タイトルの通りです.
同値類を使わずに整数を構成し,そのあとで何かしらの理論を展開するというわけではなく,ただ構成するだけの記事となっています.
$\mathbb{N}$の構成については触れませんが,0は含むものとします.
以下,$S := \{ m,\, p\}$とします.これは2点集合であればなんでもよく,$m,\, p$の具体的な姿には触れません.
また,$\mathbb{N}_{>0}$で,0以外の自然数全体がなす集合を表すものとします.
集合$\mathbb{N}_s$を,
$$ \mathbb{N}_s := S \times \mathbb{N}_s \cup \{ 0 \}$$
と定め,$\mathbb{N}_s$の元を符号付き自然数とよぶ.
以下では必要に応じて,$n \in \mathbb{N}_{>0}$に対し
$$ \begin{align*} +n &:= (p,\, n) \\ -n &:= (m,\, n)\end{align*}$$
を形式な表記として採用します.
$\sgn : \mathbb{N}_s \setminus \{ 0 \} \to S$を第一成分の射影とする.このもとで,$\sgn n$を$n$の符号とよぶ.
$0$の符号は定義しません.
$| \cdot |' : \mathbb{N}_s \setminus \{ 0 \} \to \mathbb{N}$を第二成分の射影とし,これを$| 0 | := 0$により拡張する.このもとで,$| n |$を$n$の絶対値とよぶ.
演算を定義するにあたって,順序が定義されていた方が便利なので,先に順序を定義してしまいます.以下では,$\le$を$\mathbb{N}$上の通常の順序とします.
$\mathbb{N}_s$上の二項関係$\preceq$を,$n_1,\, n_2 \in \mathbb{N}_s$に対し,
$$
n_1 \preceq n_2 : \!\! \iff
\begin{cases}
|n_2| \le |n_1| & (\sgn n_1 = \sgn n_2 = m) \\
|n_1| \le |n_2| & (\sgn n_1 = \sgn n_2 = p) \\
n_2 = 0 & (\sgn n_1 = m) \\
n_1 = 0 & (\sgn n_2 = p) \\
\sgn n_1 = m \mbox{ and } \sgn n_2 = p \\
n_1 = n_2 = 0
\end{cases}
$$
で定める.
符号が導入されている関係でかなり複雑です.
定義4における$\preceq$は$\mathbb{N}_s$上の全順序である.
順序の公理を確かめればよいです.ここでは証明は省略します.
比較的定義が簡単な乗法からスタートします.
$\times' : \mathbb{N}_s \times \mathbb{N}_s \to \mathbb{N}_s$を,$n_1,\, n_2 \in \mathbb{N}_s$に対し,
$$
\times' (n_1,\, n_2) :=
\begin{cases}
(p,\, |n_1||n_2|) & (\sgn n_1 = \sgn n_2) \\
(m,\, |n_1||n_2|) & (\sgn n_1 \ne \sgn n_2) \\
0 & (|n_1||n_2| = 0)
\end{cases}
$$
で定める.
ここで,$\sgn n_1 = \sgn n_2$や$\sgn n_1 \ne \sgn n_2$という式は,$n_1,\, n_2$の符号が定義できるということも含んでいます.
以下では,$\times' (n_1,\, n_2)$を$n_1 \times' n_2$と書きます.
次の命題は明らかでしょう.
定義5の乗法は$\mathbb{N}_s$上の可換な演算である.
$+1$は$\times'$における単位元である.
乗法と違い,加法は面倒な定義となってしまいます.
$+' : \mathbb{N}_s \times \mathbb{N}_s \to \mathbb{N}_s$を,$n_1,\, n_2 \in \mathbb{N}_s$に対し,
$$
+'(n_1,\, n_2) :=
\begin{cases}
(p,\, |n_1| + |n_2|) & (\sgn n_1 = \sgn n_2 = p) \\
(m,\, |n_1| + |n_2|) & (\sgn n_1 = \sgn n_2 = m) \\
(p,\, |n_2| - |n_1|) & (\sgn n_1 = m \and \sgn n_2 = p \and |n_1| \le |n_2|) \\
(m,\, |n_1| - |n_2|) & (\sgn n_1 = m \and \sgn n_2 = p \and |n_1| \ge |n_2|) \\
(p,\, |n_1| - |n_2|) & (\sgn n_1 = p \and \sgn n_2 = m \and |n_1| \ge |n_2|) \\
(m,\, |n_2| - |n_1|) & (\sgn n_1 = p \and \sgn n_2 = m \and |n_1| \le |n_2|) \\
n_1 & (n_2 = 0) \\
n_2 & (n_1 = 0)
\end{cases}
$$
で定める.
場合分けが膨大ですね.
以下では,$+' (n_1,\, n_2)$を$n_1 +' n_2$と書きます.
次の命題は一部明らかでない点が含まれています.その部分だけ証明を行いましょう.
定義6の加法は$\mathbb{N}_s$上の可換な演算である.
$\sgn n_1 = m$かつ$\sgn n_2 = p$かつ$|n_1| \le |n_2|$の場合のみ示す($\sgn n_1 \ne \sgn n_2$の他パターンは全て同様に示せる).このとき,
$$ n_1 +' n_2 = (p,\, |n_2| - |n_1|)$$
である.一方,
$$ n_2 +' n_1 = (p,\, |n_2| - |n_1|)$$
である.よってこの場合は可換である.
次の命題は明らかです.
$0$は$+'$における単位元である.
時間があれば確かめてみてください.
減法は加法を用いて簡単に定義できます.
$-' : \mathbb{N}_s \times \mathbb{N}_s \to \mathbb{N}_s$を,$n_1,\, n_2 \in \mathbb{N}_s$に対し,
$$-'(n_1,\, n_2) := n_1 +' (-1 \times' n_2)$$
で定める.
加法と乗法が定義されたら,次に気になるのはこれらの相性です.
$n_1,\, n_2,\, n_3 \in \mathbb{N}_s$に対し,以下が成立する.
(1) $n_1 \times' (n_2 +' n_3) = (n_1 \times' n_2) +' (n_1 \times' n_3)$
(2) $(n_1 +' n_2) \times' n_3 = (n_1 \times' n_3) +' (n_2 \times' n_3)$
場合分けが膨大なので一旦省略します.記事の修正の機会があれば追記します.
このようにして,次が成立します.
$(\mathbb{N}_s,\, +',\, \times')$は環である.
写像$\varphi : \mathbb{Z} \to \mathbb{N}_s$を,$n \in \mathbb{Z}$に対し,
$$
\varphi(n) :=
\begin{cases}
(p,\, n) & (n \ge 0) \\
0 & (n = 0) \\
(m,\, -n) & (n \le 0)
\end{cases}
$$
で定めると,これは同型写像である.したがって,$\mathbb{N}_s$と$\mathbb{Z}$は同型である.
$+'$の定義に従って準同型であることを示せばよいです.
以上のようにして,同値類の概念を用いることなく整数を構成することができました.最初はこちらの方が種々の議論や定義が見やすく整理されると思っていましたが,実際に着手してみると加法の定義がかなりの曲者でした.素直に$\mathbb{N} \times \mathbb{N}$の商集合として定義していれば加法はかなり楽に定義できるので,結果としては符号付き自然数を経由する方が損です.
ご指摘等ありましたらコメントまでお願いします.