この記事は競技科学people 1st Advent Calendar 2025
(
https://adventar.org/calendars/12222
)
の12/23の枠に該当する記事である.
数学オリンピックや大学受験数学等においてペル方程式やそれに関連する出題(後者は稀にペル方程式を解く問題が誘導付きでそのまま出されることはあるが)というのはほとんど無い.しかし私はペル方程式を用いれば一部の整数問題が初等的に解決されることに気づいた.今回は2つの例を紹介するので,これを読んだ皆さんがペル方程式の解の表示を用いて自らの疑問を解決できればそれは何よりも幸福である.
$5^m=n^2+1$を満たす正の整数の組$(m,n)$を全て求めよ.
この問題を提案したArks氏はガウス整数環を用いた解法を用意していたが,これは誤ったものであったという.
ちなみに強い結果を用いることを避けなければこの問題はカタラン予想(ミハイレスクの定理)よりただちに$m=1$が従うが,それだとつまらないので今回は高校数学の範囲内で解決しよう.
$m$が偶数であると仮定すれば差が$1$である正の平方数の組が存在することになり不合理.よって$m$は奇数としてよく,ある$0$以上の整数$k$を用いて$m=2k+1$と表すことができる.
ここで与式は$$n^2-5(5^k)^2=-1$$と変形される.
突然だがここでペル方程式$$a^2-5b^2=-1$$の解について考察しよう.
この解であって$b$が最小となるものは$(a,b)=(2,1)$であるので,任意の解$(a,b)$に対して,ある正の整数$n$が存在して$$(2-\sqrt{5})^n=a-b\sqrt{5}$$
を満たす.(証明は調べれば出てくるので調べてください.)
このような$b$の内$n$番目に小さいものを$b_n$とおけば以下が成り立つ.
$v_5(b_n)=v_5(n)$
頑張ると$b_{n+2}=4b_{n+1}+b_n$がわかる.
これと$b_1=1,b_2=4$を用いると
$b_3=17,b_4=72,b_5=305$がわかるので$n$が$5$で割り切れることと$b_n$が$5$で割り切れることは同値である.
また$v_5(b_5)=1$も踏まえれば$v_5(\dfrac{b_{5n}}{b_n})=1$を示せば十分.(一見この中身が整数となることは非自明に思えるかもしれないが,$b_0=0$とすれば$n=0$としても漸化式が成り立つので$\mod b_k$の周期を見れば$k|n$なら$b_k|b_n$であることがわかるのでOK)
$\dfrac{b_{5n}}{b_n}=\dfrac{(2+\sqrt5)^{5n}-(2-\sqrt5)^{5n}}{(2+\sqrt5)^n-(2-\sqrt5)^n}=\alpha^{4n}+\alpha^{3n}\beta^n+\alpha^{2n}\beta^{2n}+\alpha^n\beta^{3n}+\beta^{4n}$
(ただし$\alpha=2+\sqrt5,\beta=2-\sqrt5$とおいた.)
ここで$\alpha\beta=-1$を踏まえるとこれは$$(161+72\sqrt5)^n+(161-72\sqrt5)^n+(-1)^n((9+4\sqrt5)^n+(9-4\sqrt5)^n)+1$$となる.これを$25$で割ったあまりについて考える.
二項展開を用いて頑張って計算するとこれは$\mod 25$において$$12×16^{n-2}-8×11^{n-2}+1$$と合同であることが分かる.LTEの補題からこの式において$n→n+5$としても$\mod 25$において値は変化しないが,$n=1,2,3,4,5$どれにおいてもこれは$5$と合同なのでこれは常に$5$と合同.よって示された.
ある正の整数$k,n$が存在して$b_n=5^k$となると仮定すれば補題より$v_5(n)=k$より$n≧5^k.$しかしこのとき$$b_n=\dfrac{(2+\sqrt5)^n-(2-\sqrt5)^n}{2\sqrt5}>\dfrac{4^n-1}{5}≧\dfrac{4^{5^k}-1}{5}$$より$5^k≧\dfrac{4^{5^k}-1}{5}$となるはずだがこれは不合理.よってこのような正の整数$k$は存在せず,$k=0$が従う.このとき$(m,n)=(1,2)$となり,これが求めるものである.
いわゆる一部の三項間漸化式の解に対してLTEが使えるという話である(今回は$5$のオーダーのみ分かればよかったのでそれだけ示した.詳しくはOMC040Fの解説等を参照)これによって$a^n-b^n=c^m$型のディオファントス方程式を解くときと全く同じ手順で解けるというわけである.
多分同じような感じで任意の固定された$a$に対して$a^m=n^2+1$の解が有限個であることが初等的に示せるはずだが,$a$を固定しなかった場合はペル方程式の最小解について考察しないといけないので厳しそう…?
ある$2$以上の整数$a$が存在して以下の値が平方数となるような正の整数$n$を全て求めよ.$$(a-1)(a^2-1)…(a^n-1)$$
原題では$a$が偶数の場合のみを考えているが,実はペル方程式の解の表示を用いればそのような場合に限定せずとも解くことが可能である.(ごめん大嘘)
追記:$n≧9$の部分の議論に嘘がある可能性があるので注意
求める値は$n=1,2$であることを示す.$n=1$のとき$a=2$とすれば与式は$1$と等しくなるのでOK.$n=2$のとき$a=3$とすれば与式は$16$と等しくなるのでOK.
$n=3$のとき与式が平方数となることは$(a^2-1)(a^2+a+1)$が平方数となることと同値である.$a^2-1,a^2+a+1$は平方数でないので(簡単な議論によって)$a^2-1=3k^2,a^2+a+1=3j^2$と置けることが分かる.$k< j$なので$$a^2+a+1≧3k^2+6k+3=a^2+6k+2$$
より$\sqrt{3k^2+1}≧6k+1$となるがこれは不合理.よって存在しない.
$n=4$のとき$(a^2+1)(a^2+a+1)$が平方数となることと同値だが,$a^2+1,a^2+a+1$が互いに素であることとこれらがともに平方数でないことから存在しない.
$n=5$のとき$(a-1)(a^2+1)(a^2+a+1)(a^4+a^3+a^2+a+1)$が平方数となることと同値.このとき簡単な議論により$a^2+1$が平方数の$2$倍,$a^2+a+1$が平方数の$3$倍と等しいことが必要.
この$n=5$の場合をペル方程式を用いて解決できると思ったが無理だった!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
わかった人教えてください
ちなみに$\dfrac{x^n-1}{x-1}=y^2$の整数解に関する有名な主張を引用するとこれらの場合も存在しないらしいです.
$n=6$のとき$ (a+1)(a^2-a+1)(a^2+1)(a^4+a^3+a^2+a+1)$が平方数になることと同値.このとき簡単な議論から$a^4+a^3+a^2+a+1$が平方数となる必要があるが$$(2a^2+a)^2<4a^4+4a^3+4a^2+4a+4<(2a^2+a+2)^2$$から$4a^4+4a^3+4a^2+4a+4=(2a^2+a+1)^2$である他なくこのとき$a=3$が必要.しかしこのとき平方数とならないので存在しない.
$n=7$のとき$(a-1)(a+1)(a^2-a+1)(a^2+1)(a^4+a^3+a^2+a+1)(a^6+a^5+a^4+a^3+a^2+a+1)$が平方数になることと同値.
まず$a^6+a^5+a^4+a^3+a^2+a+1$が平方数でないことを示すが,
これは微分などを用いることで$a≧6$で
$$(8a^3+4a^2+3a+2)^2<64(a^6+a^5+a^4+a^3+a^2+a+1)<(8a^3+4a^2+3a+3)^2$$であることと$a=2,3,4,5$で平方数でないことから示される.よって$n=6$での議論から$a^2-a+1,a^2+1,a^4+a^3+a^2+a+1$も平方数でないので,ある正の整数A,Bが存在して$(a-1,a+1)=(35A^2,6B^2),(70A^2,3B^2)$となるので$35A^2+2=6B^2$または$ 70A^2+2=3B^2$が成り立つはずだがこれは$\mod7$を見ると成り立たないことが分かるので存在しない.
$n=8$のとき$(a^2-a+1)(a^4+1)(a^4+a^3+a^2+a+1)(a^6+a^5+a^4+a^3+a^2+a+1)$が平方数になることと同値.しかし$n=4$の場合と同様に$a^4+1$が平方数でないことから存在しない.
$n≧9$のとき,$n$以下の$3$冪であって$2$番目に大きいものを$3^k$とする.このとき$n≧9$から$k$は正.
$3^{k+1}≦n<2×3^{k+1}$であるとき
$1,2,…n$の中に$3^{k+1}$の倍数はちょうど$1$つしか存在せず,かつこれが$3$以外の素因数を持たないことと$\Phi_{3^{k+1}}(a)=(a^{3^k})^2+a^{3^k}+1$が平方数でないことからこれは平方数の$3$倍に等しい.よって$a\equiv1\pmod3$である.
また$n$以下の$3^k$の$2$べき倍の内最大のもの$2^j3^k$を取ればその最大性から$1,2,…n$の中に$2^j3^k$の倍数はちょうど$1$つしか存在せず,かつこれが$2,3$以外の素因数を持たないことと$\Phi_{2^j×3^k}(a)=(a^{2^{j-1}3^{k-1}})^2-a^{2^{j-1}3^{k-1}}+1$が平方数でないことからこれは平方数の$3$倍に等しいはずだが,$a\equiv1\pmod3$より矛盾.
$2×3^{k+1}≦n<3^{k+2}$であるとき
$n$以下の$3^k$の$2$べき倍の内最大のもの$2^j3^k$を取ればその最大性から$1,2,…n$の中に$2^j3^k$の倍数はちょうど$1$つしか存在せず,かつこれが$2,3$以外の素因数を持たないことと$\Phi_{2^j×3^k}(a)=(a^{2^{j-1}3^{k-1}})^2-a^{2^{j-1}3^{k-1}}+1$が平方数でないことからこれは平方数の$3$倍に等しいはずだが,$2×3^{k+1}=6×3^k>4×3^k$より$j-1≧1$なのでこれは$3$で割り切れず矛盾.
というわけでペル方程式何も関係なくなってしまったが$n≧9$の場合でやってることかなり面白いと思うのでゆるして
最後まで読んでくれてありがとう
$n=5,6,7$の場合は思いついたら追記します
追記:$n=6$は思いついた
追記:$7$もいけた