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現代数学解説
文献あり

解が高々可算個の C→C の関数方程式の解は, ほとんどの点で有理式で記述できる

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$$\newcommand{ACF}[0]{\mathbf{ACF}_0} \newcommand{alg}[0]{\text{alg}} \newcommand{Aut}[0]{\text{Aut}} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{D}[0]{\mathbf{D}} \newcommand{Gal}[0]{\mathrm{Gal}} \newcommand{L}[0]{\mathcal{L}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{Qalg}[0]{\Q^{\text{alg}}} \newcommand{R}[0]{\mathbb R} $$

最近モデル理論を少し学び, 何か使えないかと考えていたところ, 次の定理を示せたのでその証明を書きます. 述語論理, モデルの基本的な話は前提とするため, 適宜教科書等を参照してください.

関数方程式$\Phi$$\C\to\C$で解を高々可算個もつとする. このとき, $\Phi$の任意の解$f$について, ある$\Qalg$係数の有理式$R(x)$が存在して, 有限個の$\Qalg$の点を除いて
$$ f(x)=R(x)$$
が成立する. ここで, $\Qalg$は代数的数の集合である.

関数方程式の定義

まず, 関数方程式を定義します.
言語$\L=(+,-, \cdot, 1, 0)$および$\L_f=(+,-, \cdot, 1, 0, f)$を以降固定します. ここで, $+, -, \cdot$は二変数の関数記号であり, $1, 0$は定数記号, $f$$1$変数の関数記号です.

関数方程式

関数方程式とは(一階の)$\L_f$-文のことである. すなわち, 自由変数を持たない$\L_f$-論理式のことである.

つまり, 有限回の加減乗法や合成および各種論理記号(変数についての量化も認める)を用いて書くことができる論理式が関数方程式です.

現段階では$+, -, \cdot$はただの記号であり, このあと関数方程式を解くときには, しかるべき公理系およびモデルで意味論的な解釈をします.

関数方程式
  • JMO2016本選4の式は, 以下の関数方程式に"対応する":
    $$\forall x\forall yf(y\cdot f(x)-y)=f(x)\cdot f(y)+(1+1)\cdot x$$

  • 存在量化子が含まれていてもよい:
    $$\forall x\forall y\forall z\exists t (f(x+f(y))=f(z+x+f(t))+y)$$
    解けるかは知りません.

  • 極端な例だが,
    $$\forall x \exists y(y\cdot y=x)$$
    もここでは関数方程式である.

今回は(モデル理論の観点で)扱いやすい代数的閉体に絞って議論をします.

代数的閉体

$F$代数的閉体であるとは, $F$係数のすべての$1$次以上の多項式が$F$に根を持つことである. 標数$0$の代数的閉体の$\L$-公理系を$\ACF$とかく.

$\ACF$には通常の体の公理のほかに
$$\forall a_1\forall a_2\forall a_3\exists x(a_1\cdot x\cdot x + a_2\cdot x + a_3 = 0\lor a_1=0)$$
など, 解の存在性を表す論理式が可算無限個含まれます.

次に, (代数的閉体上の)関数方程式の解を定めます.

関数方程式の解

$K$$\ACF$のモデルとする.
関数方程式$\Phi$$K$上のとは, $\ACF+\Phi$のモデルであって, その$\L$への制限が$K$であるようなものである. また, このモデルにおける$f$の解釈を単に解と呼ぶこともある.

関数方程式の解

先ほどのJMO2016本選4を例にとると, 通常の代数的閉体$\C$に, $f:\C\to\C$であって, 任意の$x\in\C$に対して$f(x)=-2x$や任意の$x\in\C$に対して$f(x)=x+1$をみたすようなものを加えた構造は, 確かに先ほどの関数方程式の$\C$上の解になっています.

実は解は有限個

まず, モデル理論の紹介も兼ねて, 解の個数が高々可算個なら実は有限個であることを示します. 以下$\Phi$を関数方程式とします.
モデル理論の以下の定理を用います. この定理は後ほど再登場します.

(モデルの)コンパクト性定理 ([1]pp.327-328 定理 A.4, A.5)

公理系$T$がモデルを持つことと, $T$の任意の有限部分集合がモデルを持つことは同値である.

上方Löwenheim-Skolemの定理 ([1]p.328 定理 A.6)

理論$T$が無限モデル$M$を持つとする. このとき, 任意の基数$\kappa\ge|M|$に対して, $T$のモデル$N$で, $|N|=\kappa$, $M\subset N$となるものが存在する.

下方Löwenheim-Skolemの定理 ([1]p.328 定理 A.7)

理論$T$が無限モデル$N$を持つとする. このとき, 任意の基数$|N|\ge\kappa\ge|T|$に対して, $T$のモデル$M$で, $|M|=\kappa$, $M\subset N$となるものが存在する.

証明は省略します.
また, 代数的閉体について以下が成立します.

代数的閉体は, 素体および素体上の超越次数から同型を除いて一意に定まる. 特に, $\aleph_0$より大きい任意の基数$\kappa$に対して, 標数$0$および濃度$\kappa$を持つ代数的閉体は同型を除いて一意に定まる.

証明は, 代数的閉包の一意性から従います. これらを用いて主張を示します.

関数方程式$\Phi$$\C$上に解を高々可算個もつとき, 解は有限個である.

$\C$上に解を無限個持つとき, 解を非可算もつことを示そう.
$\L_{\infty}=(+,-, \cdot, 1, 0)+(f_z)_{z\in\C}$を言語(各$f_z$$1$変数の関数記号)とし, $\L_{\infty}$-文の集合$\D$
$$\D=\{\exists x\lnot(f_z(x)=f_w(x))\mid z, w\in \C, z\neq w\}$$
で定める. いま, $\C$上に解を無限個存在するので, $\D$の任意の有限部分集合$d$に対して
$$\ACF+\Phi+d$$
はモデルをもつ. したがって, コンパクト性定理より
$$\ACF+\Phi+\D$$
はモデルを持つ. このモデルを一つとると, $|\ACF+\Phi+\D|=|\C|$に気をつければ, 命題3, 命題4より特に$|M|=|\C|$なるモデルの存在が従う. 命題5より, $M$$\L$に制限すれば$\C$に同型なので, 各$f_z$$M$での解釈は$|\C|$個(特に非可算個)の解を与える.

モデル理論を使わない考察

次に, 代数的な考察を進めていきます.

以下最後まで, $\C$上の$\Phi$の解が有限個であると仮定し, $f$$\C$上の解の$1$つとします. さらに, 任意の関数$g:\C\to\C$について, $M_g$を対応する$\L_f$-構造とします. また, $\C$の部分体$K$について, その$\C$での代数閉包を$K^{\alg}$, Galois閉包を$K^{\Gal}$で書きます.

任意の$\sigma\in\Aut(\C/\Q)$について, $\sigma\circ f\circ\sigma^{-1}$$\Phi$の解である.

任意の$\L_f$-項$p(x_1, x_2, \ldots, x_n)$および$M_f, M_{\sigma\circ f\circ\sigma^{-1}}$それぞれでの解釈$p_f(x_1, x_2, \ldots, x_n)$$p_{\sigma\circ f\circ\sigma^{-1}}(x_1, x_2, \ldots, x_n)$について, $a_1, \ldots, a_n\in\C$の代入を考えると, 以下が成立することが式に出てくる関数記号の個数についての帰納法でわかる:
$$p_f(a_1, a_2, \ldots, a_n)=\sigma^{-1}\left(p_{\sigma\circ f\circ\sigma^{-1}}(\sigma(a_1), \sigma(a_2), \ldots, \sigma(a_n))\right)$$
したがって, $\sigma$が全単射であることから, 任意の$\L$-文$\varphi$に対して,
$$M_f\vDash\varphi\Leftrightarrow M_{\sigma\circ f\circ\sigma^{-1}}\vDash\varphi$$
である. よって, $\sigma\circ f\circ\sigma^{-1}$$\Phi$の解である.

以降無限次の体拡大について考えるのですが, 今回必要なのは以下の補題だけです.

  1. $\C$$\Q$上の超越基底$I$について, $I$の元の入れ替えは$\Aut(\C/\Q)$を誘導する.
  2. $L\supset M\supset 3. K$を体の列とし, $L$は代数閉体であるとする. このとき, $\Aut(L/K)\to\Aut(M/K)$は全射である.
  3. $M/k, L/k$を体の拡大とし, いずれも有限次とは限らないGalois拡大であるとする. $M\subset L$であるとき, 制限写像$\Gal(L/k)\to\Gal(M/k)$は全射である.
  1. [2]p.171 定理3.2.3(2)と同様の議論を, $L$$M$上の超越基底を保つ写像のみを考えて行うことで写像の延長が可能である.
  2. $L/k, M/k$が有限次の場合はGalois理論として知られている([2]p.200 定理4.1.19(3)など). $L/k$が無限次, $M/k$が有限次の場合は, [3]p.277 命題2.7および[3]p.279例1から
    $$ \Gal(L/k)\cong\lim_{\substack{\longleftarrow\\ L\supset K\supset k}}\Gal(K/k)$$
    と計算でき(右辺はすべての有限次拡大を走る, 位相群の圏での射影極限), さらにコンパクト位相群の射影系においては$K\supset M$についての完全列
    $$\Gal(K/k)\to\Gal(M/k)\to 1$$
    は射影極限で保たれるので,
    $$\Gal(L/k)\cong\lim_{\longleftarrow}\Gal(K/k)\to\Gal(M/k)\to 1$$
    も完全となり, 全射性が示される(射影極限を取っているので$K\supset M$なるもののみについて考えてよい). $M/k$が無限次の場合は, さらに
    $$ \Gal(M/k)\cong\lim_{\substack{\longleftarrow\\ M\supset K\supset k}}\Gal(K/k)$$
    より, 完全列
    $$\Gal(L/k)\to\Gal(K/k)\to 1$$
    の射影極限
    $$\Gal(L/k)\to\Gal(M/k)\to 1$$
    を考えれば, 全射性が示される.

超越数$\alpha$に対して, $f(\alpha)\in\Q(\alpha)^{\text{alg}}$

$\alpha$を含む$\Q$上の$\C$の超越基底をひとつ固定し, $\{\alpha_i\}_{i\in I}$とおく. また, $K=\Q(\{\alpha_i\}_{i\in I})$とおくと, $\C=K^{\alg}$であるので, $f(\alpha)$$K$上の最小多項式を一つとり, $P(t)$とおく.
$P(t)$$\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_n\in\{\alpha_i\}_{i\in I}$のみに依存するとする. $n=0$なら示すことはない. そうでないとき, $\alpha\neq\alpha_1$であると仮定すると, $\alpha_1$$\alpha'\in\{\alpha_i\}_{i\in I}\backslash\{\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_n, \alpha\}$を交換し, $\alpha_2, \cdots, \alpha_n, \alpha$を固定する写像は$\Aut(\Q(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_n, \alpha, \alpha')/\Q)$の元であるが, 補題8よりこれは$\sigma\in\Aut(\C/\Q)$に拡張できる. この$\sigma$について補題7より$\sigma\circ f\circ\sigma^{-1}$$\Phi$の解であるが, $\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_n$のとり方より任意の$\sigma$について$\sigma\circ f\circ\sigma^{-1}(\alpha)$は互いに相異なるため, 解の有限性に矛盾.
よって, $f(\alpha)$の最小多項式は$\alpha$のみに依存し, したがって$f(\alpha)\in\Q(\alpha)^{\text{alg}}$である.

超越数$\alpha$に対して, $f(\alpha)\in\Qalg(\alpha)$

超越数$\alpha$に対して, $f(\alpha)$$\Qalg(\alpha)$上の最小多項式は, $\Qalg(s)[t]$$t$についてモニックな元$P_\alpha(t, s)$が一意に存在して$P_\alpha(t, \alpha)$と書くことができる. このとき, すべての$\alpha$に対して, $P_\alpha(t, s)$は一致する.
実際, 超越数$\alpha_0, \alpha_1$に対して, $\alpha_0$$\alpha_1$$\Qalg$上代数的に従属な場合は$\{\alpha_0\}\cup\{\alpha_i\}_{i\in I}$および$\{\alpha_1\}\cup\{\alpha_i\}_{i\in I}$がいずれも$\C$$\Qalg$上の超越基底となるように, 代数的に独立な場合は$\{\alpha_0, \alpha_1\}\cup\{\alpha_i\}_{i\in I}$$\Qalg$上の超越基底となるように, $\{\alpha_i\}_{i\in I}$を取れる. いずれの場合も, 補題9と同様に基底の入れ替えによって誘導される$\C$の自己同型を考えることで, $j=0, 1$について$\{\alpha_i\}_{i\in I}$のうち有限個を除いたすべての$\alpha$に対して, $P_\alpha=P_{\alpha_j}$が成立する. これより$P_{\alpha_0}=P_{\alpha_1}$が従う.
共通の$P_\alpha$を単に$P$とかき, $P$の最小分解体のGalois群を$G$とおく. $\deg P\ge2$として矛盾を導く. $\Phi$の解の個数$n$について, $(\deg P)^m>n$なる正の整数$m$を取る. このとき, 推進定理を繰り返し用いることで, 代数的に独立な超越数$\alpha_1, \ldots, \alpha_m$に対して
$$\Gal(\Qalg(f(\alpha_1), \ldots, f(\alpha_m))^\Gal/\Qalg(\alpha_1, \ldots, \alpha_m))=G^m$$
が成立する. $G^m$の元のうち, $(\deg P)^m$個の元が存在し, それらによる$f(\alpha_1), \ldots, f(\alpha_m)$の移る先の組はいずれも相異なるようにできる. さらに, 補題8よりこれは$\Aut(\C/\Qalg(\alpha_1, \ldots, \alpha_m))$に延長できる. このようにして得た$(\deg P)^m$個の元のそれぞれについて補題7を適用することで, 解が$n$個であることに矛盾するため, $\deg P=1$である.
特に, $f(\alpha)\in\Qalg(\alpha)$である.

次の補題で, $f$の構造がほとんど決定されます.

ある$\Qalg$係数の有理式$R(x)$が存在して, 任意の超越数$\alpha$に対して $f(\alpha)=R(\alpha)$であり, 任意の$\beta\in\Qalg$に対して$f(\beta)\in\Qalg$

前半は補題10の証明より従う. 後半を示す.
$\{\alpha_i\}_{i\in I}$を超越基底とする. $f(\beta)\notin\Qalg$と仮定し, その最小多項式が$\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_n\in\{\alpha_i\}_{i\in I}$のみに依存するとする. このとき, 補題9と同様$\alpha_1$$\alpha'\in\{\alpha_i\}_{i\in I}\backslash\{\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_n\}$を入れ替えて$\alpha_2, \cdots, \alpha_n$を固定する$\C$の自己同型は無限個の解を構成するので, 矛盾.
したがって, 最小多項式の係数は$\Qalg$の元からとれ, 特に$f(\beta)\in\Qalg$である.

再びモデル理論

ここまでで, 超越数については関数の構造が特定できました. ここからはその構造と代数的数を結びつける考察になりますが, ここで再びモデル理論が威力を発揮します. 肝になるのはコンパクト性定理です.


補題11より, ある$\Qalg$係数の有理式$R(x)$が存在して, 任意の超越数$\alpha$に対して $f(\alpha)=R(\alpha)$です. $\Phi$の解をすべて考えたときに, $R$としてありうるものは有限個なので, それらを$R_1, R_2, \ldots, R_n$とおきます. 特に, はじめに固定した$f$に対応しているものを$R_1$とおきます.
$\Gal(\Qalg/\Q)$の元は自然に$\Qalg(t)$に作用することに気を付けます. また, 体の公理系を含む公理系において, 論理式に有理数を用いることは容易に正当化できるため, 以下断りなく用います(具体的には, $\exists q(nq=m\land \cdots)$などとすればよい).

有限個の点を除いた任意の$x\in\Qalg$に対して, ある$i=1, \ldots, n$および$\sigma\in\Gal(\Qalg/\Q)$が存在して, $f(x)=\sigma R_i(x)$が成立する.

言語$\L_1=(+,-, \cdot, 1, 0, f, c)$を考える. ここで, $c$は定数記号である. また,
$$R_i(t)=\dfrac{a_{i, p}t^p+a_{i, p-1}t^{p-1}+\cdots+a_{i, 0}}{b_{i, q}t^q+b_{i, q-1}t^{q-1}+\cdots+b_{i, 0}}$$
とおき(各係数は$\Qalg$の元), $a_{i, r}, b_{i, r}$$\Q$上の最小多項式をそれぞれ$A_{i, r}(t), B_{i, r}(t)$とかく. さらに, $\L_1$-項$S, T$に対して, 以下の$\L_1$-文を単に$S\sim R_i(T)$とかく:
\begin{align*} \exists x_{i, p}\cdots\exists x_{i, 0}\exists y_{i, q}\cdots\exists y_{i, 0} & \big(S(y_{i, q}T^q+y_{i, q-1}T^{q-1}+\cdots+y_{i, 0})=x_{i, p}T^p+x_{i, p-1}T^{p-1}+\cdots+x_{i, 0} \\ & \land A_{i, p}(x_{i, p})=0\land\cdots\land A_{i, 0}(x_{i, 0})=0 \\ & \land B_{i, q}(y_{i, q})=0\land\cdots\land B_{i, 0}(y_{i, 0})=0\big) \end{align*}
これを用いて, 以下の$\L_1$-文の集合を考える.
\begin{align*} \Gamma_1&=\{\lnot(Q(c)=0)\mid Q(t)\in\Q[t], \deg Q\ge 1,Q:\text{モニック} \}\\ &\cup\{\lnot(f(c)\sim R_1(c)\lor \cdots\lor f(c)\sim R_n(c))\} \end{align*}
$f(x)=\sigma R_i(x)$と書けない$x\in\Qalg$が無限に存在すると仮定すると, $\ACF+\Phi+\Gamma_1$はモデルを持つ. 実際, コンパクト性定理より, 任意の有限部分集合がモデルを持つことをいえばよいが, $c$として$f(x)=\sigma R_i(x)$と書けない$x\in\Qalg$をうまく取ることで, 固定された任意の$\{\lnot(Q(c)=0)\mid Q(t)\in\Q[t], \deg Q\ge 1,Q:\text{モニック} \}$の有限部分集合を充足することができる.
Löwenheim-Skolemの定理および命題5より, 特に$\C$$f$および$c$の解釈を付け加えた$\ACF+\Phi+\Gamma_1$のモデルを取れるが, $c$の解釈は超越数であるため, $R_i$のとり方に矛盾.
したがって, 主張が示された.

有限個の点を除いた任意の$x\in\Qalg$に対して, $\sigma\in\Gal(\Qalg/\Q)$が存在して, $f(x)=\sigma R_1(x)$が成立する.

言語$\L_2=(+,-, \cdot, 1, 0, f, c_1, c_2)$を考える. ここで, $c_1, c_2$は定数記号である. また, $S\sim R_i(T)$の略記を補題12と同様に定める.
$f(x)=\sigma R_2(x)$なる$x\in\Qalg$が無限個存在したと仮定する. 以下の$\L_2$-文の集合を考える:
\begin{align*} \Gamma_2&=\{\lnot(Q(c_1)=0)\mid Q(t)\in\Q[t], \deg Q\ge 1,Q:\text{モニック} \}\\ &\cup\{\lnot(Q(c_2)=0)\mid Q(t)\in\Q[t], \deg Q\ge 1,Q:\text{モニック} \}\\ &\cup\{f(c_1)\sim R_1(c_1)\land f(c_2)\sim R_2(c_2)\} \end{align*}
このとき, 補題12と同様にコンパクト性定理より$\ACF+\Phi+\Gamma_2$$\C$$f$および$c_1, c_2$の解釈を付け加えたモデルをもつが, これは補題11に矛盾する.

有限個の点を除いた任意の$x\in\Qalg$に対して, $f(x)= R_1(x)$が成立する.

恒等射でない$\sigma\in\Gal(\Qalg/\Q)$であって, $f(x)=\sigma R_1(x)$が成立する$x\in\Qalg$が無限に存在するようなものがあったとする. このとき, $\sigma$によって変化する$R_1$の係数を$a_{i, r}$とする($b$の場合もまったく同様にできる). 以下の$\L_2$-文の集合を考える:
\begin{align*} \varphi&=\exists x_{i, p}\cdots\exists x_{i, 0}\exists y_{i, q}\cdots\exists y_{i, 0}\exists x'_{i, p}\cdots\exists x'_{i, 0}\exists y'_{i, q}\cdots\exists y'_{i, 0}\\ &\big(f(c_1)(y_{i, q}c_1^q+\cdots+y_{i, 0})=x_{i, p}c_1^p+\cdots+x_{i, 0} \\ & \land f(c_2)(y'_{i, q}c_2^q+\cdots+y'_{i, 0})=x'_{i, p}c_2^p+\cdots+x'_{i, 0} \\ & \land A_{i, p}(x_{i, p})=0\land\cdots\land A_{i, 0}(x_{i, 0})=0 \land A_{i, p}(x'_{i, p})=0\land\cdots\land A_{i, 0}(x'_{i, 0})=0 \\ & \land B_{i, q}(y_{i, q})=0\land\cdots\land B_{i, 0}(y_{i, 0})=0\land B_{i, q}(y'_{i, q})=0\land\cdots\land B_{i, 0}(y'_{i, 0})=0 \\ & \land \lnot(x_{i, r}=x'_{i, r}) \big) \end{align*}
として
\begin{align*} \Gamma_3&=\{\lnot(Q(c_1)=0)\mid Q(t)\in\Q[t], \deg Q\ge 1,Q:\text{モニック} \}\\ &\cup\{\lnot(Q(c_2)=0)\mid Q(t)\in\Q[t], \deg Q\ge 1,Q:\text{モニック} \}\\ &\cup\{\varphi\} \end{align*}
このとき, 先の二つの補題と同様, コンパクト性定理より$\ACF+\Phi+\Gamma_3$$\C$$f$および$c_1, c_2$の解釈を付け加えたモデルをもつが, これは補題11に矛盾する.
いま, $\Gal(\Qalg/\Q)$の作用によって, 各係数の移る方法は有限通りであるため, 主張が従う.

これらより, 最初に挙げた定理が従います.

(再掲)

関数方程式$\Phi$$\C\to\C$で解を高々可算個もつとする. このとき, $\Phi$の任意の解$f$について, ある$\Qalg$係数の有理式$R(x)$が存在して, 有限個の$\Qalg$の点を除いて
$$ f(x)=R(x)$$
が成立する.

補題6, 補題11, 補題14より直ちに従う.

関数方程式$\Phi$$\C\to\C$で解を高々可算個もつとする. このとき, $\ACF+\Phi$はモデル完全である.

モデル完全であるとは, 包含関係にある$2$つのモデルが初等的同値, すなわち任意の一階の$\L$-文について, その充足性が同値であることです.

$2$つの$\ACF+\Phi$のモデル$M\subset N$をとる. このとき, $M$$N$が初等的同値であることを示そう. $\kappa>|M|+|\C|$なる無限基数$\kappa$を取ると, 上方Löwenheim-Skolemの定理より, $M$の拡大であり, 濃度$\kappa$のモデル$M^*$が存在する. 実は, このような拡大として初等拡大がとれることが知られている. $M^*$$N$の拡大でもあるが, 定理15より, このような拡大は一意であるので再び上方Löwenheim-Skolemの定理より, $M^*$$N$の初等拡大でもある. したがって, $M$$N$は初等的同値である.

少しだけ遊んでみる

最後に, 定理の適用例および主張の限界を観察します. なお, 見やすさのために論理式は崩して書いている部分があります.

定理1の例

実際の式に適用するには, 対偶を用いるしかないと思います.

  • $\forall x\forall y\forall z(yf(f(x)+yz)=f(f(xy))+f(y)f(zf(y)))$$\C$上で複素共役を解にもつので, 解を非可算個持つことが分かる. なお, 証明をたどることでこれらの解は病的である.
  • 解が有限個であり, $f(x)=e^x$を解に持つような$\C\to\C$の関数方程式は存在しない.
  • $\C\to\C$の関数方程式が解を有限個持つとき, それらの解のうち連続なものは多項式で記述できる.
  • $\C\to\C$の関数方程式が解を有限個持つとき, それらの解のうち有界なものはほとんどすべての点で定数である.
定理1の限界
  • すべての点で共通の有理式というわけにはいかない. 実際,
    $\forall x\forall y((x-1)f(x)+yf(y)(f(y)-1)=0)$
    は解いてみると$f(x)=0$のほかに$f(x)=0(x\neq1), f(1)=1$を解に持ち, これで尽くされる.
  • 係数は$\Q$までは落とし込めない. 実際,
    $\forall x\forall y(xf(y)=yf(x)\land f(x)^2=2x^2)$
    $f(x)=\pm\sqrt 2x$を解に持つ.
  • 解は有限点除いても多項式とは限らない. 実際,
    $\forall x(x\neq 0\to xf(x)=1)\land f(0)=0$
    の解とほとんどの点一致するのは$x\mapsto\dfrac{1}{x}$のみである.

おわりに

初等的な関数方程式を統一的に扱うという試みは, その構造の複雑さゆえあまりなされてこなかったと思います. 今回の内容のように, モデル理論はそれに立ち向かう際に強力な武器の一つになるのではないかと思っています.

本記事では, 非可算範疇性があるため扱いやすい代数的閉体における関数方程式について考察しましたが, 実際の場面では$\mathbb{R}$上での解が考えられることが多いです. $\mathbb{R}$をはじめとした実閉体は, 代数的閉体ほど代数的にもモデルを考察する観点からも扱いやすくなく, 実際本証明を実行するにあたり補題8が成立しないことがわかります. その結果, 補題9以降が成立しません. また, 具体的な関数方程式を考えることでも, 実閉体を記述する言語において

$$\forall x\forall y(f(x+y)=f(x)f(y)\land f(x)>0\land (x>1\to f(x)>2)\land f(1)=2)$$
はCauchyの関数方程式に帰着され, $\mathbb{R}$上に唯一の解$f(x)=2^x$をもち, これは有限点を除いても有理式で記述されえないです. 一方で, 実閉体の理論は代数的閉体と同様にモデル完全性やより強く完全性が成り立つことが知られているため, 関数方程式の包括的な考察の余地はあるのではないかと考えています.

参考文献

[1]
板井昌典, 幾何的モデル理論入門
[2]
雪江明彦, 代数学2 環と体とガロア理論
[3]
J.ノイキルヒ, 代数的整数論
投稿日:722
更新日:19日前
OptHub AI Competition

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