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高校数学解説
文献あり

3倍角の公式を用いた3次方程式の解法

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$$\newcommand{powerset}[1]{2^{#1}} \newcommand{pullback}[1]{#1^\leftarrow} \newcommand{pushout}[1]{#1^\to} $$

目標

この記事では,異なる$3$つの実数解をもつ$3$次方程式
$$ ax^3+bx^2+cx+d=0 \qquad (a\ne 0)$$
を,$3$倍角の公式

3倍角の公式

実数$\theta$に対して,$\cos(3\theta)=4\cos(\theta)^3-3\cos(\theta)$が成り立つ.

を用いて解く方法を紹介する.

標準形$x^3+px+q=0$の場合

簡単のため,まずは$x^3+px+q=0$という形の$3$次方程式について考える($p,q$は実数).
(後述の通り,実は適当な式変形によってすべての$3$次方程式はこの$x^3+px+q=0$という形に帰着される.)

異なる3つの実数解をもつ条件

本記事では異なる$3$つの実数解をもつ$3$次方程式だけを考察対象とする.
後の議論のため,$x^3+px+q=0$が異なる$3$つの実数解をもつための条件を求めておく.

異なる3つの実数解をもつ条件

$p,q$を実数とする.このとき,$3$次方程式$x^3+px+q=0$が異なる$3$つの実数解をもつための必要十分条件は,$-4p^3-27q^2>0$が成り立つことである.

関数$f(x):=x^3+px+q$を考えると,$3$次方程式$f(x)=0$が異なる$3$つの実数解をもつための必要十分条件は,$2$次方程式$f'(x)=0$が異なる$2$つの実数解$\alpha,\beta$をもち,かつ$f(\alpha)f(\beta)<0$が成り立つことである.
!FORMULA[30][38352][0]軸と異なる!FORMULA[31][36213][0]点で交わる!FORMULA[32][36213][0]次関数のグラフ $x$軸と異なる$3$点で交わる$3$次関数のグラフ
いま$f'(x)=3x^2+p$だから,$2$次方程式$f'(x)=0$が異なる$2$つの実数解$\alpha,\beta$をもつための必要十分条件は$p<0$である.さらにこのとき,解と係数の関係より
$$ \alpha+\beta=0, \qquad \alpha\beta=\frac{p}{3}$$
が成り立つから
\begin{align*} \alpha^2+\beta^2&=(\alpha+\beta)^2-2\alpha\beta=-\frac{2p}{3}, \\ \alpha^3+\beta^3&=(\alpha+\beta)(\alpha^2-\alpha\beta+\beta^2)=0 \end{align*}
も用いると
\begin{align*} f(\alpha)f(\beta) &=(\alpha^3+p\alpha+q)(\beta^3+p\beta+q) \\ &=\alpha^3\beta^3+p\alpha\beta(\alpha^2+\beta^2)+q(\alpha^3+\beta^3)+p^2\alpha\beta+pq(\alpha+\beta)+q^2 \\ &=\frac{p^3}{27}-\frac{2p^3}{9}+0+\frac{p^3}{3}+0+q^2 \\ &=\frac{4p^3+27q^2}{27} \end{align*}
となる.よって,$f(\alpha)f(\beta)<0$$-4p^3-27q^2>0$と同値であることがわかった.ところで$-4p^3-27q^2>0$が成り立つとき
$$ -4p^3>27q^2\ge 0$$
より自動的に$p<0$が成り立つから,「$p<0$かつ$-4p^3-27q^2>0$」は$-4p^3-27q^2>0$と同値である.

したがって以下$-4p^3-27q^2>0$と仮定する.
証明でも指摘した通り,この仮定の下では自動的に$p<0$が成り立つことに注意.

解の1つを求める

方程式$x^3+px+q=0$を,$3$倍角の公式$\cos(3\theta)=4\cos(\theta)^3-3\cos(\theta)$に近い形へと変形する.
$p<0$であることに注意して
$$ x=\sqrt{-\frac{4p}{3}}X$$
と変数変換すれば,方程式は
\begin{align*} &x^3+px+q=0 \\ \iff& -\frac{4p}{3}\sqrt{-\frac{4p}{3}}X^3+p\sqrt{-\frac{4p}{3}}X+q=0 \\ \iff& {\color{red}4X^3-3X=\frac{3q}{p}\sqrt{-\frac{3}{4p}}} \end{align*}
と書き換えられる.いま$-4p^3-27q^2>0$と仮定していたことを思い出すと,右辺について
$$ \bigg(\frac{3q}{p}\sqrt{-\frac{3}{4p}}\bigg)^2=-\frac{27q^2}{4p^3}<1$$
が成り立つから,中間値の定理より
$$ \cos(3\theta)=\frac{3q}{p}\sqrt{-\frac{3}{4p}}$$
を満たす$\theta\in(0,\frac{\pi}{3})$がただ$1$つ存在する.
!FORMULA[63][1782773758][0]の取り方 $\theta$の取り方
$3$倍角の公式より,$X=\cos(\theta)$は明らかに$4X^3-3X=\cos(3\theta)$の解である.

ここまでの議論より,次の命題を得る.

解の1つを$\cos$で表す

$p,q$$-4p^3-27q^2>0$を満たす実数とする.このとき$$ \cos(3\theta)=\frac{3q}{p}\sqrt{-\frac{3}{4p}}$$
を満たす$\theta\in(0,\frac{\pi}{3})$がただ一つ存在し,
$$ x=\sqrt{-\frac{4p}{3}}\cos(\theta)$$
は方程式$x^3+px+q=0$の解である.

3つの実数解をすべて求める

3つすべての解を$\cos$で表す

$p,q$$-4p^3-27q^2>0$を満たす実数とする.このとき
$$ \cos(3\theta)=\frac{3q}{p}\sqrt{-\frac{3}{4p}}$$
を満たす$\theta\in(0,\frac{\pi}{3})$がただ一つ存在し,
\begin{align*} x= &\sqrt{-\frac{4p}{3}}\cos(\theta),\\ &\sqrt{-\frac{4p}{3}}\cos\bigg(\theta+\frac{2}{3}\pi\bigg),\\ &\sqrt{-\frac{4p}{3}}\cos\bigg(\theta+\frac{4}{3}\pi\bigg) \end{align*}
は方程式$x^3+px+q=0$の異なる$3$つの実数解である.

$$ \cos\bigg(3\bigg(\theta+\frac{2}{3}\pi\bigg)\bigg)=\cos\bigg(3\bigg(\theta+\frac{4}{3}\pi\bigg)\bigg)=\cos(3\theta)=\frac{3q}{p}\sqrt{-\frac{3}{4p}}$$
が成り立つから,前節と同様の議論によって
$$ x=\sqrt{-\frac{4p}{3}}\cos(\theta),\ \sqrt{-\frac{4p}{3}}\cos\bigg(\theta+\frac{2}{3}\pi\bigg),\ \sqrt{-\frac{4p}{3}}\cos\bigg(\theta+\frac{4}{3}\pi\bigg)$$
は方程式$x^3+px+q=0$の実数解となる.あとはこれら$3$つが相異なることを示せばよいが,それは$0<\theta<\frac{\pi}{3}$より
$$ -1<\cos\bigg(\theta+\frac{2}{3}\pi\bigg)<-\frac{1}{2}<\cos\bigg(\theta+\frac{4}{3}\pi\bigg)<\frac{1}{2}<\cos(\theta)<1$$
が成り立つことから従う.
!FORMULA[88][36213][0]つの解の大小関係 $3$つの解の大小関係

一般形$ax^3+bx^2+cx+d=0$の場合

標準形に帰着する

左辺$ax^3+bx^2+cx+d$から$2$次の項を消去するために
$$ x=X-\frac{b}{3a}$$
と変数変換すると
\begin{align*} &ax^3+bx^2+cx+d \\ &=a\bigg({X-\frac{b}{3a}}\bigg)^3+b\bigg({X-\frac{b}{3a}}\bigg)^2+c\bigg({X-\frac{b}{3a}}\bigg)+d \\ &=aX^3+\bigg(c-\frac{b^2}{3a}\bigg)X+\bigg(d-\frac{bc}{3a}+\frac{2b^3}{27a^2}\bigg) \\ &=a(X^3+pX+q) \end{align*}
となる.ただし,新たな係数$p,q$
$$ p=\frac{1}{a}\bigg(c-\frac{b^2}{3a}\bigg), \qquad q=\frac{1}{a}\bigg(d-\frac{bc}{3a}+\frac{2b^3}{27a^2}\bigg)$$
で定めた.この標準形の方程式$X^3+pX+q=0$を解くことができれば,変数変換をもとに戻すことで$ax^3+bx^2+cx+d=0$の解も得られる.

異なる3つの実数解をもつ条件

3次方程式が異なる3つの実数解をもつ条件

$a,b,c,d$$a\ne 0$を満たす実数とする.このとき,3次方程式$ax^3+bx^2+cx+d=0$が異なる$3$つの実数解をもつための必要十分条件は,$18abcd-4ac^3-27a^2d^2+b^2c^2-4b^3d>0$が成り立つことである.

先述の方法で標準形$X^3+pX+q=0$に帰着すると,この方程式が異なる$3$つの実数解をもつための必要十分条件は$-4p^3-27q^2>0$が成り立つことだった.
$$ p=\frac{1}{a}\bigg(c-\frac{b^2}{3a}\bigg), \qquad q=\frac{1}{a}\bigg(d-\frac{bc}{3a}+\frac{2b^3}{27a^2}\bigg)$$
を用いて計算すると
\begin{align*} -4p^3-27q^2 &=-\frac{4}{a^3}\bigg(c-\frac{b^2}{3a}\bigg)^3-\frac{27}{a^2}\bigg(d-\frac{bc}{3a}+\frac{2b^3}{27a^2}\bigg)^2 \\ &=\frac{18abcd-4ac^3-27a^2d^2+b^2c^2-4b^3d}{a^4} \end{align*}
だから,$-4p^3-27q^2>0$$18abcd-4ac^3-27a^2d^2+b^2c^2-4b^3d>0$と同値である.

$18abcd-4ac^3-27a^2d^2+b^2c^2-4b^3d$は,$3$次方程式$ax^3+bx^2+cx+d=0$判別式とよばれる量である.

$-4p^3-27q^2>0$のとき$p<0$が成り立つから,$18abcd-4ac^3-27a^2d^2+b^2c^2-4b^3d>0$のとき$b^2-3ac>0$が成り立つ.

まとめ

ここまでの議論をまとめれば,次の結果を得る(計算略).

$a,b,c,d$$a\ne 0$を満たす実数とする.このとき,次のことが成り立つ.

  1. 3次方程式$ax^3+bx^2+cx+d=0$が異なる$3$つの実数解をもつための必要十分条件は,$18abcd-4ac^3-27a^2d^2+b^2c^2-4b^3d>0$が成り立つことである.
  2. $18abcd-4ac^3-27a^2d^2+b^2c^2-4b^3d>0$が成り立つとき,
    $$ \cos(3\theta)=\frac{9abc-27a^2d-2b^3}{2(b^2-3ac)^{3/2}}$$
    を満たす$\theta\in(0,\frac{\pi}{3})$がただ一つ存在し,3次方程式$ax^3+bx^2+cx+d=0$の異なる$3$つの実数解は
    \begin{align*} x={} &\frac{2(b^2-3ac)^{1/2}}{3|a|}\cos(\theta)-\frac{b}{3a},\\ &\frac{2(b^2-3ac)^{1/2}}{3|a|}\cos\bigg(\theta+\frac{2}{3}\pi\bigg)-\frac{b}{3a},\\ &\frac{2(b^2-3ac)^{1/2}}{3|a|}\cos\bigg(\theta+\frac{4}{3}\pi\bigg)-\frac{b}{3a} \end{align*}
    と表される.

参考文献

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