Fibonacci数列は$F_1=F_2=1,\ F_{n+2}=F_{n+1}+F_n$で定まる整数列である.本稿では以下の定理を示す:
$\psi=\displaystyle\sum_{n=1}^\infty \dfrac{1}{F_n}$は無理数である.
以下に述べる証明はDuverneyDuverneyによるものである.
一般に実数$a$が十分に収束の速い無限級数表示を持つ場合,それを用いて$a$の無理性が示せることがある.その一例として$e$の無理性の証明を復習する.正整数$A,B$が存在して$e=A/B$となったと仮定しよう.すると
$$
A/B=e=\sum_{n=0}^\infty \dfrac{1}{n!}
$$
なので,分母を払って
$$
A-\sum_{n=0}^\infty \dfrac{B}{n!}=0
$$
を得る.これを以下のように二つに分ける:
$$
A-\sum_{n=0}^N \dfrac{B}{n!} = \sum_{n=N+1}^\infty\dfrac{B}{n!}.
$$
両辺に$N!$を掛けて左辺を整数にする:
$$
\quad N!A-\sum_{n=0}^N BN(N-1)\dots(n+1) = \sum_{n=N+1}^\infty\dfrac{B}{n(n-1)\dots(N+1)}.
$$
上の式の値を$X_N$と定める.すると$X_N$は$N\to \infty$で$0$に収束する.実際,
$$
\dfrac{1}{n(n-1)\dots(N+1)}\leq \dfrac{1}{N^{n-N}}
$$
より
$$
X_N=\sum_{n=N+1}^\infty\dfrac{B}{n(n-1)\dots(N+1)}\leq \sum_{n=N+1}^\infty\dfrac{B}{N^{n-N}}=\dfrac{B}{N-1}\to 0\quad(N\to\infty)
$$
となる.一方で$X_N$は整数なので,十分大きい$N$に対して$X_N=0$である.言い換えると,十分大きい$N$に対して
$$
A-\sum_{n=0}^N\dfrac{B}{n!}=0
$$
が成り立つことになるが,そのようなことはあり得ない.以上で$e$が無理数であることが示された.
$\psi$の良い無限級数表示を得るために,以下のような関数を準備する.
$|q|>1$とする.$x\in \mathbb{C}$に対して
$$
E_q(x)=1+\sum_{n=1}^\infty \dfrac{x^n}{(q^n-1)(q^{n-1}-1)\dots(q-1)}
$$
と定め,$q$-指数関数と呼ぶ.また$|x|<|q|$に対して
$$
L_q(x)=\sum_{n=1}^\infty \dfrac{x^n}{q^n-1}
$$
と定め,$q$-対数関数と呼ぶ.
これらは通常の指数関数$e^x$および対数関数$-\log(1-x)$のTaylor展開において正整数$n$を$q^n-1$に置き換えたものである.このような置き換えを$q$類似と呼ぶ.
$$ L_q(x) = x\dfrac{E_q'(-x)}{E_q(-x)}. $$
$$
E_q(x)-E_q(x/q)=\sum_{n=1}^\infty \dfrac{(q^n-1)(x/q)^n}{(q^n-1)(q^{n-1}-1)\dots(q-1)}=(x/q)E_q(x/q)
$$
より$E_q(x)=(1-(x/q))E_q(x/q)$なので,これを繰り返し用いることで
$$
(1)\quad E_q(x)=\prod_{n=1}^\infty\left(1-\dfrac{x}{q^n}\right)
$$
が得られる.一方で
$$
L_q(x)-L_q(x/q)=\sum_{n=1}^\infty (x/q)^n = \dfrac{x}{q-x}
$$
なので,これを繰り返し用いることで
$$
(2)\quad L_q(x)=\sum_{n=1}^\infty \dfrac{x}{q^n-x}
$$
が得られる.(1)の対数微分と(2)を比較することで求める式を得る.
ここでFibonacci数列の一般項を思いだそう.$\mathbb{Q}(\sqrt{5})=\{a+b\sqrt{5}\mid a,b\in \mathbb{Q}\}$および$\mathbb{Z}[\sqrt{5}]=\{a+b\sqrt{5}\mid a,b\in \mathbb{Z}\}$と定める.また$x=a+b\sqrt{5}\in \mathbb{Q}(\sqrt{5})$に対して$\overline{x}=a-b\sqrt{5}\in \mathbb{Q}(\sqrt{5})$と定める.$\alpha=\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}\in \mathbb{Z}[\sqrt{5}]$とすると
$$
\alpha+\overline{\alpha}=1,\quad \alpha\overline{\alpha}=-1
$$
であり,Fibonacci数列の一般項は
$$
F_n=\dfrac{\alpha^n-\overline{\alpha}^n}{\sqrt{5}}
$$
で与えられる.よって$\psi$は
$$
\psi = \sum_{n=1}^\infty \dfrac{\sqrt{5}}{\alpha^n-\overline{\alpha}^n} = \sum_{n=1}^\infty \dfrac{\sqrt{5}\overline{\alpha}^{-n}}{(\alpha/\overline{\alpha})^n-1}=\sqrt{5}L_{\alpha/\overline{\alpha}}(\overline{\alpha}^{-1})
$$
と表すことができる.$-\overline{\alpha}^{-1}=\alpha$に注意すると,EandLから以下の表示が得られる:
$q=\alpha/\overline{\alpha}$と定めるとき,$\psi = -\sqrt{5}\alpha\dfrac{E'_q(\alpha)}{E_q(\alpha)}$.
$q$-指数関数は収束が非常に速いため,これを無理性の証明に用いることができる.
以上の準備のもとで$\psi$の無理性を示そう.実は,無理性より少し強い以下の主張を示すことができる.証明の構造は,前述の$e$の無理性の証明と本質的に同じである.
$\psi\not\in \mathbb{Q}(\sqrt{5})$.
$q=\alpha/\overline{\alpha}$と定める.$\psi\in \mathbb{Q}(\sqrt{5})$と仮定すると,psiformulaより$\dfrac{E'_q(\alpha)}{E_q(\alpha)}\in \mathbb{Q}(\sqrt{5})$となる.よって$0$でない元$A,B\in \mathbb{Z}[\sqrt{5}]$を用いて
$$
\dfrac{E'_q(\alpha)}{E_q(\alpha)} = \dfrac{A}{B}
$$
と表せる.分母を払って
$$
AE_q(\alpha)-BE'_q(\alpha)=\sum_{n=1}^\infty \dfrac{(A\alpha-Bn)\alpha^{n-1}}{(q^n-1)\cdots(q-1)}=0
$$
を得る.これを以下のように二つに分ける:
$$
\sum_{n=1}^N \dfrac{(A\alpha-Bn)\alpha^{n-1}}{(q^n-1)\cdots(q-1)} = -\sum_{n=N+1}^\infty \dfrac{(A\alpha-Bn)\alpha^{n-1}}{(q^n-1)\cdots(q-1)}.
$$
両辺に$(q^N-1)\cdots(q-1)$を掛けて左辺を$\mathbb{Z}[\sqrt{5}]$の元にする:
$$
\sum_{n=1}^N (A\alpha-Bn)\alpha^{n-1}(q^N-1)\cdots(q^{n+1}-1) = - \sum_{n=N+1}^\infty \dfrac{(A\alpha-Bn)\alpha^{n-1}}{(q^n-1)\cdots(q^{N+1}-1)}.
$$
上の式の値を$X_N$と定める.すると$X_N$は$N\to \infty$で$0$に収束する.実際,$|q|=\alpha^2$に注意すると,適当な定数$C>0$に対して
$$
\left|\dfrac{(A\alpha-Bn)\alpha^{n-1}}{(q^n-1)\cdots(q^{N+1}-1)}\right|\leq \dfrac{Cn\alpha^{n-1}}{\alpha^{2n-1}}=\dfrac{Cn}{\alpha^n}
$$
が成り立つので
$$
|X_N|\leq \sum_{n=N+1}^\infty\dfrac{Cn}{\alpha^{n-1}}
\to 0\quad(N\to\infty)
$$
となる.また$\overline{X_N}$は$N\to \infty$で有界である.実際,$|\overline{q}|<1$より$\prod_{n=1}^\infty(1+|\overline{q}|^n)$は有限の値$Q$に収束するので,
$$
|\overline{X_N}|\leq \sum_{n=1}^N (\overline{A}\overline{\alpha}-\overline{B}n)\overline{\alpha}^{n-1}Q
$$
となり,右辺は$N\to \infty$で有限の値に収束するのでよい.以上より
$$
|X_N\overline{X_N}|\to 0\quad(N\to \infty)
$$
が得られた.一方で$X_N\overline{X_N}$は整数なので,十分大きい$N$に対して$X_N=0$である.言い換えると,十分大きい$N$に対して
$$
\sum_{n=1}^N \dfrac{(A\alpha-Bn)\alpha^{n-1}}{(q^n-1)\cdots(q-1)}=0
$$
が成り立つ.$N$について差分を取ると,十分大きい$N$に対して
$$
\dfrac{(A\alpha-BN)\alpha^{N-1}}{(q^N-1)\cdots(q-1)}=0
$$
が成り立つことになるが,そのようなことはあり得ない.以上で$\psi$が無理数であることが示された.