[最終更新日] 2025年8月22日:命題2の証明の一部訂正.
この記事では,大域類体論を理解する上で欠かせない概念であるアデール環の定義とその位相的性質について解説します.前半と題したこの記事ではアデール環についてまとめ,イデール群については後半でまとめようと思います.
以下では,$K$を大域体,$V_{\infty}$を$K$の無限素点全体,$V_{< \infty}$を$K$の有限素点全体とする.
$K$のアデール環$ \mathbb{A}_K$を直積環$\displaystyle \prod_v K_v$($v$は$K$の素点全体を走る)の部分環として,以下のように定義する.
$\mathbb{A}_K = \lbrace (\alpha_v)_v \in \displaystyle \prod_v K_v | \text{ほとんど全ての} K \text{の有限素点} v \text{について} \alpha \in O_v \rbrace$.
ただし、 $K_v$は素点$v$による$K$の完備化を表し、 $O_v$は$K_v$の$v$による付値環を表す.
これは制限直積と呼ばれるものになります.つまり,アデール環の各元に対し,素点からなる有限集合$S$が存在し,$v \notin S$となるような素点$v$に対しては,そこでの成分が常に付値環に入るということです.ここで注意なのは,この有限集合Sの取り方はアデール環の元に依るということです.
上記の集合は, 成分ごとに和と積を定義すれば実際に環を成していることがわかります.
まずは,アデール環の位相について見ていきましょう.
$S$は$V_{\infty}$を含むような有限集合とする.このとき,
$\mathbb{A}_K = \displaystyle \bigcup _S \mathbb{A}_K (S)$
が成り立つ.ただし,$\mathbb{A}_K(S)=\lbrace (\alpha_v)_v \in \displaystyle \prod_v K_v | v \notin S, \alpha_v \in O_v \rbrace$である.
上の和集合は素点からなる有限集合$S$が$V_\infty$を含んでいる限り,取り方は無数に存在します.
大域体として一番馴染みのある有理数体$\mathbb{Q}$で考えてみましょう.まず,$\mathbb{Q}$が持つ無限素点は通常の絶対値付値のみですね.このことから$\mathbb{Q}$のアデール環は
$\mathbb{A}_{\mathbb{Q}} = \lbrace (\alpha_p)_p \in \mathbb{R} \times \displaystyle \prod_p \mathbb{Q}_p | \alpha_p \in \mathbb{Z}_p \text{for almost all } p \rbrace$
となります("for Almost all"とは「ほとんどすべての」という意味になります.楽なのでこちらで統一します).
ここで添字を$p$にしたのは素数との関連性を意識するためです.つまり,上の$\mathbb{Q}_p$は$p$進体であり,有限素点と素数$p$は同一視されうるのです.
アデール環の位相を次のように与えます.
アデール環の部分集合族として
$\mathcal{B} = \lbrace \displaystyle \prod_{v \in S} U_v \times \prod_{v \notin S}O_v | V_{\infty} \subseteq S, \forall v \in S, U_v \subseteq K_v \text{は開}\rbrace $
を考える($S$は有限集合).このとき,アデール環の位相はこの集合族を開基に持つ.
つまり,上の開基に属する元(集合)によって表される集合全体が位相の定義を満たしているかどうかを確認すれば良いです.
$\mathcal{O} = \lbrace \bigcup \mathfrak{U} | \mathfrak{U} \subset \mathcal{B} \rbrace$が位相の三つの条件を満たしていることを示す.
$\varnothing \in \mathcal{B}$より$\varnothing \in \mathcal{O}$である.また,命題1より$\mathbb{A}_K \in \mathcal{O}$もわかる.
次に,$\mathcal{B}$から任意に二つの集合$U= \displaystyle \prod_{v \in S} U_v \times \prod_{v \notin S} O_v$, $W = \displaystyle \prod_{v \in T} W_v \times \prod_{v \notin T} O_v$を取る
($S$,$T$は$V_{\infty}$を含む有限集合).
このとき,
$\begin{aligned} U \cap W &=(\prod_{v \in S} U_v \times \prod_{v \notin S} O_v) \cap (\prod_{v \in T} W_v \times \prod_{v \notin T} O_v) \\ &= (\prod_{v \in S \cap T}U_v \cap W_v) \times (\prod_{v \in S \setminus T} U_v \cap O_v) \times (\prod_{v \in T \setminus S} O_v \cap W_v) \times (\prod_{v \notin (S \cup T)} O_v) \end{aligned}$
である.$O_v \in \mathcal{O}_{K_v}$ゆえ$U_v \cap W_v$,$U_v \cap O_v$,$O_v \cap W_v \in \mathcal{O}_{K_v}$である.$V_{\infty} \subseteq S \cap T$でこれは有限集合なので,$U \cap W \in \mathcal{B}$である.
最後に,$\mathcal{O}$に属する集合の和集合が$\mathcal{O}$に入ることだが,これは$\mathcal{O}$の定め方より明らかである.
よって,$\mathcal{O}$は位相となり,$\mathcal{B}$はこの開基となる. $\square$
アデール環はこの位相に関して,位相環をなします.実際,この環に対して定まる加法と乗法が成分ごとの演算であることから,演算に関する写像の連続性はわかります.
アデール環は上で定めた位相に関して,局所コンパクトになる.
コンパクトというわけではありませんが,任意の元に対し,その近傍としてコンパクトなものが取れるという性質があります.
$0$の近傍でコンパクトなものが取れることを示す.
$U = \lbrace (\alpha_v)_v \in \mathbb{A}_K | | \alpha_{v_{\infty} } |_{v_{\infty} } \le 1, | \alpha_{v_{\mathfrak{p}}} |_{v_{\mathfrak{p}}} \le 1 \rbrace $
とおく.ただし,$v_{\infty}$は無限素点を表し,$v_{\mathfrak{p}}$は有限素点を表す.このとき$U$はコンパクトになる.
$U$が$0$の近傍であることを示す.$0$を含む集合として
$U^ \circ = \lbrace (\alpha_v)_v \in \mathbb{A}_K | | \alpha_{v_{\infty} } |_{v_{\infty} } < 1, | \alpha_{v_{\mathfrak{p}}} |_{v_{\mathfrak{p}}} \le 1 \rbrace$
を取る.これは開基$\mathcal{B}$に属しているので開集合になる.また,$U^ \circ \subset U$もわかる.
したがって,$U$は$0$のコンパクトな近傍である.
アデール環の任意の元は,$0$にその元を加えることで得られ,したがってそのコンパクトな近傍は$U$にその元を加えることで得られる. $\Box$
アデール環の位相についてより詳しく知りたいという方には,こちらの記事もおすすめです. adele環とidele群の位相
アデール環$\mathbb{A}_K$に対し,$K$の元を次のように対応させます.
$K \ni \alpha \mapsto (\alpha)_v \in \mathbb{A}_K$.
するとこれは単射写像になりますから,この対応により大域体$K$をアデール環の部分環と見做すことができます.これを主アデールと呼んだりします.
次に拡大体に対するアデール環がどのようになるかを見ましょう.
$L$を大域体$K$の有限次(分離)拡大とする.このとき
$\mathbb{A}_K \otimes_{K} L = \mathbb{A}_L$
が成り立つ.
この証明については,Cassels&Fröhlichの"Algebraic Number Theory"の64ページを参照してください.一応,概略を述べると,アデール環の各直積因子である$K_v$にテンソル積を掛ける形で考えるのが肝になります.
$L/K$を$n$次(分離)拡大とし,$\mathbb{A}_K^+$をアデール環$\mathbb{A}_K$から乗法を除いて得た加法位相群とする.このとき
$\mathbb{A}_L^+ = \mathbb{A}_K^+ \oplus \cdots \oplus \mathbb{A}_K^+$
が成り立つ.ここで右辺は$n$個の直和である.この同型において,$L^+$に対し$K^+ \oplus \cdots \oplus K^+$が対応する.
$0$でない任意の$\omega \in L$に対して,$\omega \mathbb{A}_K^+ \subset \mathbb{A}_L^+$は$\mathbb{A}_K^+$と位相同型である.したがって,$\omega_1, \cdots, \omega_n$を$L/K$の基底とすると
$\mathbb{A}_L^+ = \mathbb{A}_K^+ \otimes_K L = \omega_1 \mathbb{A}_K^+ \oplus \cdots \oplus \omega_n \mathbb{A}_K^+ = \mathbb{A}_K^+ \oplus \cdots \oplus \mathbb{A}_K^+$
が成り立つ. $\square$
アデール環の性質の最後にあげるものとして,次の定理を紹介します.
$K$は$\mathbb{A}_K$において離散的であり,$\mathbb{A}_K^+/K^+$は商位相においてコンパクト集合である.
今回は代数体の場合に証明します.
前の系より,$K= \mathbb{Q}$の場合に示せば十分である.実際,$K/ \mathbb{Q}$を$n$次拡大とすれば,
$\mathbb{A}_K = \mathbb{A}_{\mathbb{Q}} \otimes_{\mathbb{Q}} K = \mathbb{A_{Q}} \oplus \cdots \oplus \mathbb{A_Q}$
より$\mathbb{A}_K$の位相は右辺の直積位相として考えることができる.
$\mathbb{Q}$が$\mathbb{A_Q}$において離散的であることは,$0$の近傍$U$に$\mathbb{Q}$の他の元が含まれないことを示せば十分である.なぜなら,任意の有理数は$0$にその有理数を加えることで得ることができ,近傍もまたその有理数を$U$に足した集合として得られるからである.そこで
$U= \lbrace (\alpha_v)_v \in \mathbb{A_Q}| | \alpha_{\infty} |_\infty <1, | \alpha_p |_p \le 1 \rbrace$
とする.ただし,$| |_p$,$| |_\infty$はそれぞれ$\mathbb{Q}$における$p$進付値と絶対値である.
$a \in \mathbb{Q} \cap U$とすると,すべての$p$に対し$| a |_p \le 1$であるので$a \in \mathbb{Z}$である.$| a |_{\infty} < 1$より$a = 0$である.
したがって,$\mathbb{Q}$は$\mathbb{A_Q}$において離散的である.
次に,$\mathbb{A_Q^+}/\mathbb{Q^+}$がコンパクトであることを示す.
$W \subset \mathbb{A_Q^+}$を
$W = \lbrace (\alpha_v)_v \in \mathbb{A_Q^+} | | \alpha_{\infty} |_{\infty} \le \frac{1}{2}, |\alpha_p |_p \le 1 \rbrace$
とする.
任意のアデール$\beta$に対し,ある$\alpha \in W$,$b \in \mathbb{Q}$が存在し,
$\beta =\alpha + b$
と表せることを示す.
各$p$に対し,
$r_p = \frac{z_p}{p^{x_{p}}} (z_p \in \mathbb{Z}, x_p \in \mathbb{Z}, x_p\ge 0)$
で
$| \beta_p - r_p |_p \le 1$
を満たすようなものがある.$\beta$はアデールであるから,ほとんど全ての$p$
に対し$| \beta_p |_p \le 1$である.即ち,
$r_p = 0 (\text{almost all} p)$.
したがって,$R = \displaystyle \sum_p r_p$は有限和であり
$\begin{aligned}| \beta_p - R | &= | \beta_p - r_p + r_p -R| \\ &\le \max \lbrace |\beta_p - r_p |, |R - r_p| \rbrace \\ &\le 1 (\text{all} p) \end{aligned} $
が成り立つ.
ここで,
$| \beta_{\infty} - R - s| \le \frac{1}{2}$
となるような$s \in \mathbb{Z}$を取る.このとき,$b = R+s$,$\alpha = \beta - b$とおけば,求める結果を得る.
それゆえ,自然な全射準同型$\mathbb{A_Q^+} \to \mathbb{A_Q^+}/ \mathbb{Q^+}$により導かれる写像$W \to \mathbb{A_Q^+}/ \mathbb{Q^+}$は全射準同型である. $W$は$| \alpha_{\infty}| _{\infty} \le \frac{1}{2}$で制限された空間$\mathbb{R}$と$O_p$の直積であるから,コンパクトである.
したがって,$\mathbb{A_Q^+}/ \mathbb{Q^+}$はコンパクトである. $\Box$
アデール環$\mathbb{A}_K$の部分集合
$W = \lbrace (\xi _v)_v \in \mathbb{A}_K| | \xi_v| \le \delta_v, \text{where} \delta_v = 1 \text{for almost all} v \rbrace$
で,任意の$\varphi \in \mathbb{A}_K$に対し
$\varphi = \theta + \gamma, \theta \in W, \gamma \in K$
を満たすものが存在する.
今回はアデール環の性質について見ていきました.次回はイデール群についてまとめたいと思います.