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現代数学解説
文献あり

ラマヌジャンの論文7:積分∫^x_0(arctan t/t)dtについて

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はじめに

 この記事ではラマヌジャンの書いた論文"On the integral 0xtan1ttdt"を読んでいきます。
 タイトルの7という番号はハーディによる書籍"Collected Papers of Srinivasa Ramanujan"におけるナンバリングに準じています。ちなみに"Collected Papers"の全容については こちらのサイト こちらのサイト にて閲覧することができます。
 なお各命題の証明については論文で示されている式変形以外は自力で考案したものとなるので至らぬ点もあるかもしれませんがあしからず。

概説

 この論文の主題は色々な級数の値を
ϕ(x)=0xarctanttdt
という関数を用いて表すことにあります。
 ちなみにこの積分はinverse tangent integralと呼んだりTi(x)と表したりすることもあるそうです。

1.

 |x|<1において
ϕ(x)=n=0(1)nx2n+1(2n+1)2
が成り立つ。

arctanx=n=0(1)nx2n+12n+1
に注意するとわかる。

 Re(x)>0において
ϕ(x)ϕ(1x)=π2logx
が成り立つ。

arctan1t=π2arctant
に注意すると
ϕ(x)ϕ(1)=11/xarctan(1/t)tdt=11/xarctanttdtπ211/xdtt=ϕ(1x)ϕ(1)+π2logx
を得る。

2.

 0<x<π2において
n=02cos2(2n+1)x2n+1=logtanxn=0(2n)!!(2n+1)!!sin2nx=xsinxcosxn=1cosnxncosnx=logsinxn=1sinnxncosnx=xπ2n=0(2n1)!!(2n)!!cos2n+1x2n+1=π2xn=0(2n1)!!(2n)!!sin2n+1x2n+1=x
が成り立つ。

第一式

n=02cos2(2n+1)x2n+1=Re(2n=0(e2ix)2n+12n+1)=Re(log1+e2ix1e2ix)=Re(logeix+eixeixeix)=logtanx
とわかる。

第二式

 ウォリス積分の公式
0π2sin2n+1t dt=01(1t2)ndt=(2n)!!(2n+1)!!
に注意すると
n=0(2n)!!(2n+1)!!sin2nx=01dt1(1t2)sin2x=1cos2x01dt1+t2tan2x=1cos2xarctan(tanx)tanx=xsinxcosx
とわかる。

第三・四式

n=1einxncosnx=log(1eixcosx)=logeixeix2i+log(ieix)=logsinx+(xπ2)i
が成り立つので、この実部・虚部を比較することでわかる。

第五式

arcsinx=n=1(2n1)!!(2n)!!x2n+12n+1
に注意するとわかる。

n=1cosnxn(11a)ncosnx=loga12log(1+a2)n=1sinnxn(11a)ncosnx=x+arctan(atanx)n=1(1)n1cosn(x+π2)n(1a)nsinnx=12log(1+a2)n=1(1)n1sinn(x+π2)n(1a)nsinnx=xarctan(atanx)

n=1einxn(1a)ncosnx=log(1(1a)eixcosx)=ixlog(acosxisinx)=ixloga2+1+iarctan(1atanx)
の実部・虚部を比較することで第一・二式が得られ、またxx+π2に置き換えることで第三・四式が得られる。

 0<x<π2,a>0において
n=0sin2(2n+1)x(2n+1)2=ϕ(tanx)xlogtanxn=0(2n)!!(2n+1)!!sin2n+1x2n+1=2ϕ(tanx2)n=1sinnxn2cosnx=ϕ(tanx)+12πlogcosxxlogsinxn=0(2n1)!!(2n)!!cos2n+1x+sin2n+1x(2n+1)2=ϕ(tanx)+π2log(2cosx)
および
n=1sinnxn2(11a)ncosnx+n=1(1)n1sinn(x+π2)n2(1a)nsinnx=ϕ(tanx)ϕ(atanx)+xloga
が成り立つ。

 上の補題に注意して各式を微分するとそれぞれ両辺が
ddx(第一式)=logtanxddx(第二式)=xsinxddx(第三式)=(xπ2)tanxlogsinxddx(第四式)=xsinxcosxπ2tanxddx(第五式)=xsinxcosxarctan(atanx)sinxcosx+loga
となることからわかる。

112+132152172+192+=2ϕ(21)+π42log(2+1)2ϕ(1)=3ϕ(23)+π4log(3+2)

 第一式は上の公式
n=0sin2(2n+1)x(2n+1)2=ϕ(tanx)xlogtanx
においてx=π8とすることでわかる。
 また第二式は同様にx=π12としたとき
sin(2n+1)π6(1)n2={32n1(mod6)32n4(mod6)0n1,4(mod6)
が成り立つことに注意すると
n=0sin(2n+1)π6(2n+1)2=12ϕ(1)+32n=01(3(4n+1))232n=01(3(4n+3))2=12ϕ(1)+16n=0(1)n(2n+1)2=23ϕ(1)
と表せることからわかる。

3.

n=0(1)n(2n+1)log(1x2(2n+1)2)=4π(ϕ(1)ϕ(tanπ4(1x)))+logtanπ4(1x)n=0(1)n(2n+1)log(1+x2(2n+1)2)=4π(ϕ(1)ϕ(eπx2))2xarctan(eπx2)
ただし前者は|Rex|<1、後者は|Imx|<1において成り立つ。

 各式の左辺を微分すると
ddx(第一式)=2xn=0(1)n2n+1(2n+1)2x2=πx21cosπx2ddx(第二式)=2xn=0(1)n2n+1(2n+1)2+x2=πx21coshπx2
となることに注意するとわかる。

A=4ϕ(1)3π,B=2πlog(2+3),coshπα2cosπβ2=1
において
n=0(14(3(2n+1))2)(1)n(2n+1)=(23)23eAn=1(11(2n+1)2)(1)n(2n+1)=π8e3An=0(1+B2(2n+1)2)(1)n(2n+1)=eAn=0((2n+1)2+α2(2n+1)2β2)(1)n(2n+1)=eπ2αβ
が成り立つ。

4.

n=0(1)n(2n+1)log(1+64x4(2n+1)4)=8πϕ(1)2xlogcoshπx+sinπxcoshπxsinπx4xarctancosπxsinhπx8πn=0(1)ncos(2n+1)πx(2n+1)2e(2n+1)πxn=0(1)n(2n+1)arctan8x2(2n+1)2=xlogcoshπx+sinπxcoshπxsinπx2arctancosπxsinhπx+4πn=0(1)nsin(2n+1)πx(2n+1)2e(2n+1)πx

 公式4の第二式においてx=2(1+i)x=22eπi4xとおくことで
n=0(1)n(2n+1)log(1+i8x2(2n+1)2)=4π(ϕ(1)ϕ(eπ(1+i)x))4(1+i)xarctan(eπ(1+i)x)=4πϕ(1)4πn=0(1)neπ(1+i)nx(2n+1)2+2(i1)xlog1+ieπ(1+i)x1ieπ(1+i)x
が成り立つので
Re(log1+ieπ(1+i)x1ieπ(1+i)x)=12log(eπx+sinπx)2+cos2πx(eπxsinπx)2+cos2πx=12logcoshπx+sinπxcoshπxsinπxIm(log1+ieπ(1+i)x1ieπ(1+i)x)=12ilog(eπx+sinπx+icosπxeπx+sinπxicosπxeπxsinπx+icosπxeπxsinπxicosπx)=12ilog(eπx+icosπx)2sin2πx(eπxicosπx)2sin2πx=12ilogsinhπx+icosπxsinhπxicosπx=arctancosπxsinhπx
に注意して実部・虚部を比較することで主張を得る。

 正の奇数mに対し
n=0(1+4m4(2n+1)4)(1)n(2n+1)=e8πϕ(1)(1eπm21+eπm2)2mcosm12π
が成り立ち、また正の偶数mに対し
n=0(1+4m4(2n+1)4)(1)n(2n+1)=exp[8πϕ(1)(1)m2(8πϕ(eπm2)+4marctan(eπm2))]
が成り立つ。

 正の奇数mに対し
n=0(1)n(2n+1)arctan2m2(2n+1)2=(1)m12(mlog1+eπm21eπm2+n=0eπ2(2n+1)m(2n+1)2)
が成り立ち、また正の偶数mに対し
n=0(1)n(2n+1)arctan2m2(2n+1)2=(1)m212marctan(eπm2)
が成り立つ。

 最後の公式は
n=0(1)narctanx2n+1=π4arctan(eπx2)
という公式と比較すると興味深いとのこと。
 ちなみにこの等式を示すには今までと同様に両辺の微分が
n=0(1)n2n+1(2n+1)2+x2=π41coshπx2
に一致することを確かめればよい。

5.

π4n=11n2coshπnx=(124+x216)π3πxn=0(1)ncoth(2n+1)π2x(2n+1)2

π4n=11n2coshπnx=n=1m=0(1)m2m+1n2((2m+1)2+4n2x2)=m=0(1)m2m+1n=1(1n21n2+(2m+1)24x2)=π4π26+m=0(1)m2m+1(2x2(2m+1)2πx2m+1coth(2m+1)π2x)=π324+π3322x2πxn=0(1)ncoth(2n+1)π2x(2n+1)2
とわかる。

 αβ=π2において
ϕ(1)+2n=1ϕ(eαn)=(α24+β16)ππ4βn=11n2coshnβ
が成り立つ。

n=1ϕ(eαn)=n=1m=0(1)meα(2m+1)n(2m+1)2=m=0(1)m1(2m+1)2eα(2m+1)1eα(2m+1)=m=0(1)m1(2m+1)2eα(2m+1)1eα(2m+1)ϕ(1)+2n=1ϕ(eαn)=m=0(1)m1(2m+1)21+eα(2m+1)1eα(2m+1)=m=0(1)mcoth2m+12α(2m+1)2
と表せることに注意すると上の補題からわかる。

2n=1ϕ(eαn)=n=0(1)m(2m+1)2cosh(2m+1)π
であったことに注意するとα=β=πのとき
ϕ(1)=5π248n=0(1)n(2n+1)2cosh(2n+1)π14n=11n2coshnπ
が成り立つので、これによってϕ(1)の近似値
ϕ(1)0.9159655942
が得られるのだとか。

参考文献

[1]
S. Ramanujan, On the integral ∫^x_0 tan^-1 t/t dt, Journal of the Indian Mathematical Society, 1916, 93-96
投稿日:18日前
更新日:18日前
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子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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