コンマ圏なんもわからんのでいろいろまとめました。
圏論初心者以上ガチ勢未満の半端ものなので、コンマ圏のことなんもわからんになっていたんですが、研究を進めていた時に年貢の納め時を察知したので圏論の書籍 (CWM, CTC) やalg-dさんの文献 (algd2lim, algdKan) や
nLab
を漁ってコンマ圏の重要性を頭に叩き込むことにしました。
コンマ圏を表す言葉に、「laxな引き戻し」というものがあります。コンマ圏は$Fx\to Gy$という関係にある射について記述し、これがコンマ圏が記述するすべてです。ところで圏論というか圏はその特性上、2つの対象が等しいかどうかわかる方法は、自明な方法 (つまり別の方法で集合論的に判別できる場合) を除いてあまり存在しません。必然的に$Fx=Gy$の関係はとても強い主張になってしまい、関手$F,G$の間の関係について知りたい場合などは役に立たなくなってきます。普遍性などの議論においても息をするように同型は無視していますね。つまりそういうことです (この辺はalg-dさんの
動画
でも言及されていますね)。
コンマ圏の重要な使い所としては、米田埋め込み$y\colon\mathcal{C}^\op\to\CSet^{\mathcal{C}}$が自由な余完備化であることの証明が挙げられます。これは代数的圏への米田埋め込みがシフト余極限についての完備化になる (CIGA, Theorem 4.13) 証明に応用され、代数的圏の理論で重要な役割を担っています。また、各点Kan拡張の構成に見られるように、点ごとに極限の様子を調べることも可能にします (実際、片側を一点に固定して取られるコンマ圏は$(\mathcal{D}\downarrow F)$の各点に対するファイバーを構成します)。各点Kanについてはこの観点からもう少し調べたかったんですが、2-圏論の沼が深すぎてまだよくわかっていません。
コンマ圏の定義は次のようになります。この圏が普遍性とかの議論よりもずっと前に定義だけ登場するの本当よくないと思う (暴論)
関手$F\colon\mathcal{C}\to\mathcal{E}$, $G\colon\mathcal{D}\to\mathcal{E}$に対して、コンマ圏 $(F\downarrow G)$とは以下によって構成される圏である:
圏$\mathcal{C}$とその対象$c\in\mathcal{C}$に対して、スライス圏$\mathcal{C}/c$とは、以下によって構成される圏である:
逆に$c$からの射によって構成される圏をコスライス圏$c/\mathcal{C}$と呼ぶ。
スライス圏はコンマ圏の特別な場合です。つまり、恒等関手$\Id\colon\mathcal{C}\to\mathcal{C}$と一点関手$c\colon\CUni\to\mathcal{C}$を用いることで、スライス圏$\mathcal{C}/c$やコスライス圏$c/\mathcal{C}$はコンマ圏$(\Id\downarrow c)$および$(c\downarrow\Id)$と書くことができます ($(\mathcal{C}\downarrow c)$や$(c\downarrow\mathcal{C})$と書くこともあります)。
コンマ圏は、Lawvereの博士論文Lvr63において随伴を特徴付けするための道具として考案され、Lawvere本人は特に何の名前でも呼んでいなかったのですが、その時に$(F,G)$という表記を用いたことが原因で名づけられました。そしてその後コンマが用いられなくなって以降もずっとコンマ圏と呼ばれ続けています。
随伴関手との関係は後で見ることにして、ここではLvr63に載っているコンマ圏の定義を見てみます。
(CWM pp. 59–60 あるいは Lvr63 pp. 36–37 を参照)
圏$\CArr$は2つの異なる対象$0,1$を持ち、非自明な射がただ1つ$0\to 1$であるような圏とする。
圏$\mathcal{C}$と関手$F\colon\mathcal{A}\to\mathcal{C}$, $G\colon\mathcal{B}\to\mathcal{C}$に対して、次の図式の四角形3つはすべて引き戻しとなる。
\begin{xy}
\xymatrix@C=.7em{
\phantom{(F\downarrow G)}& & (F\downarrow G)\ar[ld] \ar[rd] & & \phantom{(F\downarrow G)} \\
& (F\downarrow\mathcal{C}) \ar[ld] \ar[rd] & & (\mathcal{C}\downarrow G) \ar[ld] \ar[rd]\\
\mathcal{A} \ar[rd]_-{F} & & \mathcal{C}^\CArr \ar[ld]_-{D_0} \ar[rd]^-{D_1} & & \mathcal{B} \ar[ld]^-{G}\\
& \mathcal{C} & & \mathcal{C}
}
\end{xy}
ここで$D_0,D_1$は関手圏$\mathcal{C}^\CArr$を$\mathcal{C}$の射の圏とみなした際に$D_0\colon f\mapsto\dom(f)$, $D_1\colon f\mapsto\cod(f)$で表される関手である。
圏の引き戻しの構成を考えることで、コンマ圏$(F\downarrow\mathcal{C})$が$\mathcal{A}\xrightarrow{F}\mathcal{C}\xleftarrow{D_0}\mathcal{C}^\CArr$の引き戻しに、$(\mathcal{C}\downarrow G)$が$\mathcal{C}^\CArr\xrightarrow{D_1}\mathcal{C}\xleftarrow{G}\mathcal{B}$の引き戻しになっていることがわかる。
さらに$(F\downarrow\mathcal{C})\to\mathcal{C}^\CArr\leftarrow(\mathcal{C}\downarrow G)$の引き戻しは、写される先の対象が等しいならばそれは$f\colon Fa\to Gb$の形であることが成り立つため、コンマ圏$(F\downarrow G)$を構成することがわかる。
コンマ圏は$Fc\to Gd$の形である射について記述するため、例えば普遍射についての記述をコンマ圏で書くことができます。
$F\colon\mathcal{D}\to\mathcal{C}$を関手、$c$を$\mathcal{C}$の対象とする。このとき、$\mathcal{C}$の射$u\colon c\to Fd$が$c$から$F$への普遍射であるとは、コンマ圏$(c\downarrow F)$で$(d,u)$が始対象であることと同値である。
$u\colon c\to Fd$が$c$から$F$への普遍射であるとは、任意の$f\colon c\to Fx$に対して$\mathcal{D}$の射$\bar{f}\colon d\to x$がただ1つ存在して、$f=F\bar{f}\circ u$を満たすことである。これをコンマ圏$(c\downarrow F)$の言葉で置き換えると、任意の$(x,f)\in(c\downarrow F)$に対して射$\bar{f}\colon(d,u)\to(x,f)$が存在することであり、これは$(x,f)$が$(c\downarrow F)$の始対象であることと同値である。
双対的に、射$v\colon Fd\to c$が$F$から$c$への普遍射であることは、$(d,v)$がコンマ圏$(F\downarrow c)$の終対象であることと同じであることがわかります。
コンマ圏が重要な役割を果たす定理として、任意の集合値関手が表現可能関手の余極限であることと、米田埋め込みが圏の自由な余完備化(free cocompletion)であることを見ていきます。
始めに、米田の補題、米田埋め込み、そして関連する定理で重要な役割を果たす、集合値関手の要素の圏について定義します。 nLab によると、これは グロタンディーク構成 の特殊な場合であり、また$F$によって分類された$\CSet$バンドルであると書かれていますが、筆者が代数幾何にまったく明るくないためこの辺りはよくわかりません。
集合値関手$F\colon\mathcal{C}\to\CSet$に対して、その要素の圏 (the category of elements of $F$) $\mathop{\mathrm{el}}(F)$とは、以下の要素からなる圏である:
同じことであるが、$F$の要素の圏とはコンマ圏$(1\downarrow F)$のことである (ここで$1$とはシングルトン$\{*\}$を示す関手$1\colon\CUni\to\CSet$)。
集合値関手$F\colon\mathcal{C}\to\CSet$に対して、その要素の圏はコンマ圏$(y\downarrow F)$と同型である (ここで$y$は米田埋め込み$c\mapsto \mathcal{C}(c,\_)$)。
米田の補題から$\CSet^{\mathcal{C}}(\mathcal{C}(c,\_),F)\simeq Fc$であるため、$F$の要素の圏の対象とコンマ圏$(y\downarrow F)$の対象の間には全単射が存在する。またこの関係は$c$についても自然なので、これによって関手$\varphi\colon y\downarrow F\to\mathop{\mathrm{el}}(F)$と$\psi\colon\mathop{\mathrm{el}}(F)\to y\downarrow F$が定まり、米田の補題が自然同型を示すことから、$\varphi$と$\psi$は互いの逆関手となる。
要素の圏を用いて証明される重要な結果の1つが次の定理です。
任意の集合値関手$F\colon\mathcal{C}\to\CSet$は、圏$\CSet^{\mathcal{C}}$において表現可能関手 ($\mathcal{C}(c,\_)$の形で表される関手、およびそれと同型な関手) からなる図式の余極限で表される。
$F$の要素の圏はコンマ圏$(y\downarrow F)$と同型であるため、これを用いて関手$\check{F}\colon\mathop{\mathrm{el}}(F)\cong(y\downarrow F)\to\mathcal{C}^\op\xrightarrow{y}\CSet^{\mathcal{C}}$を取ると、これは表現可能関手からなる図式を構成する。
この関手の余極限が$F$であることを示す。各$(c,x)\in\mathop{\mathrm{el}}(F)$に対して、$\check{F}$はこれを$\mathcal{C}(c,\_)\in \CSet^{\mathcal{C}}$に送る。また米田の補題から、$\tau_c^x(\id_c)=x$を満たす自然変換$\tau^x\colon\mathcal{C}(c,\_)\Rightarrow F$が存在する。これによって$F$への余錐が構成される。
$\check{F}$から$G$への余錐を$(\upsilon^x\colon\mathcal{C}(c,\_)\Rightarrow G)_{(c,x)\in\mathop{\mathrm{el}}(F)}$と表す。このとき、$c\in\mathcal{C}$に対して$x\mapsto\upsilon^x_c(\id_c)$によって写像$\gamma_c\colon Fc\to Gc$が定まり、さらにこれは$c$について自然である。
$(c,x)\in(y\downarrow F)$と$f\colon c\to c'$に対して、
\begin{align}
\gamma_{c'}\circ\tau^x_{c'}(f)
&= \gamma_{c'}(Ff(x))\\
&= Gf(\gamma_c(x))\\
&= Gf(\upsilon^x_c(\id_c))\\
&= \upsilon_{c'}^{x}(f)
\end{align}
が成り立つため、$\gamma\circ\tau^x=\upsilon^x$が成り立ち、$\gamma$の決定方法からこれは一意であることがわかる。以上より$F$は$\check{F}$の余極限である。
(CIGA Theorem 4.10)
米田埋め込み$y\colon\mathcal{C}\to\CSet^{\mathcal{C}^\op}$は自由な余完備化である。すなわち、余完備な圏$\mathcal{D}$と任意の関手$F\colon \mathcal{C}\to\mathcal{D}$に対して、余極限を保存して、かつ$F\simeq\bar{F}\circ y$を満たす関手$\bar{F}\colon\CSet^{\mathcal{C}^\op}\to\mathcal{D}$がただ1つ存在する。
余完備な圏への関手$F\colon\mathcal{C}\to\mathcal{B}$と集合値関手$A\colon\mathcal{C}^\op\to\CSet$に対して、$\bar{F}A\in\mathcal{B}$を
$$\bar{F}A:=\Colim((y\downarrow A)\xrightarrow{p_A}\mathcal{C}\xrightarrow{F}\mathcal{B})$$によって定める。自然変換$\alpha\colon A\Rightarrow A'$はコンマ圏の間の関手$(y\downarrow\alpha)\colon(y\downarrow A)\to(y\downarrow A')$を定めるが、これは要素の圏として考えると$(c,x)$を$(c,\alpha_c(x))$に移すものであるため、任意の$(c,x)\in(y\downarrow A)$に対して$Fc$から$\bar{F}A'$への射を取ってくることができて (つまりこれは$\bar{F}A'$への余射影である)、これらは$F\circ p_A$からの余錐を構成する。余極限の普遍性から射$\bar{F}A\to\bar{F}A'$が得られ、これを$\bar{F}\alpha$とする。これによって$\bar{F}$は関手となる。
表現可能関手$y_c=\mathcal{C}(\_,c)$に対して、要素の圏$\mathop{\mathrm{el}}(y_c)$の対象は$c'\in\mathcal{C}$と$f\in\mathcal{C}(c',c)$の組$(c',f)$となり、射$\gamma\colon(c',f)\to(c'',f')$は$f'=f\circ\gamma$を満たす$\mathcal{C}$の射$\gamma\colon c''\to c'$によって構成される。従って任意の$(c',f)\in\mathop{\mathrm{el}}(y_c)$に対して、射$f\colon(c,\id_c)\to(c',f)$が存在して、この射は$(c,\id_c)$からの唯一の射となる。すなわち$(c,\id_c)$は$\mathop{\mathrm{el}}(y_c)$の始対象である。
このことを用いると、$\Colim(F\circ p_{y(c)})\simeq Fc$であることが従う。すなわち、$\bar{F}\circ y\simeq F$が成り立つ。
$\bar{F}$が余極限を保存することを示す。関手$R\colon\mathcal{B}\to\CSet^{\mathcal{C}^\op}$を$RB:=\mathcal{B}(F\_,B)$によって定める。このとき、
\begin{align}
\mathcal{B}(\bar{F}A,B)
&=\mathcal{B}(\Colim(F\circ p_A),B)\\
&\simeq\Lim_{(c,x)\in\mathop{\mathrm{el}}(A)} \mathcal{B}(F(c),B)\\
&\simeq\Lim_{(c,x)\in\mathop{\mathrm{el}}(A)}\CSet^{\mathcal{C}^\op}(y_c,\mathcal{B}(F\_,B))\\
&=\Lim_{(c,x)\in\mathop{\mathrm{el}}(A)}\CSet^{\mathcal{C}^\op}(y_c,RB)\\
&\simeq \CSet^{\mathcal{C}^\op}(\Colim_{\mathop{(c,x)\in\mathrm{el}}(A)}(y_c),RB)\\
&\simeq \CSet^{\mathcal{C}^\op}(A,RB)
\end{align}
従って$\bar{F}$は$R$の左随伴であるため、余極限を保存する。
以下の定理はLvr63でLawvereが随伴関手の定義に使用したものです。論文を読む限り、Hom集合の間の自然同型による随伴の定義は局所小な圏 (あるいは局所$U$-smallな圏) でないと定義できないという事実を、Lawvereはその論文では嫌ったように見えます。
関手$L\colon \mathcal{C}\to\mathcal{D}$が$R\colon\mathcal{D}\to\mathcal{C}$の左随伴であることは、次の図式を可換にする同型関手$h$が存在することと同値である。
\begin{xy}
\xymatrix@C=.5em{
(\mathcal{C}\downarrow R) \ar@{-->}[rr]^-{h} \ar[rd]_-{\bar{R}} & & (L\downarrow\mathcal{D}) \ar[ld]^-{\bar{L}}\\
& \mathcal{C}\times\mathcal{D}
}
\end{xy}
ここで$\bar{R}\colon(\mathcal{C}\downarrow R)\to \mathcal{C}\times\mathcal{D}$は$(f\colon c\to Rd)\mapsto(c,d)$, $\bar{L}\colon(L\downarrow\mathcal{D})\to\mathcal{C}\times\mathcal{D}$は$(g\colon Lc\to d)\mapsto (c,d)$で定まる関手。
$(\Rightarrow)$ $L$が$R$の左随伴であるとき、$(c,d)\in\mathcal{C}^\op\times\mathcal{D}$に対して自然な全単射$\varphi\colon\mathcal{C}(c,Rd)\cong\mathcal{D}(Lc,d)$が存在するため、これが同型な関手$h$を構成する。また、これは明らかに$\bar{R}=\bar{L}\circ h$を満たす。
$(\Leftarrow)$ 図式を可換にする同型な関手$h\colon(\mathcal{C}\downarrow R)\to(L\downarrow\mathcal{D})$が存在するとき、ここから同型な写像$\varphi\colon\mathcal{C}(c,Rd)\xrightarrow{\sim}\mathcal{D}(Lc,d)$が得られる。$h$の関手性から次の図式がそれぞれ可換になるため、$\varphi$は$c,d$について自然となる:
\begin{xy}
\xymatrix@R=1em{
c \ar[r]^-{u} \ar[dd]_-{f} & Rd \ar[dd]^-{Rg} & & Lc \ar[r]^-{hu} \ar[dd]_-{Lf} & d \ar[dd]^-{g}\\
& {} \ar@{}[rr]|(.25){}="a"|(.75){}="b" \ar@{|->}"a";"b"^-{\sim} & & {} \\
c' \ar[r]^-{u'} & Rd' & & Lc' \ar[r]^-{hu'} & d'
}
\end{xy}
Indexed categoryとは、圏の圏$\CCat$への反変擬関手$E\colon\mathcal{I}^\op\to\CCat$のことです。擬関手 (pseudofunctor) は今回扱わないので、以降普通の2-関手だけを考えます。
$\mathcal{I}$を圏とする。本稿において$\mathcal{I}$-indexed categoryとは、$\CCat$への反変関手$E\colon\mathcal{I}^\op\to\CCat$である。従って、$\mathcal{I}$-indexed categoryは以下で構成される。
ここで、$E$が関手であったことから、以下が成り立つ。
グロタンディーク構成はこのindexed categoryを、$\mathcal{C}$への関手へ変換する方法です。ファイバー束の一般化とかそういう動機のようなことを見たのですが、なにしろ代数幾何のことが何もわからないのでよくわかりません。導入はグロタンディークの SGA1 だそうです。
関手$E\colon\mathcal{C}^\op\to\CCat$に対するグロタンディーク構成とは、以下で定義される圏$\int E$と関手$p_E\colon\int E\to\mathcal{C}$の組である。
関手$p_E$は$(c,x)\mapsto c$によって構成される。
グロタンディーク構成で得られた圏$\int E$と関手$p_E\colon\int E\to\mathcal{C}$は特別な性質を持っています。これは圏$\int E$のカルテシアンな射という概念で説明されます。
(Uemura17 定義8) 圏$\mathcal{E}$と関手$p\colon\mathcal{E}\to\mathcal{C}$に対して、$\mathcal{E}$の射$f\colon x\to y$がカルテシアンとは、任意の$z\in\mathcal{E}$に対して次の図式が引き戻しになることを言う。
\begin{xy}
\xymatrix{
\mathcal{E}(z,x) \ar[r]^-{\mathcal{E}(z,f)} \ar[d]_-{p}
& \mathcal{E}(z,y) \ar[d]^-{p}
\\
\mathcal{C}(pz,px) \ar[r]_-{\mathcal{C}(pz,pf)}
& \mathcal{C}(pz,py)
}
\end{xy}
(StrNote 定義2.2, Uemura17 定義9) 関手$p\colon\mathcal{E}\to\mathcal{C}$が(Grothendieck)ファイブレーション、あるいは$\mathcal{C}$上fiberedであるとは、任意の$\mathcal{C}$の射$f\colon b\to c$と$x\in p^{-1}(c)$ ($px=c$を満たす$x\in\mathcal{E}$) に対して、$p\varphi=f$を満たすカルテシアンな$\mathcal{E}$の射$f\colon w\to x$が存在することである。
\begin{xy}
\xymatrix{
w \ar@{-->}[r]^-{\varphi} \ar@{{|-}-->}[d] & x \ar@{|->}[d] & (\textrm{in}\ \mathcal{E}) \ar[d]^-{p}\\
b \ar[r]^-{f} & c & (\textrm{in}\ \mathcal{C})
}
\end{xy}
逆にファイブレーション$p\colon\mathcal{E}\to\mathcal{C}$からindexed category $P\colon\mathcal{C}^\op\to\CCat$を構成するに際しては、直観的には$\mathcal{C}$の射$f$に対して関手$P(f)$の構成要素となる$\mathcal{E}$の射を選択することが必要に見えます。このことからファイブレーションとindexed categoryは同型ではないことが伺えます。
しかし、よりよいファイブレーション (split fibrationと呼ばれます) を考えることで、ファイブレーションの圏 ($\mathbf{Fib}(\mathcal{C})$で表される) のsplit fibrationからなる部分圏と$\CCat^{\mathcal{C}^\op}$の間に圏同値が存在することが知られています。また、一般のファイブレーションに対しては随伴$Sp\dashv U\colon\CCat^{\mathcal{C}^\op}\to\mathbf{Fib}(\mathcal{C})$が存在することが分かっています。これらについてはStrNoteの§3–4に詳細が書いてあります。
関手$F\colon\mathcal{C}\to\mathcal{D}$に対して、コンマ圏$(\mathcal{D}\downarrow F)$と射影$p\colon(d,c,f)\mapsto d$はGrothendieckファイブレーションであり、そのファイバーは$d\in\mathcal{D}$に対して$(d\downarrow F)$となる。
$(d,c,f\colon d\to Fc)\in(\mathcal{D}\downarrow F)$と$\mathcal{D}$の射$g\colon d'\to d$に対して、$(\mathcal{D}\downarrow F)$の射$(g,\id)\colon(d',c,f\circ g)\to(d,c,f)$が取れるので、この射がカルテシアンであることを言えばよい。
ここでコンマ圏のhom集合$(\mathcal{D}\downarrow F)((d'',c'',f''),(d',c,f\circ g))$は$(f\circ g)\circ h=Fq\circ f''$を満たす$h\in\mathcal{D}(d'',d')$と$q\in\mathcal{C}(c'',c)$から決定されるため、このことから$(g,\id)$がカルテシアンであることが従う。
ファイバーは$(\mathcal{D}\downarrow F)\to\mathcal{D}$に対して$\CUni\to\mathcal{D}$による引き戻しで得られる圏のこと (StrNote 定義2.1を参照) なので、これは$(d\downarrow F)$のことである。
コンマ圏の構成や性質は、2-極限の用語を用いることでより明確になります。2-極限 (より一般には任意の豊穣圏における極限) では一般の極限より広い概念として、weighted limitが使用されます。
2-関手$T\colon\mathcal{J}\to\mathcal{C}$と$W\colon\mathcal{J}\to\CCat$に対して、$W$-weighted limit $\lim^WT$とは、(存在するならば)任意の$x\in\mathcal{C}$に対して次の同型 (圏の同型) が自然に成り立つような$\mathcal{C}$の対象である:
$$\mathcal{C}(x,\lim\nolimits^WT)\cong \CCat^{\mathcal{J}}(W,\mathcal{C}(x,T\_))$$
$\mathcal{C}=\CCat$の場合はさらに次の同型が成り立つ:
$$\lim\nolimits^WT\cong\CCat^{\mathcal{J}}(W,T)$$
$W$が$\CUni$への恒等関手であるとき、$\lim^WT$とはここまでの圏論における極限と同じ意味を持ちます。この場合を特に$\lim T$と表すこともあります。
(algd2lim, 命題9)
2-圏$\mathcal{J}$を$i_0\to j\leftarrow i_1$のなす圏、図式(関手)$W\colon\mathcal{J}\to\CCat$を$\CUni\xrightarrow{0}\CArr\xleftarrow{1}\CUni$とする。
$T\colon\mathcal{J}\to\CCat$を図式$\mathcal{C}\xrightarrow{F}\mathcal{E}\xleftarrow{G}\mathcal{D}$ とおくと、コンマ圏$(F\downarrow G)$とは2-極限$\lim^WT$のことである。
$\lim^WT\cong\CCat^{\mathcal{J}}(W,T)$なので右辺の圏について調べればよい。自然変換$\tau\colon W\Rightarrow T$は$c\in\mathcal{C}$, $d\in\mathcal{D}$, $\mathcal{E}$の射$f\colon Fc\to Gd$の組で決定される。また、$\tau,\tau'\colon W\Rightarrow T$の間のmodification $\mu\colon\tau\Rrightarrow\tau'$は$\mathcal{C}$の射$\mu_0\colon c\to c'$, $\mathcal{D}$の射$\mu_1\colon d\to d'$と可換図式$G\mu_1\circ f=f'\circ F\mu_0$ (下図) で構成される。
\begin{xy}
\xymatrix{
Fc \ar[r]^-{f} \ar[d]_-{F\mu_0}
& Gd \ar[d]^-{G\mu_1} \\
Fc' \ar[r]^-{f'}
& Gd'
}
\end{xy}
以上より、$\CCat^\mathcal{J}(W,T)$ (すなわち2-極限$\lim^WT$) はコンマ圏$(F\downarrow G)$のことである。
2-極限の普遍性をコンマ圏に書き換えてみます。$T=(\mathcal{C}\xrightarrow{F}\mathcal{E}\xleftarrow{G}\mathcal{D})\in\CCat^{\mathcal{J}}$と置いたとき、適当な圏$\mathcal{X}$に対して$\CCat(\mathcal{X},T\_)\in\CCat^{\mathcal{J}}$とは図式
$$\mathcal{C}^{\mathcal{X}}\xrightarrow{F^{\mathcal{X}}}\mathcal{E}^{\mathcal{X}}\xleftarrow{G^{\mathcal{X}}}\mathcal{D}^{\mathcal{X}}$$
のことです。従って圏$\CCat^{\mathcal{J}}(W,\CCat(\mathcal{X},T\_))$の対象は関手$K_0\colon\mathcal{X}\to\mathcal{C}$, $K_1\colon\mathcal{X}\to\mathcal{D}$および自然変換$\kappa\colon(F\circ K_0)\Rightarrow(G\circ K_1)$で構成されます。また、$(K_0,K_1,\kappa)$から$(K'_0,K'_1,\kappa')$への射は$G\tau_1\circ\kappa=\kappa'\circ F\tau_0$を満たす自然変換の組$(\tau_i\colon K_i\Rightarrow K'_i)_{i=0,1}$です。
関手$F\colon\mathcal{C}\to\mathcal{E}$, $G\colon\mathcal{D}\to\mathcal{E}$に対してコンマ圏$(F\downarrow G)$を取って、射影と普遍な自然変換を下図のように表す:
\begin{xy}
\xymatrix{
(F\downarrow G) \ar[r]^{P_1} \ar[d]_-{P_0}
& \mathcal{D} \ar[d]^-{G}
\\
\mathcal{C} \ar[r]_-{F} \ar@{}[ru]|(.35){}="a"|(.65){}="b"
\ar@{=>}"a";"b"^-{\phi}
& \mathcal{E}
}
\end{xy}
コンマ圏の普遍性は以下の2つの主張で構成される。
関手$K_0\colon\mathcal{X}\to\mathcal{C}$, $K_1\colon\mathcal{X}\to\mathcal{D}$と自然変換$\kappa\colon(F\circ K_0)\Rightarrow(G\circ K_1)$に対して、$P_i\circ\bar{K}=K_i$と$\kappa=\phi\bar{K}$を満たす関手$\bar{K}\colon\mathcal{X}\to(F\downarrow G)$がただ1つ存在する。
\begin{xy}
\xymatrix{
\mathcal{X} \ar@/^/[rrd]^-{K_1}_(0.8){}="c" \ar@/_/[rdd]_-{K_0}^(0.8){}="d"
& &
& \mathcal{X} \ar@{-->}[rd]^(.6){{}^{\exists!}\bar{K}} \ar@/^/[rrd]^-{K_1} \ar@/_/[rdd]_-{K_0}
\\
&
& \mathcal{D} \ar[d]^-{G} \ar@{}[r]|(.35){}="k"|(.65){}="l"
\ar@{=}"k";"l"
& {}
& (F\downarrow G) \ar[r]^{P_1} \ar[d]_-{P_0}
& \mathcal{D} \ar[d]^-{G}
\\
& \mathcal{C} \ar[r]_-{F}
\ar@{=>}"d";"c"_-{\kappa}
& \mathcal{E}
&
& \mathcal{C} \ar[r]_-{F} \ar@{}[ru]|(.35){}="a"|(.65){}="b"
\ar@{=>}"a";"b"^-{\phi}
& \mathcal{E}
}
\end{xy}
関手$K_0,K'_0\colon\mathcal{X}\to\mathcal{C}$, $K_1,K'_1\colon\mathcal{X}\to\mathcal{D}$と自然変換$\kappa\colon(F\circ K_0)\Rightarrow(G\circ K_1)$, $\kappa'\colon(F\circ K'_0)\Rightarrow(G\circ K'_1)$, $\tau_0\colon K_0\Rightarrow K'_0$, $\tau_1\colon K_1\Rightarrow K'_1$が$G\tau_1\circ\kappa=\kappa'\circ F\tau_0$を満たすとき、$\bar{K}$と$\bar{K}'$ (1.の普遍性により一意に定まる) の間に自然変換$\bar\tau\colon \bar{K}\Rightarrow\bar{K}'$が一意に存在して、$G\tau_1\circ\kappa=\kappa'\circ F\tau_0=\phi*\bar\tau$を満たす。
\begin{xy}
\xymatrix{
\mathcal{X} \ar@{-->}[rd]_-{\bar{K}} \ar@/^.4em/[rrd]|(.4){K_1}^(.5){}="d" \ar@/^2.5em/[rrd]^-{K'_1}_(.5){}="c" \ar@/_2.5em/[rdd]_-{K_0}
\ar@{=>}"d";"c"_-{\tau_1}
& &
& \mathcal{X} \ar@{-->}[rd]^-{\bar{K}'} \ar@/^2.5em/[rrd]^-{K'_1} \ar@/_2.5em/[rdd]_-{K_0}^(.5){}="i" \ar@/_.4em/[rdd]|(.4){K'_0}_(.5){}="j"
\ar@{=>}"i";"j"_-{\tau_0}
\\
& (F\downarrow G) \ar[r]^{P_1} \ar[d]_-{P_0}
& \mathcal{D} \ar[d]^-{G}
\ar@{}[r]|(.35){}="e"|(.65){}="f"
\ar@{=}"e";"f"
& {}
& (F\downarrow G) \ar[r]^-{P_1} \ar[d]_-{P_0}
& \mathcal{D} \ar[d]^-{G}
\\
& \mathcal{C} \ar[r]_-{F} \ar@{}[ru]|(.35){}="a"|(.65){}="b"
\ar@{=>}"a";"b"^-{\phi}
\ar@{}[d]|(.35){}="p"|(.65){}="q"
\ar@{=}"p";"q"_-{\Downarrow}
& \mathcal{E}
&
& \mathcal{C} \ar[r]_-{F} \ar@{}[ru]|(.35){}="g"|(.65){}="h"
\ar@{=>}"g";"h"^-{\phi}
& \mathcal{E}
\\
\mathcal{X} \ar@/^2.5em/[rrd]^-{K'_1} \ar@/_2.5em/[rdd]_-{K_0} \ar@/^1em/[rd]^-{\bar{K}'}_(.5){}="n" \ar@/_1em/[rd]_-{\bar{K}}^(.5){}="m"
\ar@{=>}"m";"n"_-{{}^{\exists!}\bar{\tau}}
& {}
\\
& (F\downarrow G) \ar[r]^{P_1} \ar[d]_-{P_0}
& \mathcal{D} \ar[d]^-{G}
\\
& \mathcal{C} \ar[r]_-{F} \ar@{}[ru]|(.35){}="k"|(.65){}="l"
\ar@{=>}"k";"l"^-{\phi}
& \mathcal{E}
}
\end{xy}
コンマ圏の普遍性を様々な概念との関係で見ていきます。
コンマ圏の普遍性から従う。
コンマ圏の普遍性の特別な場合として、錐に関するいくつかの事実を導くことができます。
関手$F\colon\mathcal{C}\to\mathcal{D}$と$d\in\mathcal{D}$に対して、次の集合同型が存在する。
$$\CCat(\mathcal{C},(d\downarrow F))\simeq[\mathcal{C},\mathcal{D}](d,F)$$
コンマ圏の普遍性によって、自然変換$\tau\colon d\Rightarrow F$ごとに、次の図式を可換にして$\tau=\phi T$となる関手$T\colon\mathcal{C}\to(d\downarrow F)$が存在する。一意性によって主張する集合同型が成り立つ。
\begin{xy}
\xymatrix{
\mathcal{C} \ar@{=}@/_1.5em/[rdd] \ar@/^1.5em/[rrd]
\ar@{-->}[rd]
\\
& (d\downarrow F) \ar[r] \ar[d]
& \CUni \ar[d]^-{d}
\\
& \mathcal{C} \ar[r]_-{F} \ar@{}[ru]|(.3){}="a"|(.7){}="b"
\ar@{=>}"b";"a"^-{\phi}
& \mathcal{D}
}
\end{xy}
関手$F\colon\mathcal{C}\to\mathcal{D}$および$K\colon\mathcal{X}\to\mathcal{C}とd\in\mathcal{D}$に対して、コンマ圏の射影を$P\colon(d\downarrow F)\to\mathcal{C}$と置く。このとき、次の集合同型が成り立つ。
$$\CCat/\mathcal{C}(K,P)\simeq[\mathcal{X},\mathcal{D}](d,F\circ K)$$
自然変換$\tau\colon d\Rightarrow F\circ K$を固定するごとに、次の図式を可換にして$\tau=\phi T$となる関手$T\colon\mathcal{X}\to(d\downarrow F)$が一意に定まる。
\begin{xy}
\xymatrix{
\mathcal{X} \ar@{-->}[r] \ar[rd]_-{K}
& (d\downarrow F) \ar[d]^-{P} \ar[r]
& \CUni \ar[d]^-{d}
\\
& \mathcal{C} \ar[r]_-{F} \ar@{}[ru]|(.3){}="a"|(.7){}="b"
\ar@{=>}"b";"a"^-{\phi}
& \mathcal{D}
}
\end{xy}
他方、$K=P\circ T$を満たす関手$T\colon\mathcal{X}\to(d\downarrow F)$に対して自然変換$\phi T\colon d\Rightarrow F\circ K$が対応する。前者の一意性からこれらの対応は全単射となる。
(CWM 第Ⅹ章 §5 補題4) 関手$F\colon\mathcal{B}\to\mathcal{C}$、$G\colon\mathcal{B}\to\mathcal{D}$および$c\in\mathcal{C}$、$d\in\mathcal{D}$に対して、次の集合同型が成り立つ。
$$[(c\downarrow F),\mathcal{D}](d,G\circ P_F)\simeq[\mathcal{B},\CSet](\mathcal{C}(c,F\_),\mathcal{D}(d,G\_))$$
ここで関手$P_F\colon(c\downarrow F)\to\mathcal{B}$はコンマ圏からの射影である。
関手$P_G\colon(d\downarrow G)\to\mathcal{B}$はコンマ圏からの射影とする。このとき、前命題から$[(c\downarrow F),\mathcal{D}](d,G\circ P_F)\simeq\CCat/\mathcal{B}(P_F,P_G)$が成り立つ。
一方、自然変換$\tau\colon\mathcal{C}(c,F\_)\Rightarrow\mathcal{D}(d,G\_)$のコンポーネントは$b\in\mathcal{B}$ごとに$(c\downarrow F)\to(d\downarrow G)$の関手の対応を定め、また逆の関係も成り立つため、以下の集合同型が成り立つ。
$$\CCat/\mathcal{B}(P_F,P_G)\simeq[\mathcal{B},\CSet](\mathcal{C}(c,F\_),\mathcal{D}(d,G\_))$$
以上より、主張が成り立つ。
Kan拡張は圏の圏$\CCat$上 (あるいは一般の2-圏内) で定義される、随伴、極限、米田の補題、その他「すべて」の一般化とされる広範で根源的な概念です。CWM CWM 第Ⅹ章 §7のタイトル (後にRiehlも自著 CTC の章タイトルに採用した)『全ての概念はKan拡張である』は、圏論を知る人には非常に有名なフレーズです。
関手$F\colon\mathcal{C}\to\mathcal{D}$, $E\colon\mathcal{C}\to\mathcal{E}$に対して、$F$の$E$に沿った右Kan拡張とは、関手$E^\ddagger F\colon\mathcal{E}\to\mathcal{D}$であって、次で表す同型が$X\colon\mathcal{E}\to\mathcal{D}$に対して自然に存在しているものをいう:
$$\mathcal{D}^{\mathcal{C}}(X\circ E,F)\cong\mathcal{D}^{\mathcal{E}}(X,E^\ddagger F)$$
\begin{xy}
\xymatrix@C=3.5em{
\mathcal{E} \ar@{-->}[rd]^(.2){E^\ddagger F}_(.4){}="d"
\\
\mathcal{C} \ar[u]^-{E} \ar[r]_-{F}^(.34){}="c"
\ar@{=>}"d";"c"_-{\varepsilon}
& \mathcal{D}
}
\end{xy}
この同型によって自明な自然変換$\id_{E^\ddagger F}$に対応する自然変換を$\varepsilon\colon E^\ddagger F\circ E\Rightarrow F$で表し、この右Kan拡張の余単位(counit)と呼ぶ。右Kan拡張は$\varepsilon$を余単位とする普遍性によっても定義される;
任意の関手$G\colon \mathcal{E}\to\mathcal{D}$と自然変換$\tau\colon G\circ E\Rightarrow F$に対して、$\tau=\varepsilon\circ\bar\tau E$を満たす自然変換$\bar\tau\colon G\Rightarrow E^\ddagger F$がただ1つ存在する。
双対的に左Kan拡張や左/右Kanリフトといった概念も定義されるが、今回は割愛する。
コンマ圏は各点Kan拡張の議論に際して重要な役割を果たします。ここでは各点Kan拡張の定義はHCAのものを採用します。
関手$F\colon\mathcal{C}\to\mathcal{D}$, $E\colon\mathcal{C}\to\mathcal{E}$、$\mathcal{C}$の対象$e\in\mathcal{E}$に対して次の図式から得られる関手$L_e\colon(e\downarrow E)\to\mathcal{C}\xrightarrow{F}\mathcal{D}$について考える。
\begin{xy}
\xymatrix{
\CUni \ar[r]^-{e}
& \mathcal{E} \ar@{-->}[rrd]^-{E^\dagger F}_(.39){}="a"
\\
(e\downarrow E) \ar[u] \ar[r]
& \mathcal{C} \ar[u]_-{E} \ar[rr]_-{F}^(.35){}="b" \ar@{}[ul]|(.35){}="c"|(.65){}="d"
\ar@{=>}"d";"c"
\ar@{=>}"a";"b"_-{\varepsilon}
& & \mathcal{D}
}
\end{xy}
$L_e$がすべての$e\in\mathcal{E}$について極限を持ち、それが$F$の$E$に沿った右Kan拡張を構成するとき、右Kan拡張$E^\ddagger F$は各点的 (pointwise) であると言う。
各点Kan拡張の定義は、次の定理によって後半部分が不要になります。そのため、alg-dのalgdKanでは「各点的」という術語を廃止して、「各点Kan拡張」という操作であるとしてテキストが書かれています。点ごとの操作であるという観点からは非常に直観的な書き方だと思います。
$F\colon\mathcal{C}\to\mathcal{D}$, $E\colon\mathcal{C}\to\mathcal{E}$は関手とする。全ての$e\in\mathcal{E}$に対して極限$\Lim((e\downarrow E)\to\mathcal{C}\xrightarrow{F}\mathcal{D})$が存在するならば、$F$の$E$に沿った各点右Kan拡張$E^\ddagger F$が存在する (algdKan, 定理7)。
特に、$\mathcal{C}$が小さく$\mathcal{D}$が完備ならば必ず右Kan拡張が存在する (algdKan 系5, HCA 第Ⅰ巻定理3.7.2の双対)。
全ての$R_e\colon(e\downarrow E)\to\mathcal{C}\xrightarrow{F}\mathcal{D}$に極限が存在するとき、$Ke:=\Lim R_e$と置く。$\mathcal{E}$の射$f\colon e\to e'$と$(c,g\colon e'\to Ec)\in(e'\downarrow E)$に対して、$R_{e}$の極限からの射影$Ke\to Fc=R_e(c,g\circ f)$が取れるため、これを用いて$R_{e'}$への錐が構成できる。従って普遍性から射$Kf\colon Ke\to Ke'$を得て、これによって$K$は関手となる。各$Ke$を極限によって構成したため、これによって自然変換$\eta\colon K\circ E\Rightarrow F$を得る (各$c\in\mathcal{C}$ごとに$R_{Ec}(c,\id_{Ec})$への射影を$\eta_c$とする)。
関手$K'\colon\mathcal{E}\to\mathcal{D}$と自然変換$\tau\colon K'\circ E\Rightarrow F$に対して、$e\in\mathcal{E}$と$(c,g\colon e\to Ec)\in(e\downarrow E)$ごとに$\tau_c\circ K'g\colon K'e\to Fc$が取れる。これによって$R_e$への錐が構成されるため、普遍性から$\bar{\tau}_e\colon K'e\to Ke$をただ1つ得て、これは自然変換$\bar\tau\colon K'\Rightarrow K$を構成する。構成から$\tau=\eta\circ E\bar\tau$であり、従って$K$は右Kan拡張$E^\ddagger F$である。
Mac Laneは各点性について異なる定義を与えました。
関手$F\colon\mathcal{C}\to\mathcal{D}$, $E\colon\mathcal{C}\to\mathcal{E}$について、各点右Kan拡張が存在することと、右Kan拡張$E^\ddagger F$が存在してそれが全ての$\mathcal{D}(d,\_)$で右Kan拡張を保存することは同値である (CWM 第Ⅹ章定義7・定理3)。
関手$\mathcal{D}(d,\_)$は極限を保存するため、$F$の$E$に沿った各点右Kan拡張が存在するならば$\mathcal{D}(d,\_)$は右Kan拡張も保存する。
右Kan拡張$E^\ddagger F$が存在して任意の$\mathcal{D}(d,\_)$が右Kan拡張を保存するとき、任意の$G\colon\mathcal{E}\to\CSet$に対して
$$\CSet^{\mathcal{E}}(G,\mathcal{D}(d,E^\ddagger F\_))\simeq\CSet^{\mathcal{E}}(G,E^\ddagger\mathcal{D}(d,F\_))\simeq\CSet^{\mathcal{C}}(G\circ E,\mathcal{D}(d,F\_))$$
が成り立つ。そこで$G=\mathcal{E}(e,\_)$の場合について考えると、左辺に米田の補題を適用することで次の集合同型を得る:
$$\mathcal{D}(d,E^\ddagger Fe)\simeq\CSet^{\mathcal{C}}(\mathcal{E}(e,E\_),\mathcal{D}(d,F\_))$$
一方、命題11の系より、次の集合同型を得る。
$$[(e\downarrow E),\mathcal{D}](d,R_e)\simeq\CSet^{\mathcal{C}}(\mathcal{E}(e,E\_),\mathcal{D}(d,F\_))$$
この同型は、$E^\ddagger Fe\in\mathcal{D}$が$L_e$の極限であることを示しているため、$E^\ddagger F$は各点右Kan拡張である。
各点Kan拡張については正直もう少し掘り下げたかったのですが、内容量があと1.5倍くらいになりそうだったので泣く泣くカットしました。$\CCat$への(反変)関手とその間の自然変換について、点ごとに極限を取ったものは右変換 (right transformation) になるのですが、点ごとに極限を取っているので当然これは極限の一種と考えることができます。
他方、コンマ圏$(d\downarrow F)$ ($F\colon\mathcal{C}\to\mathcal{D}$, $d\in\mathcal{D}$) が構成する自然変換は、$(\_\downarrow F)\Rightarrow\Delta\mathcal{D}$の右変換を構成するのですが、これは別に普遍な右変換 (点ごとの極限) というわけでは必ずしもありません。ただ、構成から何かしらのカノニカル性はありそうなのですが (関手$T\colon\mathcal{D}\to\mathcal{E}$から右変換$\Delta T\colon(\_\downarrow F)\Rightarrow\Delta\mathcal{D}$を構成する方法を用いて$\Delta\Id_{\mathcal{D}}$と書ける右変換という関係はあるのですが) ちょっと調べきれませんでした。
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