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現代数学解説
文献あり

コンマ圏なんもわからん

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TL;DR

コンマ圏なんもわからんのでいろいろまとめました。

圏論初心者以上ガチ勢未満の半端ものなので、コンマ圏のことなんもわからんになっていたんですが、研究を進めていた時に年貢の納め時を察知したので圏論の書籍 (CWM, CTC) やalg-dさんの文献 (algd2lim, algdKan) や nLab を漁ってコンマ圏の重要性を頭に叩き込むことにしました。
コンマ圏を表す言葉に、「laxな引き戻し」というものがあります。コンマ圏はFxGyという関係にある射について記述し、これがコンマ圏が記述するすべてです。ところで圏論というか圏はその特性上、2つの対象が等しいかどうかわかる方法は、自明な方法 (つまり別の方法で集合論的に判別できる場合) を除いてあまり存在しません。必然的にFx=Gyの関係はとても強い主張になってしまい、関手F,Gの間の関係について知りたい場合などは役に立たなくなってきます。普遍性などの議論においても息をするように同型は無視していますね。つまりそういうことです (この辺はalg-dさんの 動画 でも言及されていますね)。
コンマ圏の重要な使い所としては、米田埋め込みy:CopSetCが自由な余完備化であることの証明が挙げられます。これは代数的圏への米田埋め込みがシフト余極限についての完備化になる (CIGA, Theorem 4.13) 証明に応用され、代数的圏の理論で重要な役割を担っています。また、各点Kan拡張の構成に見られるように、点ごとに極限の様子を調べることも可能にします (実際、片側を一点に固定して取られるコンマ圏は(DF)の各点に対するファイバーを構成します)。各点Kanについてはこの観点からもう少し調べたかったんですが、2-圏論の沼が深すぎてまだよくわかっていません。

1-圏的コンマ圏論

定義

コンマ圏の定義は次のようになります。この圏が普遍性とかの議論よりもずっと前に定義だけ登場するの本当よくないと思う (暴論)

コンマ圏

関手F:CE, G:DEに対して、コンマ圏 (FG)とは以下によって構成される圏である:

  • 対象: cC, dD, Eの射f:FcGdの3つ組(c,d,f)
  • 射: 以下の図式を可換にするCの射h:ccDの射k:ddの組(h,k):(c,d,f)(c,d,f)
    FcfFhGdGkFcfGd
(コ)スライス圏

Cとその対象cCに対して、スライス圏C/cとは、以下によって構成される圏である:

  • 対象: cへの射α:ac (もしくはaとの組(a,α:ac))
  • 射: fβ=αを満たすCの射f:ab
    afαcbβ

逆にcからの射によって構成される圏をコスライス圏c/Cと呼ぶ。

スライス圏はコンマ圏の特別な場合です。つまり、恒等関手Id:CCと一点関手c:1Cを用いることで、スライス圏C/cやコスライス圏c/Cはコンマ圏(Idc)および(cId)と書くことができます ((Cc)(cC)と書くこともあります)。

コンマ圏は、Lawvereの博士論文Lvr63において随伴を特徴付けするための道具として考案され、Lawvere本人は特に何の名前でも呼んでいなかったのですが、その時に(F,G)という表記を用いたことが原因で名づけられました。そしてその後コンマが用いられなくなって以降もずっとコンマ圏と呼ばれ続けています。
随伴関手との関係は後で見ることにして、ここではLvr63に載っているコンマ圏の定義を見てみます。

[Lawvere, 1963]におけるコンマ圏の定義

(CWM pp. 59–60 あるいは Lvr63 pp. 36–37 を参照)
2は2つの異なる対象0,1を持ち、非自明な射がただ1つ01であるような圏とする。
Cと関手F:AC, G:BCに対して、次の図式の四角形3つはすべて引き戻しとなる。
(FG)(FG)(FG)(FC)(CG)AFC2D0D1BGCC
ここでD0,D1は関手圏C2Cの射の圏とみなした際にD0:fdom(f), D1:fcod(f)で表される関手である。

圏の引き戻しの構成を考えることで、コンマ圏(FC)AFCD0C2の引き戻しに、(CG)C2D1CGBの引き戻しになっていることがわかる。
さらに(FC)C2(CG)の引き戻しは、写される先の対象が等しいならばそれはf:FaGbの形であることが成り立つため、コンマ圏(FG)を構成することがわかる。

コンマ圏はFcGdの形である射について記述するため、例えば普遍射についての記述をコンマ圏で書くことができます。

普遍射とコンマ圏 (CWM Ⅲ章, p.70)

F:DCを関手、cCの対象とする。このとき、Cの射u:cFdcからFへの普遍射であるとは、コンマ圏(cF)(d,u)が始対象であることと同値である。

u:cFdcからFへの普遍射であるとは、任意のf:cFxに対してDの射f¯:dxがただ1つ存在して、f=Ff¯uを満たすことである。これをコンマ圏(cF)の言葉で置き換えると、任意の(x,f)(cF)に対して射f¯:(d,u)(x,f)が存在することであり、これは(x,f)(cF)の始対象であることと同値である。

双対的に、射v:FdcFからcへの普遍射であることは、(d,v)がコンマ圏(Fc)の終対象であることと同じであることがわかります。

米田埋め込みと自由余完備化

コンマ圏が重要な役割を果たす定理として、任意の集合値関手が表現可能関手の余極限であることと、米田埋め込みが圏の自由な余完備化(free cocompletion)であることを見ていきます。

始めに、米田の補題、米田埋め込み、そして関連する定理で重要な役割を果たす、集合値関手の要素の圏について定義します。 nLab によると、これは グロタンディーク構成 の特殊な場合であり、またFによって分類されたSetバンドルであると書かれていますが、筆者が代数幾何にまったく明るくないためこの辺りはよくわかりません。

要素の圏

集合値関手F:CSetに対して、その要素の圏 (the category of elements of F) el(F)とは、以下の要素からなる圏である:

  • 対象: cCxF(c)の組 (c,x)
  • 射: (c,x)(c,x)に対して、Ff(x)=xを満たす射f:cc

同じことであるが、Fの要素の圏とはコンマ圏(1F)のことである (ここで1とはシングルトン{}を示す関手1:1Set)。

(CTC, Lemma 2.4.7)

集合値関手F:CSetに対して、その要素の圏はコンマ圏(yF)と同型である (ここでyは米田埋め込みcC(c,_))。

米田の補題からSetC(C(c,_),F)Fcであるため、Fの要素の圏の対象とコンマ圏(yF)の対象の間には全単射が存在する。またこの関係はcについても自然なので、これによって関手φ:yFel(F)ψ:el(F)yFが定まり、米田の補題が自然同型を示すことから、φψは互いの逆関手となる。

要素の圏を用いて証明される重要な結果の1つが次の定理です。

(CWM, Ⅲ章 §7)

任意の集合値関手F:CSetは、圏SetCにおいて表現可能関手 (C(c,_)の形で表される関手、およびそれと同型な関手) からなる図式の余極限で表される。

Fの要素の圏はコンマ圏(yF)と同型であるため、これを用いて関手Fˇ:el(F)(yF)CopySetCを取ると、これは表現可能関手からなる図式を構成する。
この関手の余極限がFであることを示す。各(c,x)el(F)に対して、FˇはこれをC(c,_)SetCに送る。また米田の補題から、τcx(idc)=xを満たす自然変換τx:C(c,_)Fが存在する。これによってFへの余錐が構成される。

FˇからGへの余錐を(υx:C(c,_)G)(c,x)el(F)と表す。このとき、cCに対してxυcx(idc)によって写像γc:FcGcが定まり、さらにこれはcについて自然である。

(c,x)(yF)f:ccに対して、
γcτcx(f)=γc(Ff(x))=Gf(γc(x))=Gf(υcx(idc))=υcx(f)
が成り立つため、γτx=υxが成り立ち、γの決定方法からこれは一意であることがわかる。以上よりFFˇの余極限である。

(CIGA Theorem 4.10)
米田埋め込みy:CSetCopは自由な余完備化である。すなわち、余完備な圏Dと任意の関手F:CDに対して、余極限を保存して、かつFF¯yを満たす関手F¯:SetCopDがただ1つ存在する。

余完備な圏への関手F:CBと集合値関手A:CopSetに対して、F¯AB
F¯A:=Colim((yA)pACFB)によって定める。自然変換α:AAはコンマ圏の間の関手(yα):(yA)(yA)を定めるが、これは要素の圏として考えると(c,x)(c,αc(x))に移すものであるため、任意の(c,x)(yA)に対してFcからF¯Aへの射を取ってくることができて (つまりこれはF¯Aへの余射影である)、これらはFpAからの余錐を構成する。余極限の普遍性から射F¯AF¯Aが得られ、これをF¯αとする。これによってF¯は関手となる。

表現可能関手yc=C(_,c)に対して、要素の圏el(yc)の対象はcCfC(c,c)の組(c,f)となり、射γ:(c,f)(c,f)f=fγを満たすCの射γ:ccによって構成される。従って任意の(c,f)el(yc)に対して、射f:(c,idc)(c,f)が存在して、この射は(c,idc)からの唯一の射となる。すなわち(c,idc)el(yc)の始対象である。

このことを用いると、Colim(Fpy(c))Fcであることが従う。すなわち、F¯yFが成り立つ。

F¯が余極限を保存することを示す。関手R:BSetCopRB:=B(F_,B)によって定める。このとき、
B(F¯A,B)=B(Colim(FpA),B)Lim(c,x)el(A)B(F(c),B)Lim(c,x)el(A)SetCop(yc,B(F_,B))=Lim(c,x)el(A)SetCop(yc,RB)SetCop(Colim(c,x)el(A)(yc),RB)SetCop(A,RB)
従ってF¯Rの左随伴であるため、余極限を保存する。

Lawvereによる随伴関係の定義づけ

以下の定理はLvr63でLawvereが随伴関手の定義に使用したものです。論文を読む限り、Hom集合の間の自然同型による随伴の定義は局所小な圏 (あるいは局所U-smallな圏) でないと定義できないという事実を、Lawvereはその論文では嫌ったように見えます。

関手L:CDR:DCの左随伴であることは、次の図式を可換にする同型関手hが存在することと同値である。
(CR)hR¯(LD)L¯C×D
ここでR¯:(CR)C×D(f:cRd)(c,d), L¯:(LD)C×D(g:Lcd)(c,d)で定まる関手。

() LRの左随伴であるとき、(c,d)Cop×Dに対して自然な全単射φ:C(c,Rd)D(Lc,d)が存在するため、これが同型な関手hを構成する。また、これは明らかにR¯=L¯hを満たす。

() 図式を可換にする同型な関手h:(CR)(LD)が存在するとき、ここから同型な写像φ:C(c,Rd)D(Lc,d)が得られる。hの関手性から次の図式がそれぞれ可換になるため、φc,dについて自然となる:
cufRdRgLchuLfdgcuRdLchud

グロタンディーク構成

Indexed categoryとは、圏の圏Catへの反変擬関手E:IopCatのことです。擬関手 (pseudofunctor) は今回扱わないので、以降普通の2-関手だけを考えます。

Iを圏とする。本稿においてI-indexed categoryとは、Catへの反変関手E:IopCatである。従って、I-indexed categoryは以下で構成される。

  • 対象iIごとに定められる圏E(i)Cat
  • Iの射f:ijごとに定められる関手f:=E(f):E(j)E(i)

ここで、Eが関手であったことから、以下が成り立つ。

  • (gf)=fg
  • idi=IdE(i)

グロタンディーク構成はこのindexed categoryを、Cへの関手へ変換する方法です。ファイバー束の一般化とかそういう動機のようなことを見たのですが、なにしろ代数幾何のことが何もわからないのでよくわかりません。導入はグロタンディークの SGA1 だそうです。

関手E:CopCatに対するグロタンディーク構成とは、以下で定義される圏Eと関手pE:ECの組である。

  • Eの対象はcCxEcの組(c,x)
  • Eの射(f,a):(c,x)(c,x)Cの射f:ccEcの射a:xfxの組。
  • 射の合成は(g,b)(f,a)=(gf,fba)で定義される。
  • 恒等射は(c,x)Eに対して(idc,idx):(c,x)(c,x)される。

関手pE(c,x)cによって構成される。

グロタンディーク構成で得られた圏Eと関手pE:ECは特別な性質を持っています。これは圏Eのカルテシアンな射という概念で説明されます。

カルテシアン射

(Uemura17 定義8) 圏Eと関手p:ECに対して、Eの射f:xyカルテシアンとは、任意のzEに対して次の図式が引き戻しになることを言う。
E(z,x)E(z,f)pE(z,y)pC(pz,px)C(pz,pf)C(pz,py)

Grothendieck fibration

(StrNote 定義2.2, Uemura17 定義9) 関手p:ECが(Grothendieck)ファイブレーション、あるいはCfiberedであるとは、任意のCの射f:bcxp1(c) (px=cを満たすxE) に対して、pφ=fを満たすカルテシアンなEの射f:wxが存在することである。
wφx(in E)pbfc(in C)

逆にファイブレーションp:ECからindexed category P:CopCatを構成するに際しては、直観的にはCの射fに対して関手P(f)の構成要素となるEの射を選択することが必要に見えます。このことからファイブレーションとindexed categoryは同型ではないことが伺えます。
しかし、よりよいファイブレーション (split fibrationと呼ばれます) を考えることで、ファイブレーションの圏 (Fib(C)で表される) のsplit fibrationからなる部分圏とCatCopの間に圏同値が存在することが知られています。また、一般のファイブレーションに対しては随伴SpU:CatCopFib(C)が存在することが分かっています。これらについてはStrNoteの§3–4に詳細が書いてあります。

関手F:CDに対して、コンマ圏(DF)と射影p:(d,c,f)dはGrothendieckファイブレーションであり、そのファイバーはdDに対して(dF)となる。

(d,c,f:dFc)(DF)Dの射g:ddに対して、(DF)の射(g,id):(d,c,fg)(d,c,f)が取れるので、この射がカルテシアンであることを言えばよい。

ここでコンマ圏のhom集合(DF)((d,c,f),(d,c,fg))(fg)h=Fqfを満たすhD(d,d)qC(c,c)から決定されるため、このことから(g,id)がカルテシアンであることが従う。

ファイバーは(DF)Dに対して1Dによる引き戻しで得られる圏のこと (StrNote 定義2.1を参照) なので、これは(dF)のことである。

2-極限による普遍性とKan拡張

2-極限

コンマ圏の構成や性質は、2-極限の用語を用いることでより明確になります。2-極限 (より一般には任意の豊穣圏における極限) では一般の極限より広い概念として、weighted limitが使用されます。

2-極限

2-関手T:JCW:JCatに対して、W-weighted limit limWTとは、(存在するならば)任意のxCに対して次の同型 (圏の同型) が自然に成り立つようなCの対象である:
C(x,limWT)CatJ(W,C(x,T_))
C=Catの場合はさらに次の同型が成り立つ:
limWTCatJ(W,T)

W1への恒等関手であるとき、limWTとはここまでの圏論における極限と同じ意味を持ちます。この場合を特にlimTと表すこともあります。

(algd2lim, 命題9)
2-圏Ji0ji1のなす圏、図式(関手)W:JCat10211とする。

T:JCatを図式CFEGD とおくと、コンマ圏(FG)とは2-極限limWTのことである。

limWTCatJ(W,T)なので右辺の圏について調べればよい。自然変換τ:WTcC, dD, Eの射f:FcGdの組で決定される。また、τ,τ:WTの間のmodification μ:ττCの射μ0:cc, Dの射μ1:ddと可換図式Gμ1f=fFμ0 (下図) で構成される。
FcfFμ0GdGμ1FcfGd
以上より、CatJ(W,T) (すなわち2-極限limWT) はコンマ圏(FG)のことである。

2-極限の普遍性をコンマ圏に書き換えてみます。T=(CFEGD)CatJと置いたとき、適当な圏Xに対してCat(X,T_)CatJとは図式
CXFXEXGXDX
のことです。従って圏CatJ(W,Cat(X,T_))の対象は関手K0:XC, K1:XDおよび自然変換κ:(FK0)(GK1)で構成されます。また、(K0,K1,κ)から(K0,K1,κ)への射はGτ1κ=κFτ0を満たす自然変換の組(τi:KiKi)i=0,1です。

コンマ圏の普遍性

関手F:CE, G:DEに対してコンマ圏(FG)を取って、射影と普遍な自然変換を下図のように表す:
(FG)P1P0DGCFϕE
コンマ圏の普遍性は以下の2つの主張で構成される。

  1. 関手K0:XC, K1:XDと自然変換κ:(FK0)(GK1)に対して、PiK¯=Kiκ=ϕK¯を満たす関手K¯:X(FG)がただ1つ存在する。
    XK1K0X!K¯K1K0DG(FG)P1P0DGCFκECFϕE

  2. 関手K0,K0:XC, K1,K1:XDと自然変換κ:(FK0)(GK1), κ:(FK0)(GK1), τ0:K0K0, τ1:K1K1Gτ1κ=κFτ0を満たすとき、K¯K¯ (1.の普遍性により一意に定まる) の間に自然変換τ¯:K¯K¯が一意に存在して、Gτ1κ=κFτ0=ϕτ¯を満たす。
    XK¯K1K1K0τ1XK¯K1K0K0τ0(FG)P1P0DG(FG)P1P0DGCFϕECFϕEXK1K0K¯K¯!τ¯(FG)P1P0DGCFϕE

コンマ圏の普遍性を様々な概念との関係で見ていきます。

自然変換とコンマ圏

  1. 関手F,G:CDに対して、コンマ圏からの射影を下図のようにP0,P1とする。
    (FG)P1P0CGCFϕD
    このときF,Gの間の自然変換τ:FGについて、P0T=P1T=IdC, τ=ϕTを満たすような関手T:C(FG)がただ1つ存在する。
  2. 関手圏DCにおいて次のような可換図式を考える:
    FτϝGγFτG
    このとき、1.によってττからただ1つずつ定まる関手をそれぞれT,T:C(FG)とすると、τ¯ϕ=γτ=τϝを満たす自然変換τ¯:TTがただ1つ存在する。

コンマ圏の普遍性から従う。

錐と関手

コンマ圏の普遍性の特別な場合として、錐に関するいくつかの事実を導くことができます。

関手F:CDdDに対して、次の集合同型が存在する。
Cat(C,(dF))[C,D](d,F)

コンマ圏の普遍性によって、自然変換τ:dFごとに、次の図式を可換にしてτ=ϕTとなる関手T:C(dF)が存在する。一意性によって主張する集合同型が成り立つ。
C(dF)1dCFϕD

関手F:CDおよびK:XCdDに対して、コンマ圏の射影をP:(dF)Cと置く。このとき、次の集合同型が成り立つ。
Cat/C(K,P)[X,D](d,FK)

自然変換τ:dFKを固定するごとに、次の図式を可換にしてτ=ϕTとなる関手T:X(dF)が一意に定まる。
XK(dF)P1dCFϕD
他方、K=PTを満たす関手T:X(dF)に対して自然変換ϕT:dFKが対応する。前者の一意性からこれらの対応は全単射となる。

命題11

(CWM 第Ⅹ章 §5 補題4) 関手F:BCG:BDおよびcCdDに対して、次の集合同型が成り立つ。
[(cF),D](d,GPF)[B,Set](C(c,F_),D(d,G_))
ここで関手PF:(cF)Bはコンマ圏からの射影である。

関手PG:(dG)Bはコンマ圏からの射影とする。このとき、前命題から[(cF),D](d,GPF)Cat/B(PF,PG)が成り立つ。
一方、自然変換τ:C(c,F_)D(d,G_)のコンポーネントはbBごとに(cF)(dG)の関手の対応を定め、また逆の関係も成り立つため、以下の集合同型が成り立つ。
Cat/B(PF,PG)[B,Set](C(c,F_),D(d,G_))
以上より、主張が成り立つ。

Kan拡張

Kan拡張は圏の圏Cat上 (あるいは一般の2-圏内) で定義される、随伴、極限、米田の補題、その他「すべて」の一般化とされる広範で根源的な概念です。CWM CWM 第Ⅹ章 §7のタイトル (後にRiehlも自著 CTC の章タイトルに採用した)『全ての概念はKan拡張である』は、圏論を知る人には非常に有名なフレーズです。

Kan拡張

関手F:CD, E:CEに対して、FEに沿った右Kan拡張とは、関手EF:EDであって、次で表す同型がX:EDに対して自然に存在しているものをいう:
DC(XE,F)DE(X,EF)
EEFCEFεD
この同型によって自明な自然変換idEFに対応する自然変換をε:EFEFで表し、この右Kan拡張の余単位(counit)と呼ぶ。右Kan拡張はεを余単位とする普遍性によっても定義される;
任意の関手G:EDと自然変換τ:GEFに対して、τ=ετ¯Eを満たす自然変換τ¯:GEFがただ1つ存在する。

双対的に左Kan拡張や左/右Kanリフトといった概念も定義されるが、今回は割愛する。

コンマ圏は各点Kan拡張の議論に際して重要な役割を果たします。ここでは各点Kan拡張の定義はHCAのものを採用します。

各点Kan拡張 (Borceruxによる定義)

関手F:CD, E:CECの対象eEに対して次の図式から得られる関手Le:(eE)CFDについて考える。
1eEEF(eE)CEFεD
LeがすべてのeEについて極限を持ち、それがFEに沿った右Kan拡張を構成するとき、右Kan拡張EF各点的 (pointwise) であると言う。

各点Kan拡張の定義は、次の定理によって後半部分が不要になります。そのため、alg-dのalgdKanでは「各点的」という術語を廃止して、「各点Kan拡張」という操作であるとしてテキストが書かれています。点ごとの操作であるという観点からは非常に直観的な書き方だと思います。

F:CD, E:CEは関手とする。全てのeEに対して極限Lim((eE)CFD)が存在するならば、FEに沿った各点右Kan拡張EFが存在する (algdKan, 定理7)。
特に、Cが小さくDが完備ならば必ず右Kan拡張が存在する (algdKan 系5, HCA 第Ⅰ巻定理3.7.2の双対)。

全てのRe:(eE)CFDに極限が存在するとき、Ke:=LimReと置く。Eの射f:ee(c,g:eEc)(eE)に対して、Reの極限からの射影KeFc=Re(c,gf)が取れるため、これを用いてReへの錐が構成できる。従って普遍性から射Kf:KeKeを得て、これによってKは関手となる。各Keを極限によって構成したため、これによって自然変換η:KEFを得る (各cCごとにREc(c,idEc)への射影をηcとする)。
関手K:EDと自然変換τ:KEFに対して、eE(c,g:eEc)(eE)ごとにτcKg:KeFcが取れる。これによってReへの錐が構成されるため、普遍性からτ¯e:KeKeをただ1つ得て、これは自然変換τ¯:KKを構成する。構成からτ=ηEτ¯であり、従ってKは右Kan拡張EFである。

Mac Laneは各点性について異なる定義を与えました。

Mac Laneによる各点性の定義

関手F:CD, E:CEについて、各点右Kan拡張が存在することと、右Kan拡張EFが存在してそれが全てのD(d,_)で右Kan拡張を保存することは同値である (CWM 第Ⅹ章定義7・定理3)。

関手D(d,_)は極限を保存するため、FEに沿った各点右Kan拡張が存在するならばD(d,_)は右Kan拡張も保存する。

右Kan拡張EFが存在して任意のD(d,_)が右Kan拡張を保存するとき、任意のG:ESetに対して
SetE(G,D(d,EF_))SetE(G,ED(d,F_))SetC(GE,D(d,F_))
が成り立つ。そこでG=E(e,_)の場合について考えると、左辺に米田の補題を適用することで次の集合同型を得る:
D(d,EFe)SetC(E(e,E_),D(d,F_))

一方、命題11の系より、次の集合同型を得る。
[(eE),D](d,Re)SetC(E(e,E_),D(d,F_))

この同型は、EFeDLeの極限であることを示しているため、EFは各点右Kan拡張である。

後書き

各点Kan拡張については正直もう少し掘り下げたかったのですが、内容量があと1.5倍くらいになりそうだったので泣く泣くカットしました。Catへの(反変)関手とその間の自然変換について、点ごとに極限を取ったものは右変換 (right transformation) になるのですが、点ごとに極限を取っているので当然これは極限の一種と考えることができます。
他方、コンマ圏(dF) (F:CD, dD) が構成する自然変換は、(_F)ΔDの右変換を構成するのですが、これは別に普遍な右変換 (点ごとの極限) というわけでは必ずしもありません。ただ、構成から何かしらのカノニカル性はありそうなのですが (関手T:DEから右変換ΔT:(_F)ΔDを構成する方法を用いてΔIdDと書ける右変換という関係はあるのですが) ちょっと調べきれませんでした。

文献リンク

CWM - 書籍情報 (丸善出版) - 原著 (SpringerLink via doi.org)
CTC - 書籍情報 (Dover) - 本人公開のpdf
Lvr63 - 論文ページ (TAC Reprints)
HCA - 書籍情報 (Cambridge Core via doi.org)
CIGA - 書籍情報 (Cambridge Core via doi.org)
algd2lim, algdKan - 圏論|壱大整域 (HP内ページ) - @alg-dx (YouTube)
Uemura17 - Taichi Uemura (著者ページ)

参考文献

[1]
S. マックレーン (著)、三好博之・高木理 (訳) , 圏論の基礎, 丸善出版, 2013
[2]
Emily Riehl, Category Theory in Context, Dover, 2016
[4]
F. William Lawvere, Functorial Semantics of Algebraic Theories, Ph. D. thesis, Columbia University, 1963
[5]
F. William Lawvere, Functorial Semantics of Algebraic Theories (reprint), Reprints in Theory and Applications of Categories, 2004
[7]
Francis Borceux, Volume 1: Basic Category Theory, Handbook of Categorical Algebra, Cambridge University Press, 2009
[8]
J. Adámek, J. Rosický, E. M. Vitale, Algebraic Theories: A Categorical Introduction to General Algebra, Cambridge Tracts in Mathematics, Cambridge University Press, 2010
投稿日:2024326
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merliborn
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圏論や普遍代数に興味があります。現在の専門は型理論および圏論的意味論です。

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  1. 1-圏的コンマ圏論
  2. 定義
  3. 米田埋め込みと自由余完備化
  4. Lawvereによる随伴関係の定義づけ
  5. グロタンディーク構成
  6. 2-極限による普遍性とKan拡張
  7. 2-極限
  8. Kan拡張
  9. 後書き
  10. 文献リンク
  11. 参考文献