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q超幾何級数のqモーメント

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関数fの区間[0,1]でのモーメントは
01xw1f(x)dx
で与えられる. 関数f(x)
f(x)=0ncnxn
とMaclaurin展開されているとき, 項別に積分できるならそれは
01xw1f(x)dx=0ncnn+w
と表される. その類似として, q積分を
01f(x)dqx:=0nqkf(qk)
と定義すれば, 上のように展開される関数fqモーメントは
01xw1f(x)dqx=0kqwkf(qk)=0n,kcnq(n+w)k=0ncn1qn+w
と表される. 今回はqwをあらためてwとして
0ncn1wqn
qモーメントとして考えることにする. 以下q超幾何級数の場合を考える. まず, 一般q超幾何関数の場合から考えるために
cn:=(a1,,ar;q)n(b1,,br;q)ntn
とする. このとき, cnは漸化式
(1b1qn1)(1brqn1)cn(1a1qn1)(1arqn1)tcn1=0
を満たす.
μ(w):=0ncn1wqn
としてそれが満たすq差分方程式を考える. まず,
0=0n(1b1qn1)(1brqn1)cn(1a1qn1)(1arqn1)tcn11wqn=0n((1b1qn1)(1brqn1)(1b1/wq)(1br/wq))cn1wqn0n((1a1qn1)(1arqn1)(1a1/wq)(1ar/wq))tcn11wqn+(1b1/wq)(1br/wq)0ncn1wqn(1a1/wq)(1ar/wq)t0ncn11wqn
である. ここで, br=qとすれば, c1=0となるので,
0ncn11wqn=0ncn1wqn+1=μ(wq)
と書き換えらえるので, q差分方程式
0=0n((1b1qn1)(1brqn1)(1b1/wq)(1br/wq))cn1wqn0n((1a1qn1)(1arqn1)(1a1/wq)(1ar/wq))tcn11wqn+(1b1/wq)(1br/wq)μ(w)(1a1/wq)(1ar/wq)tμ(wq)
が得られる. ここで, 第1項と第2項の分子は1wqnで割り切れることに注意すると, 両辺に(wq)rを書ければwに関する多項式になる. 以下の形でまとめる.

br:=qとする.
μ(w):=0n(a1,,ar;q)n(b1,,br;q)ntn1wqn
と定義すると, μは差分方程式
(wqb1)(wqbr)μ(w)(wqa1)(wqar)tμ(wq)=0n((wqb1)(wqbr)(wq)r(1b1qn1)(1brqn1))cn1wqn0n((wqa1)(wqar)(wq)r(1a1qn1)(1arqn1))tcn11wqn
を満たす. ここで, 右辺はwに関する多項式である.

上の方程式を用いてμ(wqn)μ(w)で与える公式を求めたい. 命題1の右辺の多項式をp(w)とする.
(wqb1)(wqbr)μ(w)(wqa1)(wqar)tμ(wq)=p(w)
wwqn1として
(1wqn/b1)(1wqn/br)(1wqn/a1)(1wqn/ar)b1bra1artμ(wqn1)μ(wqn)=p(wqn1)(wqna1)(wqnar)t
と変形して両辺に
(wq/a1,,wq/ar;q)n(wq/b1,,wq/br;q)n(a1artb1br)n
を掛けると,
(wq/a1,,wq/ar;q)n1(wq/b1,,wq/br;q)n1(a1artb1br)n1μ(wqn1)(wq/a1,,wq/ar;q)n(wq/b1,,wq/br;q)n(a1artb1br)nμ(wqn)=(1)ra1art(wq/a1,,wq/ar;q)n1(wq/b1,,wq/br;q)n(a1artb1br)np(wqn1)
を得る. これをn=1からNまで足し合わせると,
μ(w)(wq/a1,,wq/ar;q)N(wq/b1,,wq/br;q)N(a1artb1br)Nμ(wqN)=(1)ra1artn=1N(wq/a1,,wq/ar;q)n1(wq/b1,,wq/br;q)n(a1artb1br)np(wqn1)=(1)rb1brn=0N1(wq/a1,,wq/ar;q)n(wq/b1,,wq/br;q)n+1(a1artb1br)np(wqn)
これをμ(wqN)について解くと,
μ(wqN)=(wq/b1,,wq/br;q)N(wq/a1,,wq/ar;q)N(b1bra1art)N(μ(w)(1)rb1brn=0N1(wq/a1,,wq/ar;q)n(wq/b1,,wq/br;q)n+1(a1artb1br)np(wqn))
を得る. まとめると以下のようになる.

br:=qとする.
μ(w):=0n(a1,,ar;q)n(b1,,br;q)ntn1wqn
として, 多項式p(w)
p(w):=0n((wqb1)(wqbr)(wq)r(1b1qn1)(1brqn1))cn1wqn0n((wqa1)(wqar)(wq)r(1a1qn1)(1arqn1))tcn11wqn
によって定義すると, 0Nに対して,
μ(wqN)=(wq/b1,,wq/br;q)N(wq/a1,,wq/ar;q)N(b1bra1art)N(μ(w)(1)rb1brn=0N1(wq/a1,,wq/ar;q)n(wq/b1,,wq/br;q)n+1(a1artb1br)np(wqn))
が成り立つ.

r=2の場合を考える.
cn:=(a,b;q)n(c,q;q)ntnμ(w):=0n(a,b;q)n(c,q;q)ntn1wqn
として,
p(w)=0n(wqc)(wqq)(wq)2(1cqn1)(1qn)1wqncn0n(wqa)(wqb)(wq)2(1aqn1)(1bqn1)1wqntcn1=0n(cq(1+wqn)(c+q)wq)cnt0n(ab(1+wqn)(a+b)wq)cn1=0n(cqtab+wq((ctab)qn+(a+b)tcq))cn
wに関する一次式になる. このとき,
μ(wqN)=(wq/c,w;q)N(wq/a,wq/b;q)N(cqabt)N(μ(w)1cqn=0N1(wq/a,wq/b;q)n(wq/c,w;q)n+1(abtcq)np(wqn))
と求められる. 特別な場合としてp(w)の定数項が0になる場合を考えてみる. その条件はcq=tab, つまりt=cqabである. このとき,
p(w)=wq0n(c(1q)qn+(a+b)cqabcq)cn=:Aw
と置く. 定数Aを求めたい. Heineの和公式より,
μ(c)=0n(a,b;q)n(c,q;q)n11cqn(cqab)n=11c0n(a,b;q)n(cq,q;q)n(cqab)n=(cq/a,cq/b;q)(c,cq/ab;q)
であるから,
p(w)=(wqc)(wqq)μ(w)(wqa)(wqb)tμ(wq)
であったことを用いると, w=cq
A=qcp(cq)=qc(ca)(cb)cqabμ(c)=q2(c/a,c/b;q)(c,cq/ab;q)
を得る. よって, これらを用いて,
μ(wqN)=(wq/c,w;q)N(wq/a,wq/b;q)N(μ(w)wcqn=0N1(wq/a,wq/b;q)n(wq/c,w;q)n+1p(wqn))=(wq/c,w;q)N(wq/a,wq/b;q)N(μ(w)+wqc(c/a,c/b;q)(c,cq/ab;q)n=0N1(wq/a,wq/b;q)n(wq/c,w;q)n+1qn)
を得る. ここで, w=cのとき,
μ(c)=(cq/a,cq/b;q)(c,cq/ab;q)
であることを用いると,
μ(cqN)=(c,q;q)N(cq/a,cq/b;q)N((cq/a,cq/b;q)(c,cq/ab;q)+q(c/a,c/b;q)(c,cq/ab;q)n=0N1(cq/a,cq/b;q)n(c,q;q)n+1qn)=(c,q;q)N(cq/a,cq/b;q)N((cq/a,cq/b;q)(c,cq/ab;q)+(cq/a,cq/b;q)(c,cq/ab;q)n=0N1(c/a,c/b;q)n+1(c,q;q)n+1qn+1)=(cq/a,cq/b;q)(c,cq/ab;q)(c,q;q)N(cq/a,cq/b;q)Nn=0N(c/a,c/b;q)n(c,q;q)nqn
と簡潔に表される. これはHodgkinsonによって示された等式のq類似である. これらをまとめると, 以下のようになる.

μ(w):=0n(a,b;q)n(c,q;q)ntn1wqn
とするとき, 0Nに対して,
μ(wqN)=(wq/c,w;q)N(wq/a,wq/b;q)N(cqabt)N(μ(w)1cqn=0N1(wq/a,wq/b;q)n(wq/c,w;q)n+1(abtcq)np(wqn))
が成り立つ. ここで, p(w)
p(w):=0n(cqtab+wq((ctab)qn+(a+b)tcq))(a,b;q)n(c,q;q)ntn
によって与えられるwに関する一次式である. 特にt=cqabのとき,
μ(wqN)=(wq/c,w;q)N(wq/a,wq/b;q)N(μ(w)+wqc(c/a,c/b;q)(c,cq/ab;q)n=0N1(wq/a,wq/b;q)n(wq/c,w;q)n+1qn)
が成り立つ. 加えてw=cのとき,
μ(cqN)=(cq/a,cq/b;q)(c,cq/ab;q)(c,q;q)N(cq/a,cq/b;q)Nn=0N(c/a,c/b;q)n(c,q;q)nqn
が成り立つ.

最後の等式
0n(a,b;q)n(c,q;q)n(cqab)n11cqN+n=(cq/a,cq/b;q)(c,cq/ab;q)(c,q;q)N(cq/a,cq/b;q)Nn=0N(c/a,c/b;q)n(c,q;q)nqn
においては, 現れる定数がすべてq-Pochhammer記号で表されていてかなり簡潔な等式になっている. rが大きくなると, 一般には求められない定数が増えることになりそうだが, パラメーターを特殊化するなどして, 2ϕ1の場合以外にもこのような興味深い等式があるのかを考えることは今後の研究課題である.

投稿日:28日前
更新日:27日前
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Wataru
Wataru
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超幾何関数, 直交関数, 多重ゼータ値などに興味があります

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