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三角圏の増強

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はじめに

この記事では, 三角圏の増強などについて書かれている文献をまとめて, 簡単な紹介をする.
「らしい」と書いている箇所は勉強中のことで, introductionなどを見て書いたものである.

三角圏とは

三角圏は複体の導来圏の持つ性質を調べるために, GrothendieckとVerdierにより導入された, Abel 圏の持つ写像錐とシフトの性質に注目して公理化された圏である.
一方, 代数的トポロジーの分野で, Puppeが安定ホモトピー圏を調べるために三角圏の公理を考えている.
よって, 三角圏は複体の導来圏や安定ホモトピー圏を例に持つ.

三角圏のデメリット

導入理由から分かるように, 三角圏は導来圏を扱う枠組みとして優れているが, いくつか不満が残る定義になっている.

  1. 三角圏において写像錐を取る操作がfunctorialではない.
  2. hoge

とりあえず, 問題1について考えるために, 三角圏の増強というものを考える.

三角圏の増強の世界

三角圏の増強は[BK]により考え出された.
これにより, dg圏と三角圏がつながり, dg圏論が盛んになった一因である.

増強により三角圏論と高次圏論が結びつき, 三角圏のレベルでは(自然に)見れなかったことが, 高次のレベルで考えると(自然に)見えることがある. [CS]
(これは増強に限った話ではないが)

現在では, ホモロジカルミラー対称性の$A_\infty$増強での定式化など, そもそも増強を考えることが大事な場面は多々ある.

三角圏はいたるところに現れる

三角圏の定義を見ると, 複体のホモトピー圏の持つ性質をいくつか抜き出したもので, このような圏の一般化になっているものの, これは自然な定義なのか?という疑問を持つ.
しかし, 三角圏は次のような意味で, (個人的には)自然な概念であると思える.  

  1. dg圏からBondal-Kapranovの構成法により, 三角圏が得られる. [BK]
  2. $A_\infty$圏からKontsevichの構成法により, 三角圏が得られる. [Fukaya03]
  3. 安定$\infty$圏のホモトピー圏は三角圏の構造を持つ. [HA]
  4. 安定モデル圏のホモトピー圏は三角圏の構造を持つ. [Hovey99]

これらを自然な構成や定義であると思うかは人それぞれだと思うが, とりあえず「三角圏はいたるところに現れる」という感じはする.

4.については詳しくないので, とりあえず1.から3.までまとめる.

三角圏の増強

三角圏に対して, 上記の構成法のもととなるdg圏, $A_\infty$圏, 安定$\infty$圏, 安定モデル圏があるとき, 三角圏はそれぞれdg増強, $A_\infty$増強, $\infty$増強, モデル増強を持つという.

増強を持つとき

(前三角的)dg圏において, 写像錐をとる操作はfunctorialであるので, そこから得られる三角圏においても, 写像錐をとる操作はfunctorialである.
(Bondal-Kapranovの構成法が$0$次コホモロジー圏をとるというfunctorialな操作であるから)

よって, 三角圏が増強を持つとき, 問題1.は肯定的に解決される.

いつ増強を持つか

これで問題1.は解決したが, そもそも, 「任意の三角圏は増強を持つのか?」という疑問が生じる.
残念なことに, 答えはNOである.

  • 三角圏がdg増強を持つことと, 三角圏がalgebraicであることは同値である. [Yang]
  • $A_\infty$-Yonedaの補題から, 三角圏がdg増強を持つことと, $A_\infty$増強を持つことは同値である. [Seidel]

一方, dg圏のdg脈体や$A_\infty$圏の$A_\infty$脈体をとると, $\infty$圏が得られる. [HTT, Faonte14]
更に, それぞれが前三角的であるとき, それらの脈体は安定$\infty$圏の構造を持つ. [Mattia16]

  • 三角圏がdg増強($A_\infty$増強)を持つとき, $\infty$増強を持つ.
    (逆が成立するかは知らないが多分成立しない気がする)

$\infty$増強を持つことと同値な三角圏の条件があるかは分からない.

[Antieau21]に"stable $\infty$-categories provide models for Schwede's topological triangulated categories"とあるが, $\infty$増強を持つことと, 三角圏がtopologicalであることは関係しているのだろうか?

増強を持たない三角圏

代数幾何などで出てくる三角圏は大体すべてalgebraicらしいので, 三角圏は増強を持つとしてもいいように思える.

しかし, ホモトピー論で出てくるspectrumの圏はalgebraicでないtopologicalな三角圏なので, dg増強は持たない. ($\infty$増強を持つ可能性はある.)

少なくとも, どのような増強も持たない三角圏は存在する. [MSS07,RB]
[RB]では, $k$線形な三角圏において反例を与えている.

増強を持たない三角圏がどれだけ少ないか分からないが, かなり少ないように思える.

増強の一意性

次に, 「三角圏の増強は(適当な同値を除いて)一意か?」という疑問が生じる.

dg増強の一意性

例えば, 2つのdg圏が擬同値であるとき, それぞれから構成される2つの三角圏は三角圏同値か?ということである.
残念なことに, やはり答えはNOである.

三角圏を見たときに増強が一意であるかを知りたいので, 「三角圏がhogeという条件を満たすことと, その三角圏のdg増強は一意である」というような命題が求められている.
(少なくとも十分条件は欲しいと感じる.)

個別の三角圏に対して, 増強が一意であることは分かっている例も多い.

  • 準射影代数多様体の連接層の導来圏のdg増強は一意である. [LO09]

しかし, このような条件を満たす三角圏のクラス, というものはまだ調べられていないと思う. [CS, LO09]

また, 「体上のHom有限の冪等完備かつ直既約の同型類が有限個な三角圏のdg増強は, Morita同値を除いて一意である」ということを, ぐにらちさんから教えてもらいました. [Muro18]

$A_\infty$増強の一意性

三角圏の$A_\infty$増強が一意である$A_\infty$圏の条件は, いくらか調べられている.

例えば, formalな$A_\infty$圏の$A_\infty$増強は一意である.
本質的には, $A_\infty$拡張が自明であるということが重要である.

$A_\infty$圏が数点対象の場合は, 生成される三角圏を書き下すこともできる. [Kajiura13, それに関するKajiuraの日本語文献]

$\infty$増強の一意性

Grothendieck Abel圏の導来圏に関してはdg増強の一意性だけでなく, $\infty$増強の一意性まで分かっている.  

  • 局所連接なGrothendieck Abel圏$A$に対して, $K(Ch(Inj_A))$は一意な$\infty$増強を持つ.
  • Grothendieck Abel圏$A$に対して, $D(A)$は一意な$\infty$増強を持つ.
  • $C_{\geq 0}$を前安定$\infty$圏とする. $C_{\geq 0}$$0$-complicialであるとき, $hSW(C_{\geq 0})$は一意な$\infty$増強を持つ.

また, dg増強が一意でなくとも, $\infty$増強は一意であるような例がある.

モデル増強の一意性

[Schwede01, Schwede07]に書いているらしい.

モデル増強が一意性であるとき, 三角圏はrigidであると定義されている.

  • spectrumの安定ホモトピー圏はrigidである. [Schede07]
  • 有限群$G$に対して, $2$-local $G$-equivariantな安定ホモトピー圏はrigidである. [Patchkoria16]

増強の同値性 [Cohn16]

標数$0$の体上では, 前三角的dg圏の$\infty$圏と$k$線形安定$\infty$圏の$\infty$圏は$\infty$圏として同値であるらしい.

増強の例

三角圏の増強が具体的に書けるようなものを挙げていく.
何も書いていないものは, [CS]に挙げられている例である.

dg圏$C$に対して, $D(C) \cong H^0(h-proj(C))$より, $D(C)$の増強は$h-proj(C)$である.

前三角的dg圏$C$とその充満前三角的dg部分圏$B$に対して, $H^0(C)/H^0(B) \cong H^0(C/B)$が成立するので, $H^0(C)/H^0(B)$の増強は$C/B$である.

$A$に対して, $C_{dg}(A)$$A$上の複体のdg圏, $C(A):=Z^0(C_{dg(A)}), K(A):=H^0(C_{dg}(A))$とする.
$A$が加法圏のとき, $C_{dg}(A)$は前三角的なので, $K(A)$の増強は$C_{dg}(A)$である.

$C$上の右加群の圏$\hat{C}$には$Ch(k)$から誘導されたモデル構造が入る.
dg圏$C$の導来圏$D(C)$の増強は, $\hat{C}$におけるファイブラントかつコファイブラントな対象の圏$\hat{C}^{cf}$である. [Cohn16]

モデル構造

話が脱線するが, dg圏の圏dgCatや$A_\infty$圏の圏ACatにモデル構造が入るかどうか説明する.

モデル構造をQuillen同値で比較することで, dg圏や$A_\infty$圏のホモトピー論を考えることができる.

dgCatに入るモデル構造

dgCatには2種類のcombinatorialなモデル構造が入る. [Tabuada05]

[Tabuada05]はフランス語でまとまりすぎているので, [Cohn16], [CT09], [Toen07], [Keller06]などを見る方がいいと思う.

まず, Dwyer-Kanモデル構造は次のようである. [Cohn16] 

  • 弱同値はDK同値
  • ファイブレーションはDKファイブレーション

次に, Moritaモデル構造は次のようである. [Cohn16]

  • 弱同値はMorita同値
  • コファイブレーションはDKモデル構造と同じ

更に, dgcatはralcatにおけるファイブレーション圏なので, ファイブラント対象である. [Meier16]
(DKモデル構造においては自明な命題らしい.)

Acatにモデル構造は入らない

Acatはそもそも完備でないので, モデル構造は入らない.

例えば, $A_\infty$代数のレベルで考えても, equalizerを持たない例が存在する. [COS19]

しかし, あるモノイダルモデル圏-enrichedな$A_\infty$圏の圏にはleft model構造が入るらしい. [Horel]

dg圏や$A_\infty$圏のホモトピー論

話を少し変えて, dg圏や$A_\infty$圏のホモトピー論を考える.
ホモトピー論はdg圏や$A_\infty$圏と$\infty$圏をつなげる大事な視点である.

dg圏のホモトピー論とdg-Morita理論

勉強中

$A_\infty$圏のホモトピー論

$A_\infty$圏のホモトピー圏とdg圏のホモトピー圏は1圏として同値である. [COS19]

更に, 相対圏の圏relcatにモデル構造を入れていろいろ考えることで, 2つの圏は$\infty$圏として同値であることが分かる. [Pascaleff22]

更に, [Faonte14]とは異なり, Quillen同値でガチャガチャして, $A_\infty$圏が(相対圏として)擬圏であったり, 完備Segal空間であることを示している. [COS19]

また, $A_\infty$圏がrelcatにおいてファイブラント対象であるかについて考えられている.

[Faonte14]では, dg圏や$A_\infty$圏の$(\infty,2)$圏が考えられているらしい.

安定$\infty$圏のホモトピー論

[HA]に書いている.

参考文献(一部)

[Antieau21] B.Antieau, "On the uniqueness of $\infty$-categorical enhancement of triangulated categories."

[Cohn16] L.Cohn, "Differntial graded categories are $k$-linear stable $\infty$-cactegories."

[CNS] A.Canonaco, et.al, "Uniqueness of enhancements for derived and geometric categories."

[COS19] A.Canonaco, et.al, "Localization of the category of $A_\infty$-categories and internal homs."

[CS] A.Canonaco, P.Stellari, "A tour about existence and uniqueness of DG enhancement and lift."

[Faonte14] G.Faonte, "Simplicial nerve of an $A_\infty$-category".

[HA] J.Lurie, "Higher Algebra."

[HTT]J.Lurie, "Higher Topos Theory."

[Mattia16] O.Mattia, "A comparison between pretriangulated $A_\infty$-categories and $\infty$-stable categories."

[Pascaleff22] J.Pascaleff, "Remarks on the equivalence between differencial graded categories and A-infinity categories."

[RB] A.Rizzardo, M.Bergh, "A $k$-linear traingulated category without a model."

更新履歴

  • 24/02/16 参考文献(一部)を追加
  • 23/10/13 dg増強について加筆
  • 23/10/09 $\infty$増強の一意性について加筆
  • 23/10/08 参考文献, dgcatに入るモデル構造, dg増強の一意性について加筆
  • 23/10/07 投稿
投稿日:2023107
更新日:216
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