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現代数学解説
文献あり

群の誘導表現を計算する

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あいさつと導入

 こんにちは.浅縹(あさはなだ)といいます.初めて……ではなく4年ぶりに記事を書いてみます.4年前!?昔すぎてひっくり返ってしまいますね(4年前の,かなり恥ずかしい……).最近は,主に代数的整数論や圏論などを勉強しています.特に代数的整数論の勉強の中で「誘導加群」なる概念に出会い,圏論でKan拡張を学んでその意味を知り,さらによく考えてみるとよく知られた公式のみから誘導加群が計算できることが分かったので記事にしてみます.
 なお,この記事は私が勉強したばかりの内容を多分に含みます.なんならこの記事を書くために爆速で勉強した部分さえあります(最後に応用例として書いた,群コホモロジーの話の一部など).よって,できるだけ間違いを含まないように書いたつもりではあるものの,誤りが含まれる可能性が少なくありません.ご承知おきください & 誤りの指摘は大歓迎です.

導入,という名の雑談

 ここは雑談です.ぐだぐだ書いたので,早くちゃんとした内容へ行きたい方は読み飛ばしてください.
 さて,まずは群$G$とその部分群$H$,及び$G$$\mathbb{C}$-ベクトル空間による表現$V$を考えてみます.この時,単に作用を$H$に制限することで,$H$の表現が得られます.これを$\mathrm{res}^G_H V$と書きます.この対応は,明らかに$G$-表現全体のなす圏から$H$-表現全体のなす圏への関手を与えています.
 関手があれば,随伴かどうかが気になりますよね.つまり,適切に$H$-表現の圏から$G$-表現のなす圏への関手が構成できるか,というのが問題です.実はこのような関手は構成でき,それにより$H$-表現から作られた$G$-表現を「(余)誘導表現」と呼びます.表現論の解説では多くの場合,この誘導表現は天下りに与えられ,随伴になっていることは具体的な計算で確認する,という方式を取っているものが多いように見えます. alg-dさんの動画 で紹介されているような,「前層の逆像は天下りに定義され,実は順像の随伴になっていることは後で計算によって示す」というのと似た流れですね.(なお,私は表現論をきちんと学んだことがないため,これは嘘である可能性も大いにあります!嘘だったらごめんなさい.)実は前層の逆像の時と同様,これらの(余)誘導表現はKan拡張によって定義でき,具体的な表示を計算すればよく見られる定義と一致することが言えます.しかも,その表示の計算は,Kan拡張の基本的な公式(と少しの代数の知識)のみからほとんど発想の飛躍なく計算することができます!
 というわけで本記事は,(ベクトル空間による表現よりは少しだけ一般的に)群の,可換環上の加群による表現の誘導加群を計算していきます.

本題 - (余)誘導$G$-加群の計算

仮定する知識

  • 圏論から:圏や関手などの素朴な定義,(余)極限,随伴,(各点)Kan拡張.
  • 代数から:(非可換環上の加群の)テンソル積,Homの計算.

 なお,非可換環上のテンソル積,と言っても定義は記事中に書いている上,ガッツリ計算に使うわけではないので,可換環上のテンソル積を知っていればあまり問題にならないと思います.

記法などの確認

 記法や定義,前提となる命題を幾つか確認しておきます.

用語と記法
  • $k$上のベクトル空間の圏を$\mathrm{Vect}_k$,環$R$上の左加群のなす圏を$\mathrm{Mod}_R$と書く.
  • $G$に対して,対象が一点,射が$G$の元,射の合成が$G$の演算であるような圏を$\mathbf{B}G$と書く.$\mathbf{B}G$の唯一の対象を$*_G$で表す.
  • $C,D$と関手$K:\mathcal C\rightarrow D$,及び対象$d\in \mathcal D$について,コンマ圏を$K\downarrow d$$d\downarrow K$で書く.忘却関手は$\Pi^d:K\downarrow d\rightarrow \mathcal C$$\Pi_d:d\downarrow K\rightarrow \mathcal C$と表す.
  • $\mathcal C, \mathcal D, \mathcal E$を圏、$F:\mathcal C\rightarrow \mathcal E, K:\mathcal C\rightarrow \mathcal D$を関手とする時,$F$$K$に沿った左Kan拡張を$\mathrm{Lan}_K F$,右Kan拡張を$\mathrm{Ran}_K F$で表す.
    \begin{xy} \xymatrix{ \mathcal{C} \ar[rr]^-F \ar[d]_-K \ar@{}[rrd]|(.32){\Downarrow} & & \mathcal{E} \\ \mathcal{D} \ar@{.>}[rru]_-{\mathrm{Lan}_K F} & & } \end{xy}
誘導$G$-対象(con EXAMPLE 6.2.8)
  1. $G$と圏$\mathcal C$について,$\mathcal C$$G$-対象とは,関手$\mathbf BG\rightarrow \mathcal C$のことである.$G$-対象$X$について,(誤解の生じない限り)$X(*_G)$のことを単に$X$と書き,また$g\in G$$X$への作用$X(g)$のことを単に$g_*$と書く.また、$\mathcal C$$G$-対象全体のなす圏が$\mathcal C^{\mathbf BG}$という関手圏として書けることに注意しておく.
  2. 上の状況でさらに部分群$H\subset G$をとり,包含を$\iota:\mathbf BH\hookrightarrow \mathbf BG$と書く.この時,$\iota$を合成することで得られる制限関手$\iota^*:\mathcal C^{\mathbf BG}\rightarrow \mathcal C^{\mathbf BH}$$\mathrm{res}^G_H$と書く.さらに,Kan拡張によって得られる$\mathrm{Lan}_\iota (-),\mathrm{Ran}_\iota (-):\mathcal C^{\mathbf BH}\rightrightarrows \mathcal C^{\mathbf BG}$をそれぞれ$\mathrm{ind}^G_H, \mathrm{coind}^G_H$と書く.
    \begin{xy} \xymatrix{ \mathcal C^{\mathbf{B}G} \ar[r]|-{\mathrm{res}^G_H} & \mathcal C^{\mathbf{B}H} \ar@/_18pt/[l]_-{\mathrm{ind}^G_H}^-{\perp} \ar@/^18pt/[l]^-{\mathrm{coind}^G_H}_-{\perp} } \end{xy}

 特に$\mathcal C$$\mathrm{Veck}_k$$\mathrm{Mod}_R$といった圏である時,$G$-対象はそれぞれ$G$-表現や$G$-加群に一致する.

 $H$-対象$X$について,$\mathrm{ind}^G_H X$$\mathrm{coind}^G_H X$を(そのような日本語があるのか知らないのですが,この記事では)誘導$G$-対象,余誘導$G$-対象と呼ぶことにします.考えている圏$\mathcal C$$\mathrm{Mod}_R$$\mathrm{Vect}_k$である時にはそれぞれ(余)誘導$G$-加群,(余)誘導$G$-表現と呼びます.本記事の目標は,可換環$R$に対する$\mathrm{Mod}_R$において、(余)誘導加群を計算することです.

各点Kan拡張(con THEOREM 6.2.1.)

 圏$\mathcal{C,D,E}$と関手$K:\mathcal C\rightarrow \mathcal D, F:\mathcal C\rightarrow E$があり,$\mathcal{E}$$K\downarrow d\overset{\Pi^d}{\longrightarrow}\mathcal{C}\overset{F}{\longrightarrow}\mathcal{E}$という図式の余極限を全ての$d$について持つとする.この時,
$$ L(d) \overset{\mathrm{def}}{=} \mathrm{colim}\left(K\downarrow d\overset{\Pi^d}{\longrightarrow}\mathcal{C}\overset{F}{\longrightarrow}\mathcal{E}\right)$$
という対応$\mathrm{Ob}\mathcal{D}\rightarrow\mathrm{Ob}\mathcal{E}$は関手に拡張でき,$F$$K$に沿った左Kan拡張となる.

 詳細は省略するが,関手に拡張する方法についてのみ言及しておく(後で作用を具体的に計算する際に必要となる).
 $f:d\rightarrow d^\prime$という射がある時,$Kc\rightarrow d$の後ろに$f$を合成することで関手$f_*:K\downarrow d\rightarrow K\downarrow d^\prime$が得られ,$\Pi^{d^\prime}(Kc\rightarrow d\rightarrow d^\prime) = c$に注意すれば$\Pi^d = \Pi^{d^\prime}\cdot f_*$となる.
\begin{xy} \xymatrix{ K\downarrow d \ar[r]^-{f_*} \ar[rd]_{\Pi^d} & K\downarrow d^\prime \ar[d]^{\Pi^{d^\prime}} & & (Kc\rightarrow d) \ar@{|->}[r] \ar@{|->}[rd] & (Kc\rightarrow d\rightarrow d^\prime) \ar@{|->}[d]\\ \ar@{}[ru]|(.68){\circlearrowleft} & \mathcal C \ar[d]^F & & & c \ar@{|->}[d]\\ & \mathcal E & & & Fc } \end{xy}
さて,$F\Pi^d:K\downarrow d\rightarrow\mathcal{E},F\Pi^{d^\prime}:K\downarrow d^\prime\rightarrow\mathcal{E}$の余極限錐をそれぞれ
\begin{eqnarray} (\lambda^d_{c,g}: Fc &\rightarrow& \mathrm{colim}(F\Pi^d))_{g:Kc\rightarrow d} \\ (\lambda^{d^\prime}_{c,g}: Fc &\rightarrow& \mathrm{colim}(F\Pi^{d^\prime}))_{g:Kc\rightarrow d^\prime} \end{eqnarray}
と書くことにする.この時,$$\lambda^{d^\prime}_{-,-}:F\Pi^{d^\prime}\Rightarrow \mathrm{colim}(F\Pi^{d^\prime})$$という余極限錐を$f_*$によって制限することで新たな錐$$\lambda^{d^\prime}_{-,f-}:F\Pi^d\Rightarrow \mathrm{colim}(F\Pi^{d^\prime})$$が得られ,余極限の普遍性より$\mathrm{colim}(F\Pi^d)\rightarrow\mathrm{colim}(F\Pi^{d^\prime})$という射が(錐の足を可換にするように)一意に取れる.これを$Lf:Ld\rightarrow Ld^\prime$とすれば良い.
\begin{xy} \xymatrix{ Fc = F\Pi^d(g:Kc\rightarrow d) = F\Pi^{d^\prime}(fg:Kc\rightarrow d\rightarrow d^\prime) \ar[d]^-{\lambda^d_{c,g}} \ar@/_33pt/[dd]_-{\lambda^{d^\prime}_{c, fg}} & Fc^\prime = F\Pi^{d^\prime}(g^\prime:Kc^\prime\rightarrow d) \ar[ddl]^-{\lambda^{d^\prime}_{c^\prime,g^\prime}} \\ \mathrm{colim}(F\Pi^d) \ar@[red][d]^-{\textcolor{red}{Lf}} & \\ \mathrm{colim}(F\Pi^{d^\prime}) } \end{xy}

テンソル積

可換とは限らない環$A$と,右$A$-加群$M$及び左$A$-加群$N$,及びアーベル群$P$に対して,写像$\phi:M\times N\rightarrow P$$A$-balancedであるとは,次の二条件を満たすこと.

  • $m\in M, n\in N$について,$\phi(m,-):N\rightarrow P, \phi(-,n):M\rightarrow P$がそれぞれアーベル群の準同型である.
  • $m\in M, n\in N, a\in A$について,$\phi(ma,n) = \phi(m,an)$が成り立つ.

この状況で,$M$$N$のテンソル積$\left(M\underset{A}{\otimes} N, \otimes:M\times N\rightarrow M\underset{A}{\otimes} N\right)$とは,アーベル群と$A$-balancedな写像の組のうち最も普遍的なもののこと.つまり,同様の組$(P,\phi)$があれば,一意にアーベル群の準同型$\psi:M\underset{A}\otimes N\rightarrow P$が存在して$\psi\cdot \otimes = \phi$となる.
\begin{xy} \xymatrix{ M\times N \ar[r]^-\phi \ar[d]_-\otimes \ar@{}[dr]|(.32){\circlearrowleft} & P \\ M\underset{A}{\otimes} N \ar@{.>}[ru]_-{\exists!\psi} & } \end{xy}

テンソル積はあくまでアーベル群であるが、$A$の中心に含まれる可換環$k$に対して$k$-加群とみなせる。

誘導$G$-加群の計算

 以降,$R$を可換環,$G\supset H$を群とその部分群として固定します.$\iota:\mathbf BH\hookrightarrow \mathbf BG$を包含とします.$M\in \mathrm{Mod}_R^{\mathbf BH}$$H$作用の入った$R$-加群とします.計算すべきは$\mathrm{ind}^G_H M \in \mathrm{Mod}_R^{\mathbf BG}$です.「発想の飛躍なく」という宣言通り,丁寧に計算していきましょう.

step1 加群の計算

 $\mathrm{ind}^G_H M$がどのような加群になるか(つまり,誘導表現において,$G$-作用を入れるべき加群は何か)を計算する.$\mathrm{Mod}_R$が余完備であることと各点Kan拡張の公式より,これは
$$\mathrm{colim}\left(\iota\downarrow *_G \overset{\Pi}{\longrightarrow}\mathbf BH \overset{M}{\longrightarrow} \mathrm{Mod}_R\right)$$
と書ける.$\iota\downarrow *_G$の対象は射$\iota(*_H)\rightarrow *_G$,つまり群$G$の元全体であり,射$h:g_1\rightarrow g_2$$g_1 = g_2 h$が成り立つようなもの.
\begin{xy} \xymatrix{ \iota (*_H) \ar[rr]^-h \ar[rd]_-{g_1} & \ar@{}[d]|-{\circlearrowleft} & \iota (*_H) \ar[ld]^-{g_2} \\ & *_G & } \end{xy}
よって,図式$\iota\downarrow *_G \overset{\Pi}{\longrightarrow}\mathbf BH \overset{M}{\longrightarrow} \mathrm{Mod}_R$から$R$-加群$N$への錐を$(\lambda_g: M\rightarrow N)_{g\in G}$と書くと,錐の条件は「$g_1 = g_2 h$の時$\lambda_{g_1} = \lambda_{g_2} h_*$が成り立つ」こと.
\begin{xy} \xymatrix{ M \ar[rr]^-{h_*} \ar[rd]_-{\lambda_{g_1}} & \ar@{}[d]|-{\circlearrowleft} & M \ar[ld]^-{\lambda_{g_2}} \\ & N & } \end{xy}
この条件は「全ての$g\in G, h\in H, m\in M$について$\lambda_{gh}(m) = \lambda_{g}(hm)$が成り立つ」と言い換えられる.さらに$\lambda$$G$側について$R[G]$(群環)まで$R$-線型に広げることで$\lambda:R[G]\times M\rightarrow N$とみなせば,元来$\lambda_g$$\mathrm{Mod}_R$の射だったことにも注意して

  1. $\lambda$$R[H]$-balancedである.つまり,$g\in R[G], m\in M, h\in R[H]$について$\lambda(gh, m) = \lambda(g,hm)$である.
  2. $\lambda$は第一引数,第二引数いずれについても$R$-線型である.

という条件に書き換えられる.このような射のうち最も普遍的なものが余極限なのだから,特に1.(及び$R$-線型から$\mathbb{Z}$-線型が従うこと)を見ると,「テンソル積に$R$-加群としての構造を入れたもの」が条件を満たすのではないか,という予想が立てられる.実際これは正しいことが確かめられる:

 $R[G]\underset{R[H]}{\otimes}M$に適当に$R$-作用を入れた加群は,上の条件を満たす加群のうち最も普遍的なものである.つまり,$(N\in \mathrm{Mod}_R, \lambda:R[G]\times M\rightarrow N)$が上の条件を満たすならば,図式を可換にする$\mathrm{Mod}_R$の射$\phi:R[G]\underset{R[H]}{\otimes}M\rightarrow N$が一意に存在する:
\begin{xy} \xymatrix{ R[G]\times M \ar[r]^-{\lambda} \ar[d]_-{\otimes} \ar@{}[rd]|(.32){\circlearrowleft} & N \\ R[G] \underset{R[H]}{\otimes} M \ar@{.>}[ru]_-{\exists!\phi} & } \end{xy}

 アーベル群としての普遍性より,図式をアーベル群全体のなす圏$\mathbf{Ab}$で解釈した時,そのような$\phi$は一意に存在する.あとは$\phi$$R$-作用を保てば良いが,$r\in R, m\in M, n\in N$について
\begin{eqnarray} \phi(r(m\otimes n)) &=& \phi((rm)\otimes n) \\ &=& \lambda(rm, n) \\ &=& r\lambda(m,n) \\ &=& r\phi(m\otimes n) \end{eqnarray}
となり,$\phi$$\mathrm{Mod}_R$の射である.

 以上で,まず$\mathrm{ind}^G_H (M) (*_G) = R[G]\underset{R[H]}{\otimes}M$であることがわかった.

step2 作用の計算

 まず,上で$\lambda_(g)$と書いていた射が何であったかを確かめる必要があるが,$\lambda_g(m) = \lambda(g,m) = g\otimes m$であったから,$\lambda_g = g\otimes(-)$である.さて,これを元にpointwise の証明における射の構成を再現する.$f\in G$をひとつ固定する.pointwiseの証明の最後に現れた図式を描き直すと,次のようになる.
\begin{xy} \xymatrix{ M \ar[d]^-{\lambda_g} \ar@/_33pt/[dd]_-{\lambda_{fg}} \\ R[G]\otimes M \ar@[red][d]^-{\textcolor{red}{Lf}} \\ R[G]\otimes M } \end{xy}
つまり,全ての$g$に対して$Lf(g\otimes(-)) = fg \otimes (-)$なのだから,$f\in G$の作用は$g\otimes m \mapsto fg\otimes m$というように,「$R[G]$の部分に左から作用する」形で現れる.

まとめ

 以上の計算から,次の定理が得られます!目標達成!

誘導$G$-加群

$\mathrm{ind}^G_H M\cong R[G]\underset{R[H]}{\otimes}M$であり,$G$の作用は$R[G]$への左作用によって定まる.

 なお,次のように計算しておくと,余誘導加群やその他一般の圏の場合の(余)誘導対象への直感(?)が与えやすくなります:
\begin{eqnarray} \mathrm{ind}^G_H M &\cong& R[G]\underset{R[H]}{\otimes}M \\ &\cong& \left(\underset{G/H}\bigoplus gR[H]\right)\underset{R[H]}{\otimes}M \\ &\cong& \underset{G/H}\bigoplus gM. \end{eqnarray}
ただし,最後の同型はテンソル積が左随伴であり余極限を保つことを用いています:
\begin{xy} \xymatrix{ \mathrm{Mod}_{R[H]} \ar@<-1.0ex>[r]_-{M\underset{R[H]}{\otimes}(-)} \ar@{}[r]|-{\perp} & \mathrm{Mod}_R. \ar@<-1.0ex>[l]_-{\mathrm{Hom}_R(M, -)} } \end{xy}
また,最後の表示は加群としては単に$\bigoplus M$ですが,作用を見やすくするために左に$G/H$の代表系を残しています.

余誘導$G$-加群の計算

 計算の方法は全く同じなので詳細は省略しますが,極限を計算することで次が得られます.

余誘導$G$-加群

$\mathrm{coind}^G_H M\cong \mathrm{Hom}_{R[H]}(R[G],M)$であり,$G$の作用は$R[G]$への右作用によって定まる.
つまり,$g\in G$の左からの作用は$\phi\in \mathrm{Hom}_{R[H]}(R[G],M)$$\phi(-\cdot g)$に送る.

 これについてももう少し計算しておきましょう:
\begin{eqnarray} \mathrm{coind}^G_H M &\cong & \mathrm{Hom}_{R[H]}(R[G],M) \\ &\cong & \mathrm{Hom}_{R[H]}\left(\underset{H\backslash G}{\bigoplus}R[H]g, M\right) \\ &\cong & \underset{H\backslash G}{\prod}\mathrm{Hom}_{R[H]}(R[h]g, M) \\ &\cong & \underset{H\backslash G}{\prod}gM. \end{eqnarray}
なお,最後の同型は$\mathrm{Hom}_{R[H]}(R[H]g, M)(\cong M)$$gM$と書くことで得ています.$\mathrm{Hom}$への$G$の作用を考えると,$gg^\prime M = \mathrm{Hom}_{R[H]}(R[H]gg^\prime, M)$となることに気を付ければ良いでしょう(こういった作用の左右は頭を壊しがちなので,慎重に).

計算の総括

 誘導加群は$R[G]\underset{R[H]}\otimes M\cong\underset{G/H}{\bigoplus} gM$,余誘導加群は$\mathrm{Hom}_{R[H]}(R[G], M) \cong \underset{H\backslash G}{\prod} gM$と書けました.指数$(G:H)$が有限である時,$\mathrm{Mod}_R$では有限余積と有限直積が一致することからこれらは$R$-加群としては同型ですが,実はこれらは$G$-加群としても同型なことが分かります!

誘導加群と余誘導加群の一致

部分群$H\subset G$が指数有限の時,$\mathrm{Mod}_R$において,$\mathrm{ind}^G_H\cong \mathrm{coind}^G_H$が成り立つ.つまり,同じ関手が$\mathrm{res}^G_H$の左右の随伴となる.

\begin{eqnarray} R[G]\underset{R[H]}\otimes M &\rightarrow& \mathrm{Hom}_{R[H]}(R[G], M) \\ g\otimes m &\mapsto& (\psi(g\otimes m)(-):R[G]\rightarrow M) \end{eqnarray}
ただし,$\psi$は次を満たす:
\begin{eqnarray} \psi(g\otimes m)(g^\prime) = \left\{ \begin{array}{l} g^\prime g m &\ &(g^\prime g\in H)\\ 0 &\ &(\text{otherwise}) \end{array} \right. \end{eqnarray}
すると,この対応は$G$-準同型で,特に$H\subset G$が指数有限なら同型を与える(詳細は略).

 ちなみにこの$\psi$の対応は,$\mathrm{Hom}$への左$G$-作用が引数への「右」$G$-作用によって入ることに気をつけてぐっっと睨むと出てきます.$g^\prime g\in H$という条件が,$g^\prime$に左から$H$の元をかけたり,$g$に右から$H$の元をかけたりしても変わらないということも注目に値するかもしれません.

 さらに,最後に次の定理に言及しておきます.

  • 完備な圏において$\mathrm{ind}^G_H X\cong \underset{G/H}\coprod X$であり,
  • 余完備な圏において$\mathrm{coind}^G_H X\cong \underset{H\backslash G}\prod X$である.

 この定理は,もし何もしらない状態で言われても面食らってしまいそうですが,加群のケースを知っていれば容易に予想が立てられそうですね.この定理が成り立つだろうという予想さえ立てられれば,満たすべき普遍性を確認するのは難しくありません.興味のある方はやってみても良いかもしれません.
 ここまででこの記事の本題は終わりですが,最後に少しだけ応用例を見てみましょう.興味のある方は,もう少々お付き合いください.

応用例 - 群コホモロジー

 この節では,群コホモロジーの定義を知っていることを仮定します.といっても,計算に必要なだけの定義は書いておきます.

群コホモロジー( yukie 6.8節など)

 群$G$と左$G$-加群$M$を考える.また,$\mathbb{Z}$$\mathbb{Z}[G]$加群としての自由分解(自由加群による完全列)
\begin{xy} \xymatrix{ \cdots \ar[r]^-{d^3} & P_2\ar[r]^-{d^2} & P_1\ar[r]^-{d^1} & P_0\ar[r]^-{\epsilon} & \mathbb{Z}\ar[r] & 0 } \end{xy}
を考える.この時,群コホモロジー$\mathrm{H}^n(G,M)\overset{\mathrm{def}}{=}{\mathrm{Ext}}^n_\mathbb{Z[G]}(\mathbb{Z},M)$は,複体
\begin{xy} \xymatrix{ 0 \ar[r] & \mathrm{Hom}_{\mathbb{Z}[G]}(P_0, M) \ar[r] & \mathrm{Hom}_{\mathbb{Z}[G]}(P_1, M) \ar[r] & \mathrm{Hom}_{\mathbb{Z}[G]}(P_2, M) \ar[r] & \cdots } \end{xy}
のコホモロジーとして定義される(これは$\mathbb{Z}$の自由分解$P_*$の取り方にによらない).

自由分解の構成

 群$G$について,$B_n(G)\overset{\mathrm{def}}=(\mathbb{Z}[G])^{\otimes (n+1)}$(テンソル積は$\mathbb{Z}$上)は有限階数$\mathbb{Z}[G]$-加群であり,特にcohの状況では$P_*$として$B_*(G)$が取れる.
 さらに部分群$H\subset G$がある時,同じ複体$P_*=B_*(G)$$\mathbb{Z}$$\mathbb{Z}[H]$加群としての自由分解として取れる.

 前半の証明は省略する(yukie命題6.8.6).
 後半は,$\mathbb{Z}[H]$加群として$\mathbb{Z}[G]\cong\underset{G/H}{\bigoplus}\mathbb{Z}[H]$であるから,
$$ B_n(G)\cong \left(\underset{G/H}{\bigoplus}\mathbb{Z}[H]\right)^{\otimes (n+1)}\cong \underset{(G/H)^{n+1}}{\bigoplus} B_n(H) $$
となるから$B_n(G)$は自由$\mathbb{Z}[H]$-加群である.

 単なる$G$-加群とは$\mathrm{Ab}^{\mathbf{B}G}$という,アーベル群の圏における$G$-対象であることに注意しておきましょう.この時,次のような定理があります.

群コホモロジーの同型(cf. neu chap IV-命題7.4.)

 群$G$と部分群$H\subset G$,及び$H$-加群$M$について,
$$ \mathrm{H}^n(H,M)\cong \mathrm{H}^n(G, \mathrm{coind}^G_H M).$$
 特に指数$(G:H)$が有限である時,これは$\underset{G/H}\bigoplus M$に適切に$G$-作用を入れることで
$$ \mathrm{H}^n(H,M)\cong \mathrm{H}^n\left(G, \underset{G/H}\bigoplus M\right)$$
と書ける.

 $\mathrm{res}\dashv\mathrm{coind}$という随伴を考えると,$\mathrm{res}^G_H(B_n(G))$を単に$B_n(G)$と書いて
$$ \mathrm{Hom}_{\mathbb{Z}[G]}(B_n(G), \mathrm{coind}^G_H M)\cong\mathrm{Hom}_{\mathbb{Z}[H]}(B_n(G), M) $$
が成り立つ.よって,$\mathrm{H}^n(G,\mathrm{coind}^G_H M)$$\mathrm{H}^n(H,M)$の計算に現れる複体が一致するので,コホモロジーも一致する.
 $(G:H)$が有限の時は$\mathrm{coind}$$\mathrm{ind}$と一致し直和になるので後半が従う.

 この定理の証明には,ほとんど$\mathrm{res}$$\mathrm{coind}$が随伴であることしか使っていません.$\mathrm{coind}$を右Kan拡張として定義したおかげで$\mathrm{res}$の右随伴になることは明らかですから,$\mathrm{coind}$の詳細な形を知らなくてもこの定理は証明できることになります.
 ひとつだけ,この定理がえらい例をあげておきます:

 体の有限次Galois拡大$L/K$に対して,$\mathrm{H}^n(\mathrm{Gal}(L/K), L)\cong\mathrm{H}^n(1,K)$が成り立つ.

(cf. neu chap IV-命題3.4.)

$L/K$の正規基底を取ることで,$L\cong \underset{\sigma\in \mathrm{Gal}(L/K)}{\bigoplus} K\sigma c$
と書けるが,この右辺は$\mathrm{ind}^G_{\{1\}}K$である.$L/K$が有限なら$(G:\{1\}) = |G|$も有限なので,cohcongより,
$$ \mathrm{H}^n(\mathrm{Gal}(L/K), L)\cong\mathrm{H}^n(1,K) $$
が得られる.

 $\mathrm{H}^n(\mathrm{Gal}(L/K), L)$という形のコホモロジーは,一般Kummer理論や類体論の一般相互法則を具体的な状況に適用する際に調べる必要が生じます.それが$\mathrm{H}^n(\{1\}, K)$という見るからに簡単な形の計算に帰着されるというのは嬉しいですね.

終わりに

 今回は,conを読んでいて現れた具体例を手で計算してみた内容を書いてみました(書いたら案外重くなってしまった……).これからも,ちょっとした具体例の計算などを記事にしていこうと思います.お読みいただきありがとうございました!

参考文献

[1]
Emily Riehl, Category Theory in Context, Dover Publications, 2017
[2]
雪江明彦, 代数学3 代数学のひろがり [第2版], 日本評論社, 2024
[3]
J.ノイキルヒ, 代数的整数論, 丸善出版, 2012
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