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OMC攻略③ 複素数

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複素数に関する問題は、いくつかの定理さえ暗記したらボコすことができる。

OMC201(F)

$\displaystyle \begin{array}{{>{\displaystyle}l}}  方程式 x^3−9x−9=0 の 3 つの複素数解を x=α,β,γとします.\\なお,これらは相異なることが保証されます.\\次の値を求めてください.\\(α^3+α^2−10α−8)(β^3+β^2−10β−8)(γ^3+γ^2−10γ−8) \end{array}$

$\displaystyle \begin{array}{{>{\displaystyle}l}} f(x)=x^3-9x-9とする。\\ また1の三乗根で1でないものをωとして、 f(α)=0より、\\ α^3=9α+9だから、代入して\\ (α^3+α^2−10α−8)(β^3+β^2−10β−8)(γ^3+γ^2−10γ−8)\\ =(α^2−α+1)(β^2−β+1)(γ^2−γ+1)\\ =(α+ω)(α+ω^2)(β+ω)(β+ω^2)(γ+ω)(γ+ω^2)\\ =f(-ω)f(-ω^2) =(-10+9ω)(-10+9ω^2)=100+90+81=271 \end{array}$

あなたがこの記事を読むことでこの変形が決して不自然ではないことを学ぶだろう。

基本中の基本

fをモニック多項式とする。
$α_1,α_2,,,α_n$ をf(x)=0の解として、
$f(t)=(t-α_1)(t-α_2)(t-α_3)...(t-α_n)$ $ (-1)^nf(-t)=(t+α_1)(t+α_2)(t+α_3)...(t+α_n)$

この定理を読むことで、
g(x)を根β_1,β_2,,,,β_mをもつ多項式として、
$$ \prod_{i=1}^{n}g(α_i)=\prod_{i=1}^{n}(α_i-β_1)(α_i-β_2),,, (α_i-β_m) =(-1)^m(-1)^n\prod_{i=1}^{m}f(β_i) $$
というように変形することができると分かる。
これが多項式置換公式だ。頻出なので覚えよう。

多項式置換公式

f,gをモニック多項式とする。fの根は $α_1,α_2,,,α_n$
gの根は$β_1,β_2,,,β_n$
$$ (-1)^n\prod_{i=1}^{n}g(α_i) =(-1)^m\prod_{i=1}^{m}f(β_i) $$

この公式はOMCの複素数の問題で頻出で、知っているか知っていないかで世界が180°変わる。実際に問題を解くときは、このgの根が実数、純虚数、円分体のみになると都合がいいのだ!例題は根がω、ω^2だから都合がいい。

例えば、OMC225(E)はこれで瞬殺できる。
難易度橙というのは飾りである。

OMC225(E)

$X に関する 101 次方程式$ $X^{101}+2024X^{50}−2025=0 $ $の(重複度を込めて)101 個の複素数解を X=α1,α2,…,α101とします.このとき、$ $\prod_{i=1}^{101} \sum_{j=0}^{100} α_i $ $ は正整数値になるので,それがもつ正の約数の個数を解答してください.$

解き方
基本中の基本と多項式置換公式で瞬殺です。
ζ を 11 の原始 101 乗根として、
$ 1+x+x^2+,,,,+x^{100}=0の解はζ,ζ^2,,,,ζ^{100}$ だから前述した都合がいいパターンだ!(円分体で分からないことあれば円分体の項目を参照)
多項式置換公式より、
$ f(x)=X^{101}+2024X^{50}−2025$ $ g(x)=1+x+x^2+,,,,+x^{100}として、$ $ f(ζ)=2024(ζ^50-1)だから、$ $ \prod_{i=1}^{101} \sum_{j=0}^{100} α_i$ $ =\prod_{i=1}^{101} g(a_i)=\prod_{i=1}^{100}f(β_i) $ $ =\prod_{i=1}^{100}f(ζ^i)$ $ =\prod_{i=1}^{100}2024(ζ^50-1)$ $ =2024^{100}\prod_{i=1}^{100}(ζ-1) (なぜこの等式が成立するかは円分体の項目を参照) =2024^{100}f(1)=2024^{100}\times 101 $
多項式置換公式の偉大さが分かった。
もうあなたは円分体を用いることを躊躇ない。

基本中の基本

f(α)=0
よって、$ f(x)=x^n+g(x)$ とした場合、
$α^n=-g(x)$
当たり前に見えるかもしれないが、非常に重要

基本対称式

fをモニック多項式とする。
fのxのi次の係数をA_iとする。
また、f(x)=0の解について、i次の基本対称式をS_iとした場合、
$S_i=(-1)^iA_{n-i}$

fを因数分解すると分かる。

対称式の原則

全ての対称式は、基本対称式の和、差、積で表せる。
★i次以下の対称式に、i+1以上の基本対称式は登場しない。

交代式の原則

全ての交代式は、対称式と差積の積になる。

おぼえよう

$T_k=\sum_{i=1}^{n}\alpha_i^k $として、
$ T_1=S_1$ $ T_2=S_1^2-2S_2$ $ T_3=S_1^3-3S_1S_2+3S_3$ $ T_4=S_1^4-4S_1^2S_2+4S_1S_3+2S_2-4S_4$

$f(x)=x^n-S_1x^{n-1}+(-1)^nS_n=0$
として、 $Tn=S_1^n-n(-1)^nS_n=0$

宇野の多項式の根の補題

f(x)はx^n以外にn/2以上の次数の係数は0である。
具体的には、$ f(x)=x^n+g(x)$ として、(g(x)は(n-1)/2次以下の多項式)
このとき、$ T_n=-nA_n$

基本対称式でどう構成するかをちゃんと考えたら
答えが分かる。
$\sum_{i=1}^{n}\alpha^n=\sum_{i=1}^{n}-g(α)$
ここで$\sum_{i=1}^{n}g(α)=nA_n+V$
Vの各項には$S_1....S_{[n/2]}$ が必須になるが、これは全て0である。よってV=0であり、QED

これらの定理を用いることで、複素数に関してはOMCで無双することが可能になるのだ。

円分体(重要)

円分体Q(ζn)

$x^n-1=0$ $の解のうち、1でないもののうち1つを代表して、 ζ_nとする。$ $ 特に、n=3のとき、ζ_3=ωと表す。$ $ 当然、ζ^n=1$ $ 1+ζ+ζ^2+,,,,+ζ^(n-1)=0である。$

今後、円分体は母関数編で用いるので
今のうちに紹介することにした。

円分体の常識(とされていること)

$ ⓪円分体{1,ζ,ζ^2,,,ζ^{n-1}}は乗法において巡回群Cnである。$
$特に、逆元を定義できるので、 ζ^k(kは負の整数)は定義してよい。$
$ ①素数円分体は対称的である。具体的には、f(ζ)が{ζ,ζ^2,,,ζ^{n-1}}において対称式ならば任意の整数kで f(ζ)=f(ζ^k)で、これは必ず実数である。$
$ ②円分体は、円分体Q(ζm)(mは素数の累乗)の積で表せる 具体的には、x^{12}=1の解は全て3乗根{1,ω,ω^2}と4乗根{1,i,-1,-i}の積で表せる。$
$ ③[発展]一意分解整域となる円分体 Q(ζm) (m≡0,1,3(mod4))は、m が 3, 4, 5, 7, 8, 9, 11, 12, 13, 15, 16, 17,$
$ 19, 20, 21, 24, 25, 27, 28, 32, 33, 35, 36, 40, 44, 45, 48, 60, 84 の場合だけである。これ以外のmでは素因数分解は一意でない。$

ωの計算

$ x^3-1=(x-1)(x-ω)(x-ω^2)$
$ x^2+x+1=(x-ω)(x-ω^2)$
$ x^3+1=(x+1)(x+ω)(x+ω^2)$
$ x^2-x+1=(x+ω)(x+ω^2)$
$ x^6-1=(x-1)(x-ω)(x-ω^2)(x+1)(x+ω)(x+ω^2)$
$ x^6+1=(x-i)(x-ωi)(x-ω^2i)(x+i)(x+ωi)(x+ω^2i)$
$ x^12-1=(x-1)(x-ω)(x-ω^2)(x+1)(x+ω)(x+ω^2)$
$ (x-i)(x-ωi)(x-ω^2i)(x+i)(x+ωi)(x+ω^2i)$
$ ②ω^2+ω=-1$
③部分分数分解$ 1/(x^3-1)=1/(x-1)(x-ω)(x-ω^2)=1/(x-1)+ω/(x-ω)+ω^2/(x-ω^2)$

読者への挑戦
③の式をx^6-1,x^12-1に拡張してみよう。

問題演習

$\displaystyle \begin{array}{{>{\displaystyle}l}}  ω^3=1 をみたす 1 でない複素数 ω に対して,\\ −(ω−1)^6 を求めてください. \end{array}$

$\displaystyle \begin{array}{{>{\displaystyle}l}}  次の xについての方程式の(重複度を込めて)1000個の複素数解を\\ x=α1,α2,…,α1000とします.\\5x^{1000}+15x^{999}−3=0\\このとき,次の総和は整数となるので,\\この値を素数 997 で割った余りを求めてください.∑_{k=1}^{1000}α_k^{1000} \end{array}$

$\displaystyle \begin{array}{{>{\displaystyle}l}}  x に関する方程式\\ x^{200}+x^{199}+3x^2−3=0\\ は相異なる 200 個の複素数解を持つので,それぞれの k 乗の\\総和を A_k​ とします. 1000A_{199}​+A_{200}​ の値を求めてください. \end{array}$

$\displaystyle \begin{array}{{>{\displaystyle}l}} 2025 次方程式 x^{2025}=x^8+x^4+x+1 の重複を含めた 2025 個の\\複素数解を α1,α2,…,α2025​ とし, M=∏_{n=1}^{2025}∏_{m=1}^{2025}(α_n+α_m)\\ とおきます.M は正の整数となるので,\\Mを素数 2027 で割った余りを解答してください. \end{array}$

他に複素数の問題(おすすめ)
OMCB030(D)
OMCE017(E)
OMCE019(C)
OMC247(D)

投稿日:924
更新日:9日前
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Youteru
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高二です。JMOの合宿に参加するために数学オリンピックの勉強をしています。

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