今回は非可換ラドンニコディムの定理を紹介しようと思います.
まず測度と類似する性質を持つ線形汎函数のクラスを定義します.
ヒルベルト空間$H$に作用するvon Neumann環$\mathscr{\mathscr{M}}$上で定義された正の線形汎函数で$I$での値が$1$であるものを状態という.$\sigma-$WOT連続な状態を正規状態という.
これは単調収束定理に似た次の性質を持ちます.
$\omega $を$\mathscr{M}$上の正規状態とする.$H$を上限とする$\mathscr{M}$上の作用素の単調増加なネット$\{H_a\}_a$に対し$\omega(H_a)\to \omega(H)$が成り立つ.
$\sigma-$WOTは$*-$同型で保たれる位相でvon Neumann環を考える時によく登場する自然な位相の一つです.WOTやSOTの場合は以下のように保たれない例があります.
https://mathoverflow.net/questions/313640/examples-of-isomorphic-w-algebra-with-non-homeomorphic-weak-topology
非可換ラドンニコディムの定理を述べます.
$\omega,\omega_0$を$\mathscr{M}$上の正の正規線形汎函数で$\omega_0\leq \omega$を満たすものとする.このとき,ノルム$1$以下のある正の元$H_0\in \mathscr{M}$が存在して$\omega_0 (A)=\omega(H_0 A H_0)$を満たす.
さらに$\sigma-$WOTでの連続性を落とした場合次が成り立ちます.
$\omega$を$\mathscr{M}$上の正の正規線形汎函数とする.$\rho_0$を$\mathscr{M}$上の有界線形汎函数で$0\leq \rho_0\leq\omega$を満たすものとすると,ノルム$1$以下のある正の元$H_0\in \mathscr{M}$が存在して$\rho_0(A)=\dfrac{1}{2}\omega(H_0 A+AH_0)$を満たす.
この定理を用いると次のようなことがわかります.
$\mathscr{M}$を$\text{II}_1$型因子環,$\text{tr}$をそのトレースとする.$\omega$を$\mathscr{M}$上の正規線形汎函数で$0\leq \omega\leq \text{tr}$を満たすものとする.このとき,ノルム$1$以下のある正の元$H_0$が存在して$\omega(A)=\text{tr}(H_0 A)$を満たす.
$\mathscr{M}$を$\text{II}_1$型因子環,$N$をその部分von Neumann環とすると$\text{tr}(AB)=\text{tr}(E_N (A)B)$を満たす$N$への条件付き期待値$E_N$が一意に存在する.