はじめに
受験では, 確率漸化式の問題が頻出である。とくに多角形や多面体のどこかの頂点に点が止まっていて, そこから辺で繋がっている別の頂点にある確率で移動する問題が多い。これらの問題ではよく推移図という図が用いられる。ただ, 私が知る範囲では, 推移図は受験参考書など受験産業で生み出された資料でしか拝見したことがない。だから, 数学の世界できちんと市民権を得ている(グラフ理論の)グラフを用いて確率漸化式の問題を明解に説明し, それを答案を書く際に役立ててもらおうというのがこの記事の目的である。以下の東大の問題をグラフを使って解くことを今回の目的とします。
この記事は, 確率漸化式の問題を一度も解いたことがない人には重い内容となっているので, 初学者は受験参考書などを参考にして読んでみてください。
東大理系第3問(2024)
座標平面上を次の規則(a), (b)を満たしながら1秒ごとに動く点を考える。
(a)最初は
(b)ある時刻のとき, 1秒後にはは
- 確率で軸に関してと対称な点
- 確率で軸に関して対称な点
- 確率で直線軸に関して対称な点
- 確率で直線軸に関して対称な点
に移動する。
の存在範囲を求めよ。答えのみでよい。
秒後にである確率は, 秒後にである確率と等しいことを示せ。
秒後にである確率を求めよ。
グラフ理論のグラフとは
グラフ
いくつかの点とそれらを結ぶ曲線でできている図をグラフといい, 点のことを頂点, 曲線のことを辺という。
グラフの1例
は, 4つの頂点と4つの辺からなるグラフである。また
グラフの1例
は, 4つの頂点と5つの辺からなるグラフである。ここで注意してほしいのは, 辺と辺の交点を頂点としますと宣言しなければ, このグラフの頂点ではない。ゆえに
グラフの1例
とは, 「異なる」グラフである。このグラフをとしよう。しかし, は次のグラフとは, 「同じ」グラフである。
一般に2つのグラフが「同じ」グラフである。ことをグラフ同型といい次で定義される。
さらにグラフは我々が習ってきた多角形の辺違い辺の端点が同じ頂点である場合もある。今, そのような辺の頂点をとすると, その辺のことをを基点とするループという。また, ある2つの頂点を結ぶ辺は複数存在してもよく, そのような辺を多重辺という。しかし今回は幸運にもそのようなものは出ないので例はあげない。
遷移確率
を多重辺をもたないグラフとする。今の頂点のどこかに粒子があるとする。粒子は今いる頂点から1秒ごとに辺で繋がっている任意の頂点に移動するという規則で動くとします。からに移動する確率を辺の遷移確率と言います。ただし, からに移動する確率, 辺の遷移確率はの遷移確率と等しいと今回は仮定します。
東大理系第3問(2024)をグラフを利用して解く
東大理系第3問(2024)(再掲)
座標平面上を次の規則(a), (b)を満たしながら1秒ごとに動く点を考える。
(a)最初は
(b)ある時刻のとき, 1秒後にはは
- 確率で軸に関して(2, 1)と対称な点
- 確率で軸に関して(2, 1)対称な点
- 確率で直線軸に関して(2, 1)対称な点
- 確率で直線軸に関して(2, 1)対称な点
に移動する。
の存在範囲を求めよ。答えのみでよい。
秒後にである確率は, 秒後にである確率と等しいことを示せ。
秒後にである確率を求めよ。
(1)の答え
下図をグラフと見てこれをとおく。点は上でランダムウォークしていると考えることができる。ただし最初はにいてある頂点から別の頂点への遷移確率は問題で与えられた確率と同じとする。
グラフ
は原点対称なグラフと重なった頂点を対応させることで, とはグラフ同型である。またこれら2つのグラフの対応する辺の遷移確率は同じであるから, このの任意の頂点に対して, 秒後にがにいる確率は, 秒後にがその原点対称な点にいる確率と等しい。よって, 秒後にがにいる確率とにいる確率は等しい。
以下のグラフ上でがランダムウォークしていると考える。このグラフは有向線分を有向線分を貼り合わせて(同一視して)とが重なった部分をとし, とが重なった部分をとしています。それ以外の点は記号の置き方でアナロジーしてください。
グラフ
ただし, 最初はに止まっていて各辺の遷移確率は辺の近くに書いた値である。秒後ににがいる確率をそれぞれとする。求める確率は, なので, を求める。ここで, ある時刻にの頂点にいるなら, その1秒後には頂点にはいないので, が奇数のとき, が偶数ならが成り立つ。よって, となるが存在するときのみを考える。秒後ににいる事象は
- 秒後ともににいる(その確率は)
- 秒後ににいるが, 後ににいる(その確率は)
の互いに排反な2つの事象の和事象なので
だから
だから