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AIに新しい円周率公式を探してもらってみた

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この記事に出てくる「新しい式」はどれも数値実験で見つけたもので、証明はありません。調べた範囲の文献には見当たりませんでしたが、既知である可能性は残っています。ご存じの方がいれば教えてください。

はじめに

ラマヌジャンの円周率公式
$$\frac{1}{\pi}=\frac{2\sqrt{2}}{99^2}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(4n)!}{(n!)^4}\frac{26390n+1103}{396^{4n}}$$
や、Chudnovsky の公式
$$\frac{1}{\pi}=12\sum_{n=0}^{\infty}(-1)^n\frac{(6n)!}{(3n)!\,(n!)^3}\frac{545140134n+13591409}{640320^{3n+3/2}}$$
は、どれも
$$\sum_{n=0}^{\infty}A_n\,(a+bn)\,z^n=\frac{C}{\pi}$$
という形をしています。$A_n$ は整数列、$z$ は代数的数です。背景にはモジュラー形式があり、$z$ はモジュラー関数を虚数乗法(CM)の点で評価した値になります。仕組みの解説は Mathlog にも良い記事がたくさんあります(「ラマヌジャン・佐藤級数を理解したい」の連載など)。
今回は、この仕組みを逆に使い、公式を計算機で機械的に探しました。さらに Guillera が見つけた 1/π² 版
$$\sum_{n=0}^{\infty}A_n\,(a+bn+cn^2)\,z^n=\frac{C}{\pi^2}$$
まで広げたところ、文献に見当たらない式がいくつか出てきました。その報告です。

1/π の公式を機械的に探す

手順は次のとおりです。

  1. 整数列 $A_n$ を与え、満たす漸化式(=母関数の満たす微分方程式)を自動で推定する。
  2. 微分方程式の対数解から「ミラー写像」$q(z)=z\exp(\cdots)$ を作り、$q=e^{2\pi i\tau}$ を通して $z$ と $\tau$ を対応させる。
  3. $\tau=i\sqrt{r}$ や $\tau=\tfrac12+i\sqrt{r}$($r$ は有理数)を総当たりし、$z(\tau)$ が有理数や2次無理数になる点を拾う。
  4. その $z$ で $S_0=\sum A_nz^n$、$S_1=\sum nA_nz^n$ を高精度で計算し、整数関係探索(PSLQ)で $a,b,C$ を求める。$C$ が $\sqrt{D}$ の形でも拾えるように、2乗した関係 $(aS_0+bS_1)^2=D/\pi^2$ を探す。
  5. 500桁で検算する。
    $A_n=\frac{(6n)!}{(3n)!\,n!^3}$ の場合、有理数の $z$ になるのはちょうど類数1の判別式 $-7,-8,-11,-12,-16,-19,-27,-28,-43,-67,-163$ に対応する11点で、$-163$ の点から Chudnovsky の公式が出てきます。ラマヌジャンの17本も全部再発見できました。Apéry 数・Domb 数・Almkvist–Zudilin 数なども含めた14種の数列で、計394本の式が500桁で一致しました。ここまではすべて既知の式の再発見です。

1/π² に広げる

1/π² の式は、5階の微分方程式(Calabi–Yau 型)の解の係数から作ります。こちらは $z$ をモジュラー関数で決める方法が使えないので、$z=\pm u/v$ を総当たりしました。$S_0,S_1,S_2$ と $1/\pi^2$ の整数関係を探します。1候補ずつ PSLQ を回すと遅いので、低精度の LLL で見込みのある候補だけに絞ってから確定させました。1族あたり数十万個の $z$ を1分前後で調べられます。
まず既知の式で確かめました。たとえば Guillera の
$$\sum_{n=0}^{\infty}\frac{\left(\frac12\right)_n^5}{n!^5}\,(20n^2+8n+1)\left(-\frac14\right)^n=\frac{8}{\pi^2}$$
を含めて、Cohen–Guillera の表 [6] にある「有理数 $z$ で収束する 1/π² 級数」10本は全部再発見できました。Almkvist–Guillera の非超幾何の式も多くが出てきました([2] の表の19本中15本)。

発散級数

収束半径の外の $z$ でも、母関数を解析接続した値を使えば式が成り立つことがあります(Guillera–Zudilin の「発散」ラマヌジャン型級数 [5])。例えば
$$\sum_{n=0}^{\infty}\frac{\left(\frac12\right)_n^5}{n!^5}\,(10n^2+6n+1)\,(-4)^n \;=\; \frac{4}{\pi^2}$$
です。左辺は普通の意味では発散していて、負の実軸に沿った解析接続の値と読みます。
超幾何でない数列についても同じことをするため、微分方程式をテイラー展開でつないで原点から負の実軸に沿って延ばすプログラムを書き、$z<0$ を走査しました。既知の発散型(Cohen–Guillera の表の5本)は全部再発見できています。

文献に見当たらなかった式

ここからが本題です。発散型の式は、解析接続の経路を2通り変えて計算し、どちらでも400〜500桁一致しました。負の実軸上に特異点はないので、値は一通りに決まります。
記号は次のとおりです。

  • $a_n=\sum_k(-1)^k3^{n-3k}\binom{n}{3k}\binom{n+k}{n}\frac{(3k)!}{k!^3}$(Almkvist–Zudilin 数:1, 3, 9, 3, −279, …)
  • $e_n=\sum_i\binom{n}{i}^2\binom{2i}{n}^2$
(D1)

$$\sum_{n=0}^{\infty}\binom{2n}{n}^2a_n\,(204n^2+172n+39)\left(-\frac{1}{64}\right)^n=\frac{96}{\pi^2}$$
(左辺は発散級数で、負の実軸に沿った解析接続の値)

(D2)

$$\sum_{n=0}^{\infty}\binom{2n}{n}\binom{3n}{n}e_n\,(511n^2+399n+78)\left(-\frac{1}{64}\right)^n=\frac{192}{\pi^2}$$
(左辺は発散級数で、負の実軸に沿った解析接続の値)

どちらも同じ数列で収束する式が Almkvist–Guillera [1] にあり、(D1)(D2) はその発散版にあたります。
ほかに、Almkvist–Guillera [2] の #60, #189 の数列と、AESZ [9] の4階 Calabi–Yau 作用素 #11, #17, #34, #36 の「外積2乗」から作った数列で、次が出ました(いずれも発散型、$\sum A_n(c_0+c_1n+c_2n^2)z^n=C/\pi^2$)。

数列$z$$(c_0,c_1,c_2)$$C$
AG #189$-1/16$$(39,158,170)$$84$
AG #60$-1/4$$(28,87,70)$$23$
AESZ #11 の外積2乗$-1/432$$(355,1080,900)$$108$
AESZ #17 の外積2乗$-1$$(792,840,224)$$9$
AESZ #34 の外積2乗$-1/7$$(4320,5568,2048)$$735$
AESZ #36 の外積2乗$-1/64$$(69,132,72)$$16$

「外積2乗」は、4階作用素の正則解 $y_0$ と対数解 $y_1$ から $w=y_0\,\theta y_1-y_1\,\theta y_0$($\theta=z\,d/dz$)を作り、その係数を $A_n$ にしたものです。
収束する式もありました。$y_0=\sum\left(\frac{(3n)!}{n!^3}\right)^2z^n$(AESZ #4)に対し、$y_1=y_0\log z+\sum 6\left(\frac{(3n)!}{n!^3}\right)^2(H_{3n}-H_n)z^n$ とし、$w=y_0\,\theta y_1-y_1\,\theta y_0=\sum w_nz^n$ とおきます($w_n$ は 1, 252, 109836, 57013560, … と整数になります)。

(X4)

$$\sum_{n=0}^{\infty}w_n\,(81n^2+36n+7)\left(-\frac{1}{5832}\right)^n=\frac{27}{\pi^2}$$

これは収束級数なので、普通に足して確かめられます。
その後、Almkvist–Guillera の理論で 1/π² の式が現れる場所を絞り込む方法(2つの不変量 $k,j$ が有理数になる点を探す)でも探しました。これまでの式はすべてこの方法でも出てきました。そのうえで、さらに収束する式が2本見つかりました。
1本目は AESZ #34(正則解の係数が $\sum_{i+j+k+l+m=n}\left(\frac{n!}{i!\,j!\,k!\,l!\,m!}\right)^2$)の外積2乗の係数 $u_n$(1, 18, 315, 5828, 113949, …)で、$z$ が $\sqrt{17}$ を含む式です。

(X34)

$$\sum_{n=0}^{\infty}u_n\left(4352n^2+(10302-2646\sqrt{17})\,n+11691-3231\sqrt{17}\right)\left(33-8\sqrt{17}\right)^n=\frac{232605+56415\sqrt{17}}{32\pi^2}$$

2本目は、AESZ #290(表では「#17 を $z=\infty$ 側から見たもの」とされている作用素)の外積2乗の係数 $B_m$(1, −84, −7119, 745008, …)による式です。

(X290)

$$\sum_{m=0}^{\infty}B_m\,(28m^2+7m+1)\left(-\frac{1}{729}\right)^m=\frac{243}{8\pi^2}$$

(X290) は、上の表の AESZ #17 の式($z=-1$)を $z=\infty$ 側から書き直したものにあたります。どちらも収束級数で、直接足して 120〜300 桁以上一致しました。

p 進類似(超合同式)

ラマヌジャン型の式には p 進類似があります。$p$ を素数として和を $p-1$ 項目で切り、$p$ の冪で割った余りを見ると、元の式と対応する合同式が成り立ちます。1/π² の式では
$$\sum_{n=0}^{p-1}A_n(c_0+c_1n+c_2n^2)z^n\equiv c_0\,p^2\pmod{p^3}$$
のような合同式が成り立つことが多いです(Guillera の超幾何の式では $p^5$ まで成り立ちます)。上の式で調べると、次のようになりました。

  • (D1), (D2), AG #189, AG #60, AESZ #11 は、調べた全ての素数で $\bmod p^3$ まで成立(#11 は一部の素数で $p^4$)
  • (X4) は $\bmod p^4$ まで成立
  • AESZ #17, #34, #36 の3本は成り立たない(切った和が $p$ で割り切れないものもある)。(X34), (X290) も成り立たない
    $\bmod p^3$ まで成り立つ式は、次の $p^4$ の項まで調べると、$z$ の分母に出る素数の Fermat 商 $q_p(\ell)=(\ell^{p-1}-1)/p$ だけで書けました。
(D1) の p 進類似

素数 $p\ge 11$ に対し
$$\sum_{n=0}^{p-1}\binom{2n}{n}^2a_n(204n^2+172n+39)\left(-\frac{1}{64}\right)^n\equiv p^2\left(39+54\,p\,q_p(2)\right)\pmod{p^4}$$
($11\le p<1500$ の素数で確認)

合同式が成り立たない AESZ #17 と #34 の数列は、係数そのものが Lucas 合同($A_{a+bp}\equiv A_aA_b \pmod p$)を満たしていませんでした。これが原因のようです。数値では何百桁も一致するのに合同式を持たないので、ふつうのラマヌジャン型とは性質が違うのかもしれません。
1/π の式の方でも、超合同式について面白い観察がありました。$\binom{2n}{n}$ と Zagier の散在数列の積の係数を持つ式では、$\bmod p^3$ の補正項が Fermat 商やその2次体版の和で書けるようです。例えば $w_n=\sum_k\binom{n}{k}\binom{2k}{k}\binom{2n-2k}{n-k}$ について
$$\sum_{n=0}^{p-1}\binom{2n}{n}w_n\frac{6n+1}{64^n}\equiv\left(\frac{-1}{p}\right)p\cdot 2^{1-p}\pmod{p^3}$$
が、$17\le p<3000$ の素数(約420個)で全部成り立ちました。長くなるので、詳しくは別の記事にするかもしれません。

照合した文献と注意

参考文献 [1]〜[9](Z.-W. Sun の予想集 [8] は全版)を原文で確認し、上の式(定数倍などの同値な形を含む)が見当たらないことを確かめました。(X34), (X290) の係数列 $u_n$, $B_m$ は OEIS にも見当たりませんでした。確認できていないのは、Sun の2021年の著書と Cooper の2017年の著書です。

[2] の誤植について
  1. の #60 の発散型の式は、印刷されている $x=-2$(この記事の正規化では $z=-1/54$)では成り立ちません。$z=-1/64$ にすると、係数・右辺とも一致しました。単純な誤植だと思います。

おわりに

数値実験としては面白い結果になりましたが、証明は一つもありません。(D1)(D2) の収束版(Almkvist–Guillera の式)自体もまだ証明されていないようです。この分野に詳しい方からのご指摘をお待ちしています。
なお、この研究ではプログラムの作成・計算・文献の照合の多くを AI(Claude)に手伝ってもらいました。式の検算は、別の方法で独立に計算し直して確かめています。

参考文献

  1. G. Almkvist, J. Guillera, Ramanujan-like series for $1/\pi^2$ and string theory, Experimental Mathematics 21 (2012) 223–234. arXiv:1009.5202
  2. G. Almkvist, J. Guillera, Ramanujan–Sato-like series, in: Number Theory and Related Fields, Springer Proc. Math. Stat. 43 (2013) 55–74. arXiv:1201.5233
  3. G. Almkvist, Transformations of Jesus Guillera's formulas for $1/\pi^2$. arXiv:0911.4849
  4. G. Almkvist, Computer Science Journal of Moldova 17(1) (2009) 100–120.
  5. J. Guillera, W. Zudilin, "Divergent" Ramanujan-type supercongruences, Proc. Amer. Math. Soc. 140 (2012) 765–777. arXiv:1004.4337
  6. H. Cohen, J. Guillera, Rational hypergeometric Ramanujan identities for $1/\pi^c$. arXiv:2101.12592
  7. K. C. Au, Wilf–Zeilberger seeds and non-trivial hypergeometric identities, J. Symbolic Comput. 130 (2025) 102421. arXiv:2312.14051
  8. Z.-W. Sun, List of conjectural series for powers of $\pi$ and other constants. arXiv:1102.5649
  9. G. Almkvist, C. van Enckevort, D. van Straten, W. Zudilin, Tables of Calabi–Yau equations. arXiv:math/0507430
投稿日:5日前
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