2
現代数学解説
文献あり

代数的符号理論入門:モジュラー形式との関係

93
0
$$$$

符号理論は,ノイズのある通信経路で正確に情報を送るための工学的な技術として発展してきた分野です.しかし,その背後にある構造を深く調べていくと,純粋数学との思いがけない繋がりが見えてきます.本記事では,代数的符号理論における金字塔である「MacWilliamsの恒等式」を紹介し,さらに不変式論を経由することで,自己双対符号という有限な対象から「モジュラー形式」という解析的な関数が自然に現れる様子を解説します.

符号理論の概説

$\mathbb{F}_2 := \mathbb{Z} / 2 \mathbb{Z} = \{ 0, 1 \}$を2元体とします($1+1 = 0$)
$$ \mathbb{F}_2^n := \{ x = (x_1,x_2, \cdots, x_n) \mid x_1,x_2,\cdots, x_n \in \mathbb{F}_2 \} $$
$\mathbb{F}_2$上の線形空間です.

符号の定義

  • $\mathbb{F}_2^n$の線形部分空間$C$のことを(2元線形)符号と呼ぶ.すなわち,$C \subset \mathbb{F}_2^n$が符号であるとは,$0 \in C$であり,$x,y \in C$に対し$x + y \in C$であること.
  • $x \in C$において$1$が立っているビットの数を$\mathrm{wt}(x)$で表す.
    $$ \mathrm{wt}(x) := \# \{i \mid x_i = 1\} $$
    これをHamming重みと呼ぶ.このとき,
    $$ \mathrm{dist}(x,y) = \mathrm{wt}(x-y) = \# \{i \mid x_i \neq y_i\} $$
    $\mathbb{F}_2^n$上の距離となり,Hamming距離と呼ばれる.
  • 符号$C$最小重み
    $$ d := \min_{c \in C \setminus \{0\}} \mathrm{wt}(c) = \min_{c \neq c'} \mathrm{dist}(c,c') $$
    と定める.
  • $C$$[n,k,d]$-符号であるとは,$C \subset \mathbb{F}_2^n$が符号で,$\dim_{\mathbb{F}_2} C = k$で,最小重みが$d$であることをいう.

単純な例として,$n=3$繰り返し符号を考えます.$$ C = \{(0,0,0), (1,1,1)\} \subset \mathbb{F}_2^3 $$
この符号の次元は$k=1$です.$C$ の0以外の元は$(1,1,1)$のみであり,そのHamming重みは$3$なので最小重みは$d=3$となります.したがって,これは$[3, 1, 3]$-符号です.

情報工学的には,$\mathbb{F}_2^n$の元は通信を行う際のビット列を表し,$C$の元はそのうちメッセージとして意味のあるビット列を表します.もし$x \in C$にノイズが加わって$x + \varepsilon \in \mathbb{F}_2^n$が受信されたとしても,$\mathrm{wt}(\varepsilon) < d/2$であれば,$C$の元の中で$x + \varepsilon$に最も近いものとして元のメッセージ$x$を特定できるため,誤り訂正が可能になります.

このような理由から,$C \subset \mathbb{F}_2^n$良い符号であるとは,

  • $n$に対して$k$が大きい (送信できる情報量が多い)
  • 最小重み$d$が大きい (誤り訂正能力が高い)

ということを意味します.このような「良い符号」を構成することが符号理論の主要なテーマです.

符号理論特有の慣習として,$C$の元は行ベクトルで書き,$C$の生成行列(基底行列)は$k \times n$行列で書くのが一般的です.

$C$生成行列とは,
$$ C = \{ mG \mid m \in \mathbb{F}_2^k\} $$
を満たす行列$G \in M_{k \times n}(\mathbb{F}_2)$のことをいう.

つまり,$G$の各行が$C$の基底を表します.平文 $m \in \mathbb{F}_2^k$ を符号語 $mG \in C$ に変換する操作を符号化と呼びます.

自己双対符号

  • $\mathbb{F}_2^n$上の双線型形式$\langle \cdot, \cdot \rangle \colon \mathbb{F}_2^n \times \mathbb{F}_2^n \to \mathbb{F}_2$
    $$ \langle x, y \rangle = x_1 y_1 + \cdots + x_n y_n $$
    と定める.これを内積という

  • $C \subset \mathbb{F}_2^n$双対符号
    $$ C^\perp = \{x \in \mathbb{F}_2^n \mid \langle x, c \rangle = 0 \text{ for all } c \in C\} $$
    と定める.

  • $C$自己双対符号であるとは,$C = C^\perp$であることをいう.

$C \subset \mathbb{F}_2^n$を符号とするとき
$$ \dim C + \dim C^{\perp} = n $$
である.特に,$C \subset \mathbb{F}_2^n$が自己双対符号であるとき,$n$は偶数で$\dim C = n/2$

証明
線型写像
$$ \mathbb{F}_2^n \to C^* := \operatorname{Hom}(C, \mathbb{F}_2), \quad x \mapsto (c \mapsto \langle x, c \rangle) $$
は全射で,その核は$C^\perp$であるから,次元定理から
$$ n = \dim C + \dim C^\perp $$
である.$C = C^\perp$のとき,$\dim C = \dim C^\perp = n/2$である.

最も簡単な自己双対符号は,長さ2の符号 $$ C_2 = \{(0,0), (1,1)\} \subset \mathbb{F}_2^2 $$ です.$\langle (1,1), (1,1) \rangle = 1 \cdot 1 + 1 \cdot 1 \equiv 0 \pmod{2}$ となるため $C_2 \subset C_2^\perp$ がわかり,次元の比較から $C_2 = C_2^\perp$ となります.

自己双対符号のメリットを説明しましょう.通常,メッセージの符号化には符号語を$c = mG$と生成する行列$G$(生成行列)が,誤り検出には$Hc^\top = 0$によって判定する行列$H$ (パリティ検査行列)が必要になります.しかし,$C = C^{\perp}$であれば,誤り検出も生成行列$G$の各行と直交するかどうかを調べるだけでいいので,$H = G$とすることができます.つまり,符号化と誤り検出の両方を同じ行列$G$を用いて行うことができます.
これに加えて,自己双対符号に多くの良い符号が存在することも知られているため,中心的な研究対象となっています.

$C \subset \mathbb{F}_2^n$が自己双対符号であるとき,$c \in C$の重み$\mathrm{wt}(c)$は偶数である.

証明
$c \in C$に対し,
$$0 = \langle c, c \rangle = \sum_{i=1}^n c_i^2 \equiv \sum_{i=1}^n c_i \equiv \mathrm{wt}(c) \pmod{2}$$
であるから,$\mathrm{wt}(c)$は偶数である.

自己双対符号$C$Type IIであるとは,任意の$c \in C$の重み$\mathrm{wt}(c)$$4$の倍数であることをいう.

自己双対符号$C$がType IIであることの必要十分条件は,$C$の生成元の重みが$4$の倍数であること

証明
$x, y \in \mathbb{F}_2^n$ に対して,共通して $1$ が立っているビットの数を $\mathrm{wt}(x \cap y)$ とする.このとき,次の等式が成り立つ.
$$ \mathrm{wt}(x+y) = \mathrm{wt}(x) + \mathrm{wt}(y) - 2\mathrm{wt}(x \cap y) $$
一方,
$$ \langle x, y \rangle \equiv \mathrm{wt}(x \cap y) \pmod 2 $$
であるので,$\langle x, y \rangle = 0$なら
$$ \mathrm{wt}(x+y) \equiv \mathrm{wt}(x) + \mathrm{wt}(y) \pmod 4 $$
である.よって,$x,y$の重みが$4$の倍数なら,$x+y$の重みも$4$の倍数である.

拡張Hamming符号 $\mathcal{H}_8$

拡張Hamming符号$\mathcal{H}_8$は長さ $n=8$,次元 $k=4$ ,最小重み $d = 4$ のType II自己双対符号です.その生成行列 $G$ は次のように具体的に構成できます. $$ G = \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & 0 & 0 & 1 & 1 & 1 \\ 0 & 1 & 0 & 0 & 1 & 0 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 0 & 1 & 1 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0 & 1 & 1 & 1 & 1 & 0 \end{pmatrix} $$
左側は単位行列$I_4$で,右側は$I_4$のビット反転です.$G$ の各元の重みは $4$ であり,異なる行の $\mathbb{F}_2$ 上の内積は $0$ になることが確認できると思います.すなわち $\mathcal{H}_8 \subset \mathcal{H}_8^\perp$ であり,次元の比較から $\mathcal{H}_8 = \mathcal{H}_8^\perp$(自己双対)であることが確認できます.

拡張Golay符号 $\mathcal{G}_{24}$

拡張Golay符号$\mathcal{G}_{24}$は長さ $n=24$,次元 $k=12$ ,最小重み $d = 8$ のType II自己双対符号です.生成行列 $G = [I_{12} \mid B]$ の右側の $12 \times 12$ 行列 $B$ は,正$20$面体の$12$個の頂点を$v_1,v_2,\cdots,v_{12}$として,
$$ B_{ij} := \begin{cases} 1 & v_i,v_j \text{が辺で結ばれていないとき} \\ 0 & v_i,v_j \text{が辺で結ばれているとき} \\ \end{cases} $$
と書かれます(隣接行列のビット反転).具体的には,
$$B = \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 1 & 1 & 1 & 1 & 1 & 1 \\ 0 & 1 & 0 & 1 & 1 & 0 & 0 & 1 & 1 & 1 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 0 & 1 & 1 & 0 & 0 & 1 & 1 & 1 & 1 \\ 0 & 1 & 0 & 1 & 0 & 1 & 1 & 0 & 0 & 1 & 1 & 1 \\ 0 & 1 & 1 & 0 & 1 & 0 & 1 & 1 & 0 & 0 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 1 & 0 & 1 & 1 & 1 & 1 & 0 & 0 & 1 \\ 1 & 0 & 0 & 1 & 1 & 1 & 1 & 0 & 1 & 1 & 0 & 0 \\ 1 & 1 & 0 & 0 & 1 & 1 & 0 & 1 & 0 & 1 & 1 & 0 \\ 1 & 1 & 1 & 0 & 0 & 1 & 1 & 0 & 1 & 0 & 1 & 0 \\ 1 & 1 & 1 & 1 & 0 & 0 & 1 & 1 & 0 & 1 & 0 & 0 \\ 1 & 0 & 1 & 1 & 1 & 0 & 0 & 1 & 1 & 0 & 1 & 0 \\ 1 & 1 & 1 & 1 & 1 & 1 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 1 \end{pmatrix}$$
です.$G$ の各行の重みは$8$で,互いに直交することが分かります.

ちなみに,$\mathcal{G}_{24}$の自己同型群は散在型有限単純群の1つであるマシュー群$M_{24}$として知られています.また,NASAのボイジャー計画におけるカラー画像転送ではこの符号が実際に使われたそうです

不変式論との関係

MacWilliamsの恒等式

符号$C$重み分布多項式
$$ W_C(X,Y) = \sum_{c \in C} X^{n - \mathrm{wt}(c)} Y^{\mathrm{wt}(c)} $$
と定める.

自己双対符号$C_2 = \{(0,0), (1,1)\}$において,元の重みは0と2なので,$C_2$ の重み分布多項式は $$ W_{C_2^\perp}(X,Y) = W_{C_2}(X,Y) = X^2 + Y^2 $$ です.

拡張Hamming符号 $\mathcal{H}_8$において,16個の符号語の重み分布は,$0$ が1個,$4$ が14個,$8$ が1個となるため,重み分布多項式は $$ W_{\mathcal{H}_8}(X,Y) = X^8 + 14X^4Y^4 + Y^8 $$ となります.

拡張Golay符号 $\mathcal{G}_{24}$ の最小重みは $d=8$ であり,重み分布多項式は $$ W_{\mathcal{G}_{24}}(X,Y) = X^{24} + 759 X^{16} Y^8 + 2576 X^{12} Y^{12} + 759 X^8 Y^{16} + Y^{24} $$ となります

代数的符号理論における重要な定理の一つが次のMacWilliamsの恒等式です.

MacWilliamsの恒等式

$C \subset \mathbb{F}_2^n$を符号とする.このとき,
$$ W_{C^\perp}(X,Y) = \frac{1}{|C|} W_C(X+Y, X-Y) $$
が成り立つ.

自己双対符号$C_2 = \{(0,0), (1,1)\}$で恒等式を確認してみましょう.$C_2$ の重み分布多項式は $$ W_{C_2^\perp}(X,Y) = W_{C_2}(X,Y) = X^2 + Y^2 $$ です.MacWilliamsの恒等式の右辺を計算すると,$$ \frac{1}{|C_2|} W_{C_2}(X+Y, X-Y) = \frac{1}{2} \left( (X+Y)^2 + (X-Y)^2 \right) = \frac{1}{2} (2X^2 + 2Y^2) = X^2 + Y^2 $$ となり,一致することが確かめられます.

証明には次の補題を用います.これはPoissonの和公式の$\mathbb{F}_2$における類似物です.

$\mathbb{F}_2$版 Poissonの和公式

$\mathbb{C}$線形空間$W$と,関数$f \colon \mathbb{F}_2^n \to W$に対して,そのフーリエ変換
$$ \widehat{f}(v) := \sum_{u \in \mathbb{F}_2^n} (-1)^{\langle u, v \rangle} f(u) $$
と定める.このとき,任意の符号$C \subset \mathbb{F}_2^n$に対し,
$$ \sum_{u \in C^\perp} f(u) = \frac{1}{|C|} \sum_{v \in C} \widehat{f}(v) $$

$$ \frac{1}{|C|} \sum_{v \in C} \widehat{f}(v) = \frac{1}{|C|} \sum_{v \in C} \sum_{u \in \mathbb{F}_2^n} (-1)^{\langle u, v \rangle} f(u) = \sum_{u \in \mathbb{F}_2^n} f(u) \left( \frac{1}{|C|} \sum_{v \in C} (-1)^{\langle u, v \rangle} \right) $$
である.$u \in C^\perp$のとき,任意の$v \in C$に対して$\langle u, v \rangle = 0$であるから,
$$ \frac{1}{|C|} \sum_{v \in C} (-1)^{\langle u, v \rangle} = \frac{1}{|C|} \sum_{v \in C} 1 = 1 $$
である.一方,$u \not\in C^\perp$のとき,ある$v_0 \in C$に対して$\langle u, v_0 \rangle = 1$であるから,
$$ \frac{1}{|C|} \sum_{v \in C} (-1)^{\langle u, v \rangle} = \frac{1}{|C|} \sum_{v \in C} (-1)^{u \cdot (v + v_0)} = -\frac{1}{|C|} \sum_{v \in C} (-1)^{\langle u, v \rangle} $$
なので,
$$ \frac{1}{|C|} \sum_{v \in C} (-1)^{\langle u, v \rangle} = 0 $$
である.以上より,
$$ \frac{1}{|C|} \sum_{v \in C} \widehat{f}(v) = \sum_{u \in C^\perp} f(u) $$

MacWilliamsの恒等式

$\mathbb{F}_2$版Poissonの和公式において,
$$ W := \mathbb{C}[X,Y], \quad f(u) := X^{n - \mathrm{wt}(u)} Y^{\mathrm{wt}(u)} $$
とする.$f$のフーリエ変換は,
$$ \widehat{f}(v) = \sum_{u \in \mathbb{F}_2^n} (-1)^{\langle u, v \rangle} X^{n - \mathrm{wt}(u)} Y^{\mathrm{wt}(u)} \\ = \sum_{u \in \mathbb{F}_2^n} \prod_{i=1}^n (-1)^{u_i v_i} X^{1 - u_i} Y^{u_i} \\ = \prod_{i=1}^n \left( \sum_{u_i \in \mathbb{F}_2} (-1)^{u_i v_i} X^{1 - u_i} Y^{u_i} \right) $$
であり,

  • $v_i = 0$のとき,
    $$ \sum_{u_i \in \mathbb{F}_2} (-1)^{u_i v_i} X^{1 - u_i} Y^{u_i} = \sum_{u_i \in \mathbb{F}_2} X^{1 - u_i} Y^{u_i} = X + Y $$
  • $v_i = 1$のとき,
    $$ \sum_{u_i \in \mathbb{F}_2} (-1)^{u_i v_i} X^{1 - u_i} Y^{u_i} = \sum_{u_i \in \mathbb{F}_2} (-1)^{u_i} X^{1 - u_i} Y^{u_i} = X - Y $$
    であるから,
    $$ \widehat{f}(v) = (X + Y)^{n - \mathrm{wt}(v)} (X - Y)^{\mathrm{wt}(v)} $$
    である.以上より,Poissonの和公式から
    $$ W_{C^\perp}(X,Y) = \frac{1}{|C|} \sum_{v \in C} (X + Y)^{n - \mathrm{wt}(v)} (X - Y)^{\mathrm{wt}(v)} = \frac{1}{|C|} W_C(X+Y, X-Y) $$

Gleasonの定理

さて,$C$$[n,k,d]$-自己双対符号である場合を考えましょう.この場合$k = n/2$であり,MacWilliamsの恒等式は
$$ W_{C}(X,Y) = \frac{1}{2^{n/2}} W_C(X+Y, X-Y) $$
です.$W_C(X,Y)$$X$$Y$$n$次同次多項式ですので,
$$ W_C(X,Y) = W_C\left(\frac{X+Y}{\sqrt{2}}, \frac{X-Y}{\sqrt{2}}\right) $$
が成り立つことが分かります.また,任意の$c \in C$の重み$\mathrm{wt}(c)$は偶数なので,$W_C(X,Y)$には$Y$は偶数乗でしか現れず,
$$ W_C(X,Y) = W_C(X,-Y) $$
となります.また,$C$がType IIであるとき,
$$ W_C(X,Y) = W_C(X, \sqrt{-1} Y) $$
も成り立ちます.以上より,次が分かります.

Gleasonの定理

有限部分群$G_I \subset G_{II} \subset \mathrm{GL}_2(\mathbb{C})$
$$ G_I = \left\langle \frac{1}{\sqrt{2}} \begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 1 & -1 \end{pmatrix}, \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & -1 \end{pmatrix} \right\rangle ,\quad G_{II} = \left\langle \frac{1}{\sqrt{2}} \begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 1 & -1 \end{pmatrix}, \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & \sqrt{-1} \end{pmatrix} \right\rangle $$
と定める.

  • $C$が自己双対符号であるとき,$W_C(X,Y)$$G_I$の不変式である.
  • $C$がType II自己双対符号であるとき,$W_C(X,Y)$$G_{II}$の不変式である.
不変式の定義

$2\times 2$正則行列$\mathrm{GL}_2(\mathbb{C})$$\mathbb{C}[X,Y]$への作用を
$$ \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix} \cdot f(X,Y) = f(aX + bY, cX + dY) $$
と定める.$f \in \mathbb{C}[X,Y]$$G \subset \mathrm{GL}_2(\mathbb{C})$不変式であるとは,任意の$g \in G$に対して$g \cdot f = f$であることをいう.$G$の不変式全体の集合を$\mathbb{C}[X,Y]^G$と表す.


あとは不変式論の範疇です.これらの群の不変式環の生成元は具体的に求めることができます.

$$ \mathbb{C}[X,Y]^{G_I} = \mathbb{C}[X^2 + Y^2, X^2 Y^2 (X^2 - Y^2)^2] $$ $$ \mathbb{C}[X,Y]^{G_{II}} = \mathbb{C}[X^8 + 14 X^4 Y^4 + Y^8, X^4 Y^4 (X^4 - Y^4)^4] $$

証明の概略
$G_{II}$で説明する.
$$ p_8 = X^8 + 14X^4Y^4 + Y^8$$
$$p_{24} = X^4 Y^4 (X^4 - Y^4)^4$$
$G_{II}$の不変式であることは簡単に確かめられる.また,
$$ \det \begin{pmatrix} \frac{\partial p_8}{\partial X} & \frac{\partial p_8}{\partial Y} \\ \frac{\partial p_{24}}{\partial X} & \frac{\partial p_{24}}{\partial Y} \end{pmatrix} \neq 0 $$
なので,$p_8$$p_{24}$は代数的に独立である.また,不変式環の次数ごとの次元を表す母関数を
$$ \Phi(t) := \sum_{j=0}^\infty \dim_{\mathbb{C}} \mathbb{C}[X,Y]^{G_{II}}_j t^j $$
とすると,不変式論におけるMolienの定理から,
$$ \Phi(t) = \frac{1}{|G_{II}|} \sum_{g \in G_{II}} \frac{1}{\det(I - tg)} $$
である.$G_{II}$ は位数 $|G_{II}| = 192$ の群であり,実際に計算すると,
$$ \Phi(t) = \frac{1}{(1-t^8)(1-t^{24})} $$
となる.この有理式の分母の次数 $(8, 24)$ は,代数的に独立な不変式の次数がちょうど $8$$24$ であり,それらによって環が自由に生成されることを意味する.$\square$

不変式環$\mathbb{C}[X,Y]^{G_{II}}$の生成元$X^8 + 14 X^4 Y^4 + Y^8$は,先ほど紹介した拡張Hamming符号$\mathcal{H}_8$の重み分布多項式と完全に一致しています.

また,符号$C$の最小重み$d$は,$W_C(1,Y)$に現れる最初の項として現れます.
$$ W_C(1,Y) = 1 + A_d Y^d + A_{d+1} Y^{d+1} + \cdots \quad (A_d \neq 0) $$
$C$が自己双対符号であるとき,$W_C(X,Y)$が不変式環の元であることを用いると,$d$の上界,すなわち自己双対符号の性能の限界が分かります.

  1. $C$$[n,n/2,d]$-自己双対符号とするとき,
    $$ d \leq 2 \left\lfloor \frac{n}{8} \right\rfloor + 2 $$
  2. $C$$[n,n/2,d]$-Type II自己双対符号とするとき,長さ$n$$8$の倍数であり,
    $$ d \leq 4 \left\lfloor \frac{n}{24} \right\rfloor + 4 $$
証明の概略
2のみ概説する.
$\mu := \lfloor n/24 \rfloor$とする.重み分布多項式$W_C(X,Y)$
$$ W_C(X,Y) = \sum_{j=0}^{\mu} a_j ( X^8 + 14X^4Y^4 + Y^8)^{n/8 - 3j} (X^4 Y^4 (X^4 - Y^4)^4)^j $$
という形で表される.よって,
$$ W_C(1,Y) = \sum_{j=0}^{\mu} a_j (Y^{4j} + \text{(高次の項)}) $$
なので,$a_0, a_1, \dots, a_{\mu}$を適切に選ぶことで,
$$ A_4 = A_8 = \cdots = A_{4\mu} = 0 $$
とできる.具体的に$a_0, a_1, \dots, a_{\mu}$を計算してみると,$A_{4\mu + 4} > 0$であることが証明できる(らしい).したがって,$d \leq 4\mu + 4$である.$\square$


$d = 4 \left\lfloor \frac{n}{24} \right\rfloor + 4$という上界を達成するType II自己双対符号は極値符号と呼ばれています.$[8,4,4]$-符号である拡張Hamming符号$\mathcal{H}_8$や,$[24,12,8]$-符号であるGolay符号$\mathcal{G}_{24}$は極値符号です.

モジュラー形式との関係

最後に,モジュラー形式と符号理論の関係を紹介します.

モジュラー形式の定義

$k$を非負の偶数とする.$\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z}) := \{ \gamma \in \mathrm{GL}_2(\mathbb{Z}) \mid \det \gamma = 1 \}$の上半平面$\mathbb{H} = \{\tau \in \mathbb{C} \mid \mathrm{Im}(\tau) > 0\}$への作用を
$$ \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix} \cdot \tau = \frac{a\tau + b}{c\tau + d} $$
とする.次を満たす正則関数$f \colon \mathbb{H} \to \mathbb{C}$をウェイト$k$フルモジュラー形式と呼ぶ.

  • 任意の$\gamma \in \mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})$と任意の$\tau \in \mathbb{H}$に対して,
    $$ f(\gamma \cdot \tau) = (c\tau + d)^k f(\tau) $$
  • $f(\tau)$$\tau \to i\infty$のときに有限値に収束する.

ウェイト$k$のフルモジュラー形式全体の集合を$M_k(\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z}))$と表す.

  • アイゼンシュタイン級数
    $$ E_4(\tau) = 1 + 240 \sum_{n=1}^\infty \sigma_3(n) e^{2\pi i n \tau}, \quad E_6(\tau) = 1 - 504 \sum_{n=1}^\infty \sigma_5(n) e^{2\pi i n \tau} $$
    はそれぞれウェイト$4$$6$のフルモジュラー形式である.ここで,
    $$ \sigma_k(n) = \sum_{d \mid n} d^k $$
  • ラマヌジャンのデルタ
    $$ \Delta(\tau) = e^{2\pi i \tau} \prod_{n=1}^\infty (1 - e^{2\pi i n \tau})^{24} $$
    はウェイト$12$のフルモジュラー形式である.
  • これらには,
    $$ E_4^3 - E_6^2 = 1728 \Delta $$
    という関係がある.また,$E_4$$E_6$はフルモジュラー形式の生成元である.つまり,
    $$ M_k(\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})) = \bigoplus_{4a + 6b = k} \mathbb{C} E_4^a E_6^b $$
    であることが知られている.

符号からモジュラー形式を作る

テータ級数を
$$ \theta_{\mathbb{Z}}(\tau) = \sum_{n \in \mathbb{Z}} e^{2 \pi i n^2 \tau}, \quad \theta_{\mathbb{Z}+\frac{1}{2}}(\tau) = \sum_{n \in \mathbb{Z}} e^{2 \pi i (n + \frac{1}{2})^2 \tau} \quad (\tau \in \mathbb{H}) $$
と定める.

テータ級数はフルモジュラー形式ではありませんが,次の関係式が成り立ちます.
$$ \theta_{\mathbb{Z}}^8(\tau) + 14 \theta_{\mathbb{Z}}^4(\tau) \theta_{\mathbb{Z}+\frac{1}{2}}^4(\tau) + \theta_{\mathbb{Z}+\frac{1}{2}}^8(\tau) = E_4(\tau) $$ $$ \theta_{\mathbb{Z}}^4(\tau) \theta_{\mathbb{Z}+\frac{1}{2}}^4(\tau) (\theta_{\mathbb{Z}}^4(\tau) - \theta_{\mathbb{Z}+\frac{1}{2}}^4(\tau))^4 = 16 \Delta(\tau) $$

さて,
$$ \mathbb{C}[X,Y]^{G_{II}} = \mathbb{C}[X^8 + 14 X^4 Y^4 + Y^8, X^4 Y^4 (X^4 - Y^4)^4] $$
であったことを思い出しましょう.$E_4, 16\Delta$は不変式$X^8 + 14 X^4 Y^4 + Y^8,\ X^4 Y^4 (X^4 - Y^4)^4$にそれぞれ$X = \theta_{\mathbb{Z}}, Y = \theta_{\mathbb{Z} + \frac{1}{2}}$を代入したものになっています.これより,次数付き環の準同型
$$ \mathbb{C}[X,Y]^{G_{II}} \to M(\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})), \quad f(X,Y) \mapsto f(\theta_{\mathbb{Z}}(\tau), \theta_{\mathbb{Z}+\frac{1}{2}}(\tau)) $$
が定まります.これより,Type IIの自己双対符号からモジュラー形式が構成できることがわかります.

Type II自己双対符号$C$の重み分布多項式$W_C(X,Y)$に対して,
$$ W_C(\theta_{\mathbb{Z}}(\tau), \theta_{\mathbb{Z}+\frac{1}{2}}(\tau)) $$
はフルモジュラー形式である.

なお,一般の自己双対符号$C$に対して
$$ W_C(\theta_{\mathbb{Z}}(\tau), \theta_{\mathbb{Z}+\frac{1}{2}}(\tau)) $$
はフルモジュラー形式にはなるとは限りませんが,合同部分群$\Gamma_0(2)$に対するモジュラー形式になります.

たとえば,
$$ W_{\mathcal{H}_8}(X,Y) = X^8 + 14 X^4 Y^4 + Y^8 $$
なので,アイゼンシュタイン級数は
$$ E_4(\tau) = W_{\mathcal{H}_8}(\theta_{\mathbb{Z}}(\tau), \theta_{\mathbb{Z}+\frac{1}{2}}(\tau)) $$
と表されます.また,
$$W_{\mathcal{G}_{24}}(X,Y) = X^{24} + 759 X^{16} Y^8 + 2576 X^{12} Y^{12} + 759 X^8 Y^{16} + Y^{24} $$
なので,これらの間には,
$$ 42 X^4 Y^4 (X^4 - Y^4)^4 = W_{\mathcal{H}_8}(X,Y)^3 - W_{\mathcal{G}_{24}}(X,Y) $$
という関係があります.$\mathcal{H}_8$ を3つ直和した符号 $\mathcal{H}_8^{\oplus 3}$ を用いると,
$$ W_{\mathcal{H}_8^{\oplus 3}}(X,Y) = W_{\mathcal{H}_8}(X,Y)^3 $$
であることが分かります.よって,テータ級数を代入すると,
$$ 672 \Delta(\tau) = W_{\mathcal{H}_8^{\oplus 3}}(\theta_{\mathbb{Z}}(\tau), \theta_{\mathbb{Z}+\frac{1}{2}}(\tau)) - W_{\mathcal{G}_{24}}(\theta_{\mathbb{Z}}(\tau), \theta_{\mathbb{Z}+\frac{1}{2}}(\tau)) $$
という関係が導かれます.解析的で複雑なはずのラマヌジャンのデルタ関数が,符号という有限な対象を調べることで分かるというのは驚くべきことです.符号理論の視点で見ると $\mathcal{H}_8^{\oplus 3}$ は小さな符号をただ3つ並べただけの「素朴な符号(最小重み $d=4$)」であり,$\mathcal{G}_{24}$ は空間の対称性を極限まで活用した「最適な符号(最小重み $d=8$)」です.つまり,数論における解析的な関数$\Delta$が,情報工学における「素朴な符号と最適化された符号の性能差」として翻訳されていることを物語っています.

参考文献

[1]
Minjia Shi, YoungJu Choie, Anuradha Sharma, Patrick Sole, Codes And Modular Forms
[3]
吉荒 聡, 散在型有限単純群
[4]
Diamond, Fred, Shurman, Jerry, A First Course in Modular Forms
投稿日:12日前
更新日:12日前
数学の力で現場を変える アルゴリズムエンジニア募集 - Mathlog served by OptHub

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

dragoemon
dragoemon
186
41313
B4 整数論・表現論・組合せ論が好きです

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中