早速ですが、次の問題を考えましょう。
$\displaystyle \sum_{a+b=N} \dbinom{2a}{a}\dbinom{2b}{b}$の値を求めよ。
これは母関数を用いれば比較的簡単に求めることができますが、ここでは別の方法を考えてみることにします。
まず、次の一般化二項係数を定義します。
任意の実数$x$と非負整数$k$について、$\dbinom{x}{k}=\dfrac{x(x-1)(x-2)\cdots(x-k+1)}{k!}$と定義する。
このとき、次の性質が成り立ちます。
1.$\dbinom{x+1}{k}=\dbinom{x}{k-1}+\dbinom{x}{k}$(パスカルの法則)
(ただし、ここでは$\dbinom{x}{-1}=0$と定義する。)
2.$\displaystyle \sum_{k=0}^n\dbinom{x}{k}\dbinom{y}{n-k}=\dbinom{x+y}{n}$(ヴァンデルモンドの畳み込み)
1.式を展開して整理することで直ちに従う。
2.$\dbinom{x+y}{n}$を$x$についての$n$次多項式として解釈する。このとき、
$P(x)=\displaystyle \sum_{k=0}^n\dbinom{x}{k}\dbinom{y}{n-k}-\dbinom{x+y}{n}$
とおくと、$P(x)=0$が$n+1$個の複素数解を持つことを示せば十分である。$\cdots(*)$
$P(x)=0$が任意の非負整数$m$を解に持つことを数学的帰納法を用いて示す。
(i)$m=0$のとき
$\dbinom{0}{k}= \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} 1 \ \ \ \ \ (k=0)\\ 0 \ \ \ \ \ (k\neq0) \end{array} \right. \end{eqnarray} $
に注意すると、$P(0)=\dbinom y n-\dbinom y n=0$となり$P(0)=0$が成立する。
(ii)$m=l+1$のとき$(l\in\mathbb Z_{\ge0})$
$m=l$のとき$P(m)=0$であると仮定する。
定理1-1より$\dbinom{l+1}{k}=\dbinom l {k-1}+\dbinom l k$であることに注意すると、
$\displaystyle \sum_{k=0}^n \dbinom{l+1}{k}\dbinom{y}{n-k}$
$=\displaystyle \sum_{k=0}^n \dbinom{l}{k-1}\dbinom{y}{n-k}+\displaystyle \sum_{k=0}^n\dbinom{l}{k}\dbinom{y}{n-k}$
$=\displaystyle \sum_{i=0}^{n-1} \dbinom{l}{i}\dbinom{y}{n-i-1}+\displaystyle \sum_{k=0}^n\dbinom{l}{k}\dbinom{y}{n-k}$
帰納法の仮定より、
$=\dbinom{l+y}{n-1}+\dbinom{l+y}{n}$
ここで再び定理1-1より、
$=\dbinom{l+y+1}{n}$
となり、$m=l+1$のときも$P(m)=0$が成立する。
(i)(ii)より、任意の非負整数$m$について$P(m)=0$が成立することが数学的帰納法により示されたので、$(*)$と併せて題意は示された。$\blacksquare$
これを用いて先ほどの問題を解いてみましょう。
$\dbinom{-\frac12}{k}$
$=(-1)^k\cdot\dfrac1{2^k}\cdot\dfrac{1\cdot3\cdot5\cdots(2k-1)}{k!}$
$=\dfrac1{(-4)^k}\cdot\dfrac{(2k)!}{(k!)^2}$
$=\dfrac1{(-4)^k}\cdot\dbinom{2k}k$
より、$\dbinom{2k}{k}=(-4)^k\cdot\dbinom{-\frac12}{k}$が従う。よって、
$\displaystyle\sum_{a+b=N}\dbinom{2a}a\dbinom{2b}b$
$=(-4)^N\\\displaystyle\sum_{a+b=N}\dbinom{-\frac12}{a}\dbinom{-\frac12}{b}$
定理1-2を用いて、
$=(-4)^N\dbinom{-1}{N}$
$=(-4)^N(-1)^N$
$=\boxed{4^N}$
いきなり何もないところから$\dbinom{-\frac12}{k}$を持ち出すのは少々技巧的に感じるかもしれません。
しかし、このように分数(特に$\dbinom{-N-\frac12}{M}$の形)を用いると二項係数同士の関係式が簡単に手に入り、定理1-2を適用することで示せることが割と多そうなので、その手法が使える問題をいくつか紹介したいと思います。
以降、公式として以下の式を用います。
$\dbinom{-N-\frac12}{M}=\dfrac1{(-4)^M}\dfrac{(2N+2M)!N!}{(N+M)!(2N)!M!}$
頑張って式を展開して整理することにより示される。
これを使って、まずは次の問題を解いてみましょう。
$\displaystyle \sum_{a+b=N} \dbinom{2L+2a}{L+a}\dbinom{L+a}{a}\dbinom{2M+2b}{M+b}\dbinom{M+b}{b}=4^{N}\dbinom{2L}L\dbinom{2M}{M}\dbinom{L+M+N}{N}$
を示せ。
$\displaystyle \sum_{a+b=N} \dbinom{2L+2a}{L+a}\dbinom{L+a}{a}\dbinom{2M+2b}{M+b}\dbinom{M+b}{b}$
$=\displaystyle\sum_{a+b=N}\dfrac{(2L+2a)!}{(L+a)!L!a!}\dfrac{(2M+2b)!}{(M+b)!M!b!}$
$=\displaystyle\sum_{a+b=N}\dfrac1{(-4)^a}\dfrac{(2L+2a)!L!}{(L+a)!(2L)!a!}\dfrac1{(-4)^b}\dfrac{(2M+2b)!M!}{(M+b)!(2M)!b!}\dfrac{(2L)!}{(L!)^2}\dfrac{(2M)!}{(M!)^2}(-4)^{a+b}$
公式1を用いて、
$=(-4)^{N}\dbinom{2L}L\dbinom{2M}M\displaystyle \sum_{a+b=N}\dbinom{-L-\frac12}{a}\dbinom{-M-\frac12}{b}$
定理1-2を用いて、
$=(-4)^{N}\dbinom{2L}L\dbinom{2M}M\dbinom{-(L+M+1)}{N}$
$=4^{N}\dbinom{2L}L\dbinom{2M}{M}\dbinom{L+M+N}{N}$
となり、題意は示された。$\blacksquare$
左辺の見た目のいかつさの割に、先ほどの公式を適用するだけで綺麗にまとまるのは結構すごいことだと思います。(余談ですが、この式において$L=M=0$とすると問題1の式と一致します。)
ここまで解いた2問で大切だったのは、結局ヴァンデルモンドの畳み込みが使える形にすることでした。
ヴァンデルモンドの畳み込みは(当たり前ではありますが)二項係数の分子の部分に変数があると使えないという難点がありますが、これも一般化二項係数を用いることで回避できることがあります。
$\dbinom{x+k-1}{k}=(-1)^k\dbinom{-x}{k}$
証明:式を展開して整理することで示される。
これを用いて、先ほどよりも少し難しい問題を解いてみましょう。
非負整数$n$について、以下の値を計算してください。
$\displaystyle\sum_{m=0}^n \dbinom{2n+2m}{n+m}\dbinom{n+m}{n-m}(-1)^{n-m}$
$\displaystyle\sum_{m=0}^n \dbinom{2n+2m}{n+m}\dbinom{n+m}{n-m}(-1)^{n-m}$
$=\displaystyle\sum_{m=0}^n \dfrac{(2n+2m)!}{(n+m)!(n-m)!(2m)!}(-1)^{n-m}$
$=(-4)^n\displaystyle\sum_{m=0}^n \dfrac1{(-4)^m}\dfrac{(2n+2m)!n!}{(n+m)!(2n)!m!}\dfrac1{(-4)^{n-m}}\dfrac{(2n)!m!}{n!(2m)!(n-m)!}(-1)^{n-m}$
公式1を用いて、
$=(-4)^n\displaystyle\sum_{m=0}^n \dbinom{-n-\frac12}{m}\dbinom{-m-\frac12}{n-m}(-1)^{n-m}$
公式2を用いて、
$=(-4)^n\displaystyle\sum_{m=0}^n \dbinom{-n-\frac12}{m}\dbinom{n-\frac12}{n-m}$
定理1-2を用いて、
$=(-4)^n\dbinom{-1}n$
$=(-4)^n(-1)^n$
$=\boxed{4^n}$
公式1を使ってうまく消せる形に変形するのは少々天下り的に見えるかもしれませんが、ある程度「この項を作るためにはこうしたい」みたいなモチベーションがあれば見えると思います。とはいっても、一発で模範解答のように変形できないことも多いと思うので、結局のところ、色々試行錯誤してみて、うまくいくような変形を探せばいいんじゃないでしょうか。
いかがだったでしょうか。意外と汎用性が高そうで目新しい手法だと勝手に思っているのですが、既出だったらごめんなさい。
僕はまだこの手法を発見したばかりなので、もっと応用できそうな問題などを見つけたら随時更新していく予定です。(中には母関数や組合せ論的解釈で簡単に示せる問題もあるとは思いますが...)
最後まで読んでくださりありがとうございました!!