かえでです.
Desargues involution theorem(デザルグの対合定理)の日本語での文献があまりなかったので書こうと思います.
基本的に船旅(Euclidean Geometry in Mathmatical Olympiads)の第9章-射影幾何を履修済みであることを前提として書くものとする.
conicにおける複比を定義する.
conic$\gamma$上の点$A,B,X,Y,P$に対し,$(A,B;X,Y)_{\gamma} = \frac{\sin \angle XPA}{\sin \angle XPB} / \frac{\sin \angle YPA}{\sin \angle YPB} $である.
逆に,このような比が一定になるような点$P$の軌跡をconicと定義することもある.
$\mathcal{P}$を直線またはconicとする.$f:\mathcal{P} \rightarrow \mathcal{P}$が$\mathcal{P}$上のinvolutionであるとは,以下を満たすことである.
・$f \circ f$は恒等写像である.
・$f$は$\mathcal{P}$上の複比を保存する.
また,$P \in \mathcal{P}$について,$(P,f(P))$をreciprocalな組であるという.
このような定義のもとで,Involutionの自由度について考えてみる.
$f:\mathcal{P} \rightarrow \mathcal{P}$が複比を保存し,ある$A,B \in \mathcal{P}$が存在して$f(A)=B , f(B)=A$を満たすとき,$f$はinvolutionである.
$X \in \mathcal{P}$について,$Y=f(X),X'=f(Y)$とする.このとき,
$(A,B;X,Y) \overset{f}{=} (B,A;Y,X') = (A,B;X',Y)$と計算できるから,$X=X'$を得る.
直線上のInvolutionとして次のようなものがある.
・恒等変換
・対称移動
・等角共役
・反転
これらがInvolutionであることは容易に確かめられる.
また,反転はより一般的な表現であることが次の定理からわかる.
直線上のinvolutionは反転であり,その中心と無限遠点は移りあう.
$f$を直線上のinvolutionとし,$O=f(\infty)$とする.また,$(X_1,X_2),(Y_1,Y_2)$をreciprocalな組とする.このとき,
$(O,\infty;X_1,Y_1) \overset{f}{=} (\infty,O;X_2,Y_2)$から$\frac{OX_1}{OY_1}= \frac{OY_2}{OX_2}$となり,$OX_1 \times OX_2 = OY_1 \times OY_2$が従う.
$\mathcal{C}$をconicとし,$f$を$\mathcal{C}$上のinvolutionとする.このとき,ある点$P$が存在して,任意の$A \in \mathcal{C}$に対し,$f(A)$を直線$PA$と$\mathcal{C}$の$A$でない方の交点にできる.
これは純粋に射影的であるから,$\mathcal{C}$を円にできる.$(A_1,A_2),(B_1,B_2),(C_1,C_2)$をreciprocalな組とし,$X$を$\mathcal{C}$上の点とする.$X$を中心とする反転で$\mathcal{C}$が移る先の直線を$l$とする.また,この反転で$(A_1,A_2),(B_1,B_2),(C_1,C_2)$が移る先を$(A_1’,A_2’),(B_1’,B_2’),(C_1’,C_2’)$とし,これらをreciprocalな組に持つ$l$上のinvolutionを$f'$とする.このとき,定理2より$f'$はある反転変換に等しいから,$O \in l$であって,$OA_1' \times OA_2' = OB_1' \times OB_2' = OC_1' \times OC_2'$であるようなものが存在する.すなわち,円$XA_1'A_2'$,円$XB_1'B_2'$,円$XC_1’C_2’$は共軸である.よって,$A_1A_2,B_1B_2,C_1C_2$は共点である.
$\mathcal{C}$をconicとし,四角形$ABCD$は$\mathcal{C}$に内接しているとする.直線$l$が直線$AB,CD,AD,BC,AC,BD$と交わる点をそれぞれ$X_1,X_2,Y_1,Y_2,Z_1,Z_2$とし,$l$と$\mathcal{C}$は$W_1,W_2$で交わっているとする.このとき,$l$上のinvolutionであって,$(W_1,W_2),(X_1,X_2),(Y_1,Y_2),(Z_1,Z_2)$がreciprocalであるようなものが存在する.
$l$を固定し$W_1,W_2,X_1$を$W_2,W_1,X_2$に移すような射影変換$f$を取る.定理1より$f$はinvolutionであるから,$(X_1,X_2)$はreciprocalである.対称性から$(Y_1,Y_2)$がreciprocalであることを示せばよい.
$(X_1,Y_1;W_1,W_2) \overset{A}{=} (B,D;W_1,W_2) \overset{C}{=} (Y_2,X_2;W_1,W_2) = (X_2,Y_2;W_2,W_1)$
と計算できるから,$f(Y_1)=Y_2$が従う.
退化によって得られる次の系も有用である.
$\mathcal{C}$をconicとし,$A,B \in \mathcal{C}$とする.直線$AB$は直線$l$と$X$で交わり,$\mathcal{C}$の$A,B$における接線は$l$とそれぞれ$Y_1,Y_2$で交わる.また,$l$は$\mathcal{C}$と$W_1,W_2$で交わっている.このとき,$l$上のinvolutionであって,$(W_1,W_2),(X,X),(Y_1,Y_2)$がreciprocalであるようなものが存在する.
$\mathcal{C}$をconicとし,三角形$ABC$は$\mathcal{C}$に内接しているとする.直線$l$が直線$AB,AC,BC$と交わる点をそれぞれ$X_1,X_2,Y_1$とし,$\mathcal{C}$の$A$における接線は$l$と$Y_2$で交わる.また,$l$は$\mathcal{C}$と$W_1,W_2$で交わっている.このとき,$l$上のinvolutionであって,$(W_1,W_2),(X_1,X_2),(Y_1,Y_2)$がreciprocalであるようなものが存在する.
次の難問はDITによって容易に討伐が可能である.
四角形$ABCD$と直線$l$があり,$l$と直線$AB,CD,BC,DA,AC,BD$はそれぞれ$X,X',Y,Y',Z,Z'$で交わっており,$X,Y,Z,X',Y',Z'$の順に並んでいる.このとき,$XX',YY',ZZ'$を直径とする円は共軸であることを示せ.
点$P$を通る直線束を$\mathcal{L}$とする.$f:\mathcal{L} \rightarrow \mathcal{L}$が$\mathcal{L}$上のinvolutionであるとは,以下を満たすことである.
・$f \circ f$は恒等写像である.
・$f$は$\mathcal{L}$上の複比を保存する.
また,$l \in \mathcal{L}$について,$(l,f(l))$をreciprocalな組であるという.
Dual of Desargues Involution TheoremとはDesargues Involution Theoremの双対という意味である.
$\mathcal{C}$をconicとし,点$P$と$\mathcal{C}$に外接する四角形$ABCD$を取る.$E = AB \cap CD ,F = AD \cap BC$とし,直線$PX,PY$を$P$から$\mathcal{C}$への接線とする.このとき,$P$を通る直線束上のinvolutionであって,$(PX,PY),(PA,PC),(PB,PD),(PE,PF)$がreciprocalであるようなものが存在する.
次の退化による系はDITと同様に有用である.
$\mathcal{C}$をconicとし,$A,B \in \mathcal{C}$と点$P$を取る.$A,B$の$\mathcal{C}$における接線の交点を$X$とし,直線$PY,PZ$を$P$から$\mathcal{C}$への接線とする.このとき,$P$を通る直線束上のinvolutionであって,$(PY,PZ),(PX,PX),(PA,PB)$がreciprocalであるようなものが存在する.
$\mathcal{C}$をconicとし,点$P$と$\mathcal{C}$に外接する三角形$ABC$を取る.直線$BC$と$\mathcal{C}$の接点を$D$とし,直線$PX,PY$を$P$から$\mathcal{C}$への接線とする.このとき,$P$を通る直線束上のinvolutionであって,$(PX,PY),(PA,PD),(PB,PC)$がreciprocalであるようなものが存在する.
以下の問題はDDITを用いることで(DDITを用いない解答と比較して)非常に容易に示すことができる.
三角形$ABC$の外接円上に点$M$をとる.$M$から三角形$ABC$の内接円への接線と直線$BC$の交点を$X_1,X_2$とする.三角形$MX_1X_2$の外接円は三角形$ABC$の$A$-混線内接円と外接円の接点を通ることを示せ.
また,次のような問題2の一般化もDDITを用いて示すことができる.
内接円を$\omega$とする三角形$ABC$と$\omega$の外部の点$P$について,$P$から$\omega$への接線と直線$BC$の交点を$S,T$,直線$AP$と直線$BC$の交点を$P'$,$\omega$と$BC$の接点を$D$とする.このとき,円$BCP$,円$STP$,円$SP'P$は共軸である.
証明は 私のツイート に載せてある.
双曲線$\mathcal{H}$上に3点$A,B,C$を取る.$\mathcal{H}$の$A,B$における接線と$\mathcal{H}$の$C$における接線$l$の交点をそれぞれ$P,Q$とし,直線$AB$と$l$交点を$X$とする.このとき,(この順に並ぶとは限らない)4点$X,P,Q,C$は調和点列を成す.
( 引用元のツイート )
定理5 (2 points DIT)において,さらに$W_1=W_2$とした場合を適用することにより,$l$上のinvolutionであって,$(C,C),(X,X),(P,Q)$がreciprocalであるようなものが存在する.また,定理2よりこのinvolutionは$CX$を直径とする反転であることが分かる.よって$X,P,Q,C$は調和点列をなす.
三角形$ABC$において,その外接円を$\Gamma$とし,$\angle A$内の傍接円を$\omega _A$とする.$\Gamma$と$\omega _A$の共通外接線と直線$BC$の交点を$P,Q$としたとき,$\angle PAB = \angle CAQ$を示せ.
三角形$ABC$において,その内接円を$\gamma$とし,線分$BC$の中点を$M$とする.直線$AM$は$\gamma$と$K,L$で交わっており,$K,L$を通り直線$BC$に平行な直線は$\gamma$とそれぞれ$X,Y$で再び交わっている.直線$AX,AY$と直線$BC$の交点をそれぞれ$P,Q$としたとき,$BP=CQ$を示せ.
Involutionの知名度の低さは日本語における文献が少ないことが一つの要因であると思ったので,今回このような記事を書きました.なので,是非学習に活用していただきたいです.
また,私自身もInvolutionを知って間もない人間なので,記事内にミスなどがあれば教えてください.