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Ehresmannの補題の証明

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$$\newcommand{bm}[1]{\boldsymbol{#1}} $$

今書いてる記事に急遽必要になったので別にまとめる.

定義ら

沈めこみ

可微分多様体$M^m,N^n$と可微分写像$f:M\rightarrow N$を取る.
$f$沈めこみ $\overset{\text{def}}{\Leftrightarrow}$ $\rank(df)_p=n$

固有写像

位相空間$X,Y$を取り,連続写像$f:X\rightarrow Y$を考える.
$f$固有写像$\overset{\text{def}}{\Leftrightarrow}$ $^\forall K\subset Y\text{:コンパクト},\ f^{-1}(K)\subset X\text{:コンパクト}$

$M^m,N^n$と書いたら可微分多様体として,$f:M\rightarrow N$と書いたら可微分写像とする.

ベクトル場の持ち上げ,積分曲線の持ち上げ

ベクトル場の持ち上げ

$f$を沈めこみ,$Y$$N$上のベクトル場とする.
$$^\exists X\text{:$M$上のベクトル場},\ (df)_p(X|_p)=Y|_{f(p)}$$

多様体$M$のベクトル場全体の集合を$\mathfrak{X}(N)$とするとこの定理は次の可換図式で整理できる.
$$\begin{xy} \xymatrix{ \mathfrak{X}(M) \ar@{.>}[r]^{df} & \mathfrak{X}(N)\\ M \ar[u] \ar[r]^{f} & N \ar[u] } \end{xy}$$
ベクトル場の引き戻しが存在するかの補題なので,ベクトル場のリフトと言ったりする.

$^\forall p\in M$を取ると,陰関数定理より$p\in^\exists U\text{:nbh},\ f(p)\in^\exists V\text{:nbh}$,局所座標$^\exists x:U\rightarrow \mathbb{R}^m$$^\exists y:V\rightarrow\mathbb{R}^n$ s.t.
$$y\circ f\circ x^{-1}(x^1,\dots x^m)=(x^1,\dots,x^n)$$
$f$は沈み込みなため$m\geq n$であることに注意する.

$\underline{\text{・State 1 }}$
ベクトル場$\frac{\partial}{\partial y^i}$のリフトは$\frac{\partial}{\partial x^i}$である.
$\because$ $f$のヤコビ行列は局所座標を用いて以下のように計算される・
$$J_f = \qty(\begin{array}{ccc} \frac{\partial f_1}{\partial x^1} & \cdots & \frac{\partial f_1}{\partial x^m}\\ \vdots&\ddots&\vdots\\ \frac{\partial f_n}{\partial x^1} &\cdots& \frac{\partial f_n}{\partial x^m} \end{array}) = \qty(\begin{array}{cccccc} 1 &\cdots& 0 & 0 &\cdots & 0\\ \vdots &\ddots& \vdots & \vdots &\ddots&\vdots\\ 0 &\cdots & 1 & 0 & \cdots & 0 \end{array}) = (E_{n\times n}, O_{(m-n)\times n})$$
よって$(df)_p(\frac{\partial}{\partial x^i}) = J_f \qty(\begin{array}{c} 0\\ \vdots\\ 1\\ \vdots\\ 0 \end{array}) =\frac{\partial}{\partial y^i}$から示される. $\square$
 よって任意の$N$のベクトル場は,$\frac{\partial}{\partial y^i}$の線形結合で書けるため,$M$のベクトル場になるリフトが存在する.
 ここまでは$M$$p$の開近傍での話だ.$M$で成立することを示すには,$M$のチャートとして$\{U_\alpha\}$が取れ,その上の1の分割$\{\lambda_\alpha\}$が取れる.$M$を覆う開集合$U_\alpha$らの上で定義された$N$のベクトル場$Y_\alpha$を取る.そのリフトを$X_\alpha$と置き,$M$上のベクトル場を$\displaystyle X=\sum_\alpha \lambda_\alpha X_\alpha$$N$のベクトル場を$\displaystyle Y=\sum_\alpha \lambda_\alpha Y_\alpha$とし,$Y$のリフトが$X$であることを示す.
$$\begin{array}{rcl} \displaystyle (df)(X) &=& \displaystyle (df)\qty(\sum_\alpha \lambda_\alpha X_\alpha )\\ &=& \displaystyle \sum_\alpha \lambda_\alpha (df)(X_\alpha)\\ &=& \displaystyle \sum_\alpha \lambda_\alpha Y_\alpha \circ f\\ &=& Y\circ f \end{array}$$

積分曲線の持ち上げ

$f$は固有とする.ベクトル場$Y\in\mathfrak{X}(N)$$f$によるリフトを$X\in\mathfrak{X}(M)$とする.$q=f(p)$と置き,$X$の積分曲線を$\phi_X^t$と置き$t\in[0,b)$で定義されているとする.同様に$Y$の積分曲線を$\phi_Y^t$と置き$t\in[0,a)$で定義されているとする.
 このとき$f\circ \phi_X^t=\phi_Y^t\circ f$が成り立つ.

この事実を可換図式で整理しよう.
$$\begin{xy} \xymatrix{ \phi_X^t \ar@{.>}[r] & \phi_Y^t\\ M \ar@{}[u]|*{\small \bigcap} \ar[r]^{f} & N \ar@{}[u]|*{\small \bigcap} } \end{xy}$$
よって積分曲線のリフトと呼んだりする.この主張で大事なことはベクトル場が持ち上がったとしても,局所的に積分曲線を持ち上げられるかもしれないが,それが大域的に持ち上げられるかはわからない,というところだ.それを可能にするのがこの固有性だ.

$a< b$とする.$K=f^{-1}\qty(\{\phi_Y^t(q)\ |\ t\in[0,b)\})$と置くと,$f$は固有写像からコンパクトである.$Y$のリフトが$X$であるから積分曲線$t\mapsto\phi_X^t(p)$$K$の中に含まれる.また,$a$は有限にはなり得らない.なぜならコンパクトであれば完備なためだ.

 本当に固有かどうかの違いで積分曲線の持ち上げれるか否かが変わるのだろうか.確かめてみよう.$S^1$を実現するのに$S^1\ni\theta\mapsto e^{i\theta}\in \mathbb{C}\cong\mathbb{R}^2$という埋め込みを考えておく.
 アニュラス$S^1\times\mathbb{R}$から$\mathbb{R}$への写像を$:\pi_2:(p,x)\mapsto x$とする.このとき$K\subset \mathbb{R}$であるコンパクトセットの引き戻しは$S^1\times K$となるため,$\pi_2$は固有写像である.
 しかしアニュラスから1本線を抜いた図形$S^1\times\mathbb{R}\ \backslash\ \{e^{i\times0}\}\times \mathbb{R}$からの写像$\pi_2':(p,x)\mapsto x$のコンパクト集合$K$の引き戻しは$S^1\backslash\{e^{i\times0}\}\times K$となりコンパクトでないため,固有写像ではない.

 さてこの写像の下で$\mathbb{R}$のベクトル場$\frac{\partial}{\partial y}$とその積分曲線を引き戻してみよう.ちなみに分かって書いてるわけではないので僕もすごいドキドキしている.もしかしたうまく行かないかも…ちなみに$\frac{\partial}{\partial y}$の積分曲線は$\phi_\mathbb{R}^t(x)=x+t$だ.

$(d\pi_2)=\qty(\begin{array}{cc} 0 & 1 \end{array})$であるため,ベクトル場$\frac{\partial}{\partial\theta}+\frac{\partial}{\partial x}$を取れば
$$(d\pi_2)\qty(\frac{\partial}{\partial\theta}+\frac{\partial}{\partial x})=\qty(\begin{array}{cc} 0 & 1 \end{array})\qty(\begin{array}{c} 1\\ 1 \end{array})=\frac{\partial}{\partial y}$$
このベクトル場$\frac{\partial}{\partial \theta}+\frac{\partial}{\partial x}$の積分曲線は
$$\phi_{S^1\times\mathbb{R}}^t(e^{i\theta},x)=(e^{i(\theta+t)},x+t)\in S^1\times\mathbb{R}$$
となる.

これがリフトになってるか確認すればいい.つまり$\pi_2\circ\phi_{S^1\times\mathbb{R}}^t = \phi_\mathbb{R}^t\circ\pi_2$を確かめる.
$$\pi_2\circ\phi_{S^1\times\mathbb{R}}^t(e^{i\theta},x)=\pi_2(e^{i(\theta+t)},x+t)=x+t$$
$$\phi_\mathbb{R}^t\circ\pi_2(p,x)=\phi_\mathbb{R}^t(x)=x+t$$
より確かめられた.

 さて次に$\pi'_2$だ.同様にベクトル場として$\frac{\partial}{\partial\theta}+\frac{\partial}{\partial x}$を取ると,積分曲線が計算できて$\phi_{S^1\times\mathbb{R}}^t(e^{i\theta},x)=(e^{i(\theta+t)},x+t)$となる.ここで$(e^{-i\frac{\pi}{2}},0)$から出発するflowを考えると,$t=\frac{\pi}{2}$で未定義になっている.つまり
$$\pi_2\circ\phi_{S^1\times\mathbb{R}}^{\frac{\pi}2} (e^{-i\frac{\pi}2},0)= \phi_\mathbb{R}^{\frac{\pi}2}\circ\pi_2(e^{-i\frac{\pi}2},0)$$
が成り立たないため,大域的に持ち上がっていないことが分かる.

 最初$\frac{\partial}{\partial x}$というベクトル場を考えたが,真っすぐすぎて未定義領域を掠めなかったので,捩じって突入させた.

実は積分曲線が一意に定まらないような例もある.$x>0,y>0$$\mathbb{R}^2$のベクトル場$\frac{\partial}{\partial x}+y^p\frac{\partial}{\partial y}$は積分曲線が一意に定まらない.もしかしたらこの定理にはもう少し条件がいるのかもしれない.

Ehresmannの補題

Ehresmannの補題

$f$が固有な沈めこみのとき,$f$の像は局所自明なfibrationになる.
すなわち$^\forall p\in N,\ p\in ^\forall U\text{:開近傍},\ f^{-1}(U)\overset{\text{diffeo.}}{\approx}f^{-1}(p)\times U$.またその微分同相を$\Phi:f^{-1}(p)\times U\rightarrow f^{-1}(U)$$pr_2:f^{-1}(p)\times U\hookrightarrow U$としたとき$pr_2\circ \Phi=f$となる.

$^\forall q\in N$を取り,この点の周りで局所自明化写像を構成する.示すことは局所的な性質なので$q=0,N=\mathbb{R}^n$としていい.
 $^\forall p\in f^{-1}(0)$を取る.$f$が沈めこみであるから,陰関数定理より,$p\in^\exists U_p\subset M, \ 0\in^\exists V\subset N$となる開近傍と座標$\varphi_p,\psi_p$を以下を満たすように取ることができる.
$$\psi_p\circ f\circ(\varphi_p)^{-1}:\varphi_p(U_p)\ni(x_1,\dots,x_m)\mapsto(x_1,\dots,x_n)\in\psi_p(v_p)$$
かつ$f(U_p)\subset V_p$

 このような$U_p,\varphi_p,V_p,\psi_p$を全ての$p\in f^{-1}(0)$で一組ずつ取る.すると$\{U_p\}_{p\in f^{-1}(0)}$$f^{-1}(0)$の開被覆になる.ここで$f$の固有性より$f^{-1}(0)$はコンパクトであるから,$\{U_p\}_{p\in f^{-1}(0)}$は有限個の$p_1,\dots,p_k\in f^{-1}(0)$を用いて$\{U_{p_i}\}_{i=1}^k$$f^{-1}(0)$の開被覆となるように選べる.(記号の簡略化で$U_{p_i},\varphi_{p_i},V_{p_i},\psi_{p_i}$を単に$U_i,\phi_i,V_i\psi_i$と表記する.)

 この条件の下で
$$U=\bigcup_{i=1}^k U_i,\ \ \ V=\bigcap_{i=1}^k V_i$$
と置く.これらはそれぞれ$f^{-1}(0)$$M$における開近傍,$0$$N$における開近傍である.

 以下では$f$の局所自明化を$V$で構成する.$N=\mathbb{R}^n$の座標系を$(y_1,\dots,y_n)$と書き,$V$上のベクトル場$Y_j=\frac{\partial}{\partial y_j}$を考えよう.このとき$f$が沈めこみだから,$Y_j$のリフトで$U$上定義されたベクトル場$X_j$がある.

 さて$U,V$を適当に小さく取り直して,$X_j$の積分曲線を$\phi_{X,j}:(-\varepsilon,\varepsilon)\times U\rightarrow U$$Y_j$の積分曲線を$\phi_{Y,j}:(-\varepsilon,\varepsilon)\times V\rightarrow V$と表記する.$Y_j$の定義から積分曲線は
$$\phi_{Y,j}(t,y_1,\dots,y_n)=(y_1,\dots,y_j+t,\dots,y_n)$$
であり,$f$は固有な沈めこみだから積分曲線をリフトでき
$$f\circ\phi_{X,j}(t,-)=\phi_{Y,j}(t,-)\circ f$$
が成り立つ.したがって任意の$x\in f^{-1}(0)$に対して
$$f\circ\phi_{X,j}(t,x)=(0,\dots,t,\dots,0)$$
であるから,これを全ての$j$で合成することにより
$$f\circ\phi_{X,n}(y_n,-)\circ\cdots\circ\phi_{X,1}(y,-)(x) =f(x)$$
であるからこれで$f$の局所自明化
$$\Phi:V\times f^{-1}(0)\rightarrow f^{-1}(V),\ \ \ (y_1,\dots,y_n)\mapsto \phi_{X,n}(y_n,-)\circ\cdots\phi_{X,1}(y_1,-)(x)$$
が得られる.

 参考にしたmathpediaの記事に$f$-許容的という言葉が出てきてモース関数のadapted $f$かと思ったら,リフトあたりで参考にしたpdfにrelate $f$ってあってこれかぁ!ってなった.$f$許容的という言葉は聞いたことがないので,聞いたことのあるリフトという言葉を使った.
 と思ったら応用特異点論という教科書に載っていた.田邊さんに積分曲線の持ち上げ載ってるの知らないですよね~ってLineで聞いたら,応用特異点論で見かけたけど…って帰ってきて,病室のベッドでひっくりえってしまった.固有写像が索引になかったので確認するのをやめたのだ.見てみたら局所では持ち上がるという定理だった.確かに証明を確認してみればコンパクト性を外したら完備だって事実が使えなくなってしまう.
 「ベクトル場は沈めこみだと持ち上がるけど,積分曲線はわからないよね~」と僕の先生がよく言ってので有名事実だと思ったら日本語のpdfネットに落ちてないのなぜ.まあこれで残せたということで良しとしよう.

参考
https://old.math.jp/wiki/Ehresmann%E3%81%AE%E8%A3%9C%E9%A1%8C
https://people.math.osu.edu/george.924/Ehresmann%20Theorem

投稿日:109
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たぶん微分幾何をやってるねこです

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