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和田杯 2024-3 を解いた

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お久しぶりです.題名の通りです.

まずは問題を述べます.$n$は固定された$2$以上の正整数値であるとして良いと思います.

2024 年度和田杯 3

$xy$ 平面上に置いてある点が良い点であるとは,その点の$x$座標と$y$座標が共に$1$以上$n$以下の正整数であることを指すものとする.$N$匹のウサギが$(1,1)$から$(n,n)$まで,良い点から良い点への移動のみで移動する.また,ウサギは今いる良い点より$x$座標と$y$座標の少なくとも一方が小さい点には移動できないものとする.このとき,任意の$1\leq i\leq j \leq n, 1\leq k\leq l \leq n, (i,j)\neq(k,l)$を満たす整数$i,j,k,l$に対して,$(i,k)$から$(j,l)$へ移動したウサギが存在したという.ウサギの匹数としてありえる最小値を求めよ.

解答

まず言葉の定義をする.

良い点$(a,b)$から$(c,d)$への移動であって,$a\leq c, b\leq d, (a,b)\neq(c,d)$を満たすものをジャンプと呼ぶ.またこのとき$(a,b)$をこのジャンプの下端$(c,d)$をこのジャンプの上端と呼ぶ.
良い点$(a,b)$に対し,そのスコア$a+b$で定義する.

ウサギの移動の制約はジャンプのみで移動すること,問題は「できるだけ少ない数のウサギで,あり得るジャンプをすべて含むようにせよ」と言い換えられる.

あるジャンプの上端のスコアは,下端のスコアより大きい.

下端,上端を$(a,b),(c,d)$とする.$a\leq c, b\leq d$より$a+b\leq c+d.$
$a+b=c+d$とすると$(a,b)=(c,d)$であるから矛盾.$a+b < c+d.$

ジャンプであって,下端のスコアが$n$以下であり,かつ上端のスコアが$n+1$以上であるものを大ジャンプと呼ぶ.大ジャンプ全体の集合を$J_B$とおく.

ウサギは,$2$つ以上の大ジャンプをしない.

あるウサギが$2$つの大ジャンプ$J_1, J_2$をするとする.ここで$J_1$よりも後に$J_2$を行うものとする.命題1より,$J_1$の上端のスコアは,$J_2$の下端のスコア以下であるが,これは大ジャンプの定義に矛盾する.よって示された.

命題2と問題の条件より,$N \geq \# J_B$である.$\# J_B$について次を示す.

$$\#J_B = \binom{n+1}{2}\binom{n}{2} - 2\binom{n+1}{4}.$$
ここで$\binom{a}{b}$は二項係数.

下端で場合分けを行う.すなわち,$(a,b)$がスコアが$n$以下であるような点であるとして,これを下端とする大ジャンプの個数を調べる.
これは良い点$(c,d)$であって,スコアが$n+1$以上かつ$c\geq a, d\geq b$を満たすものの個数に等しい.スコアが$n+1$以上の良い点は$\binom{n+1}{2}$個であるから,ここから

  • スコアが$n+1$以上であり,
  • $c< a$ または $d< b$ である

ようなものの個数を引けばよい.一つ目の条件の下で,二つ目の条件が両方満たされることはなく,二つ目の前者の条件を満たすようなものは$\binom{a}{2}$個,後者の条件を満たすようなものは$\binom{b}{2}$個存在するから,これは$\binom{a}{2}+\binom{b}{2}$個である.従って次のように計算できる.
$$\begin{aligned} \#J_B &= \sum_{a+b\leq n} \bigg(\binom{n+1}{2} - \binom{a}{2}-\binom{b}{2} \bigg) \\ &= \binom{n+1}{2} \binom{n}{2} - \sum_{a+b\leq n} \binom{a}{2} - \sum_{a+b\leq n}\binom{b}{2} \\ &= \binom{n+1}{2} \binom{n}{2} - \sum_{a=1}^{n-1}\sum_{b=1}^{n-a} \binom{a}{2} - \sum_{b=1}^{n-1}\sum_{a=1}^{n-b} \binom{b}{2} \\ &= \binom{n+1}{2} \binom{n}{2} - 2\sum_{a=1}^{n-1} (n-a)\binom{a}{2} \\ &= \binom{n+1}{2} \binom{n}{2} - 2 \binom{n+1}{4} \end{aligned}$$
ここで最後の等号には次の事実を$i=2, j=1$として用いた(※):
$$ \sum_{a+b=n} \binom{a}{i}\binom{b}{j} = \binom{n+1}{i+j+1}.$$
以上より示された.

逆に$N=\#J_B$であるようなウサギの移動があることを示す.
改めて,スコアが$n$以下である良い点を地面,そうでない良い点をと呼ぶ.
$J_B$に含まれないジャンプは,下端と上端がともに地面か,ともに空であるものである.

任意の地面$G$について,以下のように定めると$A\leq B$である.

  • 上端を$G$とするジャンプの個数を$A$とする.
  • 下端を$G$とする大ジャンプの個数を$B$とする.

また,任意の空$S$について,以下のように定めると$C\leq D$である.

  • 下端を$S$とするジャンプの個数を$C$とする.
  • 上端を$S$とする大ジャンプの個数を$D$とする.

(前半)地面$G=(a,b)$について,$A=ab-1$である.また命題3の証明の前半より$B=\binom{n+1}{2}-\binom{a}{2}-\binom{b}{2}$である.従って示すべきことは,
$$\begin{aligned} A\leq B &\iff 2ab-2 \leq n(n+1)-a(a+1)-b(b-1) \\ &\iff (a+b+1)(a+b-2) \leq n(n+1). \end{aligned}$$

これは$a+b\leq n$より従うから,示された.

(後半)空$S=(c,d)$について,$C=(n+1-c)(n+1-d)-1$である.また命題3の証明の前半と同様に,$D=\binom{n}{2}-\binom{n-c}{2}-\binom{n-d}{2}$がわかる.従って,
$e=n-c, f=n-d$とおくと,示すべきことは
$$\begin{aligned} C\leq D &\iff 2(e+1)(f+1)-2 \leq n(n-1)-e(e-1)-f(f-1)\\ &\iff (e+f+1)(e+f) \leq n(n-1). \end{aligned}$$
いま$e+f=2n-(c+d)\leq n-1$だから,示された.

以下で用いる記号$A,B,C,D$は命題4で用いたものと同じものである(これらは地面$G$や空$S$に応じて決まる値である).
$\#J_B$匹のウサギに,それぞれ$J_B$の相異なる元を対応付け,次の操作を行う.

  • 各地面$G$について,$G$を下端とする大ジャンプを対応付けられたウサギは$B$匹いるから,命題4よりこれらから$A$匹を選ぶことができる.一方$G$を上端とするジャンプは$A$個存在するから,これらを上の$A$匹に(適当な順番で)対応付ける.
  • 各空$S$について,$S$を上端とする大ジャンプを対応付けられたウサギは$D$匹いるから,命題4よりこれらから$C$匹を選ぶことができる.一方$S$を下端とするジャンプは$C$個存在するから,これらを上の$C$匹に(適当な順番で)対応付ける.

ここで,

  • $J_B$の各元に対応付けられたウサギが存在する.
  • 上端と下端がともに地面であるようなジャンプは,その上端$G$について上の一つ目の操作を行った際に,それを対応付けられたウサギが存在する.
  • 上端と下端がともに空であるようなジャンプは,その下端$S$について上の二つ目の操作を行った際に,それを対応付けられたウサギが存在する.

ことから,任意のジャンプについて,それが対応付けられたウサギが存在する.さらに対応付けの仕方から,それぞれのウサギが,対応付けられたジャンプをすべて行うように$(1,1)$から$(n,n)$まで移動することができる.このときこれら$\#J_B$匹のウサギは問題の条件を満たす.

以上より,求める答えは$\#J_B$であり,命題3よりそれは
$$\binom{n+1}{2} \binom{n}{2} - 2 \binom{n+1}{4} = \frac{n(n-1)(n+2)^2}{6}$$
である.

※ 証明には,例えば OMC001-D の解説を参照せよ.

感想

記述するのにかかった時間が非常に長かったです.それはもう叫びたいほどに.
誤植・アドバイス等あればコメント欄か Twitter(X) の @locker_math までお願いします.

投稿日:83
更新日:83

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locker
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2008年の早生まれです

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