$a$が$\mathrm{mod}\ p$で平方剰余であるとは, $x^2\equiv a\mod p$なる$x$が存在することを言う. そうでないとき, 平方非剰余であると言う.
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以下, 諸事情により$p$は奇素数とし, $0$以外の平方剰余を考えます.
$x^2\equiv y^2\iff x\equiv \pm y$より,$1^2,2^2,\ldots,(p-1)^2$の中に$2$つずつ等しいものがあるので, 次がわかります.
$1,2,\ldots, p-1$のうち, 平方剰余は$\dfrac{p-1}2$個, 平方非剰余も$\dfrac{p-1}2$個ある.
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具体的には次の表のようになります. (赤字が平方剰余)
| $p$ | $a$ |
|---|---|
| 3 | 1,2 |
| 5 | 1,2,3,4 |
| 7 | 1,2,3,4,5,6 |
| 11 | 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10 |
| 13 | 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12 |
| 17 | 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16 |
| 19 | 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18 |
| 23 | 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22 |
| 29 | 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28 |
${}$
これを眺めていると, $p=5,13,17,29$では平方剰余の分布が左右対称になっていることに気づきます.
一般には以下が成り立ちます.
$p\equiv1\mod4$ ならば, 平方剰余の分布は左右対称である.
これは, 平方剰余が乗法的なことを知っていれば, $-1$が平方剰余になるからと説明できます.
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では, $p\equiv3\mod4$の場合はどうでしょうか. もう一度表を眺めてみましょう.
| $p$ | $a$ |
|---|---|
| 3 | 1,2 |
| 7 | 1,2,3,4,5,6 |
| 11 | 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10 |
| 19 | 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18 |
| 23 | 1,2,3,4, 5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22 |
明らかに前半に平方剰余が多いですね. 実は以下が成り立ちます.
$p\equiv3\mod4$ ならば, $1,2,\ldots, \frac{p-1}2$の中には平方非剰余より平方剰余の方が多い.
今回はこれを証明していきます.
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以下, 平方剰余の基本的性質の知識を仮定します. また$p\equiv3\mod4$ の場合のみ考えます.
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$\chi:\mathbb{Z}\to\mathbb{C}$を$\chi(n)=\quares{n}{p}$と定めます. ただし$n$が$p$の倍数のときは右辺は$0$であると定めます. すると$\chi$は乗法的になります.
そこで
$$ L(s,\chi)=\sum_{n=0}^\infty\frac{\chi(n)}{n^s}=\prod_{q:\mathrm{prime}}(1-\chi(q)q^{-s})^{-1}$$
と$L$関数を定めます. これは$\mathrm{Re} s>0$で(絶対ではないが)広義一様収束することが示せます.
今回はひとつの指標のみ考えるので, 以下$L(s)$と略記します.
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次に, Gauss和を$G=\sum_{m\in \mathbb{F}_p^\times}\quares{m}{p}\zeta_p^m$とおきます. ただし$\zeta_p=\exp\frac{2\pi i}{p}$です.
すると
$$ \sum_{m\in \mathbb{F}_p^\times}\quares{m}{p}\zeta_p^{mn}=\quares{n}{p}G$$
が, 簡単な変数変換によりわかります. 両辺を$G(\neq0)$で割った
$$ \quares{n}{p}=\frac1G \sum_{m\in \mathbb{F}_p^\times}\quares{m}{p}\zeta_p^{mn}$$
を$1/n$倍してから$n$にわたって足し合わせることで,
$$ L(1)=\frac1G \sum_{m\in \mathbb{F}_p^\times}\quares{m}{p}\sum_{n=1}^\infty \frac1n\zeta_p^{mn}$$
ここで
$\sum_{n=1}^\infty \frac1n\zeta_p^{mn}=-\log(1-\zeta_p^m)=-\log(2\sin\frac{m\pi}p)-(\frac{m\pi}p-\frac\pi2)i$
および, $p\equiv 3\mod 4$ のとき$G=i\sqrt{p}$であることから, (右辺の虚部のみ考えて)
$$ L(1)=-\frac{\pi}{p\sqrt{p}}\sum_{m\in \mathbb{F}_p^\times}\quares{m}{p}m$$
が成り立ちます.
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さて, 次に$L(s)$の定義の無限和を奇数番目だけ取り出すことを考えます. これはEuler積表示の$q=2$の分だけ前に出すことで
$$L(s) =\prod_{q:\mathrm{prime}}(1-\chi(q)q^{-s})^{-1}= \left(1-\quares{2}{p}2^{-s}\right)^{-1}\sum_{1\leq n:\mathrm{odd}}\quares{n}{p}n^{-s}$$
となります.
一方で先ほどの方法で$n$にわたって足していたところを奇数番目のみ足すと,
$$\mathrm{Im}\sum_{1\leq n:\mathrm{odd}} \frac1n\zeta_p^{mn}=\begin{cases}\frac\pi4\quad &&(m<\tfrac p2)\\ -\frac\pi4\quad &&(m>\tfrac p2)\end{cases}$$
が, 面倒な計算によってわかります. 場合わけが生じるのは$\log$の分枝をまたぐからです.
そこで, この2式を使って, 先ほど得た式$\quares{n}{p}=\frac1G \sum_{m\in \mathbb{F}_p^\times}\quares{m}{p}\zeta_p^{mn}$の両辺を, 今度は$1/n$倍してから奇数$n$に渡って足し合わせることで,
$$L(1)= \Big(1-\quares{2}{p}2^{-1}\Big)^{-1}\cdot \frac1{\sqrt{p}}\cdot\frac\pi4\cdot\left(\sum_{m<\frac p2}\quares{m}{p}-\sum_{m>\frac p2}\quares{m}{p}\right)$$ ここで $\quares{-1}{p}=-1$に注意して
$$ L(1)=\frac{\pi}{2-\quares{2}{p}}\cdot\frac1{\sqrt{p}}\sum_{m<\frac p2}\quares{m}{p}$$
となります.
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先ほど述べたように
$$ L(s)=\prod_{q:\mathrm{prime}}\left(1-\quares{q}{p}q^{-s}\right)^{-1}$$
が$s>1$で成り立つので$L(s)>0$であり, 連続性より$L(1)\geq 0$がわかります.
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もう少し高級な結果を使えば, 類数公式によって($p\equiv3\mod4$かつ$p\geq7$のときに限れば)$L(1)=\pi h(-p)/\sqrt{p}$が成り立つので, この方法で正であることまで言えることになります.
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$$L(1)=\frac{\pi}{2-\quares{2}{p}}\cdot\frac1{\sqrt{p}}\sum_{m<\frac p2}\quares{m}{p}$$と$L(1)\geq 0$より,
$$ \sum_{m<\frac p2}\quares{m}{p}\geq 0$$
なので, 前半に平方剰余が多いことが示せました.
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精密には,
$$ \sum_{m<\frac p2}\quares{m}{p}=\left(2-\quares{2}{p}\right) h(-p)$$
なので, 類数が大きくてかつ$2$が平方非剰余な$p$だと前半にすごく集中しているはずです.
例えば$p=59$のとき右辺は$9$になるので, 前半の$29$個のうち$19$個が平方剰余になります. 書き出してみると
| $p=59$ | $a$ |
|---|---|
| 前半 | 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29 |
| 後半 | 30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40,41,42,43,44,45,46,47,48,49,50,51,52,53,54,55,56,57,58 |
のようになります.
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ここまで読んでくださった方, ありがとうございました.