Henselの補題を思い出しておきましょう.
$(K,P)$を素因子$P$に関する完備体,$\mfo,\mfp$をその付値環及び素イデアルとする.また,$\mfK=\mfo/\mfp$とする.このとき,次のことが成り立つ.
$f(X)\in\mfo[X]$に対して,$f(X)$の係数をmod$\mfp$で置き換えたものを$\overline{f}(X)$とする.このとき,$\overline{f}(X)$が$\mfK[X]$の元として,互いに素な二つの多項式$g^\prime(X),h^\prime(X)$を用いて$\overline{f}(X)=g^\prime(X)h^\prime(X)$と分解できるならば,
$$f(X)=g(X)h(X),\quad\overline{g}(X)=g^\prime(X),\quad \overline{h}(X)=h^\prime(X)$$
を満足する$\mfo[X]$の多項式$g(X),h(X)$が存在する.しかも,$g(X)$の次数は$g^\prime(X)$の次数と一致させることができる.
さて,今回の定理に移りましょう.
$K$を素因子$P$に関する完備体,$\mfo$を$P$の付値環とするとき,$K[X]$の既約多項式$f(X)=X^n+a_1X^{n-1}+\cdots + a_n$において,$a_n$が$\mfo$に含まれるならば,ほかのすべての$a_i$もまた$\mfo$に含まれる.
$l=\min(\nu_P(a_i);i=1,\cdots,n)$とする.$l<0$と仮定して矛盾を導く.
$\nu_P(b)=-l$なる$b$を取り,
$$f_1(X)=bf(X)=b_0X^n+b_1X^{n-1}+\cdots+b_n,\quad b_i=ba_i$$
とすれば,$f_1(X)\in\mfo[X]$で,仮定より$\nu_P(b_n)>0$で,$\nu_P(b_i)=0$なる$b_i$が存在する.$\nu_P(b_n)>0$は$b_n\in\mfp$を意味し,$\nu_P(b_i)=0$は$b_i$が$\mfK$において$0$でないことを保証します.よって$\mfK[X]$において,$\overline{f}_1(X)=X^kh^\prime(X)$と分解できる.これは$0< k< n$,$X$と$h^\prime(X)$は互いに素であるように取れます.よってHenselの補題から$f(X)$が次数$k$,次数$n-k$の因子に分解されます.これは$f(X)$が既約という条件に矛盾します.QED
$\S2$が終わりました.ここまで見ていただきありがとうございます.