0
現代数学解説
文献あり

3つの方法による命題論理のコンパクト性定理の証明

443
0

はじめに

本稿では,命題論理の完全性定理,超限帰納法, Tychonoffの定理から命題論理のコンパクト性定理を証明します.前提知識として,学部3~4年次程度の公理的集合論の知識(主に順序数,整列可能定理,超限帰納法)と学部2~3年次程度の位相空間論(主にTychonoffの定理)の知識を仮定しますので,必要であれば例えばKunenMoritaを参考にしてください.

命題論理のコンパクト性定理

命題論理の用語

命題論理のコンパクト性定理の証明に必要な用語を確認します.

命題論理の論理記号(logical symbol)とは, ¬,,,の4つをいう.命題論理の素論理式とは,記号p,q,r,をいい,素論理式全体の集合をPFmlと表す.

論理式とは,次の規則で構成される有限列をいう.

  • 素論理式は論理式である.
  • 論理式A,Bに対し, ¬A, AB, AB, ABは論理式である.

論理式全体の集合をFmlと表す.

結合の強さは¬,,,の順に弱くなるものとする.

写像v:PFml2付値という.

付値v:PFml2について,写像v:Fml2を次で定める.

  • v(p)=v(p), pPFml.
  • v(¬A)=1v(A), AFml.
  • v(AB)=max{1v(A),v(B)}, A,BFml.

このとき,付値vにおける論理式Aの値v(A)A真理値という. vAとはv(A)=1のことをいう.

論理式Aトートロジーであるとは,任意の付値vに対して, v(A)=1を満たすことをいう.このとき, Aとかく.

論理式の集合T充足可能であるとは,ある付値vが存在して,任意のATに対してvAを満たすことをいう. T有限充足可能であるとは, Tの任意の有限部分集合Sが充足可能であることをいう.

論理式の集合Tと論理式Aに対して, ATから証明可能であるとは,次の規則で定義される.

  1. Tの元とトートロジー公理はTから証明可能である.
  2. AABTから証明可能であれば, BTから証明可能である(基本推論).

ATから証明可能であるとき, TAとかく.

本稿ではあまり本質的ではないので,トートロジー公理とはトートロジーのことであるとみなしても構いません.

論理式の集合T矛盾するとは, TAかつT¬Aなる論理式Aが存在することをいう. T無矛盾であるとは, Tは矛盾しないことをいう.

完全性定理を用いた証明

最も有名な方法は命題論理の完全性定理を用いた証明です.命題論理の完全性定理とは,次の定理をいいます.

命題論理の完全性定理

論理式の集合Tに対して,次は同値である.

  1. Tは充足可能である.
  2. Tは無矛盾である.

ここではこの定理の証明は省略します.証明は,例えばTanakaをご覧ください.それでは,命題論理のコンパクト性定理の証明を行います.

命題論理のコンパクト性定理

論理式の集合Tに対して,次は同値である.

  1. Tは充足可能である.
  2. Tは有限充足可能である.

この定理のうち, (1)(2)は明らかですので, (2)(1)を示します.

もしTが充足可能でないとする.このとき,命題論理の完全性定理より, Tは矛盾する.よって, TAかつT¬Aなる論理式Aが存在する.これより, Tの有限部分集合Sで, SAかつS¬Aなるものが存在する.よって, Sは矛盾しているから,再び命題論理の完全性定理よりSは充足可能でない.従って, Tは有限充足可能でない.

超限帰納法を用いた証明

次に,超限帰納法を用いて命題論理のコンパクト性定理の証明を行います.証明はEndertonを参考にしています.

命題論理のコンパクト性定理(再掲)

論理式の集合Tに対して,次は同値である.

  1. Tは充足可能である.
  2. Tは有限充足可能である.

整列可能定理より,論理式全体の集合F=Fmlは整列可能である.このとき, Fと順序同型な順序数ξが存在する.これより, F={Aαα<ξ}と表せる.超限再帰的に,論理式の集合Tα(αξ)を次の規則で定める.
T0=T.Tα+1={Tα{Aα}Tα{Aα}が有限充足可能である.Tα{¬Aα}Tα{Aα}が有限充足可能でない.Tα=β<αTβαは極限順序数.

すべてのαξに対して, Tαは有限充足可能であることを超限帰納法により示そう.

まず, T0=Tなので,仮定よりT0は有限充足可能である.次に, α<ξに対して, Tαは有限充足可能であると仮定する.もしTα{Aα}が有限充足可能であるとき,明らか.また, Tα{Aα}が有限充足可能でないとき, Tα{¬Aα}は有限充足可能である.よって, Tα+1は有限充足可能である.最後に, γξを極限順序数として,すべてのα<γに対してTαが有限充足可能であると仮定する.このとき, STγを有限集合とすると, STβなるβ<γが存在する.よって, Tβは有限充足可能であるから, Sは充足可能である.よって, Tγは有限充足可能である.以上より,すべてのαξに対して, Tαは有限充足可能であることが示された.

次に, Σ=Tξとおく.このとき, 次は容易に確かめられる:

  1. TΣ.
  2. Σは有限充足可能である.
  3. すべてのα<ξに対して, AαΣまたは¬AαΣであり,同時に成り立つことはない.

付値vを次のように定義する.
v(p)=1pΣ.
この定義は前段の事実(3)からwell-definedである.このとき,
v(A)=1AΣ
であることを論理式の構成に関する帰納法で容易に確かめられる.ゆえに, vΣなので, vTである.従って, Tは充足可能である.

もし素論理式全体の集合PFmlが可算であれば,論理式全体の集合F=Fmlも可算であるから, Fは自然数全体の集合ωによって整列可能である.

Tychonoffの定理を用いた証明

最後に,もう1つの証明方法として位相空間論におけるTychonoffの定理を用いた証明を紹介します.証明はAraiを参考にしています.

まず, I=PFmlとおきます.このとき, 2Iとは,付値全体の集合のことです. 2={0,1}に離散位相を入れて離散空間とみなすことで,直積空間2Iが考えられます.このとき, 2はコンパクトHausdorff空間であるから, Tychonoffの定理より, 2IはコンパクトHausdorff空間であることがわかります.

このことから,有限交叉性を持つ2Iの閉集合族Fに対し, Fであることに注意します.ここで, F有限交叉性をもつとは, Fの任意の有限個の元の共通部分は常に空でないことをいいます.

2Iの開基について,次の補題が成り立ちます.

2Iの部分集合族Bを次で定める.
B={B(s)I0I,|I0|<0,s:I02}
ここで, Iの有限部分集合I0と関数s:I02に対し, B(s)={v2I | sv}である.このとき,次が成り立つ.

  1. B2Iの開基である.
  2. B(s)B2Iの開閉集合である.
  • (1)の証明

U2Iの開集合, vUとする.このとき, 2Iの位相の定義から,
vi=1nπPi1(Vi)U
なるP1,,PnIと各i=1,,nに対して2の開集合Viがとれる.ここで, πPi:2I2は第Pi座標への射影. I0={P1,,Pn}とおき,関数s:I02s(Pi)=πPi(v)=v(Pi)で定める.このとき,
vB(s)i=1nπPi1(Vi)U
である.故に, B2Iの開基である.

  • (2)の証明

B(s)2Iの閉集合であることを示せばよい. v2IB(s)とすると, svなので, s(Q)v(Q)なるQI0がとれる. t:{Q}2t(Q)=v(Q)で定めれば, vB(t)であり, uB(t)に対してu(Q)=v(Q)s(Q)なので, uB(s)である.故に, 2IB(s)2Iの開集合なので, B(s)2Iの閉集合である.

論理式Aに対し,
FA={v2IvA}
2Iの開閉集合である.

論理式の構成に関する帰納法で示す.

  • Aが素論理式のとき

前の補題で既に示されている.具体的には, s:{P}2s(P)=1で定めるとき, B(s)=FPであるから,このB(s)に前の補題を適用する.

  • 論理式A,Bに対して補題が成り立つとき

F¬A,FAB,FAB,FAB2Iの開閉集合であることを示そう.今,
F¬A=2IFA,FAB=FAFB,FAB=FAFB,FAB=(2IFA)FB
であるから,帰納法の仮定より示された.

TIから生成される論理式全体の集合で,有限充足可能なものとする.このとき, F={FAAT}とおくと, Fである.

前の補題より, F2Iの開閉集合の族である.冒頭の注意より, 2Iはコンパクトなので, Fが有限交叉性をもつことを示せばよい.そこで,任意にA1,,AnTをとる.このとき, I0={A1,,An}Tとおくと, I0は充足可能である.そこで, vI0なる真理値割り当てvをとる.よって,
i=1nFAi
である.

ここまでの準備を以って,コンパクト性定理を位相空間論の道具立てで証明します.

命題論理のコンパクト性定理(再掲)

論理式の集合Tに対して,次は同値である.

  1. Tは充足可能である.
  2. Tは有限充足可能である.

Tは有限充足可能であるとする.前の補題より, F={FAAT}について,
F
である.よって, vFがとれる.このとき, ATに対してvAが成り立つので, vTである.故に, Tは充足可能である.

おわりに

今回は完全性定理,超限帰納法, Tychonoffの定理といった3つの方法を用いて命題論理のコンパクト性定理の証明をしました.多くの教科書は完全性定理の系としてコンパクト性定理を得ていますが,本稿では,完全性定理よりも実用的なコンパクト性定理に重きを置き,その証明を与えることにしました.特に2つ目の超限帰納法による証明では超限的議論を明確にし, Zornの補題やTukeyの補題のような,超限的議論をブラックボックス化することで整列集合の議論を避けて通る方法とは異なる証明の味わいがあると考えています.また, 3つ目のTychonoffの定理による証明は,コンパクト性定理という名と,位相空間論におけるコンパクト性との関連性を見出す重要な事実です.本稿が,なぜ超限帰納法が便利なのか,なぜ位相空間論が興味深いのかといった素朴な考えへの回答の一助になれば幸いです.

参考文献

[1]
新井敏康, 数学基礎論 増補版, 東京大学出版会, 2018
[2]
Herbert B. Enderton, 論理学への数学的手引き, 1月と7月, 2022, pp.92-94
[3]
K. Kunen, The Foundations of Mathematics, Studies in Logic, College Publications, 2009
[4]
森田紀一, 位相空間論, 岩波書店, 2017
[5]
田中一之, ゲーデルと20世紀の論理学2 完全性定理とモデル理論, ゲーデルと20世紀の論理学, 東京大学出版会, 2004, pp.57-59
投稿日:202469
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

集合論的位相空間論(Set Theoretic Topology)など

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. 命題論理のコンパクト性定理
  3. 命題論理の用語
  4. 完全性定理を用いた証明
  5. 超限帰納法を用いた証明
  6. Tychonoffの定理を用いた証明
  7. おわりに
  8. 参考文献