0

現代数学に疑問を感じる君へ

0
0
$$$$

はじめに

皆さんは大学数学を学ぶとき、あるいはより高度な数学を学ぶときその必要性について疑問に思ったことはありませんか。本当に役に立つのかと。特に具象性を持つ問題に対して現代数学を展開するとき、その目的や手段としての妥当性を求めるのが必然でしょう。今回はその疑問に対して否定的意見と肯定的意見を現代数学の観点から述べたいです。また今回は具象数学のアプローチとして現代数学を考えていきます。

現代数学、具象数学の定義

意見を述べるうえで、これらの定義が曖昧では本末転倒である。まず現代数学とは「何が対象かよりも、その対象がどんな構造を持ち、どんな変形に対して何が保たれるかを重視する数学」である。具体的には対象のあいだにある写像・不変量・構造・普遍性を通して問題を捉える数学である。
逆に具象数学とは、抽象的な一般理論よりも、「個別の対象そのものの性質・計算・挙動・構成を重視する数学」である。特定の関数や積分、微分方程式がこれにあたる。

現代数学の利点

最大の利点

同じ論理、理論を再利用できる
現代数学の最大の利点は、個々の対象をばらばらに扱うのではなく、その背後にある構造を取り出して、より少ない原理で多くの対象を見通せる点にある。異なる対象でも、そこに共通する写像、変換、不変量、対称性を見つけることができれば、単一の証明技法でしかなかったものが再利用可能な知識の体系になるのです。

具象数学においての限界

$\zeta(3)$の無理数性の証明においてアペリーは証明を与えたが、その証明は古典的解析学によるもので、とてもだが他の無理数問題に直ちに同じような証明の構成ではない。

具象数学においての限界

ベルトランの仮説$n$$2n$の間に素数が存在するという仮説に対し、ガンマ関数による証明が与えられ、そのあとも初等的証明も与えられたが、だからと言って他の素数の分布問題が解決できるわけというわけではもちろんない。

利点1

ほかの分野に変換できる
現代数学は、問題をそのまま解くのではなく、より自然な形に言い換える力を持つ。この言い換えによって、見かけ上は難しすぎる問題が、実は別の理論の中では扱いやすい形になっていることがある。数学の歴史では、問題の再定式化や、他の分野からの輸入が突破口になった例が数多い。

フェルマーの最終定理

有名な例だが、整数の方程式を楕円曲線:Frey曲線の保型性の有無という問題に抽象化を果たし、その矛盾をついた。

ケプラー予想

等しい球を三次元空間に最も密に詰める配置は何か」という、空間充填の具体的問題です。Thomas Hales は、この具体的な問題を楕円曲線、グラフ理論、解析的数論に昇華させ証明をした。

利点2

適応するための道具が豊富。現代数学が適切に使われるには対象に代数的あるいは幾何学的構造、対称性が備えている必要があります。そのような構造や対称性を見つける道具も現代数学に豊富にありそれらの道具によってほとんどは大丈夫です。
それらは群作用であったり、行列式、コホモロジーであったり様々です。

現代数学の欠点

強さの裏返しとしての限界

現代数学の欠点は、欠陥ではなく、その強みが通用しない領域で現れる。具体的には次のような欠点がある。

欠点① 具象性を捨てすぎる

抽象化は情報の圧縮である、しかし圧縮の過程で、本質的な情報を失うことがある。この本質的とは個別の挙動(例:具体的な数列の振る舞いや局所的な例外、偶然的だが重要な構造)を指す。
つまり現代数学は「何が共通か」は見抜けるが、「なぜそれが起きるかの細部」を見落とすことがある。

欠点② 対称性が見えない問題に弱い

単純に対称性や構造が見抜けないような問題に対しても弱い。具体的には
(1) 離散的問題
(2) 非線形な問題
(3) カオス性を含む問題

このような性質を個別的にまたは複合して有する場合現代数学は芳しい成果が期待できません。しかし素数のようなカオス性を有しながらも大域的にはある程度の確率的整合性が担保されている対象は例外とします。

問題を理論に合わせてしまう危険

先ほど、問題を様々な理論に換言することでアプローチするといったがそれがかえって欠点となる場があります。先ほどの具象性の排他と被ります。
(1) 具体的対象を持ってくる
(2) 理論に翻訳する
(3) 翻訳先で解く
(4) 元の問題に戻す
例えばこのステップの時、2の段階が危険で抽象理論は、一般性が高いぶん、その理論が見たいものだけを見せる傾向があります。その結果、理論にうまく収まらない情報は、ノイズとして扱われやすい。しかし、そのノイズの中にこそ、未解決性の核心があることがあります。

日本の場合

数学の多くの分野でも大きな成果を残した分野と言えば代数幾何学である。実際日本人でフィールズ賞を受賞した人のほとんどの専門は代数幾何学であり明らかな偏りがみられる。それは代数幾何学が要請する豊かな対称性のおかげであり、またその対称性に依存している。
20世紀以降に発達したコホモロジー論・ホッジ理論・モジュライ理論という精緻な機構が完全に機能することを条件に含んでいるのです。

隠れた対称性という名のイタチごっこ

現代数学の最も劇的な成功の一つは、表面上対称性に乏しく見えた問題に、新しい理論的枠組みを通じて隠れた構造を見出すことでした。しかし逆に言えば,新しい問題に対して毎回隠れた対称性を見出さなければなりませし、見出さなければ他の方法を使わない限り解けないということになります。

未解決問題の場合は?

なぜ未解決問題は未解決問題なのでしょうか。それは見事に現代数学の欠点を有しているからです。また今回扱うのは具象数学のものです

イェスマノヴィッチ予想の場合

イェスマノヴィッチ(Jesmanowicz)予想

ピタゴラスの定理$a^2+b^2=c^2$を満たす正の整数の組$(a,b,c)$に対し、$a^x+b^y=c^z$を満たす正の整数の組$(x,y,z)$$(2,2,2)$のみである

実はこの予想は提唱から70年間未解決である。フェルマーの時と違い、指数が一致しておらず代数的、幾何学的対称性が保証されていない。つまりフェルマーの時に仕えた諸々の円分体や楕円曲線関連の理論が非常に特殊な追加条件がなければ適応できず、一般の場合では難しい。かといって初等的アプローチも限界がある。Baker理論という理論で解の条件を与えること自体はできるが、とても現実的な数字ではない。

リーマン予想の場合

リーマンゼータ関数には対称性が「部分的に」存在し,$s \mapsto 1-s$という対応を与え臨界線の存在を保証しているが、零点分布に関する代数学的、幾何学的構造は今のところ発見されていない。量子力学のランダム行列理論との数値的一致が見られるがそれを裏付ける理論もない。まさに明確な対称性、構造を持たないのである。

コラッツ予想

コラッツ予想は対称性や構造に対して最も貧しい問題の中の一つです。上記のすべての問題と質的に異なります。他の問題には少なくとも部分的な対称性・代数的構造・測度論的整合性が存在しますが、コラッツ写像にはそのいずれも自然には現れません。乗法的構造と加法的構造を交互に切り替える規則は一貫した群作用を定義できず、ガロワ理論的な拡大体も構成できず、Tao の部分的成果が示す測度論的整合性は写像の擬似ランダム性の定式化ではなく、あくまで「ほぼすべての」初期値に対する軌道の漸近的挙動の主張に留まります。この問題に対して現代数学の機構は、文字通り適用の足がかりが存在しない状態です。

$P\neq NP$予想

問題は計算複雑性の問題であり、他の問題とは異なる意味で現代数学の限界を露わにします。問いの核心は「多項式時間で検証可能な問題は多項式時間で解けるか」という論理的・組合せ論的な主張であり、証明が困難な理由の一つは Razborov–Rudich による「自然な証明の障壁」定理として形式化されています。対称性を活用する現代的手法のほとんどが「自然な証明」の枠組みに入ってしまうため、それらの手法がそもそも機能しないことが証明されているという状況です。現代数学の方法論が具象問題に適用できないという話に留まらず、特定の種類の証明手法全体が原理的に機能しないことが示されているという点で、最も根本的な限界の事例と言えます。

補足:Tao系統の話題

Taoは双子素数やコラッツ予想に対して成果を上げているがこれはむしろ対称性の束縛から逃れる部分的証明である。素数に対してその確率論的に抑制可能なランダム性と大域的な近似の元、確率論的アプローチであり、その議論中に代数的機構や幾何学的構造は登場しない。コラッツ予想に対し確率論的の近似と軌道の統計的挙動を測度論的に解析する手法が採用されています。--「軌道が高い値に留まるためには複数の連続した奇数ステップが必要であり、その確率は急速に減衰する」--ここに代数、幾何学的構造はしません。

対称性から確率論的手法は?

Green,Taoの手法は「確率論的整合性を検証できれば、という強力な定理が手段としてる使える」という構造を持ちます。ここで整合性の検証に用いられたのは、素数などが例あげられる固有の解析的性質——ゼータ関数の非零領域、篩法による上界・下界評価——です。もちろんほかの対象に転用するにはその対象に対してもその整合性が保証することを確かめる必要があります。実際コラッツ予想に対してこの整合性条件が成立するという理論的根拠は存在しません。

現代数学は具象数学にとって何者?

総括として次のように述べることができます。現代数学は具象問題に対して「十分条件ではなく、現時点での最善の手段」です。対称性が豊かな問題に対しては圧倒的な有効性を発揮し、隠れた対称性の発見という形で適用範囲を拡大し続けてきました。しかし対称性の貧困した問題に対しては、理論の前提条件そのものが満たされないという原理的な限界があります。
この限界は現代数学の「欠陥」ではなく、方法論が持つ本質的な前提条件の反映です。より正確に言えば、現代数学は「構造と対称性を問いの起点とする」という設計選択を行っており、その選択が具象問題に対してどこまで有効かは問題ごとに問い直さなければならないと私は考えます。
それでも少なくとも現代数学は現時点にある具象数学に対するアプローチとして最もポピュラーであり、学ぶ価値は十分あるでしょう。

投稿日:2時間前
数学の力で現場を変える アルゴリズムエンジニア募集 - Mathlog served by OptHub

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中