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n変数fudging

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かえでです.
いきなりですが,あなたは不等式証明の手法の1つであるIsolated Fudgingを知っていますか?

※この記事はIMO等の問題のネタバレを含みます.

Isolated Fudging(以下fudging)とは

3変数関数f(a,b,c)と実数kについて,
f(a,b,c)+f(b,c,a)+f(c,a,b)k
を示す代わりに
f(a,b,c)karar+br+cr
を示すという手法です.
勿論この不等式が成立するとき元の不等式も成立するため,これを示せば不等式が示されます.

fudgingを用いる流れ

1.示すべき不等式がf(a,b,c)+f(b,c,a)+f(c,a,b)k
という形であることを確認する.
このような形の時,fudgingによって示される可能性があるので必ずこれを疑いましょう.
2.rの値を求める.
新しく関数gg(a,b,c)=f(a,b,c)karar+br+cr
で定めます.
3.g(p,p,p)=0であるような実数pを取る.
δgδa(p,p,p)=0
を解くことで求めるrの値を得ます.
ただし,このrの値を求める過程は解答に書く必要はありません.
4.不等式を示す.
rの値を得たのであとはg(a,b,c)0を示して証明終了です.

例題

IMO 2001 P2

a,b,c>0のとき,
aa2+8bc+bb2+8ca+cc2+8ab1
を示せ.

略解
r=43としてfudgingの手法を用いると式が簡単になり容易に示される.

これ以外にもfudgingが有効な問題は沢山あります.Yi SunのTeaching Pageにある以下のpdfに幾つか載っているので解きたい方は解いてください.
Smoothing, Fudging, and Ordering

本題

さて,私が調べた限りではfudgingとして紹介されているものは3変数のものが多かったのですが,これらの議論の内容を見るとfudgingは一般にn変数で有効であるような気がしたので,少し考えてみました.

n変数fudgingを用いる流れ

基本的に先ほど紹介した流れと同様です.
1.示すべき不等式が
cycf(a1,a2,...,an)kn
という形であることを確認する.
2.rの値を求める.
ここで1つ問題が出てきます.n変数だと偏微分をしてrの値を求めることが非常に難しくなります.
なので,ここで,ある操作を行います.
n2,3,4,5などの具体的な値を代入して毎回fudgingをすることでより一般にn変数でのrの値を予想することが出来ます.ただし,ここでとあることに気付くと思います.
そうです.具体的なnの値に対して毎回fudgingをするので(nを大きくする度に)どんどん難易度が上がる難問をn変数に達するまで何度も解かないといけないんです.かなり大変ですね.

実際に使ってみる

まずはお試し,ということで一般化Nesbittの不等式をn変数fudgingで示してみます.
まずは普通のNesbittの不等式を紹介します.

Nesbittの不等式

a,b,c>0に対し,
ab+c+bc+a+ca+b32
が成り立つ.(等号成立はa=b=c)

fudgingを用いた証明

ab+c3a322(a32+b32+c32)
を示す.
x=(ba)12,y=(ca)12とする.
逆数をとることにより3x2+3y22+2x3+2y3を示せばよいが,x>0のとき2x33x21であることからこれは成り立つ.よって示される.   

これをn変数に一般化すると次のようになります.

一般化Nesbittの不等式

a1,a2,...,an>0に対し,
f(a1,a2,...,an)=a1a2+a3+...+anとすると,
cycf(a1,a2,...,an)nn1
が成り立つ.(等号成立はa1=a2=...=an)

n=3のとき,Nesbittの不等式と同じ式になります.これをn変数fudgingで証明します.

n変数fudgingを用いた証明

f(a1,a2,...,an)na1nn1(n1)k=1naknn1
を示す.
i=2,...,nに対し,bi=(aia1)1n1とする.
逆数を取ることにより
ni=2nbin1(n1)+(n1)i=2nbin
を示せば良いが,
b2>0のとき(n1)b2nnb2n11なので,各i=2,3,...,nについて同様の式を足し合わせることによりこれは成り立つ.
よって示される.

このように,n変数fudgingを利用してn変数の一般化Nesbittの不等式を示すことができます.
これはおそらく初出の証明です.すごいですね.
以下に("n変数fudgingが使えそうな")演習問題を載せるので,n変数fudgingをマスターしたい皆さんは解いてみてください.
なぜ"使えそうな"なのかというと,難しすぎて筆者も解けなくて確認できないからです!研究が進み次第すぐに改変を行いますので,解答を思いついた方はすぐにかえでに教えてください.

n変数fudgingの演習問題

n>1を正の整数とする.正の実数a1,a2,...,an
a12+a22+...+an2=1を満たしている.
このとき,以下の不等式を示せ.
cyca15a2+a3+...+an1n(n1)

問題1の不等式をn変数に一般化できるか?

新しい問題を見つけ次第追加していきます.(2024/01/27)

最後に

今回この記事を書いていく上で1つ得た事実を書きます.
n変数fudgingは使用する場面が殆ど無い上にかなり難易度が高いが,作問などで使えば難問を作れる可能性がある.
以上です.是非上で述べた通り何かを発見した,もしくは思いついた場合はかえでに教えてください.
ここまで読んでくださりありがとうございました.

 

         

投稿日:2024127
更新日:2024310
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投稿者

ユークリッド幾何学専門

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  1. Isolated Fudging(以下fudging)とは
  2. fudgingを用いる流れ
  3. 例題
  4. 本題
  5. n変数fudgingを用いる流れ
  6. 実際に使ってみる
  7. n変数fudgingの演習問題
  8. 最後に