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バーゼル問題の比較的分かりやすい解法

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導入

今回は、バーゼル問題についてです。

バーゼル問題(バーゼルもんだい、英: Basel problem)は、級数の問題の一つで、平方数の逆数全ての和はいくつかという問題である。ヤコブ・ベルヌーイやレオンハルト・オイラーなどバーゼル出身の数学者がこの問題に取り組んだことからこの名前で呼ばれる。

(引用:Wikipedia)
要するに、
$$\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^{2}}=1+\frac{1}{2^{2}}+\frac{1}{3^{2}}+\cdots$$
の収束値を問うているわけです。驚くべきことに、この答えは$\displaystyle \frac {\pi^2}{6}$であることが、かの大数学者オイラーにより導かれました。
その求め方として、$\sin x$の因数分解とマクローリン展開の係数比較をする、という手法が有名です。

しかし、マクローリン展開はある程度納得できるにしても、$\sin x$が因数分解できることはそこまで自明でないように感じます。
他にも、フーリエ級数展開を用いた手法や、重積分を用いた手法などがありますが、大学程度の予備知識が必要で、(個人的には)
まだ分かりにくいと感じていました。

今回私が見つけた手法は、逆三角関数、広義積分と、ライプニッツの積分法則(ファインマンの手法)さえ知っていれば高校生でも十分理解可能なものです。
この記事では、その手法でバーゼル問題を解いていきます。
(※数学的な厳密性は、分かりやすさのため欠いています。一応、私自身各過程で成り立つことは証明しているはずですが、微妙な部分が含まれているかもしれません。)

証明

級数の変形

まず、求める級数を、偶数部分と奇数部分に分けます。
$$\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^{2}}=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{\left(2n-1\right)^{2}}+\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{\left(2n\right)^{2}}$$
左辺第2項を移行して、
$$\frac{3}{4}\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^{2}}=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{\left(2n-1\right)^{2}}$$
今、$\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^{2}} =\frac {\pi^2}6$であることを示すには、$\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{\left(2n-1\right)^{2}}=\frac{3}{4}\cdot\frac{\pi^{2}}{6}=\frac{\pi^{2}}{8}$であることを示せばよいです。

そのため、ここから下は、
$$\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{\left(2n-1\right)^{2}}=\frac{\pi^{2}}{8}$$
を示します。

関数$I(a)$とその導関数

まず、次のような関数を用意します。
$$I\left(a\right)=\int_{0}^{\infty}\frac{\tan^{-1}\left(ax\right)}{1+x^{2}}dx$$

ここで、$\displaystyle {\tan^{-1}(x)}$は逆正接関数で、その導関数が$\displaystyle \frac 1 {1+x^2}$になることは、大学受験を経験した方ならご存じだと思います。

$\displaystyle x=\tan(y)~~~(-\frac{\pi}{2}< y<\frac{\pi}{2})$とする。両辺をyで微分すると、$\displaystyle \frac{dx}{dy}=\frac{1}{\cos^{2}\left(y\right)}=1+\tan^{2}\left(y\right)=1+x^{2}$となる。
一方で、$y$の定義域内でxとyは一対一対応するから、$\tan^{-1}(x)=\tan^{-1}\left(\tan (y)\right)=y $すなわち$y=\tan^{-1}\left(x\right)$である。
よって、逆関数の微分公式より、
$$\frac{d}{dx}\left(\tan^{-1}\left(x\right)\right)=\frac{dy}{dx}=\frac{1}{\frac{dx}{dy}}=\frac{1}{1+x^{2}}~\blacksquare$$

次に、$I(a)$の導関数を求めます。実は、次のことが成り立ちます。

$$\frac{dI}{da}=\frac{\ln\left(a\right)}{a^{2}-1}$$ただし、$a=1$での値は、左辺は極限$\displaystyle \lim_{a\rightarrow1}\frac{\ln\left(a\right)}{a^{2}-1}$で定義する。

これが成り立つことを確認するために、ライプニッツの積分法則(の特殊形)を用います。

ライプニッツの積分法則

二変数関数$f(x,t)$および実数$a,b$にたいして、
$$\frac{d}{dx}\left(\int_{a}^{b}f\left(x,t\right)dt\right)=\int_{a}^{b}\frac{\partial }{\partial x}f\left(x,t\right)dt $$

厳密な証明ではない、これが成り立つ説明は、例えば次のようなものが考えられます。
$\displaystyle g\left(x\right)=\int_{a}^{b}f\left(x,t\right)dt $とすると、微分の定義から、
$$g'\left(x\right)=\lim_{h\rightarrow0}\frac{g\left(x+h\right)-g\left(x\right)}{h}$$
です。一方で、
$$\lim_{h\rightarrow0}\frac{g\left(x+h\right)-g\left(x\right)}{h}=\lim_{h\rightarrow0}\frac{1}{h}\left(\int_{a}^{b}f\left(x+h,t\right)dt-\int_{a}^{b}f\left(x,t\right)dt\right)=\lim_{h\rightarrow0}\int_{a}^{b}\frac{f\left(x+h,t\right)-f\left(x,t\right)}{h}dt$$
です。
$h\rightarrow0$の極限と積分が交換可能ならば、
$$ \lim_{h\rightarrow0}\int_{a}^{b}\frac{f\left(x+h,t\right)-f\left(x,t\right)}{h}dt=\int_{a}^{b}\lim_{h\rightarrow0}\frac{f\left(x+h,t\right)-f\left(x,t\right)}{h}dt=\int_{a}^{b}\frac{\partial }{\partial x}f\left(x,t\right)dt$$
で、確かに成り立ちそうです。

ただし、このままでは、元の$I(a)$の積分範囲の上端が$\infty$であることから、
直ちには用いることはできません。そこで少し工夫をします。
まず、積分範囲を分けます。
$$\int_{0}^{\infty}\frac{\tan^{-1}\left(ax\right)}{1+x^{2}}dx=\int_{0}^{1}\frac{\tan^{-1}\left(ax\right)}{1+x^{2}}dx+\int_{1}^{\infty}\frac{\tan^{-1}\left(ax\right)}{1+x^{2}}dx$$
右辺第2項について、$\displaystyle x=\frac 1 t$の変数変換をすることで、
$$\int_{1}^{\infty}\frac{\tan^{-1}\left(ax\right)}{1+x^{2}}dx=\int_{0}^{1}\frac{\tan^{-1}\left(\frac{a}{x}\right)}{1+x^{2}}dx$$
であることが分かります。
よって、
$$I\left(a\right)=\int_{0}^{1}\frac{\tan^{-1}\left(ax\right)}{1+x^{2}}dx+\int_{0}^{1}\frac{\tan^{-1}\left(\frac{a}{x}\right)}{1+x^{2}}dx$$
と、積分範囲を$0\rightarrow1$にできました。この下で先ほどの補題1および逆正接関数の微分を用いると、
$$\frac{dI}{da}=\int_{0}^{1}\frac{\partial}{\partial a}\left(\frac{\tan^{-1}\left(ax\right)}{1+x^{2}}\right)dx+\int_{0}^{1}\frac{\partial}{\partial a}\left(\frac{\tan^{-1}\left(\frac{a}{x}\right)}{1+x^{2}}\right)dx$$
$$=\int_{0}^{1}\frac{1}{1+x^{2}}\cdot\frac{x}{1+\left(ax\right)^{2}}dx+\int_{0}^{1}\frac{1}{1+x^{2}}\cdot\frac{1}{1+\left(\frac a x\right)^{2}}\cdot\frac{1}{x}dx$$
$$=\int_{0}^{1}\frac{x\left(x^{2}+a^{2}+1+x^{2}a^{2}\right)}{\left(1+x^{2}\right)\left(1+\left(ax\right)^{2}\right)\left(x^{2}+a^{2}\right)}dx$$
$$=\int_{0}^{1}\frac{x\left(1+a^{2}\right)}{\left(1+\left(ax\right)^{2}\right)\left(x^{2}+a^{2}\right)}dx$$
$$=\frac{1}{a^{2}-1}\int_{0}^{1}\left(\frac{a^{2}x}{1+\left(ax\right)^{2}}-\frac{x}{x^{2}+a^{2}}\right)dx$$
$$=\frac{1}{a^{2}-1}\left[\frac{1}{2}\ln\left(1+a^{2}x^{2}\right)-\frac{1}{2}\ln\left(x^{2}+a^{2}\right)\right]_{0}^{1}$$
$$=\frac{1}{a^{2}-1}\left[\frac{1}{2}\ln\left(\frac{1+a^{2}x^{2}}{x^{2}+a^{2}}\right)\right]_{0}^{1}=\frac{1}{a^{2}-1}\left(\frac{1}{2}\ln\left(\frac{1+a^{2}}{1^{2}+a^{2}}\right)-\frac{1}{2}\ln\left(\frac{1+a^{2}\cdot0^{2}}{0^{2}+a^{2}}\right)\right)=\frac{\ln\left(a\right)}{a^{2}-1}$$

これで、$\displaystyle \frac{dI}{da}=\frac{\ln\left(a\right)}{a^{2}-1}$が示せました。
(※$a=1$の値については、部分分数分解を行わず、$x=\tan\theta$の置換をすることで、実際の微分係数と、$\ln$を用いた表示での極限が一致していることが分かります。)

$I(a)$の特殊値を求値

$I(0)$および$I(1)$を、定義に従って求めていきます。
$$I\left(0\right)=\int_{0}^{\infty}\frac{0}{1+x^{2}}dx=0$$
$$I\left(1\right)=\int_{0}^{\infty}\frac{\tan^{-1}\left(x\right)}{1+x^{2}}dx=\left[\frac{1}{2}\left(\tan^{-1}\left(x\right)\right)^{2}\right]_{0}^{\infty}=\frac{1}{2}\left(\frac{\pi}{2}\right)^{2}=\frac{\pi^{2}}{8}$$

定積分の値

ここで、
$$J=\int_{0}^{1}\frac{\ln\left(a\right)}{a^{2}-1}da$$という定積分を考えます。$\displaystyle \frac{dI}{da}=\frac{\ln\left(a\right)}{a^{2}-1}$および$I(0),I(1)$の値から、
$$J=\int_{0}^{1}\frac{dI}{da}da=I\left(1\right)-I\left(0\right)=\frac{\pi^{2}}{8}$$
です。
一方で、幾何級数公式$\displaystyle \frac{1}{1-x}=\sum_{n=0}^{\infty}x^{n}\left(\left|x\right|<1\right)$を用いると、
$$J=\int_{0}^{1}-\frac{\ln\left(a\right)}{1-a^{2}}=\int_{0}^{1}-\ln\left(a\right)\sum_{n=0}^{\infty}a^{2n}da$$
このとき、積分と極限の交換について、ルベーグの優収束定理を用いれば交換可能であることが分かります。ここでは交換可能であることを認めると、
$$\int_{0}^{1}-\ln\left(a\right)\sum_{n=0}^{\infty}a^{2n}da=\sum_{n=0}^{\infty}\int_{0}^{1}-\ln\left(a\right)a^{2n}da$$
ここで、$\displaystyle \int_{0}^{1}-\ln\left(a\right)a^{2n}da$について、部分積分をして、
$$\int_{0}^{1}-\ln\left(a\right)a^{2n}da=\left[\frac{-\ln\left(a\right)a^{2n+1}}{2n+1}\right]_{0}^{1}+\frac{1}{2n+1}\int_{0}^{1}\frac{1}{a}\cdot a^{2n+1}da$$
各項について、
$$\left[\frac{-\ln\left(a\right)a^{2n+1}}{2n+1}\right]_{0}^{1}=0+\lim_{\epsilon\rightarrow0+}\frac{\ln\left(\epsilon\right)\epsilon^{2n+1}}{2n+1}=0$$
$$\frac{1}{2n+1}\int_{0}^{1}\frac{1}{a}\cdot a^{2n+1}da=\frac{1}{\left(2n+1\right)^{2}}\left[a^{2n+1}\right]_{0}^{1}=\frac{1}{\left(2n+1\right)^{2}}$$
よって、
$$\int_{0}^{1}-\ln\left(a\right)a^{2n}da=\frac{1}{\left(2n+1\right)^{2}}$$
となります。これを先ほどの級数に代入して、
$$J=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{\left(2n+1\right)^{2}}=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{\left(2n-1\right)^{2}}$$
$\displaystyle J=\frac {\pi^2}8$であったので、
$$\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{\left(2n-1\right)^{2}}=\frac{\pi^{2}}{8}$$
であることが示せました。
よって、
$$\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^{2}}=\frac{\pi^{2}}{6}$$
となります。

終わりに

いかがだったでしょうか。煩雑な式処理が随所にあるものの、難解な部分はほとんどなく、高校生でも十分理解可能であると思います。
まあ、簡単な証明かどうかはそこまで重要ではなく、自分自身で新たな解法を得られた、という点が非常に嬉しいことです。
つらい浪人生活も、「まあ、私はバーゼル問題の新解法を思いついたし」と思うと、不思議とやっていける、そんな気がします。
以上です。

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