こんにちは.
最近巷をにぎわせている0除算問題ですが, みなさんは0で割るのがどうして「ダメ」なのか説明できるでしょうか?
まあさすがにできますよね.
では, なぜ-1の平方根を取るのが「ダメ」ではないのか説明できるでしょうか?
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今回はそんなことをテーマにしてちょっとだけお話をしたいと思います.
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$1÷0$も$\sqrt{-1}$もどちらも実数の中には存在しませんが, 「架空の数」として無理やり考えてしまいましょう.
$2$乗すると$-1$になる「架空の数」を$i$とおく. また$a,b$を実数として$a+bi$の形で表せる数を複素数という.
$0$をかけると$1$になる「架空の数」を$j$とおく. また$a,b$を実数として$a+bj$の形で表せる数を変な複素数という.
定義1の方の複素数は高校数学でもよくやるあの複素数です. 一方今回考えたい「$1÷0$を架空の数と思う」方には「変な複素数」という名前を付けてみました.
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この2つの定義は非常に似ていますが, 考えたいのは以下の問です.
複素数と変な複素数の違いは何か?
どのような点において, 変な複素数は「ダメ」で、複素数は「ダメ」でないのか?
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上のように2通りに実数の世界を拡張したわけですが, 自由に拡張したとは言え, 数の集合として当然満たしていて欲しい演算法則(例:和の交換法則)があります. 変な複素数がそれを満たさないことを言いましょう.
では, ちょっと考えてみてください.
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変な複素数は, 積の結合法則を満たさないですね.
「変な複素数」は, 積の結合法則を満たさない.
$0\times j=1$であったことを思い出すと,
$2\times(0\times j)=2$ 一方で
$(2\times0)\times j=1$ となり, 結合法則「$a(bc)=(ab)c$」を満たしてません.
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つまり「変な複素数」は, 結合法則という当然満たされていて欲しい性質を満たさないという点で「ダメ」なのでした.
ちなみに四元数が積の交換法則を犠牲にしているように, 変な複素数も結合法則を犠牲にすれば良いのでは?と思う方もいるかもしれませんが, 一般に結合的でないものは相当「気持ち悪い」対象になってしまいます.
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「変な複素数」が変だというのは分かり切っていた話なのですが, この記事の本題はこれです.
複素数に対してはこのような不都合が起きない, とすぐに言い切れるでしょうか?
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結論から言ってしまうとこれは結局は, きちんと全部調べないといけません. 本当は交換法則・結合法則・分配法則の成立を, 全て一般の文字でおいて示さないといけません.
なのに普通の高校の教科書はこれをしないどころか, 「架空の数を考えても通常の計算規則は全て成り立つ」と言わんばかりに何の注意もなく複素数というものを考えだすことがほとんどです. しかしこの行為が一般に危険であることは, 上の例を見ればわかってもらえると思います. 本当はもっと慎重にならなくてはいけません.
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はじめて複素数に出会ったとき, 「え, そんなこと勝手にしちゃっていいの?何かおかしいこと起きない?」と疑ったことがある人は, 数学のセンスがあるかもしれません. (これの裏が成立するとは言ってません.)
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この記事で, 高校の教科書で当たり前のように導入される「架空の数」の演算というのは, 普通は無条件にうまく行くわけではないよ, ということが伝われば幸いです.
それでは, 読んでくださった方, ありがとうございます.
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ちなみに複素数の演算が諸法則を満たす(数学の言葉で言えば, 可換環になる)ことは全部愚直に確かめる以外の確認方法もあって, 例えば$2\times2$行列で$\begin{pmatrix}0 & -1\\ 1 &0\end{pmatrix}^2=1$が成り立つことを使ったり, 多項式を$x^2+1$で割った余りを考えるなどして他の対象で記述する, ということもできます. でもこれでも結局は行列や多項式が諸法則を満たすことは確認しないといけないので, あまり根本的な解決にはなっていない気もします.
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