こんにちは.最近解いた関数方程式が基礎が詰まった良い問題だったので,関数方程式を解く時の基礎テクニック紹介も兼ねてご紹介しようと思います.問題の出典は2022 Iran MO (3rd round) P1です.
https://artofproblemsolving.com/community/c3110663_2022_iran_mo_3rd_round
任意の$x,y,z\in \mathbb{R}_+$に対して下の式を満たす関数$f:\mathbb{R}_+\rightarrow \mathbb{R}_+$を全て求めよ.
$$ f(x+f(y)+f(f(z)))=z+f(y+f(x))$$
定義域と値域が正の実数というちょっと珍しいパターンですが,いったんそれは置いといて,とりあえず全射,単射が示せるかを考えてみます.
全射(前者)を示すには
$$ f(xを含む式)=x$$
という式が得られればよいです.しかしこの問題に関してはこのような式が得られそうにないですね.右辺に$z$が含まれていますが,同じく右辺の$f(y+f(x))$が邪魔です.これのせいで右辺は$\min f(y+f(x))$より大きい実数全体を動くことになり,$\mathbb{R}_+$全体ではないです.
次に単射を考えましょう.このためには
$$ f(x)を含む式=x$$
という式が得られれば良いです.今回は与式を次のように変形すれば容易に得られます.
$$ f(x+f(y)+f(f(z)))-f(y+f(x))=z$$
左辺は$f(z)を含む式$,右辺は$z$となっています.以上より,$f$は単射であることがわかりました.やったね.
そろそろ解の見当をつけてみます.今回,これは簡単で
$$ f(x)=x$$
のみでしょう.
定義域と値域が$\mathbb{R}_+$であるので,次の論法を考えてみましょう.
ある$a$が正と仮定したとき,$f(a)\leq0$がしたがい矛盾するので,$a\leq0$である.
今回,$x+f(y),y+f(x)$が対称性を持っていることに注目し,$f(x+f(y))>f(y+f(x))$を仮定してみましょう.このとき$z=a=f(x+f(y))-f(y+f(x))>0$を与式に代入することができ,
$$ f(x+f(y)+f(f(a)))=f(x+f(y))$$
が従います.ここで$f$は単射なので$f$を一個外すことができ,$f(f(a))=0$を得ます.しかしこれは値域が$\mathbb{R}_+$であることに矛盾します.よって任意の$x,y>0$について$f(x+f(y))\leq f(y+f(x))$である必要があります.$x,y$を入れ替えることで$f(x+f(y))=f(y+f(x))$を得ることができます.再び$f$の単射性より,$x+f(y)=y+f(x)$が得られるので,ここまで来れば$9$割解けたようなものです.
与式を$P(x,y,z)$と表記する.
ある$a,b>0$が$f(a)=f(b)$を満たすとき,$P(x,y,a),P(x,y,b)$を比較することで$a=b$がしたがう.よって$f$は単射である.ここである$p,q>0$について$f(p+f(q))>f(q+f(p))$を仮定する.このとき$f(p+f(q))-f(q+f(p))=r>0$なので,$P(p,q,r)$より,
$$ f(p+f(q)+f(f(r)))=f(p+f(q))$$
を得る.$f$の単射性より,
$$ p+f(q)+f(f(r))=p+f(q)$$
であり,これより$f(f(r))=0$がしたがい,矛盾する.任意の$x,y>0$について
$$ f(x+f(y))\leq f(y+f(x))$$
が成り立つこれと$x,y$を入れ替えた式
$$ f(y+f(x))\leq f(x+f(y))$$
より,$f(x+f(y))=f(y+f(x))$を得る.再び$f$の単射性より,$x+f(y)=y+f(x)$なので,$f(1)-1=c$とすると,任意の$x>0$に対して
$$ f(x)=x+c$$
が成り立つ.これを与式に代入することで$c=0$がわかる.
以上より求める関数は$f(x)=x$のみ.