この記事ではリーマンゼータ関数$\z(s)$の$\Re(s)=\frac12$上の零点の分布について簡単にまとめていきます。
いま$\rho$はゼータ関数の非自明な零点を表すものとし
$$N(T)=\sum_{0<\Im\rho\leq T}1,\quad N_0(T)=\sum_{\substack{0<\Im\rho\leq T\\\Re\rho=\frac12}}1$$
とおくと、リーマン予想は
$$N(T)=N_0(T)$$
が成り立つことと言い換えられます。
また$N(T)$は
$$N(T)=\frac T{2\pi}\log\frac T{2\pi}-\frac T{2\pi}+O(\log T)$$
という漸近挙動を持つことが知られているのでリーマン予想が真であるためには
$$\liminf_{T\to\infty}\frac{N_0(T)}{N(T)}=\liminf_{T\to\infty}\frac{N_0(T)}{\frac T{2\pi}\log T}=1$$
という必要条件が考えられます。
しかしまだこの命題の真偽さえも不明であり
2020年の時点
では
$$\liminf_{T\to\infty}\frac{N_0(T)}{N(T)}\geq0.417293962\quad\l(>\frac5{12}\r)$$
という評価が最良の結果のようです。
以下では$N_0(T)$の漸近挙動に関する最初の結果であるHardyの定理の証明について解説していきます。
$$\lim_{T\to\infty}N_0(T)=\infty$$
ちなみにこの結果が掲載されたHardy(1914)は僅か3ページの論文でしたが、これに次ぐHardy-Littlewood(1921)の結果
$$\liminf_{T\to\infty}\frac{N_0(T)}T>0$$
でさえ実に35ページと長編となっているので、これ以上の結果については特に記事を書く気はありません。
$$G(x)=\sum^\infty_{n=-\infty}e^{-\pi n^2x^2}$$
とおくと
\begin{align}
\pi^{-\frac s2}\G\l(\frac s2\r)\z(s)
&=\int^\infty_1(x^{-s}+x^{-(1-s)})(G(x)-1)dx-\frac1s-\frac1{1-s}\\
&=\l\{\begin{array}{ll}
\dis\int^\infty_0x^{-s}\l(G(x)-\frac1x\r)dx&(1<\Re(s))\\
\dis\int^\infty_0x^{-s}\l(G(x)-1-\frac1x\r)dx\quad&(0<\Re(s)<1)\\
\dis\int^\infty_0x^{-s}\l(G(x)-1\r)dx&\phantom{1<{}}(\Re(s)<0)\\
\end{array}\r.
\end{align}
が成り立つ。
最初の等号についてはよく知られた等式
$$\pi^{-\frac s2}\G\l(\frac s2\r)\z(s)
=\int^\infty_1(t^{\frac s2-1}+t^{\frac{1-s}2-1})\psi(t)dt-\frac1{s(1-s)}$$
において
$$\psi(t)=\sum^\infty_{n=1}e^{-\pi n^2t}=\frac{G(\sqrt t)-1}2$$
に注意して$t=x^2$とおくことでわかる。
また二つ目の等号については$G(1/x)=xG(x)$より
\begin{align}
\int^\infty_1x^{s-1}(G(x)-1)dx
&=\int^1_0x^{-s-1}(G\l(\frac1x\r)-1)dx\\
&=\int^1_0x^{-s}\l(G(x)-\frac1x\r)dx
\end{align}
が成り立つこと、および
$$\frac1s+\frac1{1-s}=\l\{\begin{array}{ll}
\dis\int^\infty_1x^{-s-1}dx-\int^\infty_1x^{-s}dx&(1<\Re(s))\\
\dis\int^\infty_1x^{-s-1}dx+\int^1_0x^{-s}dx&(0<\Re(s)<1)\\
\dis-\int^1_0x^{-s-1}dx+\int^1_0x^{-s}dx&\phantom{1<{}}(\Re(s)<0)\\
\end{array}\r.$$
に注意するとわかる。
\begin{align}
\xi(s)&=\frac{s(s-1)}2\pi^{-\frac s2}\G\l(\frac s2\r)\z(s)\\
\Xi(t)&=\xi\Big(\frac12+it\Big)\\
H(x)&=x\frac{d^2}{dx^2}(xG(x))
\end{align}
とおくと
$$x^\frac12H(x)=\sum^\infty_{n=0}c_{2n}(i\log x)^{2n}\qquad
\l(c_n=\frac2{\pi n!}\int^\infty_0\Xi(t)t^ndt\r)$$
が成り立つ。
上の補題の逆メリン変換を考えることで任意の$0<\s<1$に対し
$$G(x)-1-\frac1x=\frac1{2\pi i}\int^{\s+i\infty}_{\s-i\infty}\frac{2\xi(s)}{s(s-1)}x^{s-1}ds$$
がわかるので、これに$x$を掛けて二階微分することで
\begin{align}
H(x)
&=\frac1{\pi i}\int^{\frac12+i\infty}_{\frac12-i\infty}\xi(s)x^{s-1}ds\\
&=\frac1\pi\int^\infty_{-\infty}\Xi(t)x^{-\frac12+it}dt\\
x^\frac12H(x)
&=\frac1\pi\int^\infty_{-\infty}\Xi(t)\l(\sum^\infty_{n=0}\frac{(it\log x)^n}{n!}\r)dt\\
&=\sum^\infty_{n=0}\l(\frac1{\pi n!}\int^\infty_{-\infty}\Xi(t)t^ndt\r)(i\log x)^n
\end{align}
を得る。
また関数等式$\Xi(t)=\Xi(-t)$から$n$が奇数のとき
$$\frac1{\pi n!}\int^\infty_{-\infty}\Xi(t)t^ndt=0$$
が成り立ち、$n$が偶数のとき
$$\frac1{\pi n!}\int^\infty_{-\infty}\Xi(t)t^ndt=\frac2{\pi n!}\int^\infty_0\Xi(t)t^ndt$$
が成り立つことに注意すると主張を得る。
$$x\in D:=\{z\in\C\mid|\arg z|<\pi/4\}$$
において極限$x\to e^{\frac{\pi i}4}$を考えると、任意の$n$に対して
$$\lim_{x\to e^{\frac{\pi i}4}}\frac{d^n}{dx^n}G(x)
=\lim_{x\to e^{\frac{\pi i}4}}\frac{d^n}{dx^n}H(x)=0$$
が成り立つ。
\begin{align}
G(x)+G(\sqrt{x^2+i})
&=\sum^\infty_{n=-\infty}e^{-\pi n^2x^2}+\sum^\infty_{n=-\infty}(-1)^ne^{-\pi n^2x^2}\\
&=2\sum^\infty_{n=-\infty}e^{-\pi(2n)^2x^2}\\
&=2G(2x)
\end{align}
より$G(x)=G(1/x)/x$に注意すると
\begin{align}
G(\sqrt{x^2+i})
&=\frac2{2x}G\l(\frac1{2x}\r)-\frac1xG\l(\frac1x\r)\\
&=\frac1x\l(\sum^\infty_{n=-\infty}e^{-\pi n^2/4x^2}-\sum^\infty_{n=-\infty}e^{-\pi n^2/x^2}\r)\\
&=\frac1x\sum_{n:\mathrm{odd}}e^{-\pi n^2/4x^2}
\end{align}
が成り立つ。
したがってこの$x\to0$における挙動を考えることで、$G(x)$およびその導関数は$x\to e^{\frac{\pi i}4}$において$0$に収束することがわかる。
ゼータ関数の非自明な零点はクリティカルライン$\Re(s)=\frac12$上に無数に存在する。
$\Xi(t)$は実関数であること(偶関数性に注意して$\xi(\frac12+s)$のテイラー展開を考えることでわかる)に注意すると、クリティカルライン上の零点が有限個しかなければある$T$が存在して$t>T$において$\Xi(t)$は定符号となる。
また$t>T$において$\Xi(t)>0$が成り立つとするとある定数$K_1,K_2>0$が存在して、補題3の展開係数$c_n$は
\begin{align}
\frac{\pi n!}2c_n
&=\int^\infty_0\Xi(t)t^ndt\\
&\geq\int^\infty_T\Xi(t)t^ndt-\int^T_0|\Xi(t)|t^ndt\\
&\geq\int^{2T+1}_{2T}\Xi(t)t^ndt-\int^T_0|\Xi(t)|t^ndt\\
&\geq K_1(2T)^n-K_2T^n
\end{align}
のように評価でき、したがって十分大きい$n$に対して$c_n>0$が成り立つ($\Xi(t)<0$を仮定した場合も同様にして$c_n<0$がわかる)。
特に$x^\frac12H(x)$を$\log x$について何回か微分し$x\to e^{\frac{\pi i}4}$とすることで
\begin{align}
\frac1{(2N)!}\l(\frac d{d(i\log x)}\r)^{2N}x^\frac12 H(x)
&=\sum^\infty_{n=N}c_{2n}\binom{2n}{2N}(i\log x)^{2n-2N}\\
&\to\sum^\infty_{n=N}c_{2n}\binom{2n}{2N}\l(-\frac\pi4\r)^{2n-2N}\\
&=\sum^\infty_{n=N}c_{2n}\binom{2n}{2N}\l(\frac\pi4\r)^{2n-2N}\\
&>0
\end{align}
が成り立たなければならないが
$$\frac d{d(i\log x)}=\frac{dx}{d(i\log x)}\frac d{dx}=-ix\frac d{dx}$$
および補題4に注意すると
$$\l(\frac d{d(i\log x)}\r)^{2N}x^\frac12 H(x)\to0$$
が成り立つので矛盾。よって主張を得る。