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現代数学解説
文献あり

Fibonacci数列の逆数和

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Fibonacci数列はF1=F2=1, Fn+2=Fn+1+Fnで定まる整数列である.本稿では以下の定理を示す:

(André-Jeannin AJ)

ψ=n=11Fnは無理数である.

以下に述べる証明はDuverneyDuverneyによるものである.

eの無理性

一般に実数aが十分に収束の速い無限級数表示を持つ場合,それを用いてaの無理性が示せることがある.その一例としてeの無理性の証明を復習する.正整数A,Bが存在してe=A/Bとなったと仮定しよう.すると
A/B=e=n=01n!
なので,分母を払って
An=0Bn!=0
を得る.これを以下のように二つに分ける:
An=0NBn!=n=N+1Bn!.
両辺にN!を掛けて左辺を整数にする:
N!An=0NBN(N1)(n+1)=n=N+1Bn(n1)(N+1).
上の式の値をXNと定める.するとXNN0に収束する.実際,
1n(n1)(N+1)1NnN
より
XN=n=N+1Bn(n1)(N+1)n=N+1BNnN=BN10(N)
となる.一方でXNは整数なので,十分大きいNに対してXN=0である.言い換えると,十分大きいNに対して
An=0NBn!=0
が成り立つことになるが,そのようなことはあり得ない.以上でeが無理数であることが示された.

q-指数関数,q-対数関数

ψの良い無限級数表示を得るために,以下のような関数を準備する.

q-指数関数,q-対数関数

|q|>1とする.xCに対して
Eq(x)=1+n=1xn(qn1)(qn11)(q1)
と定め,q-指数関数と呼ぶ.また|x|<|q|に対して
Lq(x)=n=1xnqn1
と定め,q-対数関数と呼ぶ.

これらは通常の指数関数exおよび対数関数log(1x)のTaylor展開において正整数nqn1に置き換えたものである.このような置き換えをq類似と呼ぶ.

Lq(x)=xEq(x)Eq(x).

Eq(x)Eq(x/q)=n=1(qn1)(x/q)n(qn1)(qn11)(q1)=(x/q)Eq(x/q)
よりEq(x)=(1(x/q))Eq(x/q)なので,これを繰り返し用いることで
(1)Eq(x)=n=1(1xqn)
が得られる.一方で
Lq(x)Lq(x/q)=n=1(x/q)n=xqx
なので,これを繰り返し用いることで
(2)Lq(x)=n=1xqnx
が得られる.(1)の対数微分と(2)を比較することで求める式を得る.

ここでFibonacci数列の一般項を思いだそう.Q(5)={a+b5a,bQ}およびZ[5]={a+b5a,bZ}と定める.またx=a+b5Q(5)に対してx=ab5Q(5)と定める.α=1+52Z[5]とすると
α+α=1,αα=1
であり,Fibonacci数列の一般項は
Fn=αnαn5
で与えられる.よってψ
ψ=n=15αnαn=n=15αn(α/α)n1=5Lα/α(α1)
と表すことができる.α1=αに注意すると,EandLから以下の表示が得られる:

q=α/αと定めるとき,ψ=5αEq(α)Eq(α).

q-指数関数は収束が非常に速いため,これを無理性の証明に用いることができる.

証明

以上の準備のもとでψの無理性を示そう.実は,無理性より少し強い以下の主張を示すことができる.証明の構造は,前述のeの無理性の証明と本質的に同じである.

ψQ(5).

q=α/αと定める.ψQ(5)と仮定すると,psiformulaよりEq(α)Eq(α)Q(5)となる.よって0でない元A,BZ[5]を用いて
Eq(α)Eq(α)=AB
と表せる.分母を払って
AEq(α)BEq(α)=n=1(AαBn)αn1(qn1)(q1)=0
を得る.これを以下のように二つに分ける:
n=1N(AαBn)αn1(qn1)(q1)=n=N+1(AαBn)αn1(qn1)(q1).
両辺に(qN1)(q1)を掛けて左辺をZ[5]の元にする:
n=1N(AαBn)αn1(qN1)(qn+11)=n=N+1(AαBn)αn1(qn1)(qN+11).
上の式の値をXNと定める.するとXNN0に収束する.実際,|q|=α2に注意すると,適当な定数C>0に対して
|(AαBn)αn1(qn1)(qN+11)|Cnαn1α2n1=Cnαn
が成り立つので
|XN|n=N+1Cnαn10(N)
となる.またXNNで有界である.実際,|q|<1よりn=1(1+|q|n)は有限の値Qに収束するので,
|XN|n=1N(AαBn)αn1Q
となり,右辺はNで有限の値に収束するのでよい.以上より
|XNXN|0(N)
が得られた.一方でXNXNは整数なので,十分大きいNに対してXN=0である.言い換えると,十分大きいNに対して
n=1N(AαBn)αn1(qn1)(q1)=0
が成り立つ.Nについて差分を取ると,十分大きいNに対して
(AαBN)αN1(qN1)(q1)=0
が成り立つことになるが,そのようなことはあり得ない.以上でψが無理数であることが示された.

参考文献

[1]
R. André-Jeannin, Irrationalité de la somme des inverses de certaines suites récurrentes, Comptes Rendus de l'Académie des Sciences, Série I, 1989, 539–541
[2]
D. Duverney , Irrationalité de la somme des inverses de la suite Fibonacci, Elemente der Mathematik, 1997, 31–-36
投稿日:20241225
更新日:20241225
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