に対しT(φ)(x)=g(x,φ(x))B[y0,τ2]であるから,T(φ):B[x0,τ1]B[y0,τ2]である.

ベクトルの積分

01gy(x,y2+t(y1y2))(y1y2)dt
はベクトル gy(x,y2+t(y1y2))(y1y2)Rm の要素ごとの積分
(01(gy(x,y2+t(y1y2))(y1y2))1dt,,01(gy(x,y2+t(y1y2))(y1y2))m)
である.

ベクトル積分の不等式

01gy(x,y2+t(y1y2))(y1y2)dt01gy(x,y2+t(y1y2))(y1y2)dt
については,
Inequality involving the integral of vector valued function の回答を参照.
リーマン和で考えて,三角不等式を適応すればいい.
g の可積分性は連続性と有界区間上の積分からOK.

構築した関数空間が完備かどうか確かめる.

任意の元φ,ψCに対して,二元間の距離dC(φ,ψ)
dC(φ,ψ):=sup{φ(x)ψ(x)|xB[x0,τ1]}
と定める.
この時,(C,dC)は完備距離空間である.

どんなφ,ψCに対してもxφ(x)ψ(x)は有界閉集合B[x0,τ1]から実数への連続関数であるから最大値を必ず持つので,dC(φ,ψ)<+である.距離構造についてはsupノルムを用いてdCを作っているので,他とのアナロジーを踏まえOK.

完備性を示す.

C内の任意のCauchy列(φl)lNをとってくる.任意にϵ>0ととってきて固定する.この時,LN,lN,lLdC(φl,φL)ϵ3となる. dC(φl,φL)=sup{φl(x)φL(x)|xB[x0,τ1]}なので,各々のxB[x0,τ1]に対し,lLならばφl(x)φL(x)ϵ3が成立する.換言すれば各々のxB[x0,τ1]に対し,B[y0,τ2]内の点列(φl(x))lNはCauchy列になっている.B[y0,τ2]RmはEuclid空間内の閉部分集合であるため通常のノルムに関して完備である.よってlimlφl(x)B[y0,τ2]が存在する.

そこで,写像φ:B[x0,τ1]B[y0,τ2];xlimlφl(x)と定義しよう.

次からはφCということ,すなわち(1)φ(x0)=y0,(2)連続性を確かめればよい.そうすれば,(C,dC)が完備だということがわかる.

(1).lN,φl(x0)=y0よりlimlφl(x0)=φ(x0)=y0

(2).x1B[x0,τ1]を任意に持ってきて固定する.

各々のlNに対し,φl:B[x0,τ1]B[y0,τ2]は連続であることを用いて,

lN,δl>0,xB[x1,δl]B[x0,τ1]φl(x)φl(x1)ϵ3.

各々のxB[x0,τ1]に対し,φ(x)=limlφl(x)であるから,

LxN,lLxφ(x)φl(x)ϵ3,

Lx1N,lLx1φ(x1)φl(x1)ϵ3.
L:=max{Lx,Lx1}とすると,任意のxB[x1,δL]B[x0,τ1]に対して,
φ(x)φ(x1)φ(x)φL(x)+φL(x)φL(x1)+φL(x1)φ(x1)ϵ3+ϵ3+ϵ3ϵ.
ϵ>0は任意であったから,(1),(2)よりφCが分かった.ここから(C,dC)の完備性が分かった.

T:CCは縮小写像.

任意のxB[x0,τ1]について
T(φ)(x)T(ψ)(x)=g(x,φ(x))g(x,ψ(x))12φ(x)ψ(x)
最後にxB[x0,τ1]についてsupをとれば,
dC(T(φ),T(ψ))12dC(φ,ψ)となって縮小写像であることがわかる.

陰関数定理(前半)

定理

証明手法(任意)

証明

投稿日:4月10日
更新日:24日前
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ゼミのメモ用にやっているので不完全でも投稿しています.すいません

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