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【Physics Lab. 2026】数理・計算物理班の紹介

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【Physics Lab. 2026】数理・計算物理班の紹介

こんにちは!Physics Lab. 2026 数理・計算物理班 班長のなべです。
他の班の紹介記事も続々と上がっていますが、今回は私たちの班について紹介します。 名前からして「難しそう」「カタそう」と思われるかもしれませんが、やっていることは「物理をより深く(数学)、より具体的に(計算)理解しよう!」という、とてもシンプルなものです。

数理・計算物理班とは?

一言で言うと、「物理学」と「他の分野」の境界領域を楽しむ班です 。 具体的には、以下の2つのアプローチで物理に迫ります。

1. 数理物理(Mathematical Physics)

物理学と数学の境界領域です 。 物理法則を数学的に厳密に定式化したり、物理で使われる高度な数学(幾何学や関数解析など)そのものを学んだりします。「なんとなく」の理解で終わらせず、数式の背後にある数学的構造を追い求めます。

2. 量子情報(Quantum Information)

近年爆発的に発展している、量子力学と情報理論の融合分野です。 量子コンピュータのアルゴリズムや、量子もつれ(エンタングルメント)の数理、さらには「量子論とは何か?」という基礎論的な問いにもアプローチします。

3. 計算物理(Computational Physics)

物理学と計算機科学(Computer Science)の境界領域です 。 解析的に解けない複雑な物理の問題をシミュレーションで解いたり、あるいは機械学習の手法を物理に応用したりします 。最近は生成AIの発展もあり、プログラミングのハードルが下がっているので、個人的には一番アツい分野だと思っています 。

どんな本を読んでいるの?

ゼミでは、物理の教科書だけでなく、数学書や最先端の専門書も読みます。 今年度のラインナップを紹介します。かなり「攻めた」選書になっています!

【数理物理・基礎物理系】

『多様体の基礎』(松本幸夫)

ゲージ理論や一般相対性理論といった現代物理学を理解するうえで、幾何学はもはや必須の言葉です。本書はそんな幾何学の中の「多様体論」のバイブルです。わかりやすく丁寧な解説が好評です。

『Physics and Mathematics of Quantum Many-Body Systems』(Hal Tasaki)

田崎晴明先生による、量子多体系の数理物理に関する世界的名著です。量子スピン系や相転移の厳密な取り扱いについて、英語の原著でじっくり読み進めています。

『臨時別冊・数理科学 格子模型の数理物理』(南和彦)

可解格子模型(厳密に解ける模型)の入門書です。イジング模型から始まり、ベーテ仮説やヤン・バクスター方程式といった、数理物理ならではの美しい構造を学びます。

【量子情報・基礎論系】

『行列解析から学ぶ量子情報の数理』(日合文雄)

量子情報の基礎を行列解析(Matrix Analysis)の立場から厳密に展開する本です。量子エンタングルメントや量子通信路符号化などを、数学的に妥協なく学びたい人向けの一冊です。

『図式と操作的確率論による量子論』(中平健治)

量子論を「図式(Diagram)」と「操作的確率論」という現代的な視点から再構築する意欲作です。従来のブラケット記法とは全く異なるアプローチで、量子論の構造を直観的かつ論理的に捉え直します。

活動紹介:格子QCDシミュレーションに挑戦!

「本を読むだけじゃつまらない!手を動かしたい!」 ということで、ここでは私が実際に行った「格子QCD(量子色力学)」のシミュレーションを例として紹介します 。

QCD(量子色力学)とは?

原子核を構成する「陽子」や「中性子」、さらにその中にある「クォーク」や「グルーオン」の振る舞いを記述する理論です 。 この理論は非常に難解で、紙とペンだけ(摂動論など)では計算できない領域がたくさんあります。そこで登場するのが計算機シミュレーションです 。

空間を格子(Lattice)に切る

シミュレーションをするために、連続的な時空を離散的な「格子(グリッド)」に分割します 。

プラケットのイメージ図 プラケットのイメージ図
ここで、時空の各リンク(辺)上に SU(3) 行列$U_\mu​(n)$を配置します。これをリンク変数と呼びます。 そして、格子上の最小のループである「プラケット」$P_{\mu\nu}(n)$ を次のように定義します 。
$ P_{μν}​(n)=U_μ​(n)U_ν(n+\hat{μ})U_μ^\dagger​(n+\hat{ν})U_ν^\dagger​(n)$
これを用いると、ユークリッド時空におけるヤン=ミルズ理論の作用(ウィルソン作用)は以下のように書けます 。

$S_E^{SU(N_c​)}​[U]=\frac{\beta}{2N_c}​\sum_n ​\sum_\mu \sum_{\nu \neq \mu}\mathrm{Re} \, \mathrm{tr}[1_{N_c​×N_c}​​−P_{μν}​(n)]$

モンテカルロ法で積分する

私たちが知りたい物理量 ⟨O⟩ は、以下の経路積分で与えられます 。

$\langle O \rangle = \frac{1}{Z}\int \mathcal{D}UO[U]e^{-S[U]}$
この積分は変数が多すぎて(自由度が数万〜数億!)、通常の数値積分では不可能です。 そこで、統計力学のアンサンブル平均とみなして、確率的にサンプル(配位)を生成して平均を取る「モンテカルロ法」を使います 。

計算結果:閉じ込め相転移が見えた!

実際にJuliaでクォークの閉じ込め・非閉じ込め相転移をシミュレーションしてみました。 横軸に温度(エネルギースケール $\beta$)、縦軸に「ポリャコフ・ループ(クォークの自由エネルギーに対応する量)」をプロットした結果がこちらです 。
ポリャコフ・ループと結合定数の逆数!FORMULA[6][317904508][0]の関係。!FORMULA[7][2048461832][0]でポリャコフ・ループが立ち上がっていることが確認できる。 ポリャコフ・ループと結合定数の逆数$\beta$の関係。$\beta \approx 5.7$でポリャコフ・ループが立ち上がっていることが確認できる。

$\beta$がある値を超えたところで、グラフが急激に立ち上がっているのがわかりますか? ポリャコフ・ループは、クオーク1個の自由エネルギーを$F$としたとき$e^{-F}$と表せます。つまり、グラフが急激に立ち上がることは、自由エネルギー$F$が無限の値(つまりクオーク1個は存在できない)から有限の値(クオーク1個は存在できる)へ変化したことを意味します。これが「相転移(Phase Transition)」です 。 低温では閉じ込められていたクォークが、高温になって「スープ状」に溶け出す様子を、計算機の中で再現できた瞬間です!

最後に

数理・計算物理班では、こうした「理論の深い理解」と「実践的なシミュレーション」の両輪で活動しています。 数理物理で強固な数学力を身につけたい人も、計算物理でゴリゴリ計算して五月祭で発表したい人も、どちらも大歓迎です 。

私たちと一緒に、計算・数理物理強者を目指しましょう!!!

参考文献

投稿日:1日前
更新日:16時間前
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