どうもこんにちは,🐟🍊みかん🍊🐟です。今回は,今話題になっている論文 "arXiv:2609.04176v1" を読んで感じたギャップについて書いていこうと思います。私は無理性に関する数論に関して詳しくないため,特定の命題に対する違和感,行間の広さを感じたがゆえに,LLMを用いてその命題を独立して調査したものです。論文全体の誤植などを修正することによって解決できるものかもしれません。
この記事の目的はCatalan定数の無理性について述べるものではなく,arXiv:2609.04176v1, Proposition 9.5で主張されている$B^2\log B$項がキャンセルされるという現象が実際に導かれるかどうかという一点のみであって,論文の主定理の真偽について述べるものではありません。あと,急いで書いているので敬体と常体が混ざっています。
また,この記事を書く上でGPT-5.6 Solの力をかなり借りました。
Zhi-Wei Sun, Catalan's constant is irrational, arXiv:2609.04176v1はCatalan定数
\begin{align}
\beta(2) = \sum_{0\le k}\frac{(-1)^k}{(2k+1)^2}
\end{align}
の無理性を主張するものであって,主定理の証明を閉じるために必要な漸近評価が命題9.5でした。それは
\begin{align}
\log H_B^{\min}+\log|\widehat q_B| \le \left( \frac{39}{200}+c_{\rm odd}-\Lambda_{\rm mid}-\frac{83}{2400} \right)B^2+o(B^2) \tag{9.3}
\end{align}
が成り立つことを主張しています。その証明では,(3.5), (5.24), (4.1) を出発点とした後,
The $B^2\log B$ terms cancel because the denominator baseline $a_{Q,B}$ and the real normalization come from the same fixed scalar.
と述べていて,残る"raw quadratic coefficient"が
\begin{align}
4\rho-2\rho^2=\frac{39}{200},\qquad \rho=\frac1{20}\tag{9.4}
\end{align}
であると主張しています。この記事で主張することは,少なくとも論文中に書かれている(3.5), (5.24), (4.1), (4.5), (6.17), (6.19)をそのまま組み合わせた場合については成立していないように見える,ということです。自分が検証した範囲では差が
$$
\frac1{800}B^2\log B
$$
になってしまっていて,これは$O(B^2)$では吸収することはできないと思われます。
今回の核心となるような式については漸近係数を都合よく変えるような修正を加えていません。
Section 3 では$D$が未定義なまま$0\le r< D$が使われています。しかしながら,$N=2B+S+3$であって,列数から$D+S+3=N$でなければならず,$D=2B$と解釈するのが自然。
(5.13)や注意9.3では$F_D$が現れるが,本文中で定義されていたのは
\begin{align}
F_{B} = \prod_{r=0}^{2B-1}r!
\end{align}
であったから,$F_B$を$F_D$と同じ量であると解釈した。別の可能性としてより一般的に
\begin{align}
F_{D} = \prod_{r=0}^{D-1}r!
\end{align}
という量を定義していた可能性もあるが,$D=2B$としていたので,同じことである。
元々$J=\{1,\dots ,S\}$としていたが,証明で$I=J=\{0,\dots ,S-1\}$を用いていて記号の衝突が発生している。これは単なる事故であると自分は解釈している。
$T_i$と$T_{i+1}$のシフトで不整合があります。$T_i$を起点に(2.3)以降展開していましたが,同ページ"and hence ~ "以降では突然$T_{i+1}$が出てきています。$T_i$版を文字通り用いると$k=0$の項が残って主張と噛み合いません。従って$T_{i+1}$を起点に漸化式?を一つずらしたものが意図された式であると考えられます。これは記号上の不整合なので誤植とはもしかしたら違うかもしれません。
先の修正を除き,論文通りの記号を用います。
\begin{align}
N=2B+S+3, \qquad F_B=\prod_{r=0}^{2B-1}r!
\end{align}
とし,
\begin{align}
\hat q_B = \pm\frac{F_B\det\mathcal R[A,J]}{\prod_{i=0}^{N-1}\Pi_i} \tag{3.5}
\end{align}
を得ていました。ここで
\begin{align}
\Pi_i=\prod_{h=1}^B(2(h+i)+1)^2
\end{align}
なので,$\prod_{i=0}^{N-1}\Pi_i$は奇数になっているはずです。また,奇素数$p$に対して
\begin{align}
v_p\left(\prod_{i=0}^{N-1}\Pi_i\right)-v_p(F_B)=\sum_{\nu\ge 1}a_{p^\nu,B}\tag{5.13}
\end{align}
が主張されていました。また系5.2では
\begin{align}
\log H_B^{\min}\le \sum_{\substack{p\ \mathrm{odd},\ \nu\ge1}} \bigl(a_{p^\nu,B}-m_{p^\nu,B}^{A}\bigr)\log p \tag{5.24}
\end{align}
を与えていました。ここで(5.13)を$\log p$を掛けて全奇素数$p$に対して足し合わせることで,
\begin{align}
\sum_{p\ odd;\nu\ge 1}a_{p^\nu,B}\log p= \log\prod_{i=0}^{N-1}\Pi_i - \log F_B+v_2(F_B)\log 2
\end{align}
を得ます。(3.5)と(5.24)を組み合わせることによって,おそらく命題9.5で省略されている評価,
\begin{align}
\log H_B^{\min} + \log |\hat q_B| \le v_2(F_B)\log 2+\log |\det\mathcal R[A,J]|-\sum_{p\ odd; \nu \ge 1}m_{p^\nu,B}^{A}\log p
\end{align}
が得られます。ここから Proposition 9.5 の証明と同様に (4.1)
\begin{align}
q^S\det\mathcal R[A,J]=\sum_{\substack{I\subset{0,\dots,N-1}\ |I|=S}}\Xi_I \tag{4.1} \end{align} を用います。つまり,三角不等式から
\begin{align} \log|\det\mathcal R[A,J]| \le{}& -S\log q +\log\binom NS\\\ &+ \log\max_{\substack{I\subset{0,\dots,N-1}\ |I|=S}} |\Xi_I|.
\end{align}
です。ここで,$G=a/q\in\mathbb Q$を固定して議論しているので$S\logq=O(B)$が成り立ち,また$N=2B+S+3=O(B)$であるから$\log\binom NS=O(B)$です。従って,$B^2\log B$項を調べる上ではどちらも無視できることになります。また,
\begin{align}
v_2(F_B)\le\sum_{r=0}^{2B-1}r=O(B^2)
\end{align}
であるから、
\begin{align}
v_2(F_B)\log2=O(B^2)
\end{align}
も$B^2\log B$項には寄与しません。したがって、$B^2\log B$項について問題となるのは
\begin{align}
\max_{|I|=S}\log|\Xi_I| - \sum_{\substack{p\ \mathrm{odd};\nu\ge1}} m_{p^\nu,B}^{A}\log p
\end{align}
の2項になります。まず(4.5)によって$\Xi_I$の実絶対値側に現れる$B^2\log B$項を調べていきましょう。以下$S=\rho B+O(1)$とし,論文で用いられている$\rho=1/20$だとします。(4.5)は
\begin{align}
|\Xi_I| =& 2^{S(S-1)}V(J)V(I)^2|\Psi_A(I)| \frac{\prod_{a\in A}(a+2B)!} {\prod_{i\in I}i!(N-1-i)!}\prod_{i\in I} \frac{|qT_{i+1}|\Pi_i} {\prod_{j=1}^S(2(i+j)+1)}. \tag{4.5}
\end{align}
です。この各因子の$B^2\log B$項を一つずつ計算していきます。
Stirlingの公式から
\begin{align}
\log V(J) &= \frac12S^2\log S+O(S^2)\\ &= \frac{\rho^2}{2}B^2\log B+O(B^2)
\end{align}
です。また$I={i_1<\dots< i_S}\subset\{0,\dots,N-1\}$とすれば,整数列なので$i_v−i_u≥v-u$となるので,
\begin{align}
V(I)\ge V(J)
\end{align}
となります。一方,
\begin{align}
i_v-i_u< N=O(B)
\end{align}
であるから,
\begin{align}
V(I)\le N^{S(S-1)/2}
\end{align}
が成り立ち,従って$I$に対して一様に
\begin{align}
\log V(I) = \frac{\rho^2}{2}B^2\log B+O(B^2)\\
2\log V(I)=\rho^2B^2\log B+O(B^2).
\end{align}
となることが分かります。また$S(S-1)\log2=O(B^2)$なので,$2^{S(S-1)}$ は$B^2\log B$の項は持ちません。また(1.3)の交代級数評価から、$0\le i< N=O(B)$に対して
\begin{align}
|\log T_{i+1}|=O(\log B)
\end{align}
となりますから,
\begin{align}
\sum_{i\in I}\log|qT_{i+1}|=O(B\log B)
\end{align}
です。最後に$\Psi_A(I)$について確認していきます。以下では$\Xi_I\ne 0$となる$I$のみを考えます。実際,$\Xi_I=0$の項は(4.1)の三角不等式による上界には寄与せず,$\Xi_I\ne 0$なら$\Psi_A(I)\ne 0$であって,$\Psi_A(I)$は整数なので$|\Psi_A(I)|\ge 1$です。さて補題4.1の証明で
\begin{align}
P_a(i)=\prod_{r=a+1}^{S+2}(2B+r-i)
\end{align}
としていました。$A^c=\{c_1,c_2,c_3\}$とすると$P_a$の次数の総和とVandermondeの次数との差は
\begin{align}
\sum_{a\in A}(S+2-a)-\frac{S(S-1)}2 = c_1+c_2+c_3-3 = O(B)
\end{align}
程度であって,また$0\le i< N=O(B)$の範囲では各$P_a(i)$はその次数に応じて $(CB)^{S+2-a}$以下で抑えられます。一方$V(I)\ge V(J)$であったので,補題4.1
\begin{align}
\det[P_a(i_\nu)]=V(I)\Psi_A(I)
\end{align}
を用いれば,$\Xi_I\ne 0$なる$I$に対して一様に
\begin{align}
0\le\log|\Psi_A(I)|=O(B^2)
\end{align}
が$I$で一様に得られることになります。従って$\Psi_A(I)$も$B^2\log B$の係数を変えません。
$A$ は $\{0,\dots,S+2\}$ から3点を除いた$S$の点集合だったので,
\begin{align}
\sum_{a\in A}a = \frac{S^2}{2}+O(S).
\end{align}
従ってStirlingの公式から
\begin{align}
\sum_{a\in A}\log(a+2B)! &= \left( 2BS+\sum_{a\in A}a \right)\log B+O(B^2)\\ &= \left( 2\rho+\frac{\rho^2}{2} \right)B^2\log B+O(B^2)
\end{align}
が成立します。ここで$\rho^2/2$が現れることには注意しましょう。分母の階乗については,各$i\in I$に対して$i+(N-1-i)=N-1=2B+S+2$ですから,$I$に対して一様に
\begin{align}
\sum_{i\in I} \bigl( \log i!+\log(N-1-i)! \bigr)
&=S(N-1)\log B+O(B^2)\\
&=(2\rho+\rho^2)B^2\log B+O(B^2)
\end{align}
となります。(4.5) では分母にあるので、寄与としては
\begin{align}
-(2\rho+\rho^2)
\end{align}
となっています。
$\Pi_i$については定義から
\begin{align}
\Pi_i=\prod_{h=1}^B(2(h+i)+1)^2
\end{align}
なので,$0\le i< N=O(B)$の範囲で一様に$\log\Pi_i = 2B\log B+O(B)$,従って
\begin{align}
\sum_{i\in I}\log\Pi_i=2\rho B^2\log B+O(B^2)
\end{align}
です。同様に
\begin{align}
\sum_{i\in I}\sum_{j=1}^S \log(2(i+j)+1) = S^2\log B+O(B^2)
\end{align}
ですから
\begin{align}
\sum_{i\in I}\sum_{j=1}^S\log(2(i+j)+1)=\rho^2B^2\log B+O(B^2)
\end{align}
で,これは分母にあるため寄与は$-\rho^2$となります。
以上をまとめると、(4.5) の実絶対値側に現れる $B^2\log B$ の係数は
\begin{align} & \frac{\rho^2}{2} +\rho^2 +\left(2\rho+\frac{\rho^2}{2}\right) -(2\rho+\rho^2) +2\rho -\rho^2=2\rho. \end{align}
従って,以上の計算によって
\begin{align}
\max_{|I|=S}\log|\Xi_I|=2\rho B^2\log B+O(B^2)\end{align}
となることが分かります。一方,Section 6で主張される local divisor側の特異係数
\begin{align}
A_\rho = 2\rho-\frac{\rho^2}2
\end{align}
については確認した範囲では論文の計算は正しいと考えられます。従って,この$A_\rho$を用いると,命題9.5の証明をそのままなぞれば,$A_\rho/t$という特異部分に(9.1)を適用することによって$A_\rho B^2\log B$という項が現れるため,残る$B^2\log B$の項は
\begin{align}
\left(2\rho-A_\rho\right)B^2\log B
&= \frac{\rho^2}2B^2\log B\\
&= \frac1{800}B^2\log B
\end{align}
となってしまい,証明で示唆されているキャンセルは起こらないと思われます。そのため,その直後に行われている$4\rho-2\rho^2=39/200$という「残った $B^2$ 次の raw quadratic coefficient」の計算へ進むことも,少なくとも現在書かれている評価だけからはできないように思われます。
ここでさらなる補足をすると,残った$\rho^2/2$という項は,ちょうど$V(J)$での寄与と一致しています。補題5.3の証明で,
The fixed factor $V(J)$ and the integer $\Psi_A(I)$ have nonnegative valuation and may be omitted.
としていて,$V(J)$の評価を明示的に捨てていることが分かります。従って,$V(J)$の付値をうまく保持し,より強い評価を行うことによって解決できる可能性はあります。しかし,系5.2と同じ内容の評価を得るためには,$a_{Q,B}\ge m_{Q,B}^A$に対応するより強い不等式が必要になるため,少なくともv1に記載されている(5.24), (6.17), (6.19)をそのまま用いる限り,修正することはできないはずです。実際,GPT Solにいろいろ検証させてみましたが,自分には修正できませんでした。( 共有チャットのリンク )
arXiv:2609.04176v1 に書かれている証明をそのまま追った場合には,そこで主張されている$B^2\log B$の項がキャンセルされることが,自分が論文の手法を再現した範囲では確認できず,
\begin{align}
\frac1{800}B^2\log B
\end{align}
が残ってしまいました。もう一度述べますが,自分の読み違いや,論文中で省略されている評価を見落としている可能性はあります。