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erdosの未解決問題を解いてみた

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$$\newcommand{Aut}[0]{\mathrm{Aut}} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{char}[0]{{\bf char}} \newcommand{comp}[0]{\circ} \newcommand{core}[0]{\rm{core}} \newcommand{diag}[0]{\mathrm{diag}} \newcommand{field}[1]{\mathbb{F}_{#1}} \newcommand{gen}[1]{\langle #1 \rangle} \newcommand{GL}[0]{\mathrm{GL}} \newcommand{imply}[0]{\Rightarrow} \newcommand{inpr}[2]{\langle {#1},{#2} \rangle} \newcommand{iso}[0]{\simeq} \newcommand{lnormal}[0]{\triangleleft } \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{rnormal}[0]{\triangleright} \newcommand{semiprod}[3]{{#1}\ltimes_{#2}#3} \newcommand{SL}[0]{\mathrm{SL}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

初めに

https://www.erdosproblems.com/ にある https://www.erdosproblems.com/315 を解決したという話です. (ただし後述するようにオリジナリティは怪しいです)
とりあえず問題を書くための準備をしていきます:

シルベスター数列$s_i$を, $s_0=1,s_1=2,s_{i+1}=s_i^2-s_i+1$で帰納的に定める.

$n$を正の整数としたとき,
\begin{align*} \sum_{i=1}^{n-1} \frac{1}{s_i}+\frac{1}{s_n-1}=1 \end{align*}
が成立します. 証明は帰納法すればokです.

erdosproblem-315

正整数の無限列$a_1\leq a_2\leq a_3\leq \cdots$が次の式を満たしたとする:
\begin{align*} \sum_{i=1}^{\infty} \frac{1}{a_i}=1 \end{align*}

このとき, $\liminf_i a_i^{2^{-i}}\leq \lim_i s_i^{2^{-i}}=1.264\cdots$であり, かつ等号成立は$a_i=s_i(\forall i\in \mathbb{Z}_{>0})$と同値であるか?
(ここで, $a^{b^c}$$a^{(b^c)}$を意味する)

これが解けたという話をしていくのですが, 先にどうオリジナリティが怪しいかという話をしておきます:
まず, 上の問題に対して, 次のような有限バージョンが考えられます(こっちの方が自然な気もする):

有限版

正整数の列$a_1\leq a_2\leq a_3\leq \cdots \leq a_n$が次の式を満たしたとする:
\begin{align*} \sum_{i=1}^{n} \frac{1}{a_i}=1 \end{align*}

このとき, $a_n\leq s_n-1$であり, かつ等号成立は$a_i=s_i(\forall i< n)$と同値であるか?

で, これはすでに解かれています. 英語版wikipedia によると1919年の論文ですでに言及されているらしいです. 自分もerodosの問題を考えるにあたり, とりあえず上の命題の証明( Sou )を読みました.
すると, 大体そのままの手法でerdosの方の問題が解けてしまいました. なのでオリジナリティが怪しいというわけです.

あとそもそも https://www.erdosproblems.com/ はerdosとは関係ない個人サイトなので, もうすでに解かれている(けどサイトが更新されていない)という可能性もあると思います. 解法が初等的だし.

もしすでに解いてた文献があればご一報ください. 以下証明に入るので常体です.

証明

まず, 問題をやや一般化して述べる. そのためにシルベスター数列を一般化し, 性質について調べる.

一般化シルベスター数列

正整数$n$に対し, 一般化シルベスター数列$s_i(n)$を, $s_0(n)=n,s_1(n)=n+1,s_{i+1}(n)=s_i(n)^2-s_i(n)+1$で帰納的に定める.

正整数$n,l$および非負整数$m$に対し, 次の式がすべて成立する.

  1. $\displaystyle{ \sum_{i=1}^{m-1} \frac{1}{s_i(n)}+\frac{1}{s_m(n)-1}=\frac{1}{n}} $
  2. $\displaystyle{ s_{m+1}(n)-1=\prod_{i=0}^{m} s_i(n)} $
  3. $\displaystyle{ n^{2^{l-1}}< s_l(n)\leq {(n+1)}^{2^{l-1}} }$
  4. $s_{l+m-1}(n)=s_l(s_m(n)-1)$

1,2は$m$の, 3,4は$l$の帰納法で容易に確かめられる.

$n$を正の自然数とする.
このとき, 数列$(s_i(n)^{2^{-i}})_{i>0}$は広義単調減少数列であり, 数列$((s_i(n)-1)^{2^{-i}})_{i>0}$は広義単調増加である.
従って, どちらの数列も収束先を$[n,n+1]$に持つ.

$i$が正なら, $s_{i+1}(n)=s_i(n)^2-s_i(n)+1\leq s_i(n)^2$および$s_{i+1}(n)-1=s_i(n)^2-s_i(n)\geq (s_i(n)-1)^2$から前半がわかる.
後半は命題1の3番目の不等式から従う.

erdosproblem-315(の一般化)

$n$を正の整数とし, 正整数の無限列$a_1\leq a_2\leq a_3\leq \cdots$が次の式を満たしたとする:
\begin{align*} \sum_{i=1}^{\infty} \frac{1}{a_i}=\frac{1}{n} \end{align*}
このとき, $\liminf_i a_i^{2^{-i}}\leq \lim_i s_i(n)^{2^{-i}}$であり, かつ等号が成立するのは$a_i=s_i(n)(\forall i\in\mathbb{Z}_{>0})$のときのみである.

次が大事な補題となる. (本質的に Sou の議論をパッケージ化したもの.)

$u$を正の実数, $t$を正の自然数とする. ここで, 正の実数列$u_1\geq u_2\geq u_3\geq \cdots$および$v_1\geq v_2\geq v_3 \geq \cdots$が次の条件を満たしたとする.

  1. $n\geq t$ならば, $\sum_{i=1}^n u_i + u\prod_{i=1}^n u_i =u$かつ $\sum_{i=1}^n v_i + u\prod_{i=1}^n v_i \leq u $
  2. $n< t$ならば, $v_n\leq u_n$

このとき, 任意の正整数$n$に対し, $\sum_{i=1}^n v_i \leq \sum_{i=1}^n u_i$.

$n$の帰納法で示す. 条件2より$n< t$なら自明. $n(\geq t)$未満での成立を仮定し, $n$での成立を示す.
もし, $v_n\leq u_n$なら, $n-1$での帰納法の仮定から明らか.
もし, $\prod_{i=1}^n v_i\geq \prod_{i=1}^n u_i$なら, 条件1より,
\begin{align*} \sum_{i=1}^n v_i\leq u-\prod_{i=1}^n v_i\leq u-\prod_{i=1}^n u_i= \sum_{i=1}^n u_i . \end{align*}
よって, $v_n>u_n$かつ$\prod_{i=1}^n v_i < \prod_{i=1}^n u_i$と仮定して示せばよい. $\prod_{i=j}^n v_i < \prod_{i=j}^n v_i$ を満たすような$j$の中で最大のものを$m$と置く.
すると, $m$の最大性より, $m< l\leq n$なら$ \prod_{i=m}^l v_i \leq \prod_{i=m}^l u_i$が成立する. よって, 下の補題より$\sum_{i=m}^n v_i \leq \sum_{i=m}^n u_i$がわかる. $m-1$での帰納法の仮定と合わせ, $\sum_{i=1}^n v_i \leq \sum_{i=1}^n u_i$が従う.

この補題は Sou のpropsitionと同一だが, self-containednessを上げるためにここで述べる.

正の実数列$u_1\geq u_2\geq \cdots \geq u_n$および$v_1\geq v_2\geq \cdots \geq v_n$が次の条件を満たしたとする.

  • 任意の$m\leq n$に対し, $\prod_{i=1}^m v_i \leq \prod_{i=1}^m u_i$

このとき, $\sum_{i=1}^n v_i \leq \sum_{i=1}^n u_i$が成立する.

必要なら$u_n$を小さく取り替えて, $\prod_{i=1}^n v_i =\prod_{i=1}^n u_i$と仮定してよい. $\alpha_i=\log(u_i),\beta_i=\log(v_i)$と置く. すると, $(\alpha_i)$$(\beta_i)$の優数列であるという条件の下で$\sum_{i=1}^n e^{\alpha_i} \geq \sum_{i=1}^n e^{\beta_i}$を示せばよい. これはムーアヘッドの不等式から従う. ムーアヘッドの不等式に関しては AOPS などを参照.

あとは補題2を上手く使っていけば定理1が示せる. 示したい定理を再掲する:

(定理3の再掲)

$n$を正の整数とし, 正整数の無限列$a_1\leq a_2\leq a_3\leq \cdots$が次の式を満たしたとする:
\begin{align*} \sum_{i=1}^{\infty} \frac{1}{a_i}=\frac{1}{n} \end{align*}
このとき, $\liminf_i a_i^{2^{-i}}\leq \lim_i s_i(n)^{2^{-i}}$であり, かつ等号が成立するのは$a_i=s_i(n)(\forall i\in\mathbb{Z}_{>0})$のときのみである.

(定理3)

まず, $a_1\neq n+1$の場合に帰着できることを示す.

数列$a_i$$s_i(n)$と全項が一致するときは主張は自明. よって, $a_i\neq s_i(n)$となる$i$が存在するとしてよい. このような$i$の中で最小のものを再び$i$と置く. すると, $i$の最小性と命題1の1より,
\begin{align*} \sum_{j=i}^{\infty} \frac{1}{a_j}=\frac{1}{s_{i}(n)-1} \end{align*}
が成立する. 命題1の4と合わせ, 数列を$i-1$項分スライドさせることで結局$a_1\neq n+1$(従って$a_1\geq n+2$)としてよい.

$n=1$の場合は例外処理がいるので, $n\neq 1$の場合を先に示す.
正の実数列$u_i$を次のように定義する:
\begin{align*} u_i= \begin{cases} (n+2)^{-1} & i=1\\ 2(n+1)^{-2} & i=2\\ {s_{i-2}(l)}^{-1} & i\geq 3 \end{cases} \end{align*}
ここで, $l=\frac{1}{2}n(n+1)^2(n+2)$である. $v_i={a_i}^{-1}$, $u={n}^{-1}$, $t=2$と置くと, これらが補題2の条件を満たすことを順に示す.
代入計算により, $\displaystyle{\frac{1}{n}-(u_1+u_2)=\frac{2}{n(n+2)}-\frac{2}{(n+1)^2}=\frac{1}{l}=uu_1u_2}.$
よって, 任意の正の整数$m\geq t=2$に対し,
\begin{align*} \frac{1}{n}-\sum_{i=1}^m u_i - u\prod_{i=1}^m u_i&=\frac{1}{l}-\sum_{i=3}^m u_i - \frac{1}{l}\prod_{i=3}^m u_i\\ &=\frac{1}{l}-\sum_{i=1}^{m-2} \frac{1}{s_{i}(l)}-\prod_{i=0}^{m-2} \frac{1}{s_{i}(l)} =0 \end{align*}
最後の等式に, 命題1の3,4を用いた. これにより, 条件1の前半がわかった.
次に後半を示す. $m$を任意の正の整数とし, $q=\frac{1}{n}-\sum_{i=1}^m \frac{1}{a_i}$と置く. $\sum_{i=1}^{\infty} \frac{1}{a_i}=\frac{1}{n}$より, $q>0$. また, $q$の分母は$n\prod_{i=1}^m a_i$の約数. よって, $\displaystyle{q\geq \frac{1}{n}\prod_{i=1}^m \frac{1}{a_i}}$. これは条件1の後半を示す.
条件2は$a_1\geq n+2$より明らか.
よって, 補題2が使え, 任意の$m$に対し, $\sum_{i=1}^m u_i\geq \sum_{i=1}^m v_i$となる. これと, $\sum_{i=1}^{\infty} u_i=u=\sum_{i=1}^{\infty} v_i$を合わせると, $u_j\leq v_j$となる$j$が無限個ないといけない. ゆえに, $\liminf_j a_j^{2^{-j}}=\liminf_j v_j^{-2^{-j}}\leq \lim_j s_{j-2}(l)^{2^{-j}}$. 命題2と合わせ, $\liminf_j a_j^{2^{-j}}\leq (s_1(l))^{1/8}=(l+1)^{1/8}$. また, 命題2より, $\lim_j s_j(n)^{2^{-j}}\geq(s_3(n)-1)^{1/8}=(n(n+1)(n^2+n+1))^{1/8}$. 今, $n\geq 2$より, $n(n+1)(n^2+n+1)>l+1$となるので, 所望の不等式が示された.

$n=1$の場合は,
\begin{align*} u_i= \begin{cases} \frac{1}{3} & i=1,2\\ \frac{3}{10} & i=3\\ {s_{i-3}(31)}^{-1} & i\geq 4 \end{cases} \end{align*}
として, $t=3$とすれば同様の議論が回る.

投稿日:518
更新日:521

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