本記事では整数における$p$進付値と$ 2^{n}k+1$型素数を素因数に持つ関数について紹介しようと思います。
1.$p $進付値の定義及び基本性質
2.$p$進付値に関する補題
3.補題の使用例
4.$ x^{2^{n}} + y^{2^{n}}$ の素因数
まず、はじめに整数における$p$進付値を定義します。(既にご存じの方は読み飛ばしてもらって構いません。)
$n$を$0 $でない整数とし、$p$を素数とする。$n$を素因数分解したときの素数$p$における指数を$v_p(n) $もしくは$ord_p(n)$と書き、$p $進付値という。(本記事では、$v_p(n)$の書式を採用する。)
$v_2(8) $$=$$ 3$,$v_5(48) $$=$$ 0$,$v_7(-14) $$=$$ 1$
$n$が$p $で割り切ることのできる最大の回数とも表現できます。また、$k= \frac{n}{p^{v_p(n)}} $とすると、$k$は整数で$p $と互いに素であることは良く使うので抑えおきましょう。
続いて、$p$進付値の基本的な性質について紹介します。
1.$v_p(xy)$$=$$v_p(x)+v_p(y)$
2.$v_p(x+y)$$ \geq $$ \min_{} $($v_p(x),v_p(y)$)
が成立する。
これらの命題は$p$進付値を扱う上で基本的なものとなっており、$p$進付値を有理数やもっと一般な代数体に拡張する際にも引き継ぐ性質です。なお証明は易しいので省略させていただきます。また、1の性質を繰り返し用いることで正の整数$n$において$v_p(x^{n})=nv_p(x)$が成り立つことがわかります。
ここで本記事のメインテーマである補題について述べます。
$x,y$をそれぞれ$0 $でない整数とし、$p $を奇素数とする。
$v_p(x^{2^{v_2(p-1)}} + y^{2^{v_2(p-1)}}) $
$=$$2^{v_2(p-1)} $$ \min_{}(v_p(x),v_p(y)) $が成立する。
これは$ x^{n}+ y^{n}$形の$p$進付値を評価する定理です。$ x^{n}- y^{n}$という形で使えるLTEの補題とは主張が大きく異なり、$n$が素因数に$2$を十分に多く持っていれば$ x^{n}+ y^{n}$の$p$進付値が$n$の倍数になるという点がポイントです。また、この補題を使う際には、$p \neq2$という条件に注意しましょう。下に証明が続きます。
$x$$=$$k_1p^{v_p(x)} $,$y$$=$$k_2 p^{v_p(y)} $と表示し、$n= 2^{v_2(p-1)} $とおく。($k_1$,$k_2$は$p$と互いに素)
また、対称性より$v_p(x)$$\geq $$v_p(y)$の場合のみを証明すればよい。
[1] $v_p(x)$$\gt$$v_p(y)$のとき
$v_p( x^{n}+ y^{n})$
$=$$nv_p(y)+v_p((k_1p^{v_p(x)-v_p(y)})^n+k_2^n)$
$(k_1p^{v_p(x)-v_p(y)})^n+k_2^n$ $ \equiv $$k_2^n$$ \not\equiv $$0$$ \pmod{p} $であるから$v_p((k_1p^{v_p(x)-v_p(y)})^n+k_2^n)$$=$$0$
すなわち$v_p( x^{n}+ y^{n})$=$nv_p(y)$
[2]$v_p(x)=v_p(y)$のとき
$nv_p(y)$ $ \leq $$v_p(x^{n}+y^{n})$
$=$$nv_p(y)+v_p(k_1^{n}+k_2^{n})$
$ \leq $$nv_p(y)+v_p(k_1^{n}+k_2^{n})$$+$$v_p( \sum_{i=1}^{ \frac{p-1}{n}}(-1)^{i-1}k_1^{p-1-ni}k_2^{n(i-1)})$
$=$$nv_p(y)+v_p(k_1^{p-1}+k_2^{p-1})$
フェルマーの小定理より、$k_1^{p-1}+k_2^{p-1}$$ \equiv $$2$$ \not\equiv $$0$$ \pmod{p} $であるから
$v_p(k_1^{p-1}+k_2^{p-1})$$=$$0$
よって$v_p( x^{n}+ y^{n})$$=$$nv_p(y)$ 証明終
$x,y,z$をそれぞれ$0$でない整数とし、$p$を$3k+1$型素数とする。
$(\frac{xyz}{p^{v_p(xyz)}} )^{ \frac{p-1}{3} }\not\equiv1$$\pmod{p}$
$\Rightarrow$$v_p(x^{ \frac{p-1}{3} }+y^{ \frac{p-1}{3} }+z^{ \frac{p-1}{3} })=
\frac{p-1}{3} \min_{}(v_p(x),v_p(y),v_p(z))$
使用条件が限られていますが、このように3つの冪乗和についても公式が作れます。
$x=k_1p^{v_p(x)},y=k_2p^{v_p(y)},z=k_3p^{v_p(z)}$と表示し、$n= \frac{p-1}{3} $とおく。($k_1,k_2,k_3$は$p$と互いに素)
また、対称性より$v_p(x) \geq v_p(y) \geq v_p(z)$の場合のみを証明すればよい。
$nv_p(z)$$\leq$$v_p(x^{n}+y^{n}+z^{n})$
$=$$nv_p(z)+v_p((k_1p^{v_p(x)-v_p(z)})^n+(k_2p^{v_p(y)-v_p(z)})^n+k_3^n)$
$\leq$$nv_p(z)+v_p((k_1p^{v_p(x)-v_p(z)})^n+(k_2p^{v_p(y)-v_p(z)})^n+k_3^n)$$+$$v_p((k_1p^{v_p(x)-v_p(z)})^{2n}+v_p(k_2p^{v_p(y)-v_p(z)})^{2n}+k_3^{2n}-(k_1p^{v_p(x)-v_p(z)}k_2p^{v_p(y)-v_p(z)})^n-(k_2p^{v_p(y)-v_p(z)}k_3)^n-(k_3k_1p^{v_p(x)-v_p(z)})^n)$
$=$$nv_p(z)+$$v_p((k_1p^{v_p(x)-v_p(z)})^{3n}+(k_2p^{v_p(y)-v_p(z)})^{3n}+k_3^{3n}-3(k_1p^{v_p(x)-v_p(z)}k_2p^{v_p(y)-v_p(z)}k_3)^n)$
[1] $v_p(y)>v_p(z)$のとき
フェルマーの小定理より$(k_1p^{v_p(x)-v_p(z)})^{3n}+(k_2p^{v_p(y)-v_p(z)})^{3n}+k_3^{3n}-3(k_1p^{v_p(x)-v_p(z)}k_2p^{v_p(y)-v_p(z)}k_3)^n$$\equiv$$k_3^{3n}$$\equiv$$1$$\not\equiv$$0$$\pmod{p}$
[2] $v_p(x)>v_p(y)=v_p(z)$のとき
フェルマーの小定理より$(k_1p^{v_p(x)-v_p(z)})^{3n}+(k_2p^{v_p(y)-v_p(z)})^{3n}+k_3^{3n}-3(k_1p^{v_p(x)-v_p(z)}k_2p^{v_p(y)-v_p(z)}k_3)^n$$\equiv$$(k_2p^{v_p(y)-v_p(z)})^{3n}+k_3^{3n}$$\equiv$$2$$\not\equiv$$0$$\pmod{p}$
[3] $v_p(x)=v_p(y)=v_p(z)$のとき
$(k_1k_2k_3)^n\equiv(\frac{xyz}{p^{v_p(xyz)}} )^n\not\equiv1$$\pmod{p}$より$(k_1p^{v_p(x)-v_p(z)})^{3n}+(k_2p^{v_p(y)-v_p(z)})^{3n}+k_3^{3n}-3(k_1p^{v_p(x)-v_p(z)}k_2p^{v_p(y)-v_p(z)}k_3)^n$$\equiv$$3(1-(k_1k_2k_3)^n)$$\not\equiv$$0$ $\pmod{p}$
よって[1],[2],[3]の全てにおいて$(k_1p^{v_p(x)-v_p(z)})^{3n}+(k_2p^{v_p(y)-v_p(z)})^{3n}+k_3^{3n}-3(k_1p^{v_p(x)-v_p(z)}k_2p^{v_p(y)-v_p(z)}k_3)^n$$\not\equiv$$0$$\pmod{p}$なので
$v_p((k_1p^{v_p(x)-v_p(z)})^{3n}+(k_2p^{v_p(y)-v_p(z)})^{3n}+k_3^{3n}-3(k_1p^{v_p(x)-v_p(z)}k_2p^{v_p(y)-v_p(z)}k_3)^n)=0$
ゆえに、$v_p(x^{n}+y^{n}+z^{n})$$=$$nv_p(z)$ 証明終
$x ^{2}-6y^{2}=2023$の有理数解$(x,y)$をすべて求めよ。
有理数解を求める問題では合同式では不十分なこともあり、今回は$p$進付値に注目して解いていきます。まず先程紹介した補題が使える形に方程式を変形しましょう。
解答
$x ^{2}-6y^{2}=2023$$ \Longleftrightarrow $$x^{2}+y^{2}=7(y^{2}+17^{2})$
$x=0$または$y=0$のとき、個別に調べることで解を持たないことがわかるので$x\neq 0$,$y\neq0$である。よって、$0$でない整数$a,b,c,d$を用いて$x= \frac{b}{a},y=\frac{d}{c}$とおける。$x^{2}+y^{2}=7(y^{2}+17^{2})$
$ \Longleftrightarrow $$(bc)^{2}+(ad)^{2}=7((ad)^{2}+(7ac)^{2})$・・・①
$p=7$とし、補題2を用いることで$v_7(x^{2}+y^{2})=2 \min(v_7(x),v_7(y))$となり、①の左辺の$ 7$での付値は偶数、右辺の付値は奇数であることがわかり、付値の不一致より解なし。
先程の補題を使って$ x^{2^{n}} + y^{2^{n}}$の素因数について考察していきます。
$x,y $をそれぞれ$0 $でない整数とし、$ n$を正の整数とする。
①$ x$と$ y$が互いに素であるとき、$ 2$を除く素数$ p$が$ x^{2^{n}} + y^{2^{n}}$の素因数ならば$ p$ は$ 2^{n+1}k+1$型素数である。
②$x=y=1$の場合を除いて$ x^{2^{n}} + y^{2^{n}}$は$ 2^{n+1}k+1$型素数を最低1つ素因数に持つ。
①$2$を除く$v_2(p-1) \leq n$である素数$p$において、補題2より$v_p(x^{2^{v_2(p-1)}} + y^{2^{v_2(p-1)}}) $
$=$$2^{v_2(p-1)} $$ \min_{}(v_p(x),v_p(y)) $が成り立つ。$x$と$y$は互いに素であるので$v_p(x)$と$v_p(y)$の少なくともどちらかは$0$であり$v_p(x^{2^{v_2(p-1)}} + y^{2^{v_2(p-1)}}) $$=$$0$となる。
よって$ x^{2^{n}} + y^{2^{n}}$の素因数は$2$か$ 2^{n+1}k+1$型素数に限られる。
②$x$と$y$が互いに素な場合のみ証明すれば十分である。$ x^{2^{n}} + y^{2^{n}}$$\equiv$$1,2$$\not\equiv$$0$であるから$ x^{2^{n}} + y^{2^{n}}$は$2$を$2$を高々1つしか素因数に持たない。一方$ x^{2^{n}} + y^{2^{n}}$$\geq$$2^{2^{1}}+1^{2^{1}}=5$であるから、$2$以外の素因数すなわち$ 2^{n+1}k+1$型素数を持つ。証明終
定理4の副産物として次の系があります。
$n $を正の整数とする。
$2^{n}k+1 $型素数は無限個存在する。
互いに素な正の整数$a,b$に対して、$ax+b$型素数が無限個あることは知られていますが、証明は解析的な道具を用いた高度なものとなります。今回は特に$a=2^{n},b=1$の場合について定理3を用いて初等的な証明を与えます。
$2^{n+1}k+1 $型素数は$2^{n}k+1 $型素数でもあるので、$2^{n+1}k+1 $型素数の無限性を証明すれば十分である。
$N $を正の整数とし、$p $を任意の$2^{N+1}k+1 $型素数とする。($2^{N+1}k+1 $型素数の存在については定理3から明らか。)正の整数$n $に対して、数列{$ a_n$}を$ a_1=$$ p$ $ $,$ a_{n+1} $$= $ ($\prod_{i=1}^{n}$$a_i $)$ ^ {2^{N}}+1 $として定めると、任意の相異なる2つの項は互いに素である。また補題2よりすべての項は$2^{N+1}k+1 $型素数を素因数に含むので、$2^{N+1}k+1 $型素数をいくらで多く生成でき、無限個あることがわかる。証明終
$x,y,z$をそれぞれ$0$でない整数とする。
$ x^{4}+y^{4}=z^2$ を満たす$(x,y,z)$ の組は存在しない。
かの有名なフェルマーの最終定理です。$n =4$の場合では、$z $を$4$乗ではなく$2 $ 乗まで強めることができます。証明は無限降下法を使うやり方が有名で、調べれば沢山出てくると思うので今回は省略させていただきます。
$x,y$をそれぞれ$0 $でない整数とし、$n$を$ 2$以上の整数とする。
$x$と$y$の偶奇が不一致なとき、$v_2(v_p(x^{2^n}+
y^{2^{n}}))=0$となるような$2^{n+1}k+1$型素数$p$が存在する。
これが本記事での最終的な結論となります。証明自体は補題2,5からすぐに従います。
まず、$x^{2^{n}}+y^{2^{n}}$は明らかに奇数であり、$2$を素因数に持たないので、補題2より、$2^{n+1}k+1$型ではない素数は$x^{2^{n}}+y^{2^{n}}$を最大で偶数回割り切る。
また、補題5より$x^{2^{n}}+y^{2^{n}}$を最大で奇数回割り切るような素数$p$が存在し、それは$2^{n+1}k+1$型素数となる。証明終
$x,y$をそれぞれ$0$でない整数とし、$n$を$ 2$以上の整数とする。
$x$と$y$が互いに素であるとき,$x^{2^{n}}+y^{2^{n}}$ は平方因子を持たない。
この予想はどうやら未解決問題のようです。定理6の結果とは相反しておらず、十分に成り立ちうるものだと考えています。
本記事では整数の$p$進付値に注目し、特殊な素数について考察していきました。進展があったら続きを書こうと思います。ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。